新型コロナウイルスの感染拡大で世界的な株安場面に

 3月の日経平均株価は10.5%の下落と、大幅に続落する展開となりました。月中にかけて下げ幅を広げ、3月9日には2019年1月以来の2万円割れとなりましたが、その後も下げ止まらず、19日には1万6,358円まで下落し、2016年11月以来の安値水準にまで調整しました。

 月後半には、連日で日経平均が1,000円超の上昇をみせる急反発場面もありましたが、急降下する25日移動平均線水準で戻りを抑えられる形で月内の取引を終えています。

 引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な景気悪化懸念が売り材料となりました。

 月前半は、各国の景気刺激策に対する期待感を背景に、株価の底堅い動きが続きましたが、産油国が減産交渉で決裂し、サウジアラビアが増産を表明したことによる原油相場の急落をきっかけに、下落ペースが再度速まる形となりました。このあたりから、投資資金のリスク資産回避の動きが強まった印象もあります。

 また、トランプ米大統領が欧州からの入国を30日間全面停止すると発表したことで、世界景気の一段の悪化懸念も台頭しました。

 個別では、日経平均の寄与度も高い ソフトバンクグループ(9984)の動きが注目されました。

 世界的な株価の下落によって、ビジョンファンドの収益悪化が強く意識された他、原油価格下落により、同ファンドの大口出資先であるサウジアラビアの資金引き揚げ懸念なども強まりました。一時は2月高値から半値以下の水準にまで急落しましたが、その後、大規模な自社株買い計画が発表されて下げ渋る動きとなりました。

 他、ファンドのポジション解消に伴い、買いポジションであった銘柄の下落、売りポジションであった銘柄の上昇といった二極化の動きが鮮明化する場面も見られました。

欧米での感染者数のピークアウトを確認する必要がある

 3月の日経平均は想定に反して壊滅的な急落となってしまいました。市場のボラティリティの高まりによって、投資ファンドのポジション整理の動きが一気に広がったことは予想外でした。

 日銀のETF(上場投資信託)買い入れ枠拡大も含めて、主要国で景気刺激策が相次ぎ表明されていますが、新型コロナウイルスの感染拡大ペースが速まる中では、期待感を織り込むような動きは手控えられているとみられます。

 ここからの下値余地は小さいと考えますが、欧米での感染者数のピークアウトを確認するまでは、本格的な反発ステージには入りにくい状況でしょう。

 一方、新型コロナウイルス収束後も、当面、各国の大規模な金融緩和政策や景気刺激策は景気の十分な戻りが確認されるまで継続するとみられ、中期的に景気は急回復、オーバーシュートすることも考えられます。

 その際には株価も予想以上の上昇の可能性が想定されるでしょう。今後の経済指標の悪化に関してはおおむね織り込まれているとみられますので、欧米の感染者数ピークアウトが確認できさえすれば、中長期感覚で格好の押し目買い局面とも捉えたいところです。

 国内における外出自粛要請や生産調整が続いている中、大きなリスク要因となるのは企業の存続リスクでしょう。外食産業やイベント産業、製造業の部品会社などを中心に資金繰りが悪化する企業も表面化してくる可能性があります。

 また、こうした流れは今後、株価の急落が不動産市況に本格波及した場合、建設・不動産セクターなどにも顕在化してくる可能性があります。

 個別銘柄の物色においては、キャッシュポジションが豊富で自己資本比率が高いなど、バランスシートリスクが小さい銘柄に絞ることが肝要となります。

売られすぎ銘柄の中でも財務体質での選別が必要に

 2020年3月期末の配当権利取りが終了し、現在は高配当利回り銘柄への関心が薄れるタイミングであるといえます。

 また、2020年3月期から2021年3月期にかけては企業収益の大幅な悪化も想定されることで、新年度の減配をアナウンスする銘柄も増えると考えられます。

 とりわけ、高配当利回り銘柄の減配予想は株価へのネガティブインパクトが強まりやすいとみられるため、今年に関しては、高配当利回り銘柄の投資タイミングは、4月中旬から5月中旬にかけての決算発表を確認後になると判断します。

 仮に、現状で高配当利回り銘柄を選好するのであれば、自己資本に厚みのある銘柄が妙味といえるでしょう。

 バランスシートが良好な銘柄は、一時的に業績が悪化しても配当を維持できる体力が相対的に強いと考えられ、現在のような株価下落場面では、自社株買いを積極的に行うことも可能とみられるためです。もちろん、信用リスクが小さいことも挙げられるでしょう。

