新型コロナウイルスは大きな問題だが、ロックダウンによって経済にそれよりも大きな問題をもたらしてはならない

 “We cannot let the cure be worse than the problem itself.” (治療が問題よりも悪くなってはならない)

 これはアメリカの株式相場が安値を付けた3月23日の前後、トランプ大統領がツイッターで複数回に渡って発信したメッセージです。どういう事かというと、新型コロナウイルスは大きな問題だが、ロックダウンによって経済にそれよりも大きな問題をもたらしてはならない、という意味です。私を含め、このメッセージに安堵した人は多かったのではないかと思いますし、実際、3月23日以降株式相場が大きく反発している大きな要因の一つだと思います。

 今、医療現場や薬の開発、必需品・サービスの供給に携わっている方々は英雄であり、尊敬の念しかありませんが、同様に政治に携わっている方々も大変だと思います。何故なら、新型コロナウイルスという未知の敵に対して、感染拡大阻止を優先すれば経済面の不安を感じた国民から批判が出るし、逆の立場を取れば人の命を犠牲にして経済を優先するのか、という批判が出て、さらに後になってから結果論で批判するのも簡単だからです。

 とりわけニューヨークは中国・武漢よりも酷い状況となり、何よりも人の命を最優先しなければならない状況に至りました。災害で言えば、災害後72時間の、全資源を人命救助に向けなければならない状態が、今回の場合は数週間続く見込みです。しかし災害時と同様、いつまでも自粛をしていては、国民生活の基盤である経済の方がやられてしまいます。災害は非常に不幸な出来事ですが、その後の自粛によって経済活動がストップしてしまえば二次災害に発展してしまうのと同様、人命救助を最優先する期間が過ぎれば、出来るだけ早く経済活動を元に戻さなければなりません。トランプ大統領が「その点は十分認識している」と世間に知らしめたのが上記ツイッターでのメッセージでした。

経済は国民生活の根幹であり、こちらも人の命そのもの

 幸い、ニューヨークでの人命救助のための医療資源のピークは4月8日に過ぎたようです(米ワシントン大学IHME予想)。全米ベースでも4月11日がピークとなる見込みで、今後トランプ大統領は徐々に経済活動を意識した方向に政策を転換していくと見られます。恐らく今月のどこかで経済活動正常化への道筋は示されると見られますが、上記の通り「人の命を犠牲にして経済を優先するのか」という批判をするメディアは必ず出て来るでしょう。しかし経済は国民生活の根幹であり、こちらも人の命そのものであるという事を忘れてはなりません。

 私はもちろん感染症の専門家ではないので私見になりますが、このバランスを取るには、政府に頼ることなく、民間の力で高齢の方と慢性疾患のある方を徹底的に守る以外方法は無いのだと思います。日本でも緊急事態宣言が発令され、39兆円(大々的に「108兆円」と発表するのは粉飾決算に近い行為だと思いますが)の経済対策が発表されましたが、財政に制約のある日本がいつまでも経済の負担を負えるはずがありません。新型コロナウイルスについてはまだ分からない事が多くありますが、少なくとも予防策としては風邪やインフルエンザと同様であり、そもそも普段から、高齢者や慢性疾患のある方にこれらの病気を移さないように気を付けなければならないのですから、今回を機に、民間ベースでこれを徹底するしかないのだと思います。それが出来れば経済を犠牲にする必要など無いのです。そして現在のような緊急を要する時期が過ぎれば、新型コロナウイルス対策は徐々にその方向に向かっていく可能性が高いと考えています。

「新型コロナウイルス後」の市場を考えてみる

 さてそれを前提に、「新型コロナウイルス後」の市場を考えてみたいと思います。ここ数十年で、市場には様々な「ショック」と呼ばれるイベントがありました。その中で今回の新型コロナウイルスを位置付けるとすれば、「少し長めの一時的ショック」に他ならないと思います。何故ならリーマンショックを含め、歴史的にアメリカに約10年に1回に訪れるバランスシート調整のような、需要を先食いしてしまってその回復に数年かかるような性質のものではなく、需要は一時的に人工的に止められているだけであって、これは新型コロナウイルスの収束と共に必ず戻る性質のものであるからです。

 もちろん一時的に失業率は急上昇し、経済成長率は大きく落ち込みますが、これらも新型コロナウイルスの収束を先行指標として回復することはほぼ確実であり、バランスシート調整のような厄介な問題ではありません。リーマンショック時のようなモラルハザードが無い分、景気対策も2兆ドルというとんでもない金額で実施できますし(アメリカのこの数字に粉飾決算はありません)、連銀はほぼ無制限の流動性供給に乗り出すことが出来ます。1日にダウが1,000ドル以上も上下する状況が続く中、短期的な動向を予想する事にあまり意味は無いと思いますが、少し先を見た場合、史上最大規模の財政・金融政策が実行される中、株式が再び高値を回復するのに1年もかかることはないのではないかと考えています。

 むしろこれだけ無制限に流動性が供給され、財政政策が伴っている中、遂にインフレが起こる可能性が高まってきたと見るべきでしょう。インフレ懸念から長期金利が上昇しても短期金利は比較的長い間据え置かれる可能性が高く、イールドカーブの勾配が急になり、不良債権の増加が懸念される金融セクターはむしろ狙い目かと思います。また世界的に積極的な財政・金融政策が発動され、通貨の相対的価値が下がる中、ゴールド(金)は高値を目指すのではないでしょうか。まだまだ落ち着かない相場展開が続くと思いますが、このように市場が冷静さを失っている時こそ、色々な所に意外な投資機会が提供されている段階でもあると考えています。

(2020年4月9日記)