※本記事は2008年2月1日に公開したものです。

 今回は、もっぱら投資信託を使って資産を運用しようと考える場合の、資産運用の基本的な手順をご説明する。なお、投資信託の基本的な知識については、「投資信託入門」も、ご参照いただけると幸いだ。

 投資信託で資産を運用することの意味だが、1:少額の投資資金でも分散投資の行き届いたポートフォリオを、2:自分で手間をかけずに運用でき、3:分かりやすい形で管理できる(投資信託は毎日基準価額が発表される)ことが主なメリットだと筆者は思っている。他方、デメリットは、1:投資信託のコスト(各種の手数料)と、場合によっては2:商品が複雑であったり、運用上の無駄があったりすることだ。

 運用に自分で手間をかけないことについては、これを退屈とかもったいないとか思う人もいるだろうし、他方、気楽だと思う人もいるだろう。一つの分かれ目は、投資信託の運用結果が悪かった場合に「自分で運用したのなら納得できるのに」と後悔するか、「失敗が他人のせいである方が、正直なところ気楽だ」と思うかだろう。性格的に投資に向いていると思うのは前者だが、実は後者のように思う人が少なくないのも事実だし、運用結果が性格で決まるわけではないので、どちらであっても良い。ただ、後者の人には投資信託での運用が特にフィットするだろうと推測する。

 また、国内株式については自分で個別に銘柄を選んで投資したいが、外国株式については手間やコストの問題もあり、投資信託で運用したいと思う方もいるだろう。確定拠出年金のような資金の運用も含めて、投資信託の利用の仕方・選び方を知っておくことは、ほとんどの人にとって有用だ。

運用の手順

 投資信託を使うからといって、運用の基本的な手順は変わらない。作業を順番に挙げると、以下の通りだ。

(1)家計の分析

(2)リスク資産への投資額の決定

(3)リスク資産への投資配分の決定

(4)個々の資産分類(アセット・クラス)ごとの商品選択

(5)商品の購入場所の選択

(6)運用のモニタリングと(必要があれば)修正

 個々の作業について補足する前に、よくある誤りについて説明すると、(3)→(4)→(5)であるべき手順が逆になることが多い。つまり、最初にどこの金融機関で投資信託を買うかを決めていて、その金融機関の扱い商品の中からセールスマンの勧めなどを聞いて投資対象を選び、結果的に資産配分が決まった、というような運用の手順だ。

 現在、投資信託は、全く同じ商品(同じ運用会社で、同じ名前の、完全に同じファンド)でも、どこの窓口で購入するかで実質的な手数料が違うことがある。たとえば、同じファンドを1,000万円買う場合でも、A社で買うと30万円(=3%)の手数料がかかるが、B社で買うと15万円(=1.5%)で済むといったことが頻繁に起こっている。加えて、たとえば「国内株式に投資するファンド」という具合に投資対象を決めても、1社の取り扱い商品の中に、そのカテゴリーでベストのファンドがあるとは限らない。資産クラスごとに投資額を決めて、広い範囲からファンドを選び、最も有利な窓口でそのファンドを購入することが大切だ。

(1)家計の分析

 家計の分析は、いかなる投資を行う場合でも重要だ。主な目的は、リスクを取った投資を行うことが適切かどうか判断し、いくらまでならリスクを取ることができるかを決めるための情報収集だ。詳しい方法については、たとえば、「山崎元のホンネの投資教室」第7回「投資家のための家計分析の簡便法」などをご参照されたい。個々の家計の経済的な事情は、所得や貯蓄額が同じでも大きく異なる場合があり、一つ一つ異なる。この点については、最も豊富に情報を持っているのは自分自身なので、ご自分で慎重に考えてほしい。ファイナンシャル・プランナーなどのアドバイザーを利用してもいいが、商品の購入先になる可能性のある相手は、アドバイスの内容が客観的でなくなる可能性が大きいので、なるべく避けるべきだ。

