新型コロナウイルスの感染拡大懸念で最終週は連日の急落に

 2月の日経平均株価は8.9%の下落率と、大幅に続落する展開となりました。とりわけ、最終週の4営業日で下落率は9%超に達し、月末には一時2019年9月5日以来の2万1,000円割れとなっています。

 日経平均は月初め、一時2万4,000円直前まで上昇しましたが、2019年12月から上値抵抗線となっている同水準では伸び悩み、海外市場の急落を映して月末にかけ大きく崩れる動きとなりました。

 月前半は、米国の重要な経済指標となるISM製造業・非製造業景気指数がそれぞれ想定を上振れた他、中国人民銀行による資金供給を受けて、新型コロナウイルスの影響による景気鈍化懸念も和らぐことになりました。

 月半ばにかけては、米アップルの1-3月期売上高見通しの下振れ示唆などが一時マイナス視される場面もありましたが、海外株高などを背景に日経平均は底堅い動きが続きました。

 ただ、新型コロナウイルスの世界的な感染者数拡大や経済指標の悪化によるNYダウ平均株価の大暴落、為替の円高進行で、最終週の日経平均は連日の急落となりました。

 月前半は ソフトバンクグループ(9984) が大幅高で全体相場のけん引役になりました。米投資ファンドの大量保有で自社株買いへの期待が高まった他、米連邦地裁がスプリントとTモバイルUSの合併計画を容認したことなども材料になりました。

 月後半の株価下落局面では、新型コロナウイルス感染拡大による在宅勤務や外出手控えの流れ拡大を背景に、テレワーク関連や巣ごもり消費関連株に関心が向かいました。

 一方、小売りや外食企業などが売られ、個人投資家のマインド悪化で信用買い残の多い中小型株も大きく下げました。

各国の政策対応期待などを背景に大幅な反発を想定

 3月の日経平均は比較的大きめの反発も予想されます。新型コロナウイルス感染拡大を防ぐさまざまな対応が各国でとられており、今後は感染者数の拡大ペース鈍化を織り込む動きが見込まれます。

 米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)の緊急利下げを筆頭に、景気下支えに向けた各国の政策対応の動きなども今後本格化してくるでしょう。国内でも日本銀行のETF(上場投資信託)買いに変化が見られます(3月1日には前場TOPIX[東証株価指数]終値がプラスでも買い付け実施)。

 4月にかけては、2020年3月期の業績下方修正が相次ぐとみられ、2021年3月期の業績見通しも慎重なものになるでしょう。

 ただ、こうした状況の織り込みは進んだと考えられ、少なくとも、4~5月にかけての決算発表が悪材料出尽くしと受け止められる可能性は高いとみられます。

 4-6月期はマクロ指標や企業収益のボトムになる見通しですが、あくまでこれらの減少は「先送り」になる要素が強いため、7-9月期以降の回復力は強まるものと予想されます。

 今後一段とウイルス感染者数が拡大し、東京五輪開催に影響が出るような事態となれば株価のダウンサイドリスクは大きくなるでしょうが、そこまでの懸念は低いと考えます。

 むしろ、米大統領選挙でのトランプ米大統領落選は中長期的な米国株安材料につながるため、今後は大統領選挙の行方などにも注意を払うべきでしょう。なお、トランプ大統領にとって現在の米国株安は、是正する必要性が高い状況であるといえるでしょう。

業績懸念の小さいセクターにより安心感

 3月末には3月期決算企業の配当権利落ちを迎えます。足元の株価急落によって、今年は配当利回り妙味が一段と高まっているといえます。例年以上に高配当銘柄には、権利取りの動きが活発化してくる可能性が高いでしょう。

 短期的な業績悪化による減配などはリスク要因となりますが、新型コロナウイルス感染の広がりを要因とした業績悪化は一過性とも捉えられるため、多くの銘柄は配当を維持するものとみられます。

 国内製造業にとって、サプライチェーン問題がどういった経路で悪影響が表面化するのか、詳細には整理しにくく、幅広い産業界でネガティブなインパクトを予想しておく必要もあるでしょう。

