金、先週だけで約10%上昇。パラジウムも“V字回復”
以下のグラフは、先週1週間の各種市場の騰落率を示したものです。詳細な解説はこちらのレポートをご覧ください。
図:ジャンル横断・騰落率 3月20日(金)から 3月27日(金)まで
株価指数、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産など、複数のジャンルにおける合計23銘柄の、週次の騰落率を示しています。23銘柄の中で、パラジウムが最も上昇率が高く、次いでプラチナ、日米の主要株価指数と原油をはさみ、銀も金も上昇しました。全体的には、貴金属が総じて高かった週だったと言えます。
新型コロナウイルスの本格的な感染拡がはじまって以降、日本では、政治家がしばしば“V字回復”という言葉を用います。悪化した経済を、急速に元の状態に戻す、ということを示す言葉で、聞き手の気持ちが奮い立つ効果があると筆者は感じます。
この“V字回復”ですが、先週の金の値動きがまさにそれにあたります。以下は金価格の推移です。
図:NY金先物 (6限月、日足) 単位:ドル/トロイオンス
一時、1,700ドルに迫り、水準としてはほぼ、3月1週目の急落前に戻っています。まさに“V字回復”を演じたわけです。また、パラジウムもそれに似ています(金のV字回復の背景については後述します)。
図:NYパラジウム先物 (6限月、日足) 単位:ドル/トロイオンス
パラジウムも、金ほどではありませんが、“V字”を描いています。2,500ドルを回復すれば、ほぼV字回復を達成したと言えるでしょう。
パラジウムについては、副産物として生産される都合上、需要合わせて供給を機動的に増減させることが難しく、それでいて新興国でのガソリン車の生産・販売が、一定量存在するため、近年、供給不足の状況が続いており、長期的な上昇傾向にあります。
今月、急落したものの、ほぼV字回復を達成したことから、再び、長期上昇傾向が続く可能性が高まりました。パラジウムが長期的な上昇傾向にあることについては、以前の「プラチナ安値圏、パラジウム史上最高値。長期的に貴金属に投資するなら?」をご参照ください。
また、銀、プラチナも、同じ期間、反発色を強めています。
図:NY銀先物 (5限月、日足) 単位:ドル/トロイオンス
図:NYプラチナ先物 (7限月、日足) 単位:ドル/トロイオンス
金急騰の主因は、ドル指数の“逆V字”
金のV字回復の直接的な要因は、ドル指数の“逆V字”だと筆者は考えています。
図:NY金とドル指数の動き
3月19日ごろ、3月2週目から下落したNY金は底をうち、上昇したドル指数は天井をつけ、それぞれ反転しました。短期的に、ドルと金の逆相関の動きが目立ったわけです。
ドルと金は、ともに“世界共通のお金”という側面を持っています。ドルは現在、世界の貿易で最も多く使われている基軸通貨であり、金は歴史的に、どの国に行ってもお金に換えられる無国籍通貨です。まさに2つは世界共通のお金と言えます。
ドルと金(ドル建て)の逆相関の関係は、ドルが強くなれば金(ドル建て)が弱くなる、逆にドルが弱くなれば金(ドル建て)が強くなることで生じる関係と言えます。
その意味では、V字回復の“回復”の部分だけでなく、下落の部分の主因もまた、ドル指数の動きだったとも言えます。3月2週目から“ドル高・金(ドル建て)安”、3月19日ごろを境に“ドル安・金(ドル建て)高”という具合です。
3月19日ごろが、金もドルも反転のタイミングとなったわけですが、その時に起きたこととして考えられるのが、ドル買いの一巡による“総悲観の一巡”だと筆者は考えています。
“総悲観”は一巡?金融・財政・医療の面で対策が加速
危機が発生した際、金でさえ売られることがあることについては以前の「金は4%、原油は14%下落。新型コロナのパンデミック化で、原油投資は長期投資の時代へ突入か!?」で述べました。
