3月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 欧米での新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、2月後半から始まった世界同時株安。その猛威は想像をはるかに超え、3月の歴史的暴落相場へと発展しました。緊急事態への対応としてFRB(米連邦準備制度理事会)が緊急利下げしても効かず、米株指数先物でサーキットブレーカーが何度も発動。日経平均株価も2万円の節目をあっさり割り込み、日本銀行が臨時会合を開いて決めた追加緩和も特効薬には到底ならず…。下落スピードはリーマンショックより早く、ウイルスという見えないリスク要因との戦いを回避すべく、現金化を急ぐ投資家が急増しました。

 他人の資金を運用しているのが機関投資家で、そうした機関投資家が“現金化”を急ぐと、「いくらで売るかは重要ではない」という状況が生まれます。運用パフォーマンスが著しく悪化したファンドに対して、最終投資家から「現金にして戻してくれ」と解約請求があると、手持ちのポジションを決済します。機関投資家にとって重要なことは、できるだけ高い値段で売却することではなく、“全て売却すること”になります。それが日本国内で炸裂したのが17~19日でした。

 今回の暴落が、日本の金融機関の期末である3月に発生しました。そのため、地方銀行などの国内機関投資家が、同時多発的に現金化(手持ちの運用資産の売却やヘッジファンドへの解約請求)を急いだのがこの時期。典型的なのが、東証REIT指数が19日に▲18.5%という過去最大の下落率を記録したことに表れています。また、17~19日にかけて、ロングショートのアンワインド(ロングの銘柄を売り、ショートの銘柄を買い戻す)も歴史的規模で持ち込まれました。そして、これらが一巡した23日以降に強烈なリターン・リバーサルも発生。まさに、機関投資家の事情も絡んだ需給要因が生んだオーバーシュートだったと言えます。

 3月の月間騰落率は、日経平均株価▲10.5%、TOPIX(東証株価指数)▲7.1%、日経ジャスダック平均▲10.4%、マザーズ指数▲11.5%。日経平均株価は約10年ぶりの下落率となりましたが、日経ジャスダック平均やマザーズ指数は2月に比べると下落率はやや縮小。ただ、“陰の極”(?)となった13日のマザーズ指数の安値は527ポイントと、2013年2月以来の水準まで沈む場面がありました。

3月の売買代金ランキング(人気株)

 大暴落した2月の安値水準から一段と下方向に突き抜け、これまで溜まっていた信用買い残もかなり整理が進みました。株価下落がロスカットを誘発し、ロスカットが株価下落につながるスパイラル。ただ、2月以上に3月は投資家が委縮したこともあって、“買い手不在”の雰囲気のまま流動性が低下しました。

 流動性が低下するなかで、約定させることを優先したロスカットが殺到することで、大きく値下がりする銘柄は続出します。一方で、月後半の自立反発局面では、これまでの信用買い残が整理された効果を発揮。リバウンドの勢いも凄まじいものがありました。「月前半に急落/月後半はリバウンド」の対照的な展開になったこともあり、月を通じて見れば、売買代金ランキング上位銘柄群のパフォーマンスは2月より良好だったといえます。

市場 コード 銘柄名 3月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金
25日移動
平均値(億円)
月間騰落率
(%)
東証マザーズ 4563 アンジェス 691 739 66.5 78.1%
ジャスダック 7564 ワークマン 5,940 4,862 49.3 -10.4%
東証マザーズ 4385 メルカリ 2,100 3,260 40.6 -14.0%
東証マザーズ 4565 そーせい 1,292 996 28.1 -21.5%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 1,277 554 26.2 -0.8%
東証マザーズ 4424 Amazia 3,910 261 26.2 -18.9%
ジャスダック 2702 マクドナルド 4,870 6,475 24.5 7.5%
東証マザーズ 3911 Aiming 472 171 23.4 23.9%
ジャスダック 6324 ハーモニック 4,725 4,551 23.2 4.1%
ジャスダック 4978 リプロセル 367 262 18.9 23.6%
東証マザーズ 4480 メドレー 1,982 558 18.6 21.1%
東証マザーズ 4485 JTOWER 3,320 679 18.4 -15.2%
東証マザーズ 2121 ミクシィ 1,569 1,227 17.6 -8.4%
東証マザーズ 4478 フリー 3,450 1,665 17.0 1.6%
東証マザーズ 3689 イグニス 1,007 148 16.6 -2.5%
東証マザーズ 7707 PSS 428 113 13.4 7.0%
東証マザーズ 4434 サーバーワークス 13,060 441 13.0 14.1%
東証マザーズ 4592 サンバイオ 1,160 601 13.0 -31.2%
東証マザーズ 4588 オンコリス 1,312 188 12.1 13.3%
ジャスダック 2782 セリア 3,125 2,370 11.9 8.2%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 アンジェス(4563・東証マザーズ)

