2020年の投資戦略を考える「新春講演会2020」が開催されました。楽天証券主催のこのイベントは、日本株、米国株、投資信託、為替などさまざまな分野で活躍するプロたちが登壇します。

 その中の「ファンドマネジャーが語る! アクティブファンドの魅力、徹底討論」では、司会を吉井崇裕(楽天証券)と3名のファンドマネジャーが、アクティブファンドの魅力について討論。アクティブファンドのあり方や考え方について改めて話し合いました。

ファンドマネジャーの価値

吉井 この討論では、5つの質問を通してアクティブファンドの魅力を探っていきます。では、早速最初の質問にいきましょう。

 インデックスファンドの人気が高まる中で、アクティブファンドを運用するファンドマネジャーの存在価値はどこにあると思われますか。キーワードを挙げていただき、お答えください。

酒井 キーワードは、『わくわく感』の提供です。インデックスファンドは日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)とほぼ同じ値動きをします。飲食店に例えれば串カツのチェーン店のようなもので、大阪で食べても東京で食べても、基本的に味は同じです。

アクティブファンドは「わくわく感」と酒井氏

 一方、アクティブファンドは、それぞれが異なった値動きをします。旅先の名店で食べる料理のようなもので、どんな料理なのかというわくわく感、楽しみがある。

「大事なお金を投資するのだから、『わくわく感』なんてない」と、仰る方もいるかもしれませんが、インデックスファンドがいいかアクティブファンドがいいかという議論は、賃貸マンションがいいか分譲マンションがいいかという議論に似ています。
 つまり、それぞれの投資家の事情によって良さは違うし、平均寿命が延びるといった周辺環境の変化によっても答えは変わってきます。

 また、アクティブファンドがいい局面、インデックスファンドがいい局面という、相場のサイクルもあります。ただ、(日本株ファンド)全体として見れば、運用成績は実はアクティブファンドの方が良いので、「わくわく感」を楽しめます。

木村 日本株のインデックスに限れば、「そもそも日本株のインデックスファンドを長期運用する意味があるのですか」ということを皆さんに問いたいです。

 日経平均株価やTOPIXに投資をするということはつまり、日本経済全体に投資をしているのとほぼ同じです。日本経済は十分に成熟していて、成長の余地が少ない。もっと言うと、残念ながら、少子高齢化による人口減少の流れを食い止めることももはや難しい。そういう国に長期投資する意味はあるのか、と僕自身は思っています。

 こんな風に言うと、個別の日本企業にも魅力がないように受け止められるかもしれませんが、個別企業のほか、産業や政策といったマクロ面にも焦点を当てれば、魅力のある銘柄が山ほど見つかります。アクティブファンドマネジャーの価値は、そういう企業を見つけ、実際に投資を行い、リターンを上げるところにあります。

アクティブファンドマネジャーはすし職人

奥野 アクティブファンドマネジャーはすし職人

自信のあるネタを自ら吟味して、握ってお客さまに満足してもらう。そもそも株式投資というのは、売ったり買ったりすることだと思っている方が多いですが、私たちの考え方は全く違います。

 株式投資の本質は、「本当にいい会社」のオーナーになること。本当にいい会社の利益は長期的には上がり続けます。
 一例ですが、外国の会社ならディズニー、日本の会社ならトヨタ自動車。今後どうなるかは、事業の強さを見極める必要がありますが、両社は利益も株価も10年、20年の長期でみれば上がり続けてきました。もちろんその時々の上がり下がりはありますが。

 TOPIXのようなインデックスは、木村さんが指摘されたように、この20年もの間、一定のレンジの中で上下しているだけで、米国のS&P500指数のように上に大きく突き抜けていない。これはTOPIXの対象となっている日本企業のほとんどが利益を長期的に上げてこなかった結果です。

 つまりインデックスファンドがいいのか、アクティブファンドがいいのか、あるいは個別株投資がいいのか、そんな議論にはあまり意味がありません。大事なことは、投資対象となる企業が利益を上げ続けることができるのか、ということです。

自ら足を運んで出向き企業を吟味すると奥野氏

 私たちが運用している「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」は、組み入れる会社が、利益を出し続けることができるのかどうかを見極めるのに相当な時間とコストをかけています。米国企業に投資するときは、2カ月に1回以上渡米して実際に企業を訪問し、経営者に会ったり工場を見学したりします。

