2月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 中国での新型コロナウイルス拡大で年初から大きく崩れた新興株市場。1月は、新型コロナウイルスの防疫関連としてマスク関連株などが記録的なバブル相場を演じ、結果的に個人投資家の短期資金がそこに流れ、流動性を奪われたことがマザーズ市場調整の主因だったように思います。

 2月は、この新しいリスク要因が日本株全体、そして欧米株へと一気に伝播。きっかけは、欧州や中東、そして米国で感染が広がったことでした。対岸の火事ではない問題と気付いた欧米投資家が、24日以降にリスクオフモードへと一変。これまで最高値圏を謳歌していた分の反動は大きく、「株売り/債券買い」加速で歴史的な下落に発展しました。

 日本ではインバウンド急減を1月から織り込んできましたが、在宅勤務や休校、イベント休止など自粛ムードが拡大。経済活動の停滞による業績悪化を売り材料に、影響度合いの大きい銘柄群への売りが強まりました。2月の月間騰落率は、日経平均株価▲8.9%、TOPIX(東証株価指数)▲10.3%。地合い悪化時に耐性があったジャスダック銘柄にあっても、日経ジャスダック平均は同▲13.1%とリーマンショック後2008年10月以来の下落率に。

 一番下げたのは2月も東証マザーズ指数の▲14.9%で、こちらは2018年12月以来の下落率です。月末28日には、一時4年ぶりとなる700ポイント割れ。このタイミングでは、一部ネット証券店内のマザーズ信用評価損益率で▲33%にまで悪化していました。当初は「ウイルスでマーケットは壊れない」とタカをくくっていた市場参加者も多かったのですが、これを引き金に過去最速ペースの調整が起きたのは事実。今後“新型コロナショック”として語り草になることも確実な2月相場でした。

2月の売買代金ランキング(人気株)

 売買を減少させながら、大きく値下がりした銘柄が大半だった2月の新興株市場。「強い米国株」に守られ、「下げても戻せる日本株」のイメージは定着していました。これが崩壊し、短期のボラティリティが急激に上昇。世界的にリスク回避姿勢が鮮明化する過程で、株の現金化を急ぐ投資家が増える一方、現金を株にしようとする投資家は減ります。2月の新興株は、“閑散に買い無し”的な空気が非常に強かったといえます。

 売買代金トップは再びワークマンですが、そのワークマンも売買代金25日移動平均値は前月の59.4億円から2割強の減少。また、前月にバブル相場を演じたジャスダックの重松製作所、中京医薬品、興研などマスク関連株も急落しました。

市場 コード 銘柄名 1月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金
25日移動
平均値(億円)
月間騰落率
(%)
ジャスダック 7564 ワークマン 6,630 5,426 46.1 -25.5%
東証マザーズ 4385 メルカリ 2,443 3,767 40.5 27.0%
ジャスダック 7980 重松製 1,384 100 39.3 -47.4%
ジャスダック 4558 中京医薬 622 73 33.0 -53.7%
ジャスダック 7963 興 研 2,405 123 31.5 -39.6%
ジャスダック 4978 リプロセル 297 212 26.7 -12.9%
東証マザーズ 4565 そーせい 1,645 1,268 24.1 -14.9%
ジャスダック 4570 免疫生物 600 52 22.8 -28.8%
東証マザーズ 3911 Aiming 381 138 20.6 32.3%
ジャスダック 4644 イマジニア 996 106 20.2 -35.5%
ジャスダック 4556 カイノス 987 45 17.9 -31.1%
東証マザーズ 4424 Amazia 9,640 321 17.2 72.8%
東証マザーズ 4480 メドレー 1,636 460 17.0 22.3%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 1,287 559 17.0 -30.3%
東証マザーズ 3990 UUUM 2,321 453 16.9 -27.0%
東証マザーズ 4485 JTOWER 3,915 800 16.8 2.9%
東証マザーズ 4592 サンバイオ 1,686 873 15.5 -26.4%
ジャスダック 6324 ハーモニック 4,540 4,373 14.2 -9.0%
東証マザーズ 4478 フリー 3,395 1,634 13.3 8.3%
東証マザーズ 4479 マクアケ 3,465 393 13.1 -20.6%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 ワークマン(7564・ジャスダック)

 2月の月間騰落率▲25.5%は、リーマンショック前2008年1月の同▲26.6%に次ぐ、1997年9月の上場来で2番目の下落率でした。昨年12月17日に付けた上場来高値1万570円からの下落率は、2月末時点で42%に及んでいます。

