日本売りではない円安

 先週、ドル/円は2日間で2円30銭超円安に動きました。予想外の動きでした。円安の理由として、日本政府の新型肺炎に対する対応への不信感や景気悪化への警戒感から日本が売られたとの見方がありますが、ドル/円が1ドル=110円手前から112円台に上昇したこの2日間は、日本株は売られていません。つまり、ある国が金融市場で売られるとは株も債券も通貨も売られるトリプル安のことをいいますが、この2日間はそういう状況ではなかった、すなわち、日本が売られたという状況ではなかったということになります。

 また、需給面から見た円安の理由として、大きなドル買いが出たため円安になったという見方もあります。日本の公的年金が買ったのではないかという話や、コンビニの海外M&Aの報道がトリガーになったとの見方です。しかしこういう話は推測や噂はいろいろ出ますが真偽はわかりません。

 比較的納得できる見方としては、先週17日に発表された日本のGDP(国内総生産)が予想以上に大きなマイナス成長だったことをきっかけに、これまで円高、ドル高の二強が崩れ、円買いのポジションを巻き戻したというテクニカルな動きだったのではないかという見方です。欧州、米国の時間帯に円安に動いたことは、海外勢の日本に対する見方が相当悲観的になったことを物語っているようです。日銀の金融緩和を催促するような動きだったのかもしれません。そして110円前半~半ばを抜けると一気に112円台に上昇した動きをみると、110円半ばのチャートポイント・ブレークを狙った仕掛けによって円買いのポジション巻き戻しに火が付いたのかもしれません。

円売り一辺倒から欧米売りに

 先週の段階では日本やアジア売りが中心でした。自分達には火の粉は飛んでこないとみていた欧米が、自国にも影響が及ぶと気付けば円売り一辺倒ではなくなると予想していたところ、意外と早く欧米にも火が付きました。

 今週に入って、イタリアで新型肺炎の感染が拡大し、イタリア株は急落し、ユーロは売られました。また、米国株は週明け1,000ドル超の下落となりました。先週公表されたアップルの業績未達見通しや、先週金曜日に発表された米2月総合PMI(購買担当者景気指数)が予想を下回り、2013年以来の低水準となったことが嫌気されたようです。

 特にサービス部門PMIが50割れとなったのは驚きです。PMIとは企業の購買担当の管理者に対して現在の状況が良いか悪いかを尋ねる調査で、50を割れると悪化と見る人の方が多いということになります。購買担当者は多くの場合、企業活動に先んじているため、市況の変化に最初に気付くといわれています。そういう観点からPMIは先行指標になりうる指標です。

 PMIが50を割れたことから新型肺炎による景気への影響が懸念され始めたようです。ドル/円は株安と米金利低下とともにドル売り優勢となり、110円台前半まで売られました。結局、先週の上昇分はほとんど戻った動きとなりました。翌日も株は大きく売られました。CDC(米国疾病対策センター)やHHS(米保健社会福祉省)が「新型肺炎の拡大する可能性がある」と警告したことから企業業績への警戒感が高まったことが背景にあるようです。

 この先はどういう展開になるのでしょうか。今後も他国の株がどんどん売られれば、ドル/円も110円を割れて円高が進行することが予想されますが、日本株も下落が止まらなければ円高は抑制的な動きになるかもしれません。米国株はFRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和期待から早晩戻るかもしれませんが、企業業績への影響や小売売上高への影響が数字で表れてくるまでは慎重姿勢の方が勝り、上値は抑えられるかもしれません。

 その間ドル/円は、日本や欧米の株の値動きによってさまようかもしれません。110円台から112円の間を株に左右されながら行ったり来たりしそうです。しかし、ドル/円は新型肺炎という新しいリスクを先行して織り込んだことから、112円台の上値ブレイクよりも110円の下値ブレイクの方が可能性が高そうです。

トランプ大統領の激怒

 話は変わりますが、トランプ米大統領はダイヤモンド・プリンセスからの帰国者の中に感染者が含まれていたことを聞いていなかったと激怒した、との報道がありました。この報道をみると、大統領選挙への影響を意識しているトランプ大統領は、感染が拡大してくると相当厳しい対応をとる可能性もあり、注意する必要があります。FRBに対しても圧力が強まるかもしれません。FRBも昨年2019年には全く意識していなかったリスクを「新しいリスク」として捉えているため、FRBが迅速な行動を取るシナリオも想定する必要がありそうです。