ドル/円は大相場

ドル/円は久々の大相場となっています。

 昨年の年間レンジは8円強でしたが、今年は2月20日に1ドル=112円台の高値を付けてから、わずか2週間強で101円台前半まで売られ、年間レンジは約11円となっています。毎日の値動きも1円以上動いており、3月9日(月)は約3円70銭も動きました。9日に1ドル=101円台を付けましたが、10日には105円台に戻しました。大きな戻しがあったため、この相場は落ち着くとの見方がありますが、まだまだ荒れる相場が続きそうです。

 今後の相場を展望するためにも110円を割れてからの動きを振り返ってみたいと思います。

新型コロナウイルスの猛威で急速に1ドル=101円台に

 新型コロナウイルスが世界各国へ感染拡大するにつれ、世界景気の悪化懸念から株が大幅に下落。ドル/円は2月27日(木)に110円をあっさりブレイクしました。株安とともに円高は止まらず、108円、107円のテクニカルポイントで止まるかと思えば、3月6日(金)には1ドル=105円まで円高となりました。この間、3日にFRB(米連邦準備制度理事会)が0.50%の緊急利下げをしましたが、株安には歯止めとならず、むしろ、景気悪化懸念が高まったことから長期金利が一段と下がり、ドル安となりました。

 1ドル=105円は心理的にも非常に重要なポイントですが、6日のNYダウ平均株価が1,000ドル近くの下げから256ドル安まで戻したことや、米10年債金利も0.6%台から0.7%台後半まで戻したことから。105円台前半で先週を終えました。

 水準的に非常に重要な1ドル=105円をキープしたことから、週明けは株高、円安の可能性もありました。

 ところが、週末に米国を含め、世界的な感染拡大が広がり、世界的景気減速懸念が一気に高まったことや、OPEC(石油輸出国機構)プラスの会合で原油の減産合意ができなかっただけでなく、サウジアラビアが増産の方針との報道が伝わったことから、週明けは1ドル=104円台半ばでギャップオープンしました。

 週明け9日(月)の東京市場では米10年債先物が0.5%を割れ、一時0.3%台まで金利が急低下し、原油先物が30%近く下落したことから、ドル/円はクラッシュ。1ドル=103円台、102円台に下落しました。そしてNYダウがオープンすると過去最大の下げとなる2,013ドル安となったためドル/円も急落し、1ドル=101円台前半まで円高となりました。

 しかし、NYダウが「サーキットブレーカー」の発動によっていったん停止。その後、市場が再開すると、下げ幅が縮小されたことや、日銀のレートチェックのうわさからドル/円は反発し、1ドル=102円台前半で取引を終えました。

日経平均は1年3カ月ぶりに1万9,000円割れ

 翌日10日(火)は、日経平均株価が一時800円超下落し、1年3カ月ぶりに1万9,000円を割れました。しかし、トランプ米大統領が景気対策の検討を表明したことや日銀のETF(上場投資信託)買いの増額期待から株が反発し、プラス圏に転じたことからドル/円も反発し、105円台に戻しました。

 NY市場では、米国の景気対策で給与税を年内ゼロパーセントにするとの報道が伝わると、マイナスだったNYダウは1,100ドル超上昇。米10年債金利も0.8%に戻し、ドル/円も104円台から106円手前までドル高となりました。しかし、米議会との調整はこれからで実施時期や規模も不明確のため、下落の際のテクニカルポイントである107円に戻る推進力はなかったようです。結局、今週初めのギャップを埋めて、先週末と同じような105円半ばに戻して終えましたが、この後は相場の節目となる重要なポイントの105円をキープできるかどうかが注目です。

相場の背景と立ち止まったテクニカルポイントを捉えることが重要

 値動きの話が長くなりましたが、相場が動いた背景や、相場が立ち止まったテクニカルポイントを捉えておくことは今後の相場シナリオを考える際に役立ちます。また、時間が経った後でも、あの時どんな動きだったかを思い返すときに参考になります。

ドル/円がクラッシュの背景に複合要因

 さて、今回の円高の背景は、何度も触れていますが、新型コロナウイルスの感染拡大によってヒト、モノ、カネが動かなくなり、世界景気悪化を嫌気した株安によって円高が進行しました。そこに、米長期金利の急低下と、さらに原油の急落が引き金となり、ドル/円がクラッシュしました。

 今後もこれらの要因は注視していく必要があります。特に、現時点では米国長期金利の動きの影響が大きいため、金利が上昇すると円安になり、再び金利が低下してくると円高が進むとみておいたほうがよさそうです。

 また、原油価格の下落は産油国の財政圧迫、米シェールガス企業の業績圧迫、世界的な物価の下落(金利低下要因)につながるため、原油価格動向や生産国の動きに注目していく必要があります。新型コロナウイルスによる景気悪化で原油需要は落ち込み、供給面ではOPECとロシアなどの非OPEC諸国との減産合意は難しく、原油価格の反発はしばらく期待できません。

 原油は過去の動きをみていると強気相場は短く、弱気相場は長いことから、現在の環境下ではさらに長引くかもしれません。

 今回の円高の説明コメントを聞いていると、リスク回避の円高ということが多く聞こえてきますが、世界景気悪化懸念から企業やファンドの資金化の動きとの見方もあります。これまでの金融緩和によって膨れ上がった過剰債務が急速な景気悪化によって債務を縮小しているという指摘です。長引けば資金ショートになる可能性もあるため、企業やファンド、個人はこれまでの債務の巻き戻しをこれから本格的に始める可能性があるかもしれません。

 株の下落幅からリーマン・ショックと比較されることが多いですが、リーマン・ショックは金融機関を中心とした信用不安であり、被害を受けた金融機関、ファンドや個人も欧米マーケット中心の出来事でした。しかし、今回は世界的に債務が膨張している中、世界的に景気が悪化してくることから被害はもっと大きくなるかもしれません。

 今回のような相場で怖いのは終わりの時期が見えず、従って底値のメドが立たないということです。各国政府が財政で支援策や景気対策を検討し始めていますが、中央銀行の金融政策も含め内容や規模が限られているため、まだまだ安心して相場を見ることができない状況が続きそうです。

 こういう場合は強弱両方の相場シナリオを備えてマーケットに柔軟に臨む必要があります。