 前年の上げ過ぎの反動が1月から続いているわけですが、「業績絶好調」であること自体に変化はありません。4日引け後には通期予想の上方修正を発表しています。だからこそ、下落場面で押し目買いが随時入るのが特徴。信用買い残も過去最高水準を保っており、これが2月のリスクオフ地合いで裏目に出たといえます。

2 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 市場参加者からは「不思議な株だ」との声が聞かれたメルカリ株。マザーズの時価総額トップ銘柄ですが、マザーズ指数が急落した2月に強烈な逆行高したためです(なぜか逆相関)。

 4日に、NTTドコモとキャッシュレス決済などで業務提携すると発表。NTTドコモの「d払い」とメルカリの「メルペイ」で残高を相互利用することが可能になるそうです。競合激化するスマホ決済分野では負け組的評価があっただけに、加盟店の開拓や広告費用の軽減でメルカリのメリットが大きいと見られているようです。一部外資系証券でも「来期以降の業績本格回復への期待が高まる」と指摘。

3 中京医薬品(4558・ジャスダック)

 1月の新型肺炎防疫関連株バブルに乗った銘柄のひとつ(家庭用配置薬の需要が増えるんじゃないかの連想で)。ただ、1月に株価が6倍になるという異常現象が起きた反動は大きく、2月だけで株価は半分以下に…。

 2月に入ってすぐ急落しましたが、2月中旬までは新型肺炎の感染が広がる話題が出るとリバウンドする場面も。ただ、19日から東証が信用規制を強化すると出来高も減少。高値圏で買った投資家の売りを吸収するような買いは続かず、その後は新型肺炎が深刻化しても買われない単なる需給悪銘柄と化しています。

4 Aiming(3911・東証マザーズ)

 前期まで4期連続赤字のゲーム会社で、1月末時点の株価は288円の低位小型株。この銘柄が提供した材料が驚くべき急騰劇につながりました。きっかけとなった材料は、5日に発表したドラクエシリーズのスマホゲーム最新作「ドラゴンクエストタクト」のスクウェア・エニックスとの共同開発。ドラクエのモンスターたちを指揮して戦うタクティカルRPGで、2020年中のサービス開始を予定しているようです。

 昨年のコロプラ急騰劇を連想させるにも十分で、発表翌日から3日連続でストップ高買い気配。全株一致したのが発表4日目の12日で、この期間だけで最大2.5倍に! ただ、盛り上がったのはここまで。14日に本決算を発表、前期業績の未達と今期のコスト削減策、そして第1四半期の赤字見通しを示したことで株価も失速。唯一関心の高い「ドラゴンクエストタクト」についての進展をうかがえる情報も現時点では無く…。

5 フリー(4478・東証マザーズ)

 統合型のクラウド会計ソフトを主力とする12月IPO(株式の新規公開)銘柄。直近IPO株でもひと際強く、Sansanを抜いてマザーズの時価総額2位銘柄に浮上しました。今期も赤字見通しで、PSR(株価売上高倍率)は一時30倍を超えました。事業規模に対する時価総額のサイズ感は何とも表現しづらいのですが…。

 上昇が加速した週は確定申告が始まったタイミングでした。それで連想で上がったとは思えませんが、上場来高値を更新したことで需給も良くなりました。また、18日に中間決算説明会の「書き起こし」をホームページにアップ。アナリストから出た質問も全て記載されており、つまびらかな開示姿勢を好感した面もありそうです。

2月の株価値上がり率ランキング

 数年に1回レベルの地合い悪化に見舞われた新興株市場。値上がり率ランキングで首位の日本ユピカも、TOB(株式公開買付け)価格にサヤ寄せしただけ。17位以下は上昇率20%未満ですので、大幅高した銘柄自体がレア中のレアといったところ。月間で上昇できた銘柄自体が少なく、マザーズでは314銘柄中32銘柄(全体の10%)、ジャスダックは702銘柄中38銘柄(全体の5%)でした。

