3月9日に2月の景気ウォッチャー調査が公表されました。2019年10月の消費税増税による駆け込みからの反動減の影響が和らいできたところに、コロナショックで一気に景況感は悪化。調査期間が2月25日から29日までなので、3月2日からの学校休校や足元の自粛強化を織り込み切っていないにも関わらず、時系列データで確認すると、東日本大震災級のショックが発生していることが分かります。

(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より筆者作成
(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より筆者作成

 3月10日にイベント自粛をさらに10日間程度延長するよう政府から要請されたことで、自粛モードはさらに強まり、大規模イベントだけではなく、小規模イベントの開催もどんどん難しくなっています。4月中のイベント開催を諦める先も増えており、経済への悪影響がより深刻になりそうです。

イベント中止は中長期に悪影響

 イベント自粛というと、まずはイベントから生じる売上がなくなることが思いつきますが、その他にも様々な悪影響が生じます。イベントを開催するため、あるいは参加するために投じた費用が回収できなければ、財務状況が悪化します。

 また、イベントがビジネスマッチングや商談などの場になることもあれば、貴重な情報収集の場になることも多く、そうした機会が失われれば、先々の利益にも悪影響が出ます。

 イベントの重要性は世界的にも関心が高く、大規模な会議や研究会、展示会が開催できる会場の需要は増加しています。山手線の新しい駅となる高輪ゲートウェイ駅の開発計画でも国際会議等に対応したコンベンション・カンファレンスやビジネス支援施設の建設を予定しています。

 真新しい住居隣接のオフィスビルというだけではビジネス環境としては不十分で、日本に大規模な会議や展示会ができる施設が不足しているという問題もあります。

 新型コロナの影響で開催可否が取り沙汰されている東京オリンピック・パラリンピックですが、日本展示協会を中心とした意見広告:日本経済新聞(2018年9月26日付朝刊)によると、東京ビッグサイトが最大20カ月間に国際放送メディアセンター(IBC/MPC)として利用されるため、展示会や見本市が中止になり、約2兆円の売上が失われるとしています。

 東京ビッグサイトは3月のイベントが全面中止、4月のイベントも中止の情報が相次いでいます。仮に、4月のイベントも全て中止になれば、単純計算で2,000億円の売上が失われることになります。東京ビッグサイトほどの大規模施設は少ないですが、全国でイベント中止が相次いでいるので、おそらくこの何倍もの影響があるでしょう。そして、売上が減れば、資金繰りが厳しくなります。

自粛の影響は広範に及ぶ

 イベントだけではなく、宴会や企業研修、果ては、習い事まで自粛モード。学校が休校になったことで、自粛を通り越して開催が事実上不可能という事態に発展しているケースもあります。

 プロフェッショナル&パラレルキャリアフリーランス協会「【署名募集】新型コロナウイルス感染拡大防止措置によるフリーランス・自営業者への影響に関する声明と緊急要請」には悲痛な声が掲載されています。一部を引用しましょう。

 音楽教育の現場では、学校が休校になれば連鎖的にお休みにせざるを得ないのが現状。いつ元に戻るかわからずです。又、演奏の仕事では集客自体がNGとなれば全ての仕事がなくなります。(ピアニスト、ピアノ講師)

 学校休校に伴い習字教室も臨時休講せざる得なく、収入がなくなる。それでもテナント家賃や光熱費がかかる為、赤字。(習字教室の先生)

 こうした局面で特に重要なのは、企業においても個人事業主においても、まずは資金繰り。黒字の資金繰り倒産もあれば、逆に、短期的な赤字であっても資金繰りが続けば倒産は免れます。

 コロナショックの政府対策では資金繰り支援が打ち出されていますし、公的金融機関の制度融資や自治体によっては小規模事業者支援制度や中小企業向け助成金・補助金制度を設けている先もあります。

 この局面での意思決定が難しいのは、自粛要請がいつ・どのような状況になれば撤回されるか、見通しが立たないこと。このため、廃業を決めた旅館がニュースになるなど新型コロナの感染ニュースだけではなく、経済への影響を取り上げる事例が増えてきています。

 新型コロナで生産設備が棄損する訳ではないですが、倒産・廃業が生じると、その会社や働いてきた方のスキルやノウハウの蓄積が霧散してしまいます。経済にネガティブなショックがあると、その原因が取り除かれた後も、生産性には下押し圧力がかかることになります。

 金融面の懸念事項としては、この先の設備投資の抑制も考えられます。異次元緩和のマイナス金利、イールドカーブコントロールの影響で金融機関の収益は細っていて、そこに株価下落など有価証券評価損が加わると、自己資本比率が悪化しかねません。

 事業者側も目下、収益が悪化していますが、収益悪化が債務者区分の悪化(返済能力の問題)にまで繋がるにはタイムラグがあります。この3月決算を越えても、次の中間期決算に向けて債務者区分が悪化する先が増えるでしょうから、不良債権の増加が先々の設備投資の抑制に繋がる可能性もあります。

 自粛が要請されているタイミングでは、通常の経済活動が阻害されていて、人も物の移動も制限されます。その意味では、減税などで薄く広くばら撒くよりも資金繰り支援の方が効率的。規模や貸出条件に物足りなさはありますが、自粛要請期間の再々延長があれば、条件が緩和されるかもしれません。

雇用・キャリア形成にも波及

 さて、イベント中止による先々の売り上げ減少やスキル・ノウハウの消失、設備投資の抑制などの可能性を見てきましたが、労働力の面でも悪影響が出始めています。

 コロナショックによる業績悪化で内定取り消しという報道が出始めています。それ自体、労働投入量の減少などを通じたマクロ経済への下押し圧力がありますし、なにより当事者にとって不幸です。

 そうした社会人生活の第一歩だけではなく、既に会社で働いている若手社員にとっても望ましくない状況が生じているようです。大企業を中心に、新型コロナへの感染を抑制するため、在宅勤務・リモートワークが急速に導入されていますが、通勤がないので楽で良いという声がある一方、若年層の教育をどうすれば良いのかという声を聞くことが多くなっています。

 日本の古く規模が大きい企業は特にそうですが、キャリア形成やスキルアップは各自が自発的に行うというよりも、OJTが重視され、人事考課の項目に部下・後輩の指導・育成が含まれている会社もあります(プロパー社員率が高い銀行業に多いようです)。

 働き方の多様化それ自体は望ましいのですが、新型コロナ対応の急場しのぎとなったため、教育まで手が回っていないようです。結果のフィードバックはできても、プロセスのフィードバックができないと片手落ち。そして、企画や開発部署ではアイデアのフィードバックも重要です。

 欧米の大学ではわざわざ他学部の教授が同じカフェやラウンジを使うように建物や研究室の配置を考えているところもあるそうで、イノベーションは組み合わせから生まれることを意識しているのだと思います。

 在宅勤務で仕事が上手く回るのは中堅層。トップ層はアイデアを生み出すための刺激が足りませんし、若年層はそもそもプロセスのフィードバックの重要性に気づいていない人が多く、部下を持つ立場の方は苦慮されています。こうした課題は短期というよりは中長期にボディーブローのように効いてくる可能性があります。

 コロナショックの経済への悪影響は株価や企業収益の悪化といった短期的な影響だけではなく、中長期的な悪影響も懸念されます。課題は見えてきているので、政府対策の第3弾があるとすれば、短期だけではなく中長期にも目を向けた施策を期待したいところです。