今日のまとめ

1. 北朝鮮情勢の緊迫化は米防衛予算が増える可能性を示唆

2. M&Aブームの様相を呈している

3. ゼネラル・ダイナミクスの業績は他社に見劣りする

4. ハンチントン・インガルスの業績には安定感がある

5. ハリスは陸軍からの発注増が期待できる

6. ロッキード・マーチンは素晴らしい商品ポートフォリオを持っている

7. ノースロップ・グラマンはオービタルATKを買収した

8. レイセオンは北朝鮮絡みで最も注目される銘柄のひとつ

 

北朝鮮情勢緊迫で米防衛予算の拡大が予想される

 北朝鮮情勢が緊迫しています。

 核攻撃に対する防衛は、最新鋭の衛星システム、レーダー、ミサイル、潜水艦、爆撃機などを総動員する関係で、予算に糸目をつけることはできません。

 米国の国防省の予算は2015年までは年々縮小されていましたが、2016年以降は拡大に転じ、2018年度は少なくとも6,390億ドル、場合によっては6,700億ドルまで拡大すると予想されます。

 予算枠が大きくなると大型プロジェクトにも予算がつきやすくなり、防衛産業各社にとってフォローの風が吹きます。

 それを背景として、このところユナイテッド・テクノロジーズ(UTX)によるロックウェル・コリンズ(COL)買収、ノースロップ・グラマン(NOC)によるオービタルATK(OA)買収が相次いで発表されており、防衛セクターはM&Aブームの様相を呈しています。

 米国の主な兵器メーカーは下の通りです。なお民間ビジネス比率の高いボーイング(BA)とユナイテッド・テクノロジーズは今回のレポートでは割愛しました。

銘柄

コード

業務内容

ゼネラル・ダイナミクス

GD

バージニア級潜水艦、エイブラムス戦車、IT

ハンチントン・インガルス

HII

フォード級航空母艦、サンアントニオ級LPD

ハリス

HRS

コンバット・コミュニケーション・システム、電子システム、衛星システム

ロッキード・マーチン

LMT

F-35戦闘機、人工衛星、PAC-3、THAAD

ノースロップ・グラマン

NOC

グローバルホーク無人偵察機、サイバー防衛

レイセオン

RTN

トマホーク・ミサイル、レーダー防衛システム

ゼネラル・ダイナミクス

 ゼネラル・ダイナミクス(GD)は1952年に創業された防衛関連企業です。

 同社の部門別売上は下のグラフのようになっています。

 

 エアロスペース部門はビジネス・ジェットのガルフストリームを含んでいます。これは大企業のエグゼクティブや裕福層が顧客です。

 コンバット・システム部門はストライカー装甲車、M1エイブラムス戦車などを作っています。IT部門は陸軍、メディケア・メディケイド(=米国の公的健康保険制度)など政府の仕事だけでなく民間の仕事も請け負っています。

 艦船部門は歴史あるエレクトリック・ボートという造船所を持っており、現在の主力であるバージニア級潜水艦だけでなく、次世代を担うコロンビア級弾道ミサイル潜水艦を建造することが決まっています。

 同社の受注残は下のように推移しています。

 

 同社の業績は営業キャッシュフローが貧弱で、他社に比べて見劣りすると思います。
 

【略号の読み方】

DPS 1株当たり配当

EPS 1株当たり利益

CFPS 1株当たり営業キャッシュフロー

SPS 1株当たり売上高

 

ハンチントン・インガルス

 ハンチントン・インガルス(HII)は全米最大の軍用艦船の造船所です。バージニア州にある同社の主力造船所、ニューポート・ニュースは百年以上も米国海軍に艦船を納入している実績があり、現在、米国で唯一、原子力空母を建艦する能力を持っています。加えて、バージニア級潜水艦も建艦しています。 

 一方、ミシシッピ州にあるインガルス造船所も老舗で、現在はサンアントニオ級LPA(ドック型輸送揚陸艦)、タワラ級強襲揚陸艦などを建造しています。

 同社の現在の受注残は210億ドルで、毎年受注残の約30%が翌年度の売上高に計上されるペースで仕事を進めています。売上高の100%が米海軍をはじめとした政府からの発注です。

