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本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)SCREENホールディングス(7735)

1.2019年12月の世界半導体出荷金額(単月)は前年比1.2%増。2018年11月以来の前年比プラスに回復。

 今回の特集は半導体製造装置です。2020年3月期3Q(2019年10-12月期)決算の結果を踏まえた上で今後を展望します。また、新型コロナウイルスが半導体・半導体製造装置セクターに与える影響を考察します。

 まず、半導体デバイス市場の動きを見たいと思います。2019年12月の世界半導体出荷金額(単月)は前年比1.2%増、前月比1.8%増の366億1,200万ドルとなりました。前年比は2018年11月の前年比3.4%増以来のプラス転換となりました。前月比はこれがプラス転換した2019年3月以降と比べると伸び率が鈍化しており、一服の状態になっていますが、引き続き堅調と思われます。

 2020年1-3月期は新型コロナウイルスの影響で半導体生産と出荷に影響が出る可能性があります。すなわち、世界半導体出荷金額の前年比、前月比が2020年1月以降再びマイナス転換する可能性があります。ただし、私見では2020年4-6月期には前年比プラス圏に回復すると予想されます。これは、NAND型フラッシュメモリの市況が回復し生産、出荷が伸びていること、2020年9~10月に発売が予想される新型iPhone向けの半導体生産(CPU、DRAM、NAND)が2020年4-6月期から始まると予想されること、新型iPhone発売前に5Gスマホ市場で一定のシェアを確保するために、大手スマホメーカーが5Gスマホの増産を行うと思われることなどによります。

 もちろん、新型コロナウイルスの影響が長引く可能性もありますが、スマホ向け半導体、電子部品の関連産業は、関連企業にとってのみならず、生産国にとって一大基幹産業です。そのため、様々な政策手段を使うことで、新型コロナウイルスの影響(人手不足による生産、出荷、物流、製造装置納入時の設置、検収の混乱など)は早期に軽減される可能性があります。

表1 世界半導体出荷金額(単月)

単位:100万ドル、%
出所:WSTSより楽天証券作成。

グラフ1 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)

単位:1,000ドル
注:2015年3月から「アジア太平洋・その他」から「中国」を分離
出所:SIA(米国半導体工業会)より楽天証券作成

2.ロジック半導体出荷は順調に増加中。メモリはNAND販売が回復中。

 世界の半導体デバイス市場の中身をロジック半導体・ディスクリートとメモリ(DRAMとNAND型フラッシュメモリ)に分けて見たものが表2です。世界半導体出荷金額は2019年10-12月期まで四半期ベースでみても着実に回復しており、再成長のトレンドに入っています。前年比はマイナス幅が縮小し、実額では2019年1-3月期を底にして増加中です。

 この中身を見ると、5Gスマホの販売好調や、2019年型iPhone(iPhone11シリーズ)の販売が順調に伸びていることによるスマホ用チップセットの生産好調が、ロジック・ディスクリートの伸びに寄与していると思われます。台湾の世界最大の半導体受託製造メーカー、TSMCの月次売上高は2019年12月が前年比15.0%増、2020年1月が同32.8%増となりました。2019年10-12月期から2020年1-3月期にかけて7ナノラインによるiPhone向けCPUの生産と5Gスマホ用チップセットの生産が活発になっているもようです。月次売上高は、例年であれば1月は12月よりも季節的に減少するものですが、2020年1月の売上高は2019年12月の横ばいでした。このように、最先端ロジック半導体の生産、出荷は活発な動きを見せています。

 またメモリでは、NAND型フラッシュメモリの販売金額の回復が続いており、再成長に入ったと思われます。まず、NAND市況が再び上昇してきました。NAND大口価格は設備投資の抑制による需給改善によって2019年8月に大底を打って以降、緩やかな上昇に転じましたが、昨年末から少しもたついた動きになっていました(グラフ6)。それが今年2月に入って再び上昇に転じ始めました。昨年後半からデータセンター投資が回復し始めたこと、5Gスマホ向けの需要が増えていることに加え、パソコンでSSD(NANDを組み合わせた記録媒体)搭載機種が増えていること、2020年年末発売予定の「プレイステーション5」に従来のHDDに代わってSSDが搭載されることなったため、SSD需要が盛り上がることを見越してSSD市況が上昇していることなどもNAND大口価格の上昇を後押ししていると思われます。

