新型コロナウイルスへの恐怖が、欧米にも拡大

 先週の日経平均株価は1週間で2,244円(▲9.59%)下落し、2万1,142円となりました。NYダウは▲12.36%、ドイツDAX指数は▲12.44%下落しました。中国・東アジアだけでなく、世界中に新型コロナウイルスが拡散している可能性が高まったことから、欧米株式が急落。日本株にも外国人と見られる大量の売りが増えました。

 感染拡大を押さえ込むために中国は経済活動が一時的に止まり、中国経済が大きく落ち込むことは確実です。それでも、欧米への感染拡大は限定的で、米国経済は好調を保つと思われていた間、欧米株式は堅調に推移していました。

 ところが、先週、イタリア・イランで感染者が急速に拡大していることが判明するとともに、南欧や、南米ブラジルなど南半球でも感染者が出ていることが分かりました。米国でも今分かっている以上に、感染が拡大している可能性があるとの見方が出ています。コロナ騒動を受けて、米国でサービス産業の景況感が急速に低下しています。

 中国・東アジアに限られると考えられていた、コロナショックによる経済停止が、欧米にも及ぶ懸念が出て、世界的な株の暴落につながりました。

日経平均週足:2018年1月4日~2020年2月28日

 

 日経平均は、昨年10~12月、世界景気回復期待から、心理的節目【注】となっている2万2,000円・2万3,000円を抜けて上昇しました。

【注】心理的節目
 上昇・下降トレンドが続く際に、上値や下値のメドとして意識される水準。上昇トレンド・下降トレンドが続く際、一気に通過しないで、しばらくもみ合うことが多い。日経平均では、2万1,000円・2,000円・3,000円・4,000円など、切りの良い数字が節目となることが多い。テクニカル分析において切りの良い数字が節目となる合理的理由はないが、日本の投資家が切りの良い数字を上値や下値のメドとして意識して売買することが多い結果、切りの良い数字が節目となることが多い。

 ところが、1月後半から、新型コロナショックによる世界景気悪化懸念で急落、心理的節目の2万3,000円・2万2,000円を一気に割れて、2万1,000円前後まで下がりました。昨年10~12月の世界景気回復期待を、すべて否定した形となりました。

 新型コロナへの警戒から中国や日本で経済活動が瞬間的に「凍結」していますが、同じような経済の凍結が、欧米にも広がる懸念が出ていることが懸念されています。

需要が消滅。リーマン・ショック、同時多発テロ後と似ている

 今回のコロナショックは、通常の景気悪化と様相が異なります。製造業だけでなく、小売り・サービス産業にも大きなダメージが及んでいます。通常、景気悪化に強いといわれているディフェンシブ産業が大きなダメージを受けています。

 今、瞬間的に日本中で「需要消滅」が起こり、日本の小売り・サービス産業に大きなダメージを及ぼしています。「これからの2週間が感染拡大を食い止める正念場」との政府呼びかけに応じ、日本中でイベント・旅行・会合・出張・旅行が次々と中止となりました。3月2日から春休みまで多くの小・中・高校が臨時休校となります。また、在宅勤務を増やす企業が増えています。

 日本中で、外出を控える人が増え、人の行き来が減り、繁華街や小売り・外食店舗はいつもより閑散としています。交通渋滞も減っています。「需要消滅」によって、小売・サービス業の売り上げが大きく落ち込むのは確実です。

 中国で工場が停止しているために、中国の製造業とサプライチェーンでつながった日本の製造業にダメージが及ぶことは早くから分かっていました。中国の景気が悪化すると、製造業がダメージを受けるのは、いつものことです。ところが、今回は通常は不況に強いサービス産業が世界的にダメージを受けています。それがコロナショックの特色となっています。

 このように「需要消滅・生産停止」が同時発生するのは珍しいことですが、過去にも例があります。それは、2008年9月15日に米リーマン・ブラザーズが破綻した後です。リーマン・ショックと言われる世界不況の中で、世界中で、需要が一時的に消滅し、生産が停止しました。

 ごく短期間ですが、2001年9月11日、米国で「同時多発テロ」が起こった直後も、米国でテロへの恐怖から外出する人が消えて、一時的に需要が消滅しました。この時、米国はITバブル崩壊不況の最中です。「ITバブル崩壊に、同時多発テロが追い打ちをかけ、米経済は恐慌入りする」と言われました。

 ところが、需要凍結は一週間で終わりました。2週間目からは、「テロに負けない」キャンペーンが全米でわき起こり、2001年のクリスマス商戦は大いに盛り上がり、米景気は不況を脱しました。

新型コロナショックが去った後、急速な需要回復・株価回復が見込まれる

「明けない夜はない」。いつまでコロナショックが続くか現時点で分かりませんが、1つだけ確かなことがあります。人類は、この新型ウイルスを克服する手段をいつか見つけるということです。今、分からないことが多すぎるために、恐怖が増幅していますが、時間が経過するにつれて、治療に効果のある抗ウイルス薬・ワクチン・簡単な検査方法が見つかってくると思います。

 感染経路がより明らかになれば、どうしたら感染が防止できるかも、明らかになるでしょう。政府見解で、空気感染はないとされていますが、現時点でまだ信頼できません。もっとはっきり感染の経路が分かれば、予防方法もはっきりしてきます。

 そうなれば、凍結されている需要も生産も、徐々に正常に戻っていくでしょう。簡単な検査方法が普及すれば、国際的な人の移動も回復するでしょう。そうなると、抑えられていた需要は急速に回復し、世界の株価は、急速に反発するでしょう。ただし、それがいつになるか分かりません。まだまだ先のことかもしれません。

 過去の経験則では、現実の脅威が終息する、半年から1年前に、株式市場での恐怖は終息し、株価は反発します。そのタイミングがいつになるか、見極めることが大切です。
 私は、日本株も米国株も今、長期的には良い買い場を迎えていると考えています。ただし、短期的な急落がいつまで続くかは、現時点ではっきりしません。

 需要凍結がどこまで長引くかによって、世界的株安がどこまで続くか、決まるでしょう。2001年9月の同時多発テロでは、需要凍結は、1週間しか続きませんでした。したがって、世界の株価は急落後、すぐに急反発しました。

 2008年9月のリーマン・ショックでは、需要凍結が、約半年続きました。北米の住宅ローンバブル崩壊によって起こった金融危機の影響が長引きました。そのため、株価の調整幅も期間も長くなりました。ご参考までに、リーマン・ショックの時の日経平均を以下に掲載します。

リーマン・ショックの時の日経平均の動き(2008年8月~2009年7月)

 今回の新型コロナショックは、私が想定している以上に大きなダメージを世界経済と世界の株価に与えることになりましたが、これは、リーマン・ショックとは異なります。リーマン・ショックのような金融危機が欧米で起こっていないからです。

 リーマン・ショックほどの下げにはならないと思います。下落はもっと早く終息すると思います。それでは、日経平均は、短期的にどこまで下げることが想定されるのでしょうか。
 最近の日経平均暴落局面と比較して、短期的な下値メドを考えてみたいと思います。明日、それについて書きます。