 同社は潜水艦の建造でゼネラル・ダイナミクスと競合していますが、それ以外のビジネスではまったく競争相手は居ません。

 実質的な独占企業なので、海軍は発注の際、利幅を厳格に管理しています。業績は極めて安定しています。

 

 同社には増配余地があります。

 

ハリス

 ハリス(HRS)はケープ・カナベラルのケネディ宇宙センターに近いフロリダ州メルボルンに本社を置く、100年以上の歴史を持つコミュニケーション・システムの会社です。

 同社はコンバット・コミュニケーション・システム、電子システム、航空機の計器、作戦司令システム、航空管制システム、衛星システムなどを作っています。売上高の74%が国防省です。

 

 このうちコンバット・コミュニケーション・システムは歩兵が連絡を取る際のラジオであり、国防省への納入シェアは39%で第一位です。国防省は陸軍ならびにSOCOM(特殊作戦部隊コマンド)の作戦コミュニケーション・システムをアップグレードし始めたばかりであり、安定した需要拡大が期待されます。

 電子システムは、航空管制業務を司る米国連邦航空局が航空管制システムのアップグレードに安定的に予算を割り振っていること、アラブ首長国連合がC4ISR(=コマンド、コントロール、コミュニケーション、コンピュータ、インテリジェンス、サーベイランス、レコネッサンスの略)を刷新していること、さらに国防省の極秘衛星監視システムからの安定した需要が見込めることなどから安定した売上が期待できます。

 ハリスの2017年6月の時点での受注残は42億ドルです。

 

 ハリスの会計年度末は6月30日です。

 

ロッキード・マーチン

 ロッキード・マーチン(LMT)は全米屈指の戦闘機メーカーです。同社は統合打撃戦闘機F-35のメイン・コントラクターとして有名です。F-35が同社の2016年売上高に占める割合は23%でした。

 同社はまたトライデントⅡ弾道ミサイル、PAC-3地対空ミサイルシステム、THAAD終末高高度防衛ミサイルのメーカーでもあります。

 2015年11月にユナイテッド・テクノロジーズから中型多目的軍用ヘリコプター、ブラックホークなどを作っているシコルスキー・エアクラフトを買収しました。その半面、去年8月にITシステム部門をレイドス(LDOS)に譲渡しました。

 このような一連のM&Aで、軍用機・ミサイルに特化した軍需メーカーとしての色彩を一層強めました。

 同社の部門別売上高は下のグラフのようになっています。
 

 

 売上高に占める政府の比率は71%です。近年の受注残は下のチャートのように推移してきました。

 

 同社の業績は安定的に推移しています。
 

 

ノースロップ・グラマン

 ノースロップ・グラマン(NOC)は1939年にロスアンゼルスのホーソーンで創業された防衛関連企業です。同社はB-2ステルス爆撃機のメーカーとして知られています。またB-2の後継機、B-21レイダーの開発を受注しています。

 また同社はドローンのメーカーとしても知られています。同社はサイバー戦争に関しても納入実績があります。

 9月18日にノースロップ・グラマンはオービタルATK(OA)を92億ドルで買収すると発表しました。オービタルATKはロケット弾、宇宙ロケット、衛星による監視システムなどのメーカーです。

 これらのビジネスは、ノースロップ・グラマンがすでに持っているレーダーやセンサー・システム、サイバー・システムなどと相互補完性が高いです。

 下の受注残のグラフはオービタルATKを含まない数字です。

 

  ノースロップ・グラマンの業績は安定しており、増配余地があります。

 

レイセオン

 レイセオン(RTN)は1922年に創業された防衛関連メーカーでICBM(大陸間弾道弾)を高高度で撃ち落とすミサイル迎撃システム、コマンド&コントロール・システム、防空レーダー、センサー、ミサイルなどを作っています。

 北朝鮮の核ミサイルの脅威で、もっとも注目されるのが同社のミサイル迎撃システムです。その意味では材料株と捉えることができると思います。

 レイセオンの業績は安定的に推移しています。