 値上がり率上位には、直近IPOの一角のほかに、2月は新型コロナ拡大に伴って注目された“巣ごもり関連株”や“テレワーク関連株”もランクイン。さらには、新型コロナショックによる世界的リスク回避でメリットが出る企業は? など、連想ゲームから買われた小型株も散見されました。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
(%)
2月末
終値
前月末
終値価格
時価総額
(億円)
ジャスダック 7891 日本ユピカ 89.5% 2,996 1,581 82
東証マザーズ 4424 Amazia 72.8% 9,640 5,580 321
ジャスダック 2323 fonfun 49.1% 577 387 20
東証マザーズ 4475 HENNGE 47.5% 2,799 1,897 438
東証マザーズ 4488 AIinside 43.6% 18,850 13,130 687
ジャスダック 3424 ミヤコ 42.3% 1,323 930 61
東証マザーズ 3998 すららNT 35.0% 6,310 4,675 80
ジャスダック 8746 第一商品 34.6% 315 234 51
東証マザーズ 3691 リアルワールド 34.3% 849 632 29
東証マザーズ 3911 Aiming 32.3% 381 288 138
東証マザーズ 6562 ジーニー 27.8% 727 569 130
ジャスダック 6889 オーデリック 27.7% 6,130 4,800 374
東証マザーズ 4385 メルカリ 27.0% 2,443 1,923 3,767
東証マザーズ 8922 JAM 23.2% 122 99 945
ジャスダック 2970 グッドライフ 23.1% 3,550 2,885 50
東証マザーズ 4480 メドレー 22.3% 1,636 1,338 460
東証マザーズ 4308 Jストリーム 18.0% 1,035 877 145
ジャスダック 4720 城南進研 16.3% 478 411 43
東証マザーズ 3960 バリュデザ 15.8% 2,684 2,317 40
東証マザーズ 3927 フーバーブレ 14.9% 1,080 940 49

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 日本ユピカ(7891・ジャスダック)

 TOB価格へのサヤ寄せによる上昇で値上がり率トップに。TOB価格が時価より高かったこと、地合い悪化でその他銘柄の上昇率が低かったことが重なりました。同社は化学品大手の三菱ガス化学の持分法子会社でしたが、三菱ガス化学によるTOBで連結子会社になります。

 発表のあった5日は、同社の決算発表タイミング。決算と併せて発表されたTOB価格は3,000円と、5日終値2,051円より約5割高い値段でした。足元で国内企業の事業再編が増えていたこともあり、TOBを先回って動いていた投資家もいたようです(発表のあった5日にストップ高していた)。なお、買付期間は3月23日まで、買付予定株数に上限は設けられていません。

2 Amazia(4424・東証マザーズ)

 2018年12月の上場から約1年経過していますが、セカンダリーでの超絶高パフォーマンスによる需給の良さに加え、業績&材料&テーマ性で逆行高しました。6日に発表した第1四半期決算では、マンガアプリ「マンガBANG!」の好調で売上高が前年同期比2.9倍、営業利益が同3.9倍に。営業利益は第1四半期にして上期予想を超えており、上方修正確実との見方につながりました。これが業績。

 材料は、14日に発表した3月末時点の株主に対する株式2分割。そしてテーマ性は、この時期に新型コロナウイルスで自粛が広がるなかで、“巣ごもり関連株”とみなされたこと。一部大手証券がまとめた「巣ごもり・在宅勤務から恩恵を受ける可能性がある企業」リストに入っていたことがきっかけでした(そのほかでは東証1部のサイボウズなども)。

3 AI inside(4488・東証マザーズ)

 昨年12月上場のAI関連株のニューカマー。手書き文字をAIで読み取ってデータ化する主力サービス「DX Suite」のクラウド版が伸びています。新規契約数が想定を上回って推移していることで、12日に今期業績予想を上方修正。業績サプライズと成長期待で買われています。2月に株価は40%以上値上がりしたのですが、では誰が主要な買い手だったのでしょうか?

 1月末時点の信用買い残は7万3,500株でしたが、2月末には3万8,900株に大きく減少。短期の個人が売り手に回りながら株価が大きく上がったわけで、買い手は個人以外です。ということは、上昇の原動力は中小型ファンドだった可能性が高いと予想できます。

4 すららNT(3998・東証マザーズ)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1月はマスク関連株などに足の速い資金が集まりましたが、2月はそこから離散。その資金が向かったのが、日本で広がった自粛ムードを商機としそうな銘柄でした。

 新型コロナウイルスの影響で小中学校などの休校が相次ぎ、オンライン学習教材などを手掛ける銘柄にも短期マネーが殺到。同社はオンライン学習教材「すらら」を手掛けるため、関連株の真ん中に位置する小型株として人気化しました。