(2)リスク資産への投資額の決定

 次にリスク資産への投資額を決定することになるが、より正確に言うと、取ることができるリスクの大きさ(の上限)を決めることになる。たとえば、同じく1年後に100万円まで損失を出しても大丈夫な場合でも、個別の株式1銘柄だけに投資する場合(せいぜい150万円くらいが上限だろう)と、投資信託のように実質的に分散投資された商品に投資する場合とでは、投資できる額が異なる。後者の場合、1年間の損失額は最大で投資金額の3~4割程度なので、同じ許容リスクに対して、250万円から300万円投資することができる。

 よく、「なくなってもいいお金で投資しなさい」と言う人がいるが、たいていの場合は、文字通りなくなってもいい(大丈夫な)お金以上の金額に投資することが可能だ。もちろん、投資可能な金額の上限いっぱいまで必ず投資しなければならないというものではないが、取ってもいいリスクの上限を小さく見積もりすぎると、運用の効率が悪くなる。

(3)リスク資産への投資配分の決定

 資産配分はプロのファンドマネージャーや年金基金でも悩む資産運用の難所の一つだが、あまり投資金額が大きくない個人投資家の場合(せいぜい数億円までの場合、ほぼ間違いなく)、リスク資産部分の投資は、国内株式と外国株式を中心に考えていいだろう。

 外国債券は、有効な分散投資が難しいことと、基本的に業者間の店頭取引であるため取引価格の妥当性に自信を持てない場合が多いことから、個別の債券で適切に投資することが難しいし、外国債券に投資する投資信託の場合、期待リターンに対して手数料が高いファンドが多いため、経済合理的には個人の資産運用の対象になりにくい。特に為替リスクを取る場合は、外国株式でも為替リスクを取ると、トータルで過大な為替リスクを持つことになりかねないので、外国株式への投資を優先する方がいいだろう(為替ヘッジを効果的に行う場合この限りではないが、個人投資家には難しい場合が多いだろう)。

 ただし、外国株式については、1カ国の株式市場だけに大きな金額を投じると、リスクが大きくなりすぎる場合が多い。一般的には、特定の国の株式の有望性によほどの確信があるのでなければ、外国株式への投資にあっては、数カ国以上の株式に投資するか、iShares MSCI-KOKUSAI(22カ国の株式が含まれる)など、複数の国の株式への投資をベンチマークとするファンドに投資すると良い(リスク資産の投資配分の決め方については、本連載の「ETFを使った個人資産運用~簡便法~」などをご参照されたい。今後もこの分野については情報を提供していく予定だ)。

(4)個々の資産分類(アセット・クラス)ごとの商品選択

 個々のアセット・クラス、たとえば「国内株式」に対応するファンドを選ぶポイントは、(A)中身が明快で投資に無駄がないか(常に100%近く一つの資産クラスないしその一部に投資しているファンドがいい)、(B)手数料コストは小さいか、(C)残高がごく少なく償還されそうだといったネガティブな特殊事情はないか、という3点だ。随分単純だと思われるかもしれないが、むしろ、これらの3点以外の余計なことに気を取られると運用効率を下げかねないので、注意してほしい。

 たとえば、過去の運用成績は基本的に将来の運用成績とは無関係なので、運用方針と運用プロセスの一致を確認するといった目的以上に使えるものではない。また、後述のように「将来の運用成績が」相対的にいいアクティブ・ファンドを事前に選ぶスキルがないことは、一般投資家も、投資信託の販売会社、あるいは投資信託の評価機関といったプロについても同様なので、将来のより良いパフォーマンスを求めて外部の情報を頼ることも、基本的には無駄である。

 加えて、一点注意しておくと、債券と株式など複数の資産クラスに投資する「バランス・ファンド」(近年「資産分散型」という呼び方もある)は、いつ何に投資しているかの把握が難しく、また、個々の資産クラスに別々に投資するよりも手数料が割高になりがちなので、個人投資家の投資に適した商品になる可能性は小さい。