 新型コロナウイルスのワクチン開発に、日本企業として最速で名乗りを挙げたのがアンジェスでした。5日に、大阪大学と共同で新型コロナウイルス対策のための予防用DNAワクチンの開発に乗り出すと発表。短期間で製造プロセスを確立することが可能で、製造は設備を持つタカラバイオが担当すると。

 6カ月以内のできる限り早い時期の臨床試験開始を目指すとし、24日には非臨床試験用のワクチンの原薬が完成したとも発表。26日に非臨床試験を開始したようですが、非臨床試験なので動物に投与した段階です。この次が人への投与を行う臨床試験。有効性が示されれば、世界を救う!「頼むぞ、アンジェス!」、そんな投資家の想いが込められ、地合いに逆行して急騰しました。

2 ワークマン(7564・ジャスダック)

 業績好調は相変わらず、2月の既存店売上高も前年同月比27.3%増でした。天候が悪かろうが、暖かかろうが寒かろうが、それに対応した衣料が存在するワークマンには影響無し。ただ、それも強烈なベア相場にあっては関係無し…。

 2月の月間騰落率▲25.5%(上場来2番目の下落率)に続き、3月も▲10.4%と値を崩しました。現金化を急ぐ投資家にとって、足元業績など関係なし。さらにいえば、前年度末の終値5,700円を3月中旬まで上回っていたことで、現金化どころか“益出し(利益確定)”できる数少ない銘柄だったはず。「業績」から始まった大相場は、「需給」で壊れました。

3 ジーエヌアイ(2160・東証マザーズ)

 信用買い残の比率が高い人気バイオ株なだけに、マザーズ全体の地合い悪化には逆らえません。とはいえ、いくつかの好材料もあり、3月の月間騰落率が▲0.8%にとどめたのは大健闘といえるでしょう。

 新型コロナウイルスに関連するところでは、10日に子会社が武漢市の病院で行われている臨床試験にピルフェニドン治療薬を提供して支援していると発表。その他では、23日にエーザイとのライセンス契約締結も発表していました。なお、単にジーエヌアイの特徴ですが、「前場の開始直前」とか「前場の場中」にリリースを出す傾向があるようで…。

4 マクドナルド(2702・ジャスダック)

「あのマクドナルド株でもこんなに売られるのか…」といった2月でしたが、3月はリバウンド。新型コロナウイルスによる自粛の影響が外食セクターに直撃するなか、「マクドナルドの影響は軽微」との認識が徐々に広がりました。

 実際、6日付の一部国内証券のレポートでは、株価下落を受けて投資判断を最上位「A」に引き上げていました。ディナータイムの強化で売上高の強化が見込めると指摘。新型コロナウイルスの影響も小さいため、2020年12月期の営業利益見通しを前回予想時より引き上げると。

5 ミクシィ(2121・東証マザーズ)

 気付けば、とんでもない高配当株と化しました…。23日、2020年3月期の業績予想を営業利益でいえば前回予想の前期比78%減から62%減に上方修正(いずれにしても大幅減益ですが)。それと併せて、通期の1株当たり配当金110円は前回予想を維持しました。19日に付けた安値1,340円で計算すると、1株110円配当なら配当利回りは8%超!

 大幅な減益になると減配していますが、それでも前期比10~26円の減配にとどめています(これまでは)。今の水準なら、来期も高配当株でしょう(だからどうした? ですが…)。ちなみに、新型コロナウイルスに伴う自粛や休校措置などで“巣ごもり消費”の傾向が強まるとの見方から、「スマホゲームには追い風」という見方があります。これ、本当ですかね?