 業績下方修正が一時的にでもショック安となるリスクを考慮するならば、現在から4~5月の本決算発表までの期間は、相対的に影響が限定的であろうセクターの銘柄に関心を高めるべきでしょう。

 今回のスクリーニングでは、建設、不動産、電力・ガス、医薬品、情報・通信セクターに注目します。

 なお、感染者数拡大によるもう一段の株価調整リスクも意識すれば、信用買い残の整理など需給懸念が強まりやすい個人投資家主導の中小型株より、大型株が相対的に優位でしょう。

新型コロナウイルスによる業績懸念が小さい高配当銘柄

新型コロナウイルスによる業績懸念が小さい高配当利回り銘柄ランキング(2020年2月28日時点)

コード 銘柄名 配当
利回り(%)
2月末
終値(円)
時価総額
(百万円)
会社予想
配当利回り(%)
1878 大東建託 5.68 10,975 830,027 5.61
4502 武田薬品工業 4.78 3,763 5,931,831 4.78
1820 西松建設 4.48 2,272 126,304 4.40
9508 九州電力 4.48 782 370,812 4.48
1808 長谷工コーポレーション 4.32 1,390 418,104 5.04
配当利回り平均(%) 4.75

銘柄選定の要件

(1)予想配当利回りが4%以上(2020年2月末)
(2)時価総額が1,000億円以上(2020年2月末)
(3)建設、医薬品、不動産、電力・ガス、情報通信いずれかのセクター

1 大東建託(1878・東証1部)

▼どんな銘柄?
 賃貸建物の設計・施工を行う建設事業、その管理・運営代行などを行う不動産事業を展開しています。賃貸住宅入居者数は約200万人、賃貸建物管理戸数は108.6万戸(ともに前期末時点)となっています。

 また、貸家着工戸数のシェアは15%前後の水準にあります。配当性向は50%に設定しています。

▼業績見通し
 2020年3月期業績計画では、21期連続増収、12期連続経常増益の見通しになっています。

 第3四半期までは2ケタ減益となっているため、連続増益記録がストップする可能性もありますが、株価への織り込みは進んでいるため、大きなショックはないとみられます。

 不動産事業は堅調に推移していますが、建設事業が完成工事高の減少や粗利益率の低下で苦戦している状況です。なお、配当性向50%を掲げていることで、当期純利益の下振れ分は減配につながることになります。

▼ここがポイント
 建設事業の受注高は足元の1月まで2ケタの減少が続いていますので、受注が例年大きく膨らむ3月の数値が低水準となれば、来年度の業績に対する警戒感が強まる恐れもあります。

 現状で配当利回り水準は大型株の中でトップクラスであり、今・来期の当期純利益水準が大きく低下しないことが確認できれば、株価の大幅な水準訂正が期待できるでしょう。

2 武田薬品工業(4502・東証1部)

▼どんな銘柄?
 国内製薬業界でのトップ企業で、がん、希少疾患、神経精神疾患、消化器系疾患の4つの疾患領域に注力しています。

 2019年1月、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収を完了、買収総額は円換算で約6.2兆円と、日本企業として過去最高額のM&A(企業の合併・買収)となりました。これにより、事業規模は世界トップ10に仲間入りすることになりました。

▼業績見通し
 足元の業績は好調です。2020年3月期営業損益は100億円の黒字予想に上方修正、大型買収によるのれん償却の影響で見かけ上の利益水準は低くなっていますが、実質的なコア営業利益は9,500億円の水準となります。

 14のグローバル製品が順調に拡大していること、シャイアーとの統合によるコストシナジーが進捗していることが背景です。

 大型買収による悪化が懸念された財務体質も順調な改善を見せています。

▼ここがポイント
 2021年度には、抗がん剤TAK-788/TAK-924、希少疾病薬TAK-620/TAK-609、デング熱ワクチンTAK-003などの市販計画があります。