5 第一商品(8746・ジャスダック)

 新型コロナウイルスの感染拡大で、商品先物会社の株も一斉高しました。新型コロナショックで急激に広がったリスク回避により、米国商品市場で金先物が買われたことが経路に。およそ7年ぶりの高値を金先物が付けたことで、金取引の需要が増えるとの連想から人気化。

 金先物も高値圏で乱高下しています。金の価格が安定的に上がり続けなくても、ボラティリティが高まるほうが商品先物の売買活性化にはつながるかもしれません。

3月に注目したい新興株の動き

 数年に1回級の地合い悪化を経て迎えた3月の新興株市場。今回、マザーズだけでなく、ジャスダックも破壊的に崩れた点で2018年12月以来の惨状だったといえます。2月末時点の二市場の信用評価損益率は▲21.35%でした。この数値は2018年12月第3週の▲19.21%よりも悪い状況です。

 ただ、新興株市場の場合、信用評価損益率が示す既存ポジションのダメージはオシレーター指標(逆張り指標)として機能するケースが非常に多いといえます。信用評価損益率が▲20%級に悪化していることに加えて、「前週比で何ポイント悪化したか?」が重要といえます。2月最終週は前週比で一気に6.1ポイント悪化(▲15.25%→▲21.35%)しました。

 こんな状態は過去にあったか? でいえば、アベノミクス相場以降でいえば2016年2月第2週と今回の2回だけ。2016年2月第2週は信用評価損益率が▲25.76%で、前週比で9.26ポイントも悪化した局面です。この時期は、原油の急落が止まらず、産油国へのエクスポージャーが多い欧州大手銀行の信用不安に発展。レバレッジをかけたポジションの解消“デレバレッジ”の猛威が世界のマーケットを襲った時期でした。今回は状況が違いますが、リスク回避の強さでいえば似た部分もあります。

 ただ、日本の新興市場も最悪を見た2016年2月第2週の先には、強烈なリバウンドが待っていました。2016年2月第2週の終値667ポイントだったマザーズ指数は、翌週から10週連続の怒涛の上昇。2016年4月第3週の終値1,221ポイントまで、指数で8割強も上昇しました。個人投資家の信用買いがフローの中心という、珍しい構造の新興株市場。この市場にとって、溜まった信用買い残が大きく減ることこそ、需給を好転させる唯一の道です。

 東証の開示データによれば、2月最終週の個人投資家はマザーズ市場で大幅売り越し(現物107億円売り越し、信用85億円売り越しで合算すると「193億円売り越し」)でした。売り越し金額的には、アベノミクス相場以降で3番目の大幅売り越し。追証発生に至るほどの下落により、相当量の見切り売りが入ったこと、そして逆張り買いも少なかったことを示しています。

 興味深いのは、同じ週の東証1部市場。東証1部では、個人投資家は大幅買い越し(現物3,163億円買い越し、信用2,119億円買い越しで合算すると「3,163億円買い越し」)でした。新型コロナショックによる急落場面で、東証1部銘柄には逆張り買いが殺到したものの、新興株市場は圧倒的売り超。全く真逆の投資行動が起きていたというのが事実です。ということは、いわゆる“セリング・クライマックス”に近い状態が新興株市場に限って発生していた可能性は高いともいえます。

 2月最終週に信用買い残が増えた(=逆張り買い)新興株を調べると、前週比で金額が最も増えたのが澤田HDの2.9億円、次いでマクドナルドの2.8億円、すららネットの1.4億円でした。全銘柄で最も増えた銘柄でわずかこれだけ。一方で、信用買い残が前週比で減ったほうがワークマン▲15.0億円、ジーエヌアイ▲10.6億円、そーせい▲9.4億円、JTOWER▲6.7億円、オンコリス▲5.9億円など…。人気銘柄の信用買い残が大幅に減少した形跡が見られます。

 この状況で突入する3月の新興株市場。ファンダメンタルズより需給で壊れた2月の反動に注目です。反動局面で優位に立つのは、信用買い残を大きく減らして株価が大きく下がった銘柄でしょう。今見るべきは需給だけ。なお、楽天証券では2月の口座開設数が歴代業界最多の10万口座を超えたそうです。株価が大きく下がった先には、こうした新たな逆張り投資家が生まれる―これも繰り返されてきたことです。ガンバレ新興株!