 バランス・ファンドでは「プロが資産配分(アセット・アロケーション)を行います」と謳(うた)うことが多いが、残念ながら、資産配分においてプロが有効なスキルを持っているか否かという点に関しては、否定的な研究結果や意見が多い。プロのアセット・アロケーション・スキルについては過大な期待を持たない方がいい。

 投資信託の売り手側は強調しないことが多いが、手数料の影響は大きい。特に、信託報酬は、運用期間の全てにわたってパフォーマンスにマイナスの影響を与えるので、多くの場合最重要の比較項目だ。

 動かし難い傾向性として、一つには「アクティブ・ファンドの平均はベンチマークに負けていることが多く」、もう一つには「相対的にパフォーマンスの良いアクティブ・ファンドを事前に選ぶことはできない」。この両者と、インデックス・ファンドの方が手数料(特に信託報酬)が低いことを考えると、個々のアセット・クラスそのもの、ないしは重要な部品(外国株式における個別国の株価指数に連動するインデックス・ファンドのようなもの)となるようなインデックス・ファンドが有力な候補となる場合が多いだろう。

 現時点では、内外の株式共に、ETF(上場投資信託)の信託報酬の安さが圧倒的なメリットである場合が多いが、投資単位(ETFはある程度まとまった金額で売り買いされる)や売買の手数料なども総合的に勘案して、最も有利なファンドを選択したい。

(5)商品の購入場所の選定

 前述のように、現在、投資信託は、全く同じ商品でも、購入窓口によって実質的な手数料が異なる場合がしばしばある。「どこで買うのが有利か」というポイントは常に気にしておきたい。

(6)運用のモニタリングと(必要があれば)修正

 もともとの投資配分が適切であれば、投資信託で投資する場合、個別株で投資する場合よりも、運用期間中に手を加える必要性が発生する頻度は小さいはずだ。しかし、投資したファンドの価値がどのように変動しているかは、時に重要な情報となることがあるのでなるべく頻繁に見ておきたい(たとえばベンチマークと不自然に乖離[かいり]していないかなどを見る)。個々のファンドごとにベンチマークと比較して見ておくことが重要だ。

 また、たとえば、国内株式と外国株式の運用パフォーマンスが大きく異なった場合などに、資産配分のバランスが不適切に歪むことがある。あまり神経質になる必要はないが、年に一度程度は、改めて資産配分が適切かどうか、前提条件も含めてチェックしておきたい。

(補足)楽しみとしてのアクティブ・ファンド投資について

 投資家に可能な判断と、投資家の損得を厳密に考えると、信託報酬に大きな差がある現在、手数料が相対的に高いアクティブ・ファンドに投資することは経済合理的とは言い難い。

 しかし、運用者の投資哲学やファンドのコンセプトなどに共感して、多少手数料が高くてもアクティブ・ファンドに投資することは、「楽しみ」の一つとして肯定できる場合があるだろう。どの程度の手数料差までを許容するかは、投資家個人の価値判断によるものなので、一概に決めることはできない。あくまでも「楽しみ」にコストを払っているのだという認識があれば、構わないだろう。

 特に、今後、手数料が安いアクティブ・ファンドが多数登場した場合、現在よりも多くの人が、低廉なコストでアクティブ・ファンドへの投資を楽しむことができるようになるだろう。

【補足】

 2008年の記事なので、10年以上前の文章だが、内容はそのまま現在でも通用する。例えば、投資の手順が、…(3)資産配分→(4)商品選択→(5)金融機関の選択であるべきであって、しばしば行われる(5)→(4)→(3)はダメなのだ、という話などは、最近「トウシル」の動画で取り上げた。
 投信そのものはこの間に、毎月分配型(奇数月分配も同様)ファンドの手数料が拡大して対面営業の金融機関の売り方がより強引になるような「劣化」と、インデックス・ファンドの手数料が下がったり、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の対象が拡充されたり、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)・つみたてNISAのような投資家にとって有利な制度ができたりといった「改善」の両方がある。もちろん、投資家には、「改善」を有効に活かすことを心がけてほしい。(2020年3月25日、山崎元)