リスク資産から手を引き、ドルを手元に戻す“換金売り”が生じれば、金でさえ売られます。これはリーマンショック後にも発生しました。ドルを手元に戻すことは、現金が最も有利な資産保有の手段だとみなすこととほぼ同義と言えます。
“総悲観”の中ではこのような換金売りが発生することがありますが、いずれそれも一巡します。先述のドルと金の値動きが反転した3月19日を含む3月の3週目以降、さまざまな新型コロナウイルスの感染拡大への対策が目立ち始めています。
先進国の当局が協調して金融面で景気後退を食い止めようとしています。また、各国の政府が過去最高水準の規模で、財政面で対策にあたっています。さらには、新型コロナウイルスの治療薬の開発やルール整備が急ピッチで行われています。
引き続き、新型コロナウイルスの世界的な危機は続くと見られますが、各方面での大規模な対策が進んでいることもまた、事実です。このような大規模な対策が打ち出されたことは、市場を総悲観から正常な状態に戻したと筆者は考えています。
ドル買いが一巡したことが直接的な要因だとしても、金相場が現在のような危機的状況で上昇することはある意味“正常”だと言えます。そして足元の金価格の上昇は、各種市場を取り巻く環境が、総悲観からゼロ地点に戻ったことを象徴する出来事だと筆者は考えています。
とはいえ、金相場を考える上での全般的な話として、ドルの動向も有事の発生も、金相場にとっては一つの材料に過ぎません。以下のとおり、金相場の材料は有事ムード、中央銀行、代替資産、代替通貨、宝飾需要など、少なくとも5つの材料を、時間軸に留意しながら俯瞰する必要があります。
図:金市場を取り巻く環境(イメージ)
プラチナは記録的な安値圏にタッチして、すぐさま反発
先週、プラチナは、金やパラジウムのようなV字ではなかったものの、大きく反発しました。もともと記録的な安値水準にあったため、プラチナにとっては、一連の急落・回復は、記録的な安値水準への急落・記録的な安値水準からの回復、という出来事でした。
図:NYプラチナ先物 (期近、月足) 単位:ドル/トロイオンス
長期的な視点で言えば、先週のプラチナ価格の動きは、記録的な安値水準にタッチし、記録的な安値水準から離れた(ゴー)、“タッチ&ゴー”だったと言えます。上図のとおり、先週の値動きにより、ローソク足に底堅さを暗示する長い下髭が出ました。
リーマンショック直後の安値、フォルクスワーゲン問題発覚後の安値、ほぼ同じ水準にあり、タッチ&ゴーが起きたことは、長期的な視点でプラチナ価格の推移が、より楽しみになったと、個人的には感じています。
“リスクの受け皿”、用途が広い貴金属投資
先週、貴金属相場は、4銘柄いずれも目立った値動きとなりました。今後、貴金属銘柄をポートフォリオに組み入れるためには、具体的にどのような投資商品に注目するとよいでしょうか。以下は一例ですが、関連する銘柄をピックアップしました。
図:貴金属関連の具体的な投資商品例
株式などを保有している場合、金を“リスクの受け皿”としてポートフォリオに組み入れることが有効な場合があります。
また、乱高下を伴いながら長期的に上昇傾向にあるパラジウム、長期的に安値水準にあるプラチナ、リスク発生時に注目される金、金に追随しながら時折価格変動が大きくなることがある銀、など、それぞれの特徴に着目し、貴金属だけでポートフォリオを組むアイデアもあると思います。
貴金属だけのポートフォリオでは、リスクを大きくとれる場合、パラジウムと銀の比率を高めにし、その次に金、プラチナをもっとも低めにする、リスクを取らない運用が良い場合、プラチナの比率を高めにし、その次に金を、銀とパラジウムの比率を低めにする、などのアイデアもあると思います。
株式などの他の資産の“リスクの受け皿”、貴金属だけで組むポートフォリオなどについて、次回以降、考察していきたいと思います。
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