 そこで今回は、高配当利回りで自己資本比率が高い銘柄をスクリーニングしています。加えて、直近の株価下落率が大きく、PBR(株価純資産倍率)水準が1倍を割り込む割安な水準になっているものを選別しています。将来的な水準訂正余地が大きいと考えられます。

バランスシートリスクが相対的に小さい高配当銘柄

バランスシートリスクが小さい高配当銘柄ランキング(3月31日現在)

コード

銘柄名

配当
利回り

3月末
終値
時価
総額
過去52週
高値
からの
下落率
PBR 自己資本
比率
7270 SUBARU 6.94 2,073.5 15,948 -34.88 0.95 52.89
4061 デンカ 5.49 2,277 2,016 -34.94 0.8 51.02
9201 日本航空 5.53 1,990 6,709 -48.94 0.6 57.39
5440 共英製鋼 4.81 1,247 559 -46.11 0.38 54.82
5334 日本特殊
陶業
4.60 1,522 3,107 -35.04 0.79 63.4
配当利回り平均(%) 5.47

※配当利回りは会社予想、単位は%。時価総額の単位は億円。過去52週高値からの下落率の単位は%。PBRの単位は倍。自己資本比率の単位は%。

銘柄選定の要件

(1)予想配当利回りが4%以上(2020年3月末)
(2)時価総額が500億円以上(2020年3月末)
(3)過去52週高値からの株価下落率が30%以上
(4)PBRが1倍未満
(5)自己資本比率が50%以上。

1 SUBARU(7270・東証1部)

▼どんな銘柄?
 自動車業界大手の一角で、米国向けのウェイトが高いことが特徴です。「レガシィ」「インプレッサ」「フォレスター」などが主力車種となっています。

 水平対向エンジンが強みといえます。また、小型飛行機やヘリコプターなどの航空宇宙事業も手掛けます。トヨタが16.7%を保有する筆頭株主になっています。

▼業績見通し
 2020年3月期営業利益は2,200億円で前期比21.1%増益の見通しです。第3四半期までは、モデルチェンジの影響などによる海外生産の減少、為替変動の影響で前年同期比1.9%減益となっています。

 主要地域である米国の3月新車販売台数は約4割減となっているため、同社業績も下振れの可能性が高いとみられます。また、2021年3月期は米国の需要減少が大きく響く見通しで、収益は半減近くまで落ち込む可能性があるでしょう。

▼ここがポイント
 現在、生産調整のため国内外の工場操業を一時休止しています。国内での再開は5月11日を予定、海外の再開予定は4月20日となっています。ひとまずは、計画通りのタイミングで生産が再開できるかがポイントとなります。

 一方、業界内では、高水準のネットキャッシュや高い収益性からみて、相対的に減配リスクは小さいと考えられます。また、米国の大胆な金融政策は、自動車購買意欲の高まりにつながる可能性が高く、2022年3月期には業績の急回復が期待できるでしょう。

2 デンカ(4061・東証1部)

▼どんな銘柄?
 インフルエンザワクチンや検査試薬などライフイノベーション部門、放熱材料・放熱基板、機能性フィルムなど電子・先端プロダクツ部門、セメントや肥料、無機製品などインフラ・ソーシャルソリューション部門、クロロプレンゴムやスチレン系機能樹脂などエラストマー・機能樹脂部門、建築材料や産業用テープなど生活・環境プロダクツ部門を展開する化学会社です。

 中でも、クロロプレンゴムでは世界シェア40%と推定されています。

▼業績見通し
 新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、2020年3月期営業利益は従来予想の350億円から310億円に下方修正、前期比9.4%減益となる見通しです。

 クロロプレンゴムの主要ユーザーである自動車業界は、足元で生産量が大きく落ち込んでいるため、2021年3月期業績も前半を中心に苦戦を強いられそうです。

 インフルエンザワクチンや検査試薬などの早期寄与も見込みにくいでしょう。一方、足元の原油市況下落による原材料価格の低下が見込めることは収益の下支え要因となります。

▼ここがポイント
 国立感染症研究所と新型コロナウイルス感染症の診断法開発に関する共同研究契約を締結し、簡易検査キットの開発を進めています。体外診断薬の国内薬事承認を取得することを前提に、1年以内に最大1日10万検査分の量産体制構築を目指しているようです。

 また、政府の要請を受けて、抗インフル薬「アビガン」の原料となるマロン酸ジエチルの供給を決定、5月から生産を開始する予定とも発表しています。

3 日本航空(9201・東証1部)

