米大統領選の日程は?

 米国の大統領選挙はこれから重要な局面に入ります。なぜなら3月3日は「スーパーチューズデー」と呼ばれ、この日、アラバマ、アーカンソー、カリフォルニア、コロラド、メーン、マサチューセッツ、ミネソタ、ノースカロライナ、オクラホマ、テネシー、テキサス、ユタ、バーモント、バージニアなど16の州で予備選挙、ないしは党員集会が行われるからです。

 この日に「どの候補者を民主党の公認候補に推す?」か意思決定することから、「スーパーチューズデー」で誰が民主党の公認候補になるかほぼ決定すると考えて良いでしょう。

 それ以降のスケジュールを簡単に紹介しておくと、7月13~16日にミルウォーキーで民主党大会が開かれ、民主党公認候補を正式に決定します。一方、共和党は8月24~27日にシャーロットで共和党大会を開催します。

 ここからは大統領・副大統領候補のテレビ討論会が主な選挙戦の場となります。

 9月29日にはインディアナ州サウスベンドで第1回の大統領候補TV討論会、そして10月7日にはユタ州ソルトレイクシティーで副大統領がTV討論会、10月15日にはミシガン州アンアーバーで第2回の大統領候補TV討論会、そして10月22日にテネシー州ナッシュビルで最後で第3回目の大統領候補TV討論会が行われます。

 そして、11月3日が本投票です。

有権者が考える今回の米大統領選挙の争点は?

 世論調査会社ギャロップが2019年12月2~15日の間に米国の有権者に対して行った世論調査によれば、有権者は下のグラフにある諸項目が「最も重要な争点である」と考えています。

2020年大統領選挙の争点(2019年12月調査)

単位:%
出所:ギャロップ

各候補者の公約

 では、民主党の有力候補がこれらの問題に対してどのような公約をしているのかを下の表にまとめました。

争点 サンダース氏 バイデン氏 ブルームバーグ氏 ウォーレン氏 ブテジェッジ氏
医療 国民皆医療保険 ACA拡充 ACA拡充 国民皆医療保険、薬品は政府が製造 ACA全体的な見直し
銃規制 買戻しプログラム   自動小銃禁止、バックグラウンドチェック義務付け 規制賛成 買戻しプログラムを支持
教育 大学無料化 大学2年間無料化 チャータースクールを支持 スチューデントローン一部帳消し 営利チャータースクールに反対、スチューデントローン一部帳消し
経済 GAFA分割     グラススティーガル復活、GAFA分割  
気象
変動
シェール禁止 排ガス課税     排ガス課税
格差 社会プログラム新設     社会プログラム新設 労働者に投資、過疎地に投資
連邦
債務
防衛予算削減 防衛予算増額   防衛予算削減  
税金 裕福層特別税 キャピタルゲイン・法人・裕福層増税 キャピタルゲイン増税、法人税率は引き上げるが2017年以前よりは低く抑える、裕福層への税金を新設 キャピタルゲイン・法人税・裕福層、ウォール街増税 2017年のトランプ法人減税を止める、裕福層への課税強化

 少し解説を加えると、「国民皆医療保険」というのはカナダやフランスの医療制度のように国民全員が医療保険に加入できる制度を指します。現在の米国では企業が医療保険を提供する、ないしは個人が医療保険を購入する制度になっています。低所得者にはメディケイド、高齢者にはメディケアという医療保険制度が適用されます。

 ACAとは2010年に成立したAffordable Care Actの略で、いわゆる「オバマケア」の発展したものだと考えてください。これは今まで貧困層ではないけれど医療保険が高すぎて加入できなかった人たちも医療保険に加入できるよう、廉価なプランを用意する意図で始められました。

 サンダース、ウォーレン両候補は国民皆医療保険を主張していますが、それをどうやって実現するかについて具体性に乏しく、しばしば批判の対象となっています。とりわけ既往症のある国民の扱いをどうするか? という問題はプログラム全体のコストや負担の分担にかかわる、やっかいな問題となっています。

 銃規制の問題に関しては、米国ではたびたび連続発砲事件が起こっており、とりわけ一度にたくさんの人を攻撃できるアサルトライフル(自動小銃)の規制が焦点となっています。

 米国にはNRA(全米ライフル協会)と呼ばれる圧力団体があり、ロビー活動を行っています。その関係で銃を巡る悲劇的事件が相次いで起こっているにもかかわらず、その規制がなかなか進んでいないのです。

 チャータースクールとは小中学生の子供を持つ親が、普通の公立小中学校の教育に飽き足らず、有志を募って始める新しい学校を指します。一定の基準を満たせば「準公立」として公的な資金援助も受けることができます。ITなど、普通の公立小中学校ではなかなか高水準のトレーニングを授けることが難しい専門領域に特色を持つ、チャータースクールが多いです。

 ただ、コミュニティーにチャータースクールができると、そこが磁石のように優秀な生徒を惹きつけてしまうことで、従来の公立小中学校の生徒が減り、結果として教育の質が低下し、格差が助長されるという考えから、チャータースクールに反対の人たちもいます。

 GAFAはグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの略ですが、民主党の大統領候補の中には「これらの企業は大きくなり過ぎており、独占的な支配力を持ち始めている」と考えている人がいます。

 そこで昔、スタンダード石油やAT&Tなどの巨大企業が分割を命令されたのと同様に、反トラスト法でこれらの企業をバラバラにしようというムードがあるわけです。

米国の姿を浮き彫りにする

国民の所得はどれくらいか?

 米国の実質家計所得中央値は下のグラフのように推移してきました。

米国実質家計所得中央値

単位:ドル
出所:セントルイスFRB

 このグラフの推移のように、最近のトレンドはつまり良いのです。

格差はどれくらい問題なのか?

 次に、下のグラフは格差の度合いを示す尺度であるジニ係数です。

ジニ係数

出所:OECD

 読み方ですが、この係数がゼロなら完全に平等な社会、1なら完全に不平等な社会を指します。つまりこの数字が大きければ大きいほど格差社会ということです。OECDは経済協力開発機構の略です。

 下は主要国の貧困率のチャートです。これは貧困線(poverty line)の下にある人口が全人口のどのくらいの割合を占めるかを示しています。

貧困率

出所: OECD

 これらのチャートから言えるのは、日本に比べると米国は格差社会であり、貧困率も高いけれど、実は日本とあまり大差ないことが分かります。

 これから11月3日の本投票まで盛り上がる米大統領選の展望と注目銘柄について、今後も解説していく予定です。

▲特集・米国大統領選2020