 その結果、四半期ベースのNAND販売金額は2019年4-6月期を底として回復に転じています。NAND向け設備投資も2019年10-12月期から回復しているもようです。NAND販売金額は、2020年1-3月期に新型コロナウイルスによる一時的な調整がありうると思われますが、基本的には再成長が続くと予想されます。

 一方で、DRAM販売金額はまだ回復感がありません。需給改善がまだ不十分と思われますが、昨年のクリスマス商戦でインテル製CPUが不足気味で、2018年後半に起きたようなパソコン不足=DRAMの需要不足があったという見方もあります。ただし、最新鋭の高速DRAM「LPDDR5」(省エネ版DDR5)が2020年1-3月期から生産開始になっていること、NAND同様、データセンター投資の回復、5Gスマホ、高性能パソコンの生産増加がDRAM販売金額の回復に寄与すると思われます。

表2 半導体デバイス市場の中身

単位:100万ドル
出所:世界半導体出荷金額はWSTS(単月)、DRAM、NAND型フラッシュメモリ販売金額はTRENDFORCE、ロジック・ディスクリート他は世界半導体出荷金額からメモリ販売金額合計を差し引いて楽天証券算出。

グラフ2 半導体デバイス市場の中身

単位:100万ドル
出所:メモリ(DRAM+NAND)販売金額はTRENDFORCE、ロジック・ディスクリート他は世界半導体出荷金額(単月、WSTS)からメモリ販売金額を差し引いたもの

グラフ3 DRAM、NAND販売金額

単位:100万ドル
出所:TORENDFORCEより楽天証券作成

グラフ4 TSMCの月次売上高

単位:100万台湾ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 TSMCの月次売上高:前年比

単位:%
出所:会社資料より楽天証券作成

3.メモリ市況の動向-NAND大口価格は再び上昇へ、DRAMはスポット価格が上昇中-

 NANDの大口価格の動向は前述したとおりです。2019年8月からの緩やかな上昇第1波に続き、今年2月から第2波が始まったもようです。新型コロナウイルスの騒ぎの中での市況上昇は、背景にあるNAND需給の改善を十分に示すものと思われます。

 DRAM大口価格はまだ上昇に転じていません。ただし、DRAMスポット価格は2019年12月中旬の1.61-1.64ドル/個(DDR4、日経調べ)を底に上昇に転じており、3月4日現在、2.17-2.23ドル/個に達しています。5GスマホやiPhone増産のためのDRAMの調達が要因と思われます。

 ここで注目したいのは、DRAM大口価格とスポット価格の水準です。3月4日のスポット価格は2.17-2.23ドル/個、3月3日の大口価格は2.1-2.3ドル/個です。スポット価格と大口価格が同水準になっており、このままスポット価格が上昇する場合は大口価格での調達が有利になります。これからスマホ向けDRAMだけでなく、パソコン向けやデータセンターのサーバー用のDRAM需要が増えるであろうことを考えると、DRAM大口価格上昇の条件が整ってきたと思われます。DRAM大口価格の上昇はDRAM需給の改善を示すものとなり、DRAM設備投資の再開を予想させるものになると思われます。

 引き続きメモリ市況に注目したいと思います。

グラフ6 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)

単位:ドル、国内大口需要家渡し、TLC(注:2017年5月30日付で従来の多値品がTLCに変更された)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ7 DRAMの市況

単位:ドル、国内大口需要家渡し、4ギガビット(2018年6月26日までDDR3、それ以降はDDR4)
出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成