 後ほどご説明しますが、投資対象となる企業を選ぶにあたっては、「3つの条件」を満たしているかどうかを現地に訪問して調べます。その結果を日本に持ち帰って、ファンドのオーナーである投資家に詳しく説明するわけです。

 よいすし職人というのは、実際に魚市場へ足を運んでネタとなる魚を厳選し、新鮮なうちにさばいて握って、お客さまに提供する。そして、カウンター越しの会話を通して、満足してくれたかどうかを探ります。それと同じですね。

インデックスかアクティブファンドか

吉井 ファンドアナリストという仕事をしていると、よく投資家の方からインデックスファンドがいいのか、アクティブファンドがいいのかと質問されます。私は一貫して「どちらがいいということではない」とお答えしています。

 そもそも、インデックスファンドを選ぶという行為自体が「アクティブ(能動的)」な選択ではないでしょうか。

 その上でアクティブファンドを買ってわくわくしたい、経済成長プラスアルファを取りたいというのなら、ファンドマネジャーの腕を見極めなければなりません。そこで大事なことは「哲学」です。続いて、皆さんが運用されているファンドの哲学を教えてください。

奥野 哲学は「ミッキー」です。ディズニーの株を持てば、世界各地のディズニーランドでミッキーマウスが皆さんのために働いてくれます。ミッキーマウスの働きがディズニーの利益になり、それが投資家である皆さんに還元されます。先にお話した「3つの条件」とは、まさに、ディズニーのようないい会社を選ぶための条件です。具体的には、1.付加価値の高い産業、2.圧倒的な競争優位性、3.長期的な潮流です。

 ミッキーマウスは唯一無二の存在で、いなくなったら困りますよね。これが付加価値です。他のキャラクターと比べても圧倒的に競争優位があることも明らかです。新興国が豊かになれば、ディズニーランドに行く人も増えるし、新興国にも新たなディズニーランドができる可能性もある。先進国の人口増大は言うまでもなく、新興国の成長も長期的な潮流ととらえることができます。新興国の発展をとるために新興国株を買う人がいますが、そんなことをする必要はなくて、ディズニーの株を買えばいいのです。

 私は、この「3つの条件」を満たす会社を見つけたら、投資家の皆さんから預かったお金をその会社に張り付けます。これこそが、私の投資哲学です。つまり、「売らない会社しか買わない」ということです。頻繁に売買する必要なんてありません。だから、「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」に組み込んでいる25社は、どれも保有するべき「よい会社」なのであって、売買する対象ではありません。

酒井 キーワードに挙げた「3,600」は、東京証券取引所に上場している企業の数です。私自身、3,600社は投資に値するポテンシャルのある企業で、自分の運用するファンドに組み入 
れる候補企業と思っています。

 私たちが運用する「One国内株オープン 自由演技」が目指しているのは、「(投資家の)皆さまに愛されるファンド」です。投資家の皆さんはそれぞれご自身の判断で、好きなタイミングでファンドを購入され、売却されていると思います。今日買って1年後に売る方もいるでしょうし、3年後に売る方もいるでしょう。

 私は、投資家の皆さんがどのタイミングで売買してもリターンが得られる、投資家にとって「都合のいい」運用をしたいと思っています。そのためには、どの局面においてもリターンと安心感の双方をご提供し続けなければなりません。

 ここで考えてみてください。ファンドを保有していて「不満感」が生じるのは、どういうときか。マーケットが下がって自分が保有しているファンドの評価も下がったときはもちろんですが、マーケットが2割、3割上がっているのに、自分のファンドは1割しか上がっていなかったときも不満を覚えませんか。

 そこで、リターンという目に見える経済的な価値を提供することに加えて、「このファンドを買ったのは失敗だったかも…」と不安に思う場面をなるべく少なくすることが大事だと思っています。

高配当を重視していると木村氏

木村 私は、哲学というより、「三井住友・配当フォーカスオープン」の運用方針を説明させてください。このファンドは、高水準の配当を継続することが期待される銘柄に厳選投資を行います。

 組み入れる銘柄に対して、業績の成長性とか増配とかは期待しません。高配当銘柄の配当利回りはそもそも高水準なので、それを継続することができるかどうかを特に重要視しています。このことを皆さんにお伝えしたい。

アクティブファンドには、中身(銘柄)を吟味してくれるファンドマネージャーがいることが分かりました。後半は、銘柄を具体的にどう選んでいるか、参考にしたい後半戦です!

後編:ファンドマネジャーの銘柄選定術>>