過去3ヵ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

前月のレビュー

 前回の米雇用統計は、非常に強い内容でした。2月の非農業部門雇用者数は27.3万人増え、失業率は3.5%に低下しました。平均労働賃金は前月比+0.3%、前年比+3.0%。

 長引く米中貿易戦争の影響で、米国の雇用市場は「悪化する」とか、「ピークを迎えた」などと心配されながらも、これまでなんとか数字を保っていました。しかし、その米中貿易戦争も今年1月についに暫定的とはいえ決着。不安の種が消え、さぁアメリカの雇用市場はこれからだと喜んでいた矢先のことでした。新型コロナウイルスが米国に本格上陸したのは。

3月雇用統計の予想

 今回の予想はどうなっているでしょうか。米労働省労働統計局(BLS)が4月3日に発表する3月の雇用統計の予想は、非農業部門雇用者数が10万人「減り」、失業率は3.8%に「上昇」となっています。

 しかし、これでもまだ控えめな予想だと思います。3月26日に発表された新規失業保険申請件数は前代未聞の増加となりました。新規失業保険申請件数というのは、失業者が失業保険給付をはじめて申請した件数で、失業率を予想するうえで重要なデータ。マーケットも当然悪くなることは承知していましたが、ふたを開けてみると328.3万件と、事前に大方が予想していた160万件を倍以上も上回ったのです。ちなみにその前の週は28.2万件で、過去15年間の平均は33.5万件。これまでの最大件数は2009年金融危機の時の66.5万件ですから、この数字がいかに桁外れなのかわかります。しかも、この統計にはNYの都市封鎖(ロックダウン)は含まれていません。

 ですので、雇用統計の雇用者の減少数は、予想より遙かに悪くなる可能性もあることを覚悟したいと思います。そして、来月は今月よりもっと悪くなるだろうことも。カプラン・ダラス連銀総裁は、今後数カ月内に「失業率は15%近くまで上昇する可能性」があると発言しています。

マーケットは楽観的(今はまだ)

 しかし、マーケットが動揺しているのかというと、そうではありません。3月23日の週のNYダウ平均株価の上昇率は、1938年以来最大を記録しました。投資家が、トランプ政権とFRB(米連邦準備制度理事会)の新型コロナウイルス対策を高く評価していることの表れともいえます。

 失業率の急増は、「一時的」であり、新型コロナが終息すれば、再び強い雇用市場が戻ってくると(今はまだ)考えているわけです。カプラン連銀総裁の発言も続きがあって「(失業率は15%まで上昇する)けれど、年後半には8%台へ急低下する」ということです。8%の失業率が良いかどうかは別として、雇用市場の悪化は一時的、というのが現在の見方です。

短期ドル安、中期ドル高

 しかし、推測するのとリアルな数字を目の当たりにするのはまったく異なります。悪い予想のそのさらに上を行くのなら、短期的にはショックのドル売りで反応することも考えられます。特に新型コロナウイルス感染が全米に拡大中の現状では、今回が最悪とはいえないからです。

 しかし、経済が悪化するのは米国だけではないわけで、むしろ新型コロナが終息したといえる日が来たなら、体力のある米国が世界に先駆けて回復するという期待で、中期的にはドル高に動くと考えられます。

 当面の問題は、その日まで経済が持つのかということ。だから、トランプ政権とFRBが桁外れの大型対策を矢継ぎ早に打ち出しているのです。これは景気「刺激策」ではなく、景気が沈まないようにする「支援策」です。経済がどれだけ悪くなるかではなく、どれだけ早く立ち直れるかというのが、次のマーケットのテーマになるでしょう。