はじめに

 今回のアンケート調査は2020年2月25日(火)~2月27日(木)の期間で行われました。

 2月末の日経平均株価は2万1,142円で取引を終えました。前月末終値(2万3,205円)からの下げ幅は2,063円と大きなものとなったほか、月足ベースでも2カ月連続の下落です。

 2月の相場も新型肺炎ウイルスの状況に振り回される展開となりました。月初からの日経平均は楽観的な見方が優勢となったことで切り返し、2万4,000円台に手が届くところまで値を戻す場面もあったものの、月末にかけては不安が再燃したことで一気に下げが加速する動きに転じました。ウイルスの感染が世界各地に拡大し、欧米諸国を中心とする海外投資家の見方が「対岸の火事」から「当事者」へと意識が変化し、それに伴って実体経済への悪化懸念が高まる格好となりました。

 このような中で行われた今回のアンケートですが、3,900名を超える個人投資家からの回答を頂きました。日経平均のDIは前回よりも株安の見通しが強まる一方、為替については前回の円高見通しから円安見通しに変化する結果となりました。

 次回も是非、本アンケートにご協力をお願いいたします。

日経平均の見通し

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

「前回調査から見通しが悪化 警戒感が強まる」

 今回調査における日経平均の見通しDIの結果は、1カ月先がマイナス67.13、3カ月先はマイナス29.04となりました。

 DIの値が大きく悪化した前回調査の結果(それぞれ40.54とマイナス5.83)と比べても、相場の見通しがより一層悪くなった格好です。回答の内訳グラフを見ても、弱気派の占める割合が増え、強気派の割合がかなり小さくなっていることが分かります。とりわけ1カ月先見通しグラフ内での弱気派が7割を超えていることは印象的です。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 もちろん、今回の調査期間(2月25~27日)の日経平均が急落している最中だったことを考慮する必要はありますが、新型コロナウイルスによる影響の大きさと、その時間軸の長さが当初に想定していたよりも「厄介なものになりそう」という不安が増していることは間違いないと言えます。

 その一方で、急ピッチな株価急落は「さすがに下げ過ぎだろう」という突っ込み警戒感も浮上させます。実際に、3月相場入りとなった2日の取引で、日経平均はマイナス圏からプラスへと上昇に転じており、少なくとも株価下落のピッチはいったん落ち着きを見せたと捉えて良さそうです。

 となると、気になるのはその後の動きになります。

 急落後の大きな切り返しと言えば、米中摩擦の悪化が懸念されて株価が急落した2018年12月の局面が思い出されます。当時は、高値(2018年12月3日の2万2,698円)から安値(同年12月26日の1万8,948円)まで3,750円の下げ幅を演じた後に、順調に株価が戻りを試す展開へと転じ、2万2,362円(同年4月24日の高値)まで上昇していきました。

 その一方で、急落後の切り返しが継続的な戻り基調とはならずに、下値を模索する動きが続いた局面もあります。具体的には2015年8月のチャイナ・ショックの時です。当時は高値(2015年8月11日の2万946円)から安値(同年8月26日の1万7,714円)まで3,232円の下げ幅を見せた後、荒い値動きを繰り返しながら下値を更新し、結局は同年9月29日の安値(1万6,901円)まで下落することになりました。しかも、その後はしばらく株価を戻したものの、さらに大きな「下落第2弾」を迎えることになります。

 今回の株価急落後の動きが果たして順調に株価を戻す「米中摩擦」パターンとなるのか、それとも波乱含みの「チャイナ・ショック」パターンとなるのかがこれからの焦点になりますが、天井圏から下落が始まっていることや、実体経済への悪化懸念に対して見極めが現時点で進んでいないこと、そして新型肺炎ウイルスの状況が現在進行形である点などを踏まえると、「チャイナ・ショック」パターンとの共通点が多く、気掛かりです。

 そのため、しばらくは株価が戻す場面も増えるかと思われますが、中長期的な上昇トレンド復帰を見込む売買については注意が必要になってくるかもしれません。

今月の質問「あのニュースが影響してる?」

楽天証券経済研究所 根岸 美知代

【今月の質問1】2020年の日経平均の動きにもっとも大きな影響を与えると考えられるニュースは何ですか?

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 このアンケートが始まった2月25日(火)に政府が「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を発表、そして、その2日後に夕方3月2日(月)から全国の小学校・中学校・高校・特別支援学校を臨時休校するよう要請しました。

 そんな中でのアンケート「もっとも大きな影響を与えるニュース」は「新型肺炎(新型コロナウイルス)」が64.7%とトップになりました。次に3月3日(火)にスーパーチューズデーを控えていた「アメリカ大統領選挙」が25.5%、注目が一時的に下がっている「米中貿易戦争」5.7%という結果になりました。「その他」2.0%の中で一番多かったのは、「2019年の消費税引き上げによる影響」です。続いて「東京オリンピック」「景気後退」「自然災害」「中国経済崩壊」「政権交代」などでした。

 チーフ・ストラテジスト、窪田真之は、以下の通りコメントしています。2020年前半は新型コロナウイルスが最大の株価変動要因となるが、治療・予防・検査法が明らかになるにつれて影響が低下し、変わって年後半は、「米中貿易戦争」「米国大統領選挙」の影響が大きくなると予想しています。

【今月の質問2】2020年になって日本株(日経平均インデックスファンドなど日本株を含む投資信託・ETFを含む)を買いましたか? ※【注】売りと買いを両方された方は、金額の大きい方を1つだけ、お答えください。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 全体の64.9%の方が日本株を売買していることがわかりました。買った方52.3%、売った方12.6%と買いが売りよりも多くなっています。