3月の株価値上がり率ランキング

 新型コロナウイルスのワクチン開発を表明したアンジェスを筆頭に、新型コロナウイルスにまつわる切り口から逆行高した銘柄のランクインが目立ちました。ただ、2カ月続いた超ベア相場にあって、需給要因で値下がりする銘柄がほとんど。マザーズ銘柄で3月に上昇した銘柄の比率は9%、ジャスダック銘柄では14%でした。

 値上がりしない…これはIPO(新規公開株)市場でも多発しました。12月に次いでIPO数が多くなる3月、今年も最悪地合いの中でマザーズに14社、ジャスダックに3社の計17社が新規上場しています。マザーズIPO14社のうち初値が公開価格を下回ったのが9社、ジャスダック3社のうちでは2社。新型コロナショックが“IPO株神話(IPO株に当選すればもうかる)”も崩壊させました。

市場 コード 銘柄名 月間騰落率
(%)
3月末
終値
前月末
終値価格
時価総額
(億円)
東証マザーズ 4563 アンジェス 78.1% 691 388 739
東証マザーズ 3182 オイラ大地 37.5% 1,481 1,077 508
ジャスダック 7634 星医療 33.7% 5,450 4,075 186
ジャスダック 3390 INEST 25.0% 60 48 36
ジャスダック 6960 フクダ電 24.4% 8,400 6,750 1,645
東証マザーズ 3911 Aiming 23.9% 472 381 171
ジャスダック 4978 リプロセル 23.6% 367 297 262
東証マザーズ 4448 Chatwork 23.4% 1,119 907 410
ジャスダック 3094 スーパーV 22.3% 467 382 30
ジャスダック 1789 ETS HD 21.2% 750 619 48
東証マザーズ 4480 メドレー 21.1% 1,982 1,636 558
東証マザーズ 6040 日本スキー 20.7% 800 663 128
ジャスダック 4640 アンドール 20.2% 499 415 26
東証マザーズ 6095 メドピア 18.9% 1,429 1,202 297
ジャスダック 3070 アマガサ 18.2% 299 253 6
ジャスダック 4970 東洋合成 17.2% 4,330 3,695 353
ジャスダック 1407 ウエストHD 17.1% 1,402 1,197 496
ジャスダック 2876 JCコムサ 17.1% 480 410 44
ジャスダック 5277 スパンクリト 16.8% 320 274 30
ジャスダック 6663 太洋工業 16.5% 410 352 24

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 オイシックス・ラ・大地(3182・東証マザーズ)

 月前半こそ地合い影響で下落していましたが、マザーズ市場が底入れ感を示した13日以降に急騰。小池都知事が不要不急の外出自粛を要請するなど、自粛ムードの広がりから“巣ごもり関連銘柄”として物色対象になりました。レシピと食材をセットにした宅配サービス(「ミールキット」)の需要が増えるのではないか? という思惑です。

 なお、19日の引け後に、4月9日付での本則市場(東証1部に決定)への指定変更を発表しました。これに併せて、公募売り出しも発表しています。優良銘柄ほど市場から抜けていく、これマザーズの宿命です。

2 フクダ電子(6960・ジャスダック)

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、世界中で不足しているのが人工呼吸器。政府の備蓄分も枯渇し始め、日本政府も民間企業に対して増産要請を出す方針と伝わりました。人工呼吸器に関連する医療機器メーカーの株価が物色されるなか、その一角として人工呼吸器含めた治療装置を手掛ける同社も急騰しました。

 これまで流動性の極めて低いバリュー株だったこともあり、その反応も強烈。30日には一時大台1万円を超え、上場来高値を更新しました。2月の月間出来高17.6万株に対し、3月の出来高は前月比約6倍の101.2万株に。

3 リプロセル(4978・ジャスダック)

 アンジェス同様、新型コロナウイルスのワクチン開発への参加表明が月末にかけた手掛かり材料になりました。30日の前場中に、ベルギー本社の「eTheRNA」社を中心とした新型コロナウイルス用ワクチン開発を目指す国際的研究コンソーシアムに参加すると発表。集まった複数の企業の持つそれぞれの技術を活用し、鼻腔内に投与するタイプのワクチン開発を加速するようです。

 タイムリーな強材料ながら、戻り売り圧力はアンジェスより強い印象。信用買い残が500万株前後の高水準を保っているため、信用買いで入った短期勢の売りが重石になっているようです。

