執筆:窪田真之

今日のポイント

・外国人投資家は資本主義を強力に進める政権を好む。彼らの目に安倍政権は資本家にとって望ましい政権と映っている。

・解散総選挙で与党が安定多数を確保し、安倍首相の指導力が強化される見通しが広がれば、外国人投資家は日本株の買いを増やすと考えられる。ただし、自民党敗北なら売りに転じる可能性もある。

 

安倍首相が解散総選挙を正式に表明

 安倍首相は、9月25日の記者会見で、28日に衆議院を解散すると表明しました。「国難突破解散」と命名し、2019年10月に予定している消費増税の資金使途変更【注1】、および北朝鮮への圧力強化策に対する国民の信を問うことを、大義としました。憲法改正(自衛隊の存在を憲法に明記)を公約に加える可能性もあります。

【注1】
政府は当初、消費増税により増加する税収の使途として、4兆円を借金の返済に、1兆円を医療介護などに充てる方針でした。安倍首相は、借金返済による財政黒字化は先送りし、幼児教育の無償化など「人づくり革命」に2兆円規模を投じるとしました。

解散総選挙に「買い」で反応した外国人

 この解散は、外国人投資家の目にどう映るでしょうか? 解散の相場への織り込みは、前日比390円高の2万299円となった3連休明けの9月19日(火)の日経平均から始まっています。17日に「安倍首相が解散総選挙を実施する決意を固めた」と報道が出たことを受けて、外国人投資家は日経平均先物を買ってきたと推定されます。翌々日21日(木)、日経平均は一時2万481円まで上昇しました。

 その後、米朝間の緊張が高まった【注2】ことを嫌気して日経平均は反落しましたが、「解散総選挙」に対する外国人投資家の最初の反応は、「買い」だったと考えられます。

【注2】
トランプ大統領が19日の国連演説で、(北朝鮮が挑発行為をやめない場合)「北朝鮮の完全破壊しか選択肢がない」と発言したことに対し、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は「超強硬対応措置」を取ると反発し、21日には北朝鮮サイドから「太平洋で過去最大の水爆実験」を実施する可能性の表明がありました。

 日経平均は、解散総選挙と北朝鮮のニュースだけで動いているわけではありません。景気、企業業績が好調なこと、ドル金利が上昇してドル高(円安)が進んだことも、日経平均が最近急騰した背景にあります。解散総選挙は、その後から追加で出てきた買い材料という位置づけです。

 それでは、今後、外国人は総選挙のニュースにどう反応するでしょうか?自民党が勝利する見込みなら日本株を「買い」、自民党が大敗し、安倍首相が責任をとって辞任の可能性が高まれば「売り」で反応すると思います。

 

外国人投資家は安倍首相の味方?

 ということは、外国人投資家は、安倍政権を応援しているのでしょうか? 日本株に投資し、日本株の上昇を期待している外国人に限定するならば、答えは「YES」です。

 私は、ファンドマネジャー時代に、中東・アジアのソブリンウェルス・ファンド(国家資金を運用するファンド)や、欧米年金基金の日本株運用担当者としばしば意見交換をしてきました。彼らの見方はシンプルです。資本主義の構造改革を推し進める強いリーダーシップを持つ政権を好みます。具体的に言うと、小泉元首相の構造改革や、安倍政権が展開するアベノミクスを評価しています。

 アベノミクスがスタートした2013年、外国人投資家は、日本株を15兆円以上、買い越しました。同年、中東や中国に出張したときに何度も聞いたのが、「社会福祉を重視する政党(民主党)から、資本主義の構造改革を進める政党(自民党)に政権が移ったことが、(日本株の)買い材料」という話です。

 その後、安倍政権の支持率が低下すると、外国人は日本株を売り、支持率が上昇すると買う傾向が鮮明です。外国人はドライな資本家の目で日本を見ています。その彼らから見て、今でも安倍政権は望ましい存在と映っています。

