記録ずくめの経済指標。景況悪化はまだまだ続く?

 4月3日に発表された米国雇用統計の非農業部門雇用者数は、前月比▲70.1万人と、予想の▲10万人を大幅に超える落ち込みとなりました。マイナスとなるのは2008年のリーマン・ショックの影響が残っていた2010年9月以来、9年半ぶりとなります。また、マイナス幅は2009年3月(▲80万人)以来11年ぶりの水準です。失業率は4.4%と前月(+3.5%)から▲0.9%悪化しました。この悪化幅は1975年1月以来、実に約45年ぶりの大きさとなります。

 全てが記録ずくめの数字ですが、今回の統計は3月の失業全体のほんの一部を捉えたものに過ぎません。3月28日からさかのぼる2週間だけでも1,000万人近くが失業保険を申請しています。この1,000万人という数字は、2010年から今年2月までの景気拡大局面で増えた雇用者数2,500万人の4割相当で、「失業予備軍」が控えているということになります。

 そしてこの申請数も今後1~2カ月は数百万件単位で増加が続くとみられているため、「5月までに新たに2,700万人が失業する」との予想も出ています。驚くほどの数字ですが、これが短期間で発生するという事態が、これまでの景気悪化局面とは異なる点です。

 4-6月期のGDP(国内総生産)予想はマイナス30~40%、失業率10~20%という予想が多く出ていますが、これも現実味が出てきました。この先、はるかにもっと悪い数字が出てくる覚悟も必要となってきました。

マーケットは経済指標に関心なし?注目はコロナ終息

 しかし、これら悪い数字に対してマーケットの反応は鈍く、経済指標の強弱に相場は大きく動かなくなってきました。マーケットでも経済は二の次であり、新型コロナウイルス感染拡大自体が、どのように収まるかに注目しています。

 4月6日(月)のNYダウ株価指数は、新型コロナウイルスによる死者数の鈍化がみられたことから警戒感が和らぎ、反発しました。さらに、米ニューヨーク州のクオモ知事が「感染ペースが減速している」と発言すると株上昇は加速し、1,627ドル高となりました。3日発表の新規雇用マイナス70万人や、たった2週間にあった1,000万人の失業保険申請件数にもかかわらず、株は急騰。経済よりも感染に安定化の兆しがみられたことに反応しました。

 NYダウの6日(月)の終値は2万2,679.99ドルとなり、3月23日につけた安値1万8,591ドルから、わずか2週間で22%上昇しました。一般的な定義では直近安値から2割上昇すれば「強気相場入り」とされますが、果たしてどうなるのでしょうか。3月は激しく急落しただけに、この反動だけかもしれず、半身で臨む必要がありそうです。

リーマン・ショック時の底値を振り返る

 ちなみに2008年9月のリーマン・ショック後の一番底は2008年10月、11月に二番底、年末年始にやや戻したものの2009年2月に三番底、そして3月につけた四番底が大底となりました。一番底から半年かかっています。今から景気が悪化することを考えると、今回の22%の反発で大底と見るのは時期尚早かもしれません。

為替のこれからの動き、原油価格は?

 ドル/円の動きはどうでしょうか。

 3月期末の111円台から期初にかけて107円台に下落したドル/円は、4月2日、トランプ米大統領が「サウジアラビアとロシアが原油生産を1,000万バレル削減に踏み切ることに期待する」と発言したことから原油が急伸。1日で25%上昇(WTI[ウェスト・テキサス・インターミディエイト]ベースで20.31ドル→25.32ドル)、ドル/円は108円台に上昇しました。そして6日の新型コロナウイルス感染拡大のスローダウン報道で、株上昇とともにドル/円も109円台に上昇しました。

 教科書的にはFRB(米連邦準備制度理事会)が最大の金融緩和をしているため、ドル安傾向が予想されるのですが、依然ドル需要が強く、地合いはドル高傾向が続いています。株安、通貨安、業績悪化に伴う債務返済のドル需要や、新興国の通貨安、株安に伴うドル需要がまだまだ旺盛のようです。また、ブラジル大統領の感染を無視した発言や行動を見ていると、新興国の通貨安・株安は新たな火種になるかもしれません。

 このようなドル高基調の中でも、新型コロナウイルス感染拡大のスピードや原油価格によって、株やドル/円は動いています。感染拡大のスピードがスローダウンすると株は上昇し、円安に動き、感染拡大が増えると株安、円高に動いています。7日のNYダウは700ドル以上上昇していましたが、「一日の死者数が過去最多」と報道されると上昇分を全て吐き出し、26ドル安で終わりました。ただ、前日の1,627ドルの上昇分はほぼキープしたようです。

 欧州を中心に感染拡大のピーク感が出てきましたが、まだ油断はできません。イタリアは、感染増加が鈍化したと報道された翌日には、人々が一斉に街に繰り出したとのことです。また、オーストリアは、14日から制限措置の一部解除を発表しました。時期尚早との批判が出ていますが、楽観的になり気が緩むと第2波が襲ってくるかもしれません。

もう一つのリスク、原油動向

 原油価格については、4月9日に予定されているOPEC(石油輸出国機構)プラス(OPECと非OPEC産油国)の臨時会合が注目されています。原油は3月6日の減産合意決裂以降、急落し、株安に拍車をかけました。

 9日のOPECプラスでトランプ大統領の提案のように大幅な減産合意に達すれば原油は急騰しますが、大幅減産でなくとも減産合意に達し、WTIで20ドルが下限との期待が高まれば、マーケットにとってはプラス要因となります。もし、合意に達しなければ原油は急落し、株安、ドル安になります。絵に描いた餅にならないことを期待したいものです。

国内の非常事態宣言は織り込み済みだったマーケット

 日本は、4月7日に非常事態宣言を発令しましたが、マーケットにはほとんど影響がありませんでした。4月初めにロックダウンとの噂が流れていたため、円安部分を織り込んでいたことが背景にあるようです。安倍晋三首相はロックダウンではないと説明していますが、国民性から個人も企業もかなり自粛し、効果が出てくるのではないかと期待しています。

 新型コロナウイルス感染拡大がピークに達し、拡大ペースがスローダウンすれば、マーケットは経済悪化を消化し始めます。ドル/円はFRBの超金融緩和を背景にドル安・円高の方向で動いていくのかどうかを注目したいと思います。