米国401(k)平均残高は10万ドル以上!つまり1,000万円を持っている

 米国民が活用している老後資産形成と言えば401(k)(米国の内国歳入法401条[k])とIRA(個人退職勘定:Individual Retirement Accounts)という制度です。日本でいうなら、前者が企業型DC(確定拠出年金)、後者がiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)におおむね相当します。

 米国ではこの二つの制度が国民の老後資産形成として機能しており、401(k)プランの平均残高は10万ドルを超えています。フィデリティ(米国の401[k]プランのトッププロバイダーである)のレポートでは2019年末の残高は11万2,300ドルとしています。IRAもまた11万5,400ドル。乱暴に1ドルを100円と計算しても、1,000万円以上ということです。

 かつては米国の高齢者といえば、貧困問題と近しいところがありました。サム・ライミ監督の映画「スパイダーマン2」では、主人公の養父母は高齢者になっても働き続けていました。働かないと食べていけないからです(そんな養父母に育てられながら学校に通いつつ、寸暇を惜しんでヒーロー業もがんばるつらさを描くというのが、サム・ライミ流の映像でした)。それは当時、違和感のないものだったと思います。

 しかし、数十年をかけて米国民はそれなりの資金を手に、リタイアを迎えられるようになりました。その変革のヒントを知ることは、私たち自身が安心して老後を迎える参考になりそうです。ちょっと探ってみましょう。

ミレニアル世代も10年以上の資産形成で1,000万円

 フィデリティ・インベストメンツが出したレポートや新聞報道では100万ドル保有者、いわゆるミリオネアが増えていることが取り上げられていました。しかしもっと興味深いのは、若い世代でもしっかり制度を活用した者には、資産形成の実績が得られているということです。

 同レポートでは、10年以上加入した場合の世代別資産残高があり、いずれも平均の10万ドルを上回ります。ベビーブーマー世代が38万9,800ドルというのもすごいですが、ジェネレーションX世代で30万4,300ドル、ミレニアル世代で14万9,800ドルもすごい数字です。

 個人的には、2000年以降に社会人となったミレニアル世代であっても、老後に向けて1,500万円(1ドル=100円換算)の獲得に成功している人がたくさんいることに注目します。

 何せ社会人になって20年以下であっても1,000万円を貯め、増やすことができているというのは素晴らしいことです。

 そして、この効果の多くは、2006年に行われた401(k)プランの法改正、いわゆる年金保護法以降の変化を如実に表しています。

 この法改正では、行動ファイナンスの知見をベースに、パターナリズムの手法を採用。「自動加入」「自動拠出率設定」「自動投資」といったアプローチを導入しました。

 実はこれ、「とにかく若いうちに加入する」「とにかく給与の一定率を積み立てる」「とにかくバランス型ファンドで国際分散投資する」という合理的行動を、半強制的に米国の勤労者の多くに実行させる仕組みでした。

加入・拠出・投資、三つセットで背中を押す取り組み

 人はどうしても、三つの「非合理的」な資産形成判断をしがちです。

 非合理的行動、まずは「早く加入しない」ことです。

 これをつぶすため、入社したら原則加入で、年金加入は当たり前という仕組みに切り替えをしました。これは「自分で決心したら年金加入手続きをする」ことより、強制力があります。

 二つ目の非合理的行動は「拠出する割合は低くする」ことです。

 入社1年目3%以上、2年目4%以上、3年目5%以上、4年目6%以上(10%以下)という積み立て割合を定めて、自動的にその割合を増やします。一度始めた後、年収増に応じて自分で積立金額を増額するのは面倒な上、回避しがちですが、「率」かつ「率の引き上げ」により積み立てペースはむしろ速まることになります。

 最後の非合理的行動は「投資」です。

 米国の401(k)プランでは運用指図をしない場合、原則として投資をするよう自動的に商品選択されます。ターゲットデートファンド(資産構成割合は年齢に応じて変動)かバランス型ファンド(資産構成割合は固定)を選ぶことになります。「投資のことが分かるようになってから」という判断先送りをさせないことで、結果として長期的に高いリターンを獲得させる選択肢に導きます。

 もちろんこの間の株価上昇が寄与したことはいうまでもありません。しかしこの三つの取り組みが実を結びつつあるのが、まさにミレニアル世代であっても1,000万円超の資産形成を実現できる理由ではないかと思います。

あなたがすぐ参考にできる三つのやり方

 これをもし日本の確定拠出年金で例えるなら、次の三つのルールに置き換えられます。

1:まずはとにかく入る(iDeCoなら加入手続きをする。企業型確定拠出年金なら加入選択があった場合に加入を選ぶ)

2:とりあえず月1.2万円か2.3万円の限度額くらい積み立てをする(iDeCoの場合。企業型確定拠出年金の場合は掛金額は原則会社が決める)

3:分からないで悩むくらいならバランス型ファンドを買っておく

 一番高いハードルは、自分で加入手続きをしなければいけないiDeCoでしょう。また、バランス型ファンドについては「株式投資比率が高いこと」「信託報酬(運用管理費用)が低いこと」の二つを意識すればいいでしょう。

 後はとにかく自動引き落としで積み立てを続け、かつそれを国際分散投資で続けることです。米国の若い世代のように、1,000万円の資産形成をするには、これが一番の近道であるはずです。

単純比較はできないものの、日本人には退職金があるので、これも確認しよう

 さて、米国の若い世代は圧倒的に老後のための資産形成に成功しているように思えますが、日本人が悲観する必要はありません。日本人の多くには「退職金」という枠があるからです。

 米国の401(k)プランでは個人の積み立てに会社が追加拠出をしてその資産形成を奨励しますが(マッチング拠出。日本の確定拠出年金のそれとは異なる)、会社が退職金を実施している場合、あるいは確定給付型の企業年金を実施している場合、これはiDeCoや企業型DC以外の部分で、会社が資産形成を行っていることを意味します。

 あなたの会社がポイント制退職金を採用していれば、ポイント数を確認してみましょう。仮に500ポイントあり、1ポイントが1万円相当であれば、500万円の退職金の権利があるということです。もし手元に500万円の定期預金があれば、米国のミレニアル世代に大きく負けているわけではないということになります。

 もちろん企業型確定拠出年金を実施している場合は、自分のお金として残高把握ができます。IDやパスワードを紛失している場合は再発行手続きをしておいてください。

 このままでは、10年後あるいは20年後、日米の老後の資産格差が決定的になるかもしれません。しかしiDeCoの規制緩和や限度額引き上げも徐々に行われていくはずです。ぜひ今ある制度の枠内で、できることを実行しておきましょう。