※本記事は2013年10月4日に公開したものです。
読者は、「運用」について、これまでさまざまなテキストを読んでこられただろうし、あるいは、運用の実践を重ねてこられた方もおられるだろう。しかし、理論的な知識と、実践とが結びついて理解されていない場合がしばしばあるのではないだろうか。
受験などの勉強にあっては、ひたすら教科書を覚えるタイプ、参考書を読み込むタイプ、問題集や模擬試験を解くことで知識を身につけるタイプなど、さまざまなタイプがいる。
今回は、問題集タイプの運用実践家のために、運用について考える練習問題を20問ほど用意した。
多くの問題は、ポートフォリオを運用する上での意思決定問題として、リターン、リスク、コストの変化を頭の中に思い浮かべて、どの変数にどのような影響が出るかを考えてみることで「合理的に」解けるはずだ。先入観にとらわれずに、改めて考えてみてほしい。
設問の例としては、たとえば、企業年金の運用や投資信託の運用などで、ファンドマネージャー、あるいはその顧客が直面する状況を多く取り上げた。大まかな目途だが、20問中15問正答できれば、個人投資家としては、かなり立派だと思う。18問以上できれば、プロ並み、と申し上げておく。あるいは、プロであっても、運用の問題を徹底的に合理的に考えていない人なら、いくつもの問題で間違えるかもしれない。
現実の運用の場面では、問題集のように解答がないわけだが、問題の後に、簡単な解答例をつけておいた。解答に納得できない人もいると思うが、考え続けることにも価値があるので、あえて簡単な解答例としたことをお断りしておく。
気楽に腕試しを楽しんでもらいたい。
運用を考えるための練習問題
練習問題1
「私は、銘柄選択に注力するアクティブ・マネージャーなので、ポートフォリオのリスクに関する定量的な把握は必要ない」という言い分は、どこがおかしいか指摘せよ。
解答例
彼は、投資銘柄を選ぶだけではなく、その銘柄に投資するウェイトを決めなければならないが、ウェイトは、期待リターンとリスクの両方を考慮しないと決められない。リスクを把握しないで運用するのは、いい加減な「山勘運用」にすぎない。
練習問題2
「このファンドは、絶対リターンを意識して運用しているので、ベンチマークはありません」という運用会社の言い分に対して、運用会社に委託する年金基金の立場を説明してください。
解答例
「絶対リターン運用とは、現金(リスクフリー資産)をベンチマークとしている運用といえるが、運用の中身をベンチマークで表現してくれないと、当基金としてどのようなリスク状態、運用状態になっているのか把握できないから、貴社を採用することは、当基金としてあまりに無責任で、できることではない」
練習問題3
「リターンの差によって、資産クラス間のバランスが崩れるので、1年に一度、リバランスを行って、元のウェイトに戻す」という運用方針の問題点を二つ指摘せよ。
解答例
物事が1年単位で都合良く変わるとは限らない。1年単位は、運用者側の都合であり、横着だ。また、将来、元のウェイトに戻すことが適切とは限らない。将来のウェイトは将来時点のリスクとリターンで考えるべきだ。
練習問題4
「投資銘柄全てに対して、目標となる利食い・損切りの株価を決めて、これを厳守しています」という運用方針は正しいか。理由を挙げて答えよ。
解答例
自分の「買値」は過去の話で将来のリターン・リスクに影響する要因ではない。過去買値に影響されて売買を決めるのは、不適切だ。
練習問題5
「ポートフォリオの投資銘柄は、運用期間が長期化するほど増える傾向にあるのは普通のことだ」というファンドマネージャーの言い分は正しいか。
解答例
正しい(売買コスト付きでポートフォリオのシミュレーションをしてみると分かる)。
運用を考えるための練習問題6
「当ファンドは投資銘柄数を30に絞っています」という運用方針について、簡単に評価せよ。
解答例
幼稚、ないしは横着、あるいは愚かだ。仮に、いい銘柄が100あれば、100使って適切に分散投資すればポートフォリオには改善の余地がある。運用上30銘柄という制限は、余計な制約でしかない。
練習問題7
平均的な銘柄の期待リターンを6%と考えるときに、平均を10%上回ると予想した銘柄の期待リターンを16%だと考えてポートフォリオを作っていいか。
解答例
自分の予想の信頼度が100%ということはあり得ないので、不適切だ。
練習問題8
ファンドの売買回転率に上限の制限を設けることの、長所と短所を一つずつ挙げよ。
解答例