グラフ8 DRAMのスポット市況

単位:ドル、小口渡し、現金
出所:日本経済新聞主要相場欄より楽天証券作成
注:2018年6月29日までは4ギガビットDDR3型、それ以降は同DDR4型

4.半導体設備投資の動向

 2020年1月の日本製半導体製造装置販売高は、前年比3.1%増となりました。2019年12月に前年比5.9%増となり、2019年1月以来の前年比プラスとなりましたが、1月も前年を上回りました。前月比は12月、1月とマイナスですが、これは季節的なものと思われます。

 また、先行している北米製半導体製造装置販売高は2020年1月は前年比22.9%増と大幅に増加しました。2019年10月に前年比でプラス転換しましたが、月を追って前年比の伸び率が高くなっています。日本製、北米製ともに半導体製造装置の月次販売高を見て言えることは、半導体設備投資は回復過程そして再拡大の過程に入ったということです。

 これは、大手半導体メーカー、TSMC、サムスン(半導体部門)、インテルの四半期設備投資のトレンドを見てもわかります。3社とも上昇トレンドに入っていることがグラフ9~11からわかります。

 今後を展望すると、ロジック投資は、今年の5ナノ投資が終わった後に5ナノの増強投資と2022年量産開始と予想される3ナノのパイロットプラント投資が予想されるため、当面減ることは考えにくいと思われます。またメモリ投資は、NAND投資が昨年10-12月期から再開されており、今年年央にもDRAM投資の再開が予想されます。5Gスマホの普及に伴い、5Gスマホ搭載のため、またはデータセンター投資によってDRAM、NAND両方の需要が増えると予想されることを考えると、DRAM、NAND投資は2020年、2021年と高水準な状態が続く可能性があります。

 この結果、半導体設備投資は、暦年で2020年、2021年と伸び続けると予想されます。2022年にメモリ向け投資のみ調整する可能性はありますが、大きな調整にはならないと思われます。

 一方で、新型コロナウイルスの影響が顕在化しつつあります。2月に入ってからと思われますが、中国や海外半導体メーカーの中国工場と中国のOSAT(後工程専門業者)で、人手不足や物流の混乱などで、半導体製造装置の納入、設置、検収などが遅れているケースが発生しているもようです。広範囲ではないもようですが、製造装置メーカーによっては、2020年3月期4Q(2020年1-3月期)の業績に、予定していた装置納入の期ズレ(来期への納入延期)が出てくる可能性があります。

 ただし、中国での半導体設備投資に関するこの問題は早期に終息する可能性もあります。この問題は政治的な問題です。前述したように、2020年9~10月に新型iPhoneが発売されると思われます。世界で最初に5ナノCPUを搭載し、おそらく5Gに対応します。TSMCの5ナノ製造ラインは年内はiPhone向けでいっぱいになっているとも言われています。

 2019年の世界スマートフォン出荷台数でアップルは3位でした(1位はサムスン、2位はファーウェイ。iDC調べ)。サムスンもファーウェイも5G用チップセットは7ナノですが、アップルが先行して5ナノCPUを新型iPhoneに搭載すると他社製5Gスマホとの性能差が大きくなるため、アップル以外のスマホメーカーがこのまま何もしなければ、アップルが5Gスマホの大きなシェアを獲得することになりかねません。

 この場合、ファーウェイ、シャオミなどの中国スマホ大手とサムスンにとっての最善の策は、可能な限り5Gスマホを増産して、新型iPhoneが発売される前にシェアを確保することになります。今、5Gスマホを販売すれば、2~3年後に更新需要が発生するであろうことも重要なポイントです(送受信高速化、低遅延、同時多接続の4機能がそろった完全フルスペックの、あるいは送受信のみフルスペックの5Gスマホが2022年に発売されると予想されている)。そのため、今年1-3月の大手スマホ各社の5Gスマホの生産計画と、TSMCの生産計画は例年よりもかなり強気なものになっていたと思われます。

 この動きが、新型コロナウイルスによって水を差され、4月以降に繰り延べになってしまったようです。しかし、中国にとってはいつまでも放置できない問題です。ハイテク製品の巨大市場としての中国の重要性を疑うことはできませんが(例えば、中国のゲームユーザーは約6億人。大半がスマホゲームとパソコンオンラインゲームのユーザーなので、5Gスマホの重要なアーリーアダプター(新しいものに飛びつく熱心な初期ユーザー)になると思われる)、生産地として中国に比重を置きすぎることに対する疑問が企業経営者の間に出始めているようです。従って、中国は可能な政策手段を総動員して国の生産活動を元に戻さなければならないし、実際にそうすると思われます。

