米国株式市場が大幅安

 先週は新型コロナウイルスに対する懸念から米国株式市場はリーマン・ショックのあった2008年10月以来最大の下げ幅を記録しました。米国を代表する株価指数、S&P500種株価指数は▲11%でした。そこで今日は、新型コロナウイルスが米国経済に与える影響や投資家が取るべきスタンスなどについて書きます。

市場は合計で1%の利下げを織り込んでいる

 米国の政策金利はFF(フェデラルファンズ)レートです。フェデラルファンズには先物があり、CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)というデリバティブ取引所に上場されています。その取引実勢価格から逆算すると市場参加者は7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)までに合計で1%の利下げが行われると織り込んでいます。

・3月18日のFOMC 0.50%の引き下げで1.25%
・4月29日のFOMC 0.25%の引き下げで1.00%
・7月29日のFOMC 0.25%の引き下げで0.75%

 FRB(米連邦準備制度理事会)は、先週2月28日金曜日、大引けの1時間半前に異例のプレスリリースを出し、「景気を支えるため適切な措置を講じる」と発表しました。これは遠回しな表現なのですが、利下げをする用意があることを明確にシグナルしています。

適切な利下げのペースが市場を救う?

 市場関係者は「一刻も早く、ざっくりとした利下げを実行してほしい!」と催促しています。しかし、FRBが市場参加者の期待通り0.50%、ないしは1.00%の思い切った利下げに踏み切る保証はありません。さらに言えば0.50%や1.00%などの大胆な利下げは逆効果になる場合もあるのです。

 実際、歴史を紐解いてみるとFRBが0.50%とか1.00%刻みでガクンと利下げしたとき、株式市場はその後グチャグチャになっています。これはどうしてか? と言えばFRBが慌てているオーラが出てしまうと、逆に投資家が浮き足立つからです。

 過去の利下げ局面では、0.25%刻みに粛々と利下げした場合(1995年、1998年)のみ、マーケットは逆行高しているのです。

 したがって「0.25%か? それとも0.50%か?」という点を巡ってFOMCメンバーは苦悩すると思います。

現時点の米国景気は良いが世界は悪い

 ちなみに米国経済そのものはいまだ新型コロナウイルスの悪影響が経済統計に反映されていません。

 いま2019年第4四半期の決算発表シーズンがちょうど終わったところですが、決算カンファレンスコールで「新型コロナウイルスの影響はどうですか?」という質問を受けた経営陣の大半は「まだ影響は感じられない。どのくらいの悪影響が出るか現時点では予測不可能」とコメントしており、来期、ならびに2020年の売上高やEPS (1株当たり利益)のガイダンスに新型コロナウイルスの影響を含める企業は数えるほどしかありませんでした。

 つまり経済データや企業からのコメントという点では、我々はまだほとんど手がかりがないままに、当てずっぽうの勘を働かせているに過ぎないのです。

 過去に発表された米国のマクロ経済統計はだいたい良い数字であり米国の景気が堅調であることを示しています。従ってバックミラーをのぞく限り、いまここで大胆な利下げをする必要は米国にはありません。

 しかし、海外の情勢に目を転じると、中国経済には急ブレーキがかかっていますし、中国と貿易を通じて密接に関わりのある韓国、日本、東南アジア、オーストラリア、ブラジル、ドイツなどの国々は大きな影響を受けざるを得ない状況です。

1998年の教訓とは?

 実はこのような状況は1998年にも起こりました。

 あの当時はタイのバーツ危機に端を発したアジア通貨危機がありましたし、日本では証券会社や銀行が次々に経営危機にひんし、ロシアはデフォルト(債務不履行)しました。

 当時のFRB議長だったアラン・グリーンスパン氏は「こんなに世界が悪いのに、米国だけが繁栄のオアシスであり続けることはできないだろう。だから世界を救うために利下げする!」と宣言し、利下げを断行しました。

 今回の状況は、当時の状況に酷似していると思います。

株安が誘発する逆資産効果には注意が必要

 新型コロナウイルスが今後、米国の実体経済に与える影響は感染がどれだけ広がるか分からないだけに予測しにくいです。ただ、株式市場が大きく下げたことで、逆資産効果により消費が冷え込むなどの悪影響が予想されます。

 したがってこれ以上、逆資産効果が広がるのを防ぐために利下げするというのは、理屈にかなった処置だと思います。

割高ではない!? 米国株のバリュエーション

 先週の株安により向こう1年の予想EPSに基づいたS&P500株価指数のPER(株価収益率)は16.7倍まで下がってきました。これは過去5年間の平均と全く同じです。つまり米国株は最近の歴史に照らして全然割高ではないのです。

 この適正なバリュエーションが株価の下支えになると思います。

いま買っていい銘柄は何?

 次に、何を買う? という問題ですが、大型ハイテク・ネット株のような、これまで米国の株式市場を先導してきた銘柄群を、引き続きオーバー・ウエイトするのが良いと思います。

 その理由として、先週の一本調子の下げは株価指数をなぞるように設計されたETF(上場投資信託)やインデックスファンドなどの売りがもたらした色合いが強く、大型ハイテク・ネット株は指数に占める比率が高いので、大きな売りを浴びたからです。

 普通、これらの銘柄はなかなか安いところで買わせてもらえないので、ザックリ調整した現在の水準はどれも魅力的だと思います。

▲特集・米国大統領選2020