 現在、有利子負債の圧縮や事業の選択と集中を進めるため、最大100億ドル規模の資産売却方針を打ち出していますが、足元でも順調に売却が進んでいることは評価材料ともいえるでしょう。

3 西松建設(1820・東証1部)

▼どんな銘柄?
 準大手ゼネコンの一角で、ダムやトンネルなどの土木工事に強みがあります。今後の成長を担うものとして、開発・不動産事業、海外事業、新規事業を掲げています。

 海外はタイ、ラオス、ベトナムなどに進出しています。2020年4月に開業予定の「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」に参画しており、新本社として活用する他、テナントへの賃貸も行っていく計画です。

▼業績見通し
 2020年3月期は増収増益計画で、第3四半期までは2ケタの増収増益となっています。国内土木工事の売上高の増加がけん引役となっています。

 しかし、2021年3月期は国内建築工事を中心に第3四半期まで受注高は2ケタの減少で、売上高の伸び悩みも想定されます。

 ただし、国内建築工事における低採算案件が一巡することで、利益は底堅い推移が続くものとみられます。減配などへの懸念も乏しいでしょう。

▼ここがポイント
「虎ノ門ヒルズビジネスタワー」では、年間30億円程度の利益寄与が見込まれています。

 開発・不動産事業ではこうしたオフィスビルの他、ホテル事業への参入も予定しています。2022年には、富山駅前に「ホテルJALシティ富山」を開業する予定になっており、事業領域拡大に向けた積極展開として評価できるでしょう。

4 九州電力(9508・東証1部)

▼どんな銘柄?
 九州7県を事業地域とする電力会社です。火力発電は8カ所で設備量996.0万kW、水力発電は143カ所で358.0万kW、原子力発電は玄海と川内の2カ所で469.9万kWなどとなっています。

 テロ対策施設の完成が計画期限に間に合わず、川内原発1号機が3月に、2号機が5月に運転停止となります。数カ月程度の停止となる見込みです。

▼業績見通し
 昨年10月には、2020年3月期業績予想と配当予想の引き下げを発表しています。他社への卸電力の売上高減少、LNG(液化天然ガス)転売における大幅な市況下落などが影響しました。

 2021年3月期経常利益は一段と減益幅拡大の可能性が高いとみられます。前述した川内原発の稼働停止に伴う原発利用率の低下で、収益減少が予想されるためです。

▼ここがポイント
 2021年3月期は収益水準が一段と低下しますが、減配の可能性は低いと考えられます。上半期の説明会では、今後は段階的に上昇している姿を見せたいと社長コメントもあった他、2022年3月期には収益水準の急回復が予想されることが背景です。

 2021年3月期の大幅減益が減配につながるとの懸念が低下することにより、株価の見直し余地が出てくる可能性もあるでしょう。なお、財務体質の改善が遅れているため、50円配当までの回復には時間が掛かりそうです。

5 長谷工コーポ(1808・東証1部)

▼どんな銘柄?
 マンション建設の最大手企業で、累計施工数は65万戸を超え、現在ある国内マンションの約1割を施工しています。国内トップの施工実績を背景としたトータルプロデュース、「土地持込による特命受注方式」などが強みとなっています。

 2月に発表した中期計画では、2025年3月期経常利益1,000億円を数値目標としています。

▼業績見通し
 2020年3月期は減収2ケタ経常減益の見通しです。不動産取扱量の減少、マンション建築工事の完成工事総利益率の低下などが背景です。

 2021年3月期以降も、新築マンション供給戸数の水準低下によって、減益基調の継続が避けられない見通しです。実際、会社計画の中期目標数値は、2019年3月期の実績水準にとどまっています。

 今後は、マンション建築依存からの脱却を図るべく、賃貸不動産や海外事業への投資の積極化、成長の礎を作っていく計画です。

▼ここがポイント
 2月の中期計画では株主還元強化方針も発表しています。年間配当金の下限を70円とするとともに、今後5年間の累計総還元性向を40%程度と設定しました。当面、業績の端境期を迎えるにあたっても、減配リスクを考慮する必要性が大きく低下することになります。