▼どんな銘柄?
 航空業界の大手で、国内線、国際線ともに第2位。2010年1月に会社更生法の適用を申請して2月に上場廃止、その後、2012年9月に再上場を果たしました。

 金融機関に対する債権放棄、大型機の売却、不採算路線の縮小、大幅な人員整理などを実施したことで、再上場時のバランスシートは大幅な改善を果たしています。株主還元方針として、配当性向はおおむね35%程度を目指しています。

▼業績見通し
 2020年3月期営業利益は第3四半期決算時に下方修正、1,400億円で前期比20.5%減益の予想となっていますが、新型コロナウイルスの感染拡大による旅行需要の減少、航空機の減便などを背景に、さらに数百億円は下振れの可能性があるでしょう。

 足元でも世界的な感染拡大が続いている状況下、混乱は夏頃まで続く公算が大きそうです。現状からは、2021年3月期も収益水準は半減程度に落ち込むものとみられます。

 羽田空港からの国際線ネットワークの大幅拡充効果は2022年3月期以降の寄与になりそうです。

▼ここがポイント
 配当・優待権利落ち直後の現タイミングは、個人投資家の関心が高まりにくいタイミングでもあり、さらなる新型コロナウイルス感染拡大の報道などに対する耐久力は弱いとみられます。下値リスクから、他の銘柄と比べると投資は先送りすべきでしょう。

 ただ、世界の航空機業界の中でも財務健全性は高いとみられ、2022年3月期には東京五輪開催効果も十分に見込めることで、収益も急回復するでしょう。グローバルで見た場合でも、航空業界の中で選別物色の対象になり得てくる存在と考えられます。

4 共英製鋼(5440・東証1部)

▼どんな銘柄?
 電炉業界大手の一角で、日本製鉄が筆頭株主になっている他、合同製鉄とも資本提携関係にあります。棒鋼に強い他、形鋼類も幅広く扱っています。建設用鋼材の国内主要4エリアすべてに製造・販売拠点を保有する唯一の電炉メーカーでもあります。

 また、国内電炉メーカーとして初めて海外に進出し、現在はベトナムと米国で事業を展開しています。2月にはカナダの鉄鋼事業資産買収も発表しています。

▼業績見通し
 第3四半期決算発表時に通期業績予想を修正、営業利益は165億円から185億円に上方修正し、前期比倍増となる見通しとしています。鉄スクラップ価格の低下によるマージンの改善で、国内事業が好調のようです。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で下振れは避けられないとみられますが、変化率の高さは注目される余地があるでしょう。

 ただ、2021年3月期は鋼材価格の下落によるマージンの低下がもともと想定されていた中、生産活動縮小による国内外での需要減少が加わり、2ケタの減益に転じる公算が大きいとみられます。

▼ここがポイント
 自己資本比率が約6割と高水準である他、収益の安定性は相対的に高い状況です。一方でPBR水準は0.3倍台に過ぎず、同業の東京製鐵の約0.7倍と比較しても株価の割安感は強いと感じられます。

 また、鉄鋼業界の環境が一段と厳しさを増す中で、日本製鉄を中心とした業界再編の余地が大きいことも将来的な注目材料といえるでしょう。

5 日本特殊陶業(5334・東証1部)

▼どんな銘柄?
 自動車部品では、スパークプラグで世界シェア45%、センサで同40%のシェアを占めています。他、半導体用のセラミック製品なども手掛けていますが、自動車部品が利益の大半を占めます。

 輸出比率が8割超ありますが、相対的に中国依存度は低く、欧州構成比が高くなっています。スパークプラグは補修用のウェイトが高いため、比較的収益水準は安定しています。

▼業績見通し
 2021年3月期営業利益は540億円で前期比7.5%減益の見通しとしていますが、新型コロナウイルス感染拡大の影響による中国生産の減少、欧州販売の減少などを背景に、50億円程度の下振れがコンセンサスになっているようです。

 さらに、自動車部品の利益寄与度が大きいため、世界的な自動車生産の減少ピッチが速まっている現況下では、2021年3月期も連続減益が予想されます。業績悪化度合いは相対的に小さいといえますが、足元は業績伸び悩み局面といえましょう。

▼ここがポイント
 同社を自動車部品株として捉えた場合は、為替感応度が相対的に高いと位置付けられ、円安はメリットとなるでしょう。

 また、各国での自動車の環境規制導入時はセンサの売上拡大につながり、株式市場で注目されやすくなります。次の決算説明会では長期ビジョンが明らかにされるとみられていますので、自動車電動化への対応策が注目されることになります。