【今月の質問3】2020年になって外国株(外国株を含む投資信託・ETFを含む)を買いましたか? ※【注】売りと買いを両方された方は、金額の大きい方を1つだけ、お答えください。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 外国株の売買をした方は全体の36.8%と半数以下です。買った方33.9%、売った方2.9%と日本株同様買いが売りより多くなっています。

 総合的にみてみますと、76.0%の方が日本株・外国株の売買をしていることがわかりました。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 今回もたくさんのご意見をありがとうございました。

為替DI:円安期待増えるなかで、相場は円高へ

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより筆者作成 
出所:楽天DIのデータより筆者作成

「3月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

 楽天証券が先月末に実施したアンケートにご回答頂いた3,925名のうち、最も多かったのは「円安に動く」で、全体の半数近い約48%(1,877名)を占めました。一方「円高に動く」と「動かない」は、約26%(1,017名、1,031名)で、ほぼ横並び。

 DI(円安見通しから円高見通しを引いたもの)は+21.91で2カ月ぶりのプラスになりました。

 2月のドル/円は、110円の手前でしばらく横ばい状態が続きました。ところが、18日に突如として円安スイッチが入って112.22円まで急上昇。そうかと思えば、今度は1週間で4.50円以上も急落。昨年の年間レンジ(8.39円)の半分以上を動いて、28日には107.51円まで円高になりました。

 今回のアンケートで円安予想が48%にものぼったのは、112円まで上げた時の印象がよっぽど強かったのでしょう。もしアンケートが1週間遅かったら、逆に円高予想が50%を超えていたかもしれません。

 ドル/円相場を上下に大きく動かしたのは、新型コロナウイルスのニュース。このような経済に重大かつ深刻な事件が発生すると、現実よりも報道に影響された雰囲気がアンケートに反映されがちです。それはそれで興味深いのですが、相場予測のデータとしては価値がない。プロの予想は、実際の経済データと現実をより重視します。

3月のピボット

115.74円 : 第3レジスタンス(HBO)
113.98円 : 第2レジスタンス 
112.40円 : 2019年 高値(19年04月24日)
112.22円 : 02月高値(02月20日)
111.02円 : 第1レジスタンス
110.29円 : 01月 高値(01月17日)
109.87円 : 02月 平均値

109.26円 : ピボット

108.20円 : 2019年 平均値
106.85円 : 02月 安値(03月04日 現在)
106.48円 : 2019年 10月 安値(19年10月03日)
106.30円 : 第1サポート
105.74円 : 2019年 09月 安値(19年09月03日)
104.55円 : 第2サポート
104.01円 : 2019年 安値(19年01月03日)
101.59円 : 第3サポート(LBO)

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい金融商品」で、“特になし”と回答したお客様の割合に注目します。

 当該質問は複数回答可で、選択肢は、国内株式、外国株式、投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(リート:不動産投資信託)、国内債券、海外債券、FX(外国為替証拠金取引)、金やプラチナ地金、金先物取引、原油先物取引、その他の商品先物、特になしの13個です。

 以下のグラフは、設問「今後投資してみたい投資商品」で“特になし”と回答した人の割合、そして俗に“恐怖指数”と呼ばれる「VIX指数」の推移を示したものです。

 VIX指数とは、日本を含む世界各国の株価指数のけん引役と言える、米国の主要株価指数の一つであるS&P500指数が急落する時に、上昇する傾向がある指数です。世界の株価指数のけん引役が急落するような強い悲観的なムードが生じた時に上昇する傾向があることから“恐怖指数”と呼ばれています。

図:設問「今後、投資してみたい金融商品」で、「特になし」を選択した人の割合と恐怖指数(VIX指数)の推移 (2016年5月~2020年2月)

出所:CBOEおよび楽天DIのデータをもとに筆者作成

 もともとVIX指数は、S&P500指数の向こう30日間における価格変動の予想範囲を示すことを目的に設計されたものですが、先述のとおりS&P500指数が急落する時に上昇する傾向があるため、(設計された目的ではなく)わかりやすい特徴が市場関係者や投資家に浸透し、今では、VIX指数は“何か大きな悪いことが起きているか(いないか)を確認するための指標”のように用いられていると、筆者は感じています。

 上図のとおり、そのVIX指数と、設問「今後、投資してみたい金融商品」で、“特になし”を選択した人の割合は、ほとんど同じような動きをしています。特に、短い期間で大きく上昇するタイミングがほとんど同じであることが特徴的です。

 VIX指数が短い期間で大きく上昇する時は、世界の株式指数のけん引役の一つであるS&P500指数が急落し、おおむね市場で何か大きな悪いことが起きている時と言えますが、それと同時に、“特になし”の割合も大きく上昇するのはなぜなのでしょうか。

 先述のとおり、当該設問の選択肢は特になしを含め13ありますので、例えば、国内株式が投資をする環境として適さない局面であったとしても、債券や金・プラチナなど、代替の可能性のある選択肢は複数あります。このため、“特になし”を選択する人の割合が増えることは、一見すると、なさそうに思えます。

 しかしそれでも、VIX指数と同時に“特になし”を選択する人の割合が、短期的に大きく上昇しているわけです。

 このことについて考えているうちに“休むも相場”という相場格言が頭に浮かびました。常に何かの金融商品に資金を投じるのではなく、状況によっては、一時的に何にも投資をしないこともまた、投資行為の一つ、という教えを示す格言です。

 今回注目した、設問「今後、投資してみたい金融商品」で、“特になし”を選択した人の割合とVIX指数の関係から、相場の急変時、投資家の皆さんにおいては、あわてて無理をして取引をすることなく、冷静に、そして積極的に“休むも相場”を実行している方がおられるのだと、改めて、感じた次第です。

 今後も、引き続き、これらのデータに注目していきたいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2020年2月調査時点(複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域)2020年2月調査時点(複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成