 本来であれば、半導体設備投資は全体として2019年10-12月期から順調に再成長するところでしたが、新型コロナウイルスによって水を差された形になりました。ただし、上記の理由で、今のところこれは一時的な調整であり、半導体設備投資は4月以降再び増勢に転じると思われます。

表3 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)

単位:日本製は百万円、北米製は百万ドル、%
出所:日本半導体製造装置協会、SEMIより楽天証券作成

表4 大手半導体メーカーの設備投資

出所:各社会社資料、報道より楽天証券作成
注1:2020年12月期はTSMC、インテルは会社計画、サムスンは楽天証券予想。
注2:1ウォン=0.9円、1ウォン=0.0008ドル。

グラフ9 TSMCの四半期設備投資

単位:億米ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ10 インテルの四半期設備投資

単位:億ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ11 サムスンの半導体設備投資

​単位:兆ウォン、四半期ベース
出所:報道より楽天証券作成

5.注目銘柄-一部半導体製造装置メーカーの2020年3月期業績予想を小幅下方修正するが、投資判断と目標株価は変えない-

 楽天証券で継続的に調査している半導体製造装置メーカー、東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコ、SCREENホールディングスの5社について、東京エレクトロンとアドバンテストについては今期2020年3月期通期業績予想を修正しません。ただし、レーザーテック(2020年6月期)、ディスコ、SCREENホールディングスの3社については、今期の楽天証券業績予想を小幅下方修正します。理由は、前述した新型コロナウイルスによる半導体製造装置の納入の期ズレが起きる可能性があるためです。

 なお、東京エレクトロンの今期楽天証券業績予想を修正しないのは、2020年3月期3Qからメモリ向け前工程の設備投資が活発になっているため、もともと上方修正含みであったところ、今4Qに新型コロナウイルスによって上乗せ要因がなくなる可能性があることによります。アドバンテストの場合は、今期の楽天証券予想は会社予想よりもやや強い予想ですが、中国向けよりも韓国向け、台湾向けのビジネスが活発と思われるため、これも楽天証券予想は達成できると考えられることによります。

 また、半導体設備投資のこの遅れは4-6月期に十分取り戻せると楽天証券では考えています。そのため、各社の来期2021年3月期(レーザーテックは2021年6月期)の楽天証券業績予想は今回は変更しません。

 今後6~12カ月間の各社の目標株価は、以下の通りです。各社の目標株価も前回から変更しません。

東京エレクトロン:3万4,000円

アドバンテスト:9,000円

レーザーテック:8,500円

ディスコ:3万6,000円

SCREENホールディングス:7,000円

 東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコに対しては、引き続き投資妙味を感じます。SCREENホールディングスは、今期の業績と会社側の来期予想を確認し、会社が正常な成長軌道に乗っていることを改めて確認してから投資を検討してもよいと考えます。

表5 東京エレクトロンの業績

株価    22,960円(2020/3/5)
発行済み株数    155,500千株
時価総額    3,570,280百万円(2020/3/5)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

表6 アドバンテストの業績

株価    5,050円(2020/3/5)
発行済み株数    198,372千株
時価総額    1,001,779百万円(2020/3/5)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期利益は親会社の所有者に帰属する当期利益。

表7 レーザーテックの業績

株価    5,400円(2020/3/5)
発行済み株数    90,178千株
時価総額    486,961百万円(2020/3/5)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社の所有者に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。 

表8 ディスコの業績

株価    22,570円(2020/3/5)
発行済み株数    35,946千株
時価総額    811,301百万円(2020/3/5)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

表9 SCREENホールディングスの業績

株価    5,360円(2020/3/5)
発行済み株数    46,669千株
時価総額    250,146百万円(2020/3/5)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの。

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)SCREENホールディングス(7735)