 日本人と、外国人投資家がアベノミクスを見る視点はやや異なります。外国人から見ると、安倍政権は資本主義を進める政権で、資本家にとって都合のいい政権になります。

 英国がEU(欧州共同体)からの離脱方針を決定し、米国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱を表明する中、日本は7月に日欧EPA(経済連携協定)を大筋合意まで持っていきました。また、ニュージーランド・オーストラリアとともに、TPP11(米国を除く11カ国によるTPP)の実現に向け、奔走しています。自由経済、自由貿易を旗印に動く姿は変わっていません。

 自民党は、消費税率を引き上げながら、法人税率を引き下げています。これは、明らかに資本主義的政策です。

 TPP11、農業改革の推進、官業(日本郵政、空港など)の民営化推進も、資本主義的政策です。マイナンバー導入によって電子政府を推進し官公庁の労働生産性を高めることも、資本主義的政策といえます。

 これらの政策を進める安倍政権は、外国人投資家の目から見て、資本主義の構造改革を推進する政権と映っています。

 

外国人投資家は自民党が勝つと見ているか?

 それでは外国人投資家は、解散総選挙で自民党が勝つと見ているのでしょうか? 
 最近、外国人投資家と直接の意見交換をする機会がなく、あくまで想像になりますが、解散総選挙のニュースで日経平均先物を買ってきた外国人は、以下のように考えていると思います。

・自民党と公明党を合わせた与党議席数が3分の2を超えている状態から選挙をやっても、議席が増えることはないだろう。議席を減らす可能性が高い状態で、解散を行うのは無謀。

・議席を減らしても、与党で安定多数を確保できれば安倍首相の力は強化される。リスクの高い状態であえて解散を決断する背景に、自民党への新たな追い風がある。北朝鮮の脅威が強まり、「国難に立ち向かう」というテーマができたことが追い風となる。

 ただ、選挙は水物です。6月には、英国のメイ首相が、わざわざ3年前倒しで実施した解散総選挙で敗北するという大失態を演じました。解散を決断した4月時点では、与党保守党の支持率が高く、野党労働党の支持率が低かったのですが、選挙期間中に、支持率が大きく変動し、与党が劣勢に立ちました。

 解散総選挙の第1報で日経平均先物を買った外国人も、安倍政権が大敗するのではないかという不安も抱えているはずです。自民党が敗北する予想が増えると、再び売ってくる可能性もあると思います。

 自民党の強力なライバルとなりそうなのが、小池百合子東京都知事を代表にして立ち上げた「希望の党」です。全国に候補者を立てて、自民党と真っ向勝負の構えです。急づくりの政党で、どれだけ候補者を集められるか不明ですが、既存の政党(自民党や民進党)に不満を持つ国民の票を取り込んで、多数の議席を獲得する可能性もあり、注目しています。今後の選挙情勢から目が離せません。

 

2005年・2009年・2012年・2014年解散総選挙時の日経平均の動き

 それでは、過去4回の衆院解散総選挙と、日経平均の動きを振り返ってみましょう。

過去4回の解散総選挙と、前後の日経平均の動き(衆院解散日から総選挙の約3カ月後までを比較)

出所:総選挙実施直後の日経平均を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成

 自民党が勝利して高い支持率を獲得した選挙では、外国人の買いが増えて、日経平均は大きく上昇しています。具体的には、2005年小泉元首相が実施した郵政解散選挙、2012年アベノミクスを始動させた選挙では、外国人が日本株を大量に買ってきました。安倍政権が消費増税延期を問い実施した2014年の選挙も、支持率上昇につながったので、外国人の買い増加につながりました。

 民主党が政権奪取に成功した2009年の選挙だけは、選挙後に日経平均が下落しています。当時の景況が良くなかったこともありますが、それよりも、民主党の政策が外国人投資家から見て、評価できるものでなかったことが影響したと考えています。

 民主党は、格差縮小、社会福祉の充実を目指す政策を標ぼうしていたので、資本家である外国人の目には、望ましい政権とは映りませんでした。