意図的なものも含めて過剰売買によるパフォーマンス悪化を制限できる場合があることが長所。他方、リターンとコストを考えてもポートフォリオ改善のチャンスがある場合の制約になりかねないことが短所。
練習問題9
3,000万円の運用資金を持っていて、1,200万円株式に投資しようと考えている個人投資家がいて、毎月100万円ずつ1年かけて、ドルコスト平均法で株式を買い付けようとしているとする。彼に、どうアドバイスすべきか。
解答例
「あなたの場合、ドルコスト平均法は、気休めにしかなりません。むしろ、有害です」が正しいアドバイス。機会損失があること、売買コストと手間が余計にかかることが明らかなマイナス点。「最適な組み入れ状態」を速やかに作るべき。
練習問題10
「当基金は、10年満期の日本国債にのみ投資していて、原則として満期まで保有するので、時価評価は不要だ」と言っている年金運用担当者がいるとする。彼の考えは適切か。
解答例
「満期まで保有する」という方針は運用判断の放棄であり、不適切なおかつ無責任。国債といえども、買うときには、利回りの適否を考えているはずであり、保有期間中に利回りを無視するのはおかしい。
運用を考えるための練習問題11
東証1部の過去半年の出来高上位200銘柄に等金額で投資するポートフォリオを運用のベンチマークにしようとしているとする。何が問題か?
解答例
入れ替わりが激しくてベンチマークとしての「再現性」に難があり、また、等金額ウェイトは小型株のウェイトが上がり、望ましいポートフォリオとしての「規範性」にも疑問がある。
練習問題12
「当社は、当社のアナリストが調査している600銘柄だけを株式ポートフォリオの運用対象とします」という運用会社についてどう考えるか。
解答例
600に限るのは自社の都合に過ぎず、分散投資の拡大、リターンの改善双方において、運用のチャンスの最大化を阻害している愚かな方針だ。
練習問題13
ある年金基金の資金の1割を運用している運用会社が、年金基金がアセット・アロケーションに使用しているのと同じリスク拒否度を使って、ポートフォリオの最適化計算を行おうとしている。これは正しい方針か?
解答例
運用会社間でリスク分散が働くので、個々の運用会社に適用されるリスク拒否度は基金全体よりも小さくていい。
練習問題14
「株価に一喜一憂しないために、ポートフォリオを見るのは1年に一度としている」という個人投資家に、何をアドバイスしたらいいか。
解答例
「現実を直視してください! それに、ちょうど良く1年に一度、投資環境が変化するわけではありませんよ」
練習問題15
ファンドが取るべきリスクの大きさは、スポンサーが考えるリスク拒否度と、運用会社が目標とするインフォメーション・レシオ(アクティブ・リターンのアクティブ・リスクに対する比率)とで決めることができる、という考えは正しいか。
解答例
正しくない。運用者が「目標としている」ことと、実際にそれが可能であることとの間には大きな隔たりがある。
運用を考えるための練習問題16
「長期投資で運用効率上有利なのは、単位期間当たりのコストを引き下げることができる効果だけだ」という意見は正しいか。
解答例
正しい。
練習問題17
「必要があれば、毎日でもリバランスする」というファンドマネージャーの意見は正しいか?
解答例
正しい。ただし、毎日売買の必要があるという事態にはならないだろうが。
練習問題18
「100銘柄も持っていると、実質的にインデックス・ファンドと大差ない」という意見は、株式ポートフォリオについて正しいか。
解答例
正しくない。銘柄数が多くても、ベンチマークと大きく異なる性格の多様なポートフォリオを作ることができる。
練習問題19
「ファンドマネージャー選択にあたっては、過去1年間のパフォーマンス評価よりも、過去3年間のパフォーマンス評価の方が参考になる」という意見にコメントせよ。
解答例
ファンド選択のための情報としては、「どちらも役に立たない」というのが現実。選択を他人に説明する上では、3年の方が納得される場合が多い、という程度の差。
練習問題20
投資アイデアの有効性が一定だと仮定した場合、対ベンチマークの運用パフォーマンスは、運用期間の長期化に伴って、改善するか、劣化するか?
解答例
劣化する。売買コストの壁があるので、期待リターンが劣化した銘柄がポートフォリオの中に溜まるから。
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