4 Chatwork(4448・東証マザーズ)

 昨年9月のIPO以降、株価はいい所無し状態でしたが…新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして急に見直された銘柄といえます。国内ではビジネスチャットで知られる同社だけに、テレワークを推進する企業の増加により需要拡大の期待につながったようです。

 なお、30日に一部国内証券が投資判断を最上位「A」で新規カバレッジを開始しています。日本国内でテレワークは注目され始めていますが、「日本国内のビジネスチャット普及率は30%程度で、50~60%程度とみられる米国などと比較して市場の拡大余地が大きい」と指摘。目標株価を2,000円と、レポートリリース時株価の2倍に設定したこともサプライズに。

5 日本スキー場開発(6040・東証マザーズ)

 株価が昨年来安値を更新し続けるなか、9日の自社株買い発表が好感されました。自社株買い枠は、発行済み株数の2.51%に相当する40万株、2億7,000万円上限と。新型コロナウイルスに端を発した株価急落を受け、自社株買いを発表する企業が3月に急増しています。会社側の株主への姿勢を好感したこともありますが、2017年や2018年に実施した自社株買いの約4倍規模の枠設定に気合いが感じられました。

 買付期間は3月10~31日と、短期集中型。で、実績は? というと、この期間に13万5,300株、1億204万円分を買ったことを報告しています。そして、これにて自社株買いは終了するとも発表。気合いを見せましたが、実際買ったのはリリース時の3分の1くらいでした…。

4月に注目したい新興株の動き

「緊急事態宣言」を一向に出さず、新型コロナウイルス対策で後進国となった日本。早く鎮静化して欲しいと願う国民の想いとは裏腹に、対策の遅れがもたらした遺恨は非常に大きくなっています。当初の想定を大きく修正し、「自粛期間の長期化」を考える必要が出てきました。

 ある証券会社のレポートでは、最悪シナリオとして「自粛期間1年以上」と記載していました。他人の資金を運用する機関投資家は、最悪まで想定して動くと思います。「あまりにも大きく下がったから」なんて理由で、自粛による業績影響不可避な銘柄を買うことなど今は出来ないでしょう。

 日本の投資家は1月後半から、新型コロナウイルスの感染拡大に敏感でした。マスク需要増加の思惑でマスク・防護服の関連株が大相場となりました。2月にはテレワーク関連株や巣ごもり関連株、3月は人工呼吸器関連株なども値上がりしました。4月もこうした動きが形を変えながら繰り返されると思います。

 これは前述の機関投資家も同じです(TOPIXなど指数に連動することを目指すパッシブファンドは除いて)。ひふみ投信などを運用するレオス・キャピタルワークスが、2月下旬に過去最大の現金比率(31%)にしていたことは話題になりました。そのレオスは現金比率を高めると同時に、米国株のドミノピザ(宅配ピザ)、ZOOM(ビデオ会議システム提供)、ニューオリエンタル(中国のオンライン教育サービス大手)を買っていました。「今はこう動くしかない」というお手本を示しています。

 株価が安くなった株は急増しました。割安に見える株も急増しました。ただ、今は緊急事態です。そんな尺度で銘柄を選んで動いたとしても、機関投資家を含めた周りの大勢が動けない状況では、期待通りのパフォーマンスにはならないでしょう。本当は、今月4月は15社のIPOが予定されていました。そのうち10社が、現時点でIPOの中止を決定しました。一度中止すると、次に上場申請できるのは早くて5年後とも言われます。それでも中止する、その意味は大きいと思います。

 3月にかけた業績悪化分を反映し、今期の業績予想を下方修正する銘柄は新興株でも増えるでしょう。ここは織り込んでいます。来期の業績予想を「未定」と出す企業も増えるでしょう。当然、ウイルスが相手なので誰にもわかりませんから、ここも織り込み済みでしょう。ただ、だから安いところを買いましょうとは言えないのが今回の特殊性です。業績予想が「未定」の企業を、他人の資金を運用する機関投資家が買えるでしょうか? また、決算説明などで企業が機関投資家に訪問することも難しい今、ネットで手に入る開示情報だけになるケースも増えるでしょう。それだけで、機関投資家が買えるでしょうか? ということを考えると、ある程度長期保有する中小型ファンドなどの買い手が消極化し、短期勢の比率が高まることが想定されます。とすれば、値動きの良いテーマ株に短期割り切りで付く…そうした投機的な値動きが新興株市場でも長期化するのではないかと考えます。