円高加速。日銀の「レートチェック」とは?
新型コロナウイルスの感染拡大で円高が急速に進行し、3月9日夜には、海外市場で円の対ドルレートが一時1ドル=101円20銭台急騰した。取引参加者の間では、円高進行に対する警戒感が根強い一方、日銀による円売り・ドル買いの市場介入観測が流れる。市場介入という「伝家の宝刀」は抜かれるのか、日銀周辺を探った。
新型ウイルス感染の世界的な広がりを受けて、外為市場では円買いが加速。為替は2月20日の1ドル=112円台から3月9日までの半月あまりで約10円の円高となった。9日は1日の値幅が3円を超え、午前10時40分から10分ほどで一気に2円もレートが飛んだ。
この間、市場では日銀による「レートチェック」の噂が流れ、為替ディーラーやFX取引参加者が浮きあし立つ場面があった。レートチェックとは文字通り、日銀が為替の取引状況を外為関係者に電話で聞くこと。日銀内では、市場介入の実務を担う金融市場局や金融政策を企画・立案する企画局など各部署で為替レートをリアルタイムで把握し、深夜から未明も常に市場をウォッチしている。
レートを知るだけならわざわざ市場関係者に電話するまでもない。それでもレートチェックの電話をかける理由はただ1つ、市場へのけん制である。
日銀は急激な為替変動に市場介入で対抗する前に、まずレートチェックを実施し、投機筋へ警鐘を鳴らすのが「お約束」だった。警鐘が効いて市場が落ち着くこともあれば、警鐘が効かずに市場介入へ進展する可能性もある。ただ、近年はレートチェックは実施されていない。
市場関係者や金融担当記者の話を総合すると、今回のレートチェック観測は噂に過ぎなかった。これまでレートチェックがあれば日銀総裁ら中枢部は事実を認めてきたが、今回は全く変化がなかった。とすると、レートチェックも為替介入もしていないし、目下のところする予定もないということになる。
日銀に為替介入を指揮する立場にある麻生太郎財務相も10日朝の閣議後記者会見で、為替介入について尋ねられ「コメントを差し控える」と型通りの回答をするだけだった。
麻生氏は2008年秋のリーマン・ショック当時に「市場から現金がなくなり、1晩の金利が5%になった」と振り返ったうえで、「今回はリーマン・ショックと違う」と強調。経済担当記者たちに「株価が下がったからリーマン・ショックといったら、それは悲しいね。(経済は専門外の)社会部じゃないんだから」とクギを刺し、株価が急落したがリーマンショック当時と違い、金融機関の資金調達に問題がないことを強調した。
日銀は為替介入ができない?
政府・日銀にとって急激な円高は歓迎できない。しかし、市場介入は事実上封じられているのだ。
市場介入しない理由として最も大きいのは対米関係だろう。トランプ米大統領は基本的にドル安論者。中国が人民元レートを不当に安く設定してきたせいで相対的にドル高となり、米国の輸出企業が不利な競争を強いられてきたとの見解を大統領就任前から貫いている。
最近ではウイルス騒動による株価下落を見て、「アメリカの金利は高すぎる」と何度も発言してパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に対して圧力をかけ、金利低下とそれによるドル安へ誘導して景気を浮揚しようと必死になっている。
しかも、米国は不公正な貿易を狙う「為替操作国」の認定をちらつかせて中国に圧力をかけてきた経緯がある。ウイルス騒動後も米国と中国の世界経済をめぐる対立が続くことも考えれば、今ここで米国と協調路線を取る日本が市場介入し、中国に反論の口実を与えるわけにはいかない。
中国を抜きにしても、日本が円売り・ドル買い介入をすればドル安をよしとする米国の経済政策と真正面からぶつかることになる。政府・日銀は1985年のプラザ合意以降、米国の金融・為替政策に逆行する行動を取ったことはなく、今後も東日本大震災クラスの巨大災害でもない限り、市場介入には手を出さないとみられる。
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