新型肺炎への警戒和らぎ、堅調な株式相場

 NYダウ平均株価は先週高値を更新し、新型肺炎の悲観論は後退している相場が続いています。1月下旬には新型肺炎の不安で1,000ドルあまり下落しましたが、過剰な警戒感は和らぎ、高値警戒感はあるものの強気一色となっています。

 株式相場が堅調なのは、好調な米国経済に加え、新型肺炎がSARS(重症急性呼吸器症候群)に比べて致死率が低い、感染者の伸びが鈍化している、治療薬の開発が進んでいるなどの報道が増え、不安を払拭(ふっしょく)していることが要因のようです。

 さらに、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が議会証言で、新型肺炎の影響は「新たなリスク」と指摘。新型肺炎の影響を綿密に監視する方針を述べたことから、いざとなったら、FRBが金融緩和で経済を支えてくれるだろうという期待と安心感もあるようです。

 ただ、議会証言では短期国債の購入による資金供給策を縮小する考えも表明し、その時期を7月ごろと示唆しました。金融市場では短期国債購入を「量的緩和第4弾」との受け止めもあったため、縮小規模や時期を巡ってマーケットが混乱するリスクも想定され、警戒する必要がありそうです。実際に縮小実行となれば、株式市場の圧迫材料となるかもしれません。

予想以上に悪化した日本のGDP

 今週2月17日に発表された日本の2019年10-12月期GDP(国内総生産)は、実質年率▲6.3%と、予想(▲3.5%)を大きく下回り、5四半期ぶりのマイナスとなりました。

 昨年10月の消費増税や、台風の影響で個人消費が落ち込み(▲2.9%)、前回消費増税後の2014年4-6月期(▲7.4%)以来、マイナス幅は5年半ぶりの大きさとなりました。また、企業の設備投資も景気の足を引っ張り、米中貿易摩擦による海外経済の減速懸念が響き、設備投資は▲3.7%と3四半期ぶりにマイナスとなりました。

 輸出も▲0.1%と2四半期連続で減少となりましたが、輸入の減少幅が大きかったことから(▲2.6%)、外需の寄与度としては0.5%と3期ぶりにプラス。しかし、手放しでは喜べません。輸入が大きく減少ということは、国内の需要が落ち込んでいることを反映している可能性が大きいからです。

 この個人消費や設備投資の落ち込み、さらに輸出も落ち込んだという悪い内容のGDPは、消費増税の影響と米中貿易摩擦による海外経済の減速が足かせとなった結果です。現在の新型肺炎による中国経済悪化の影響はまだ加味されていません。

 新型肺炎の影響は、中国経済減速による輸出の減少、サプライチェーンへの悪影響による生産の停滞、中国からの訪日観光客減少による国内消費の減少で、日本経済は下押しされる可能性が高まります。日本の2019年中国向け輸出額は全体の2割を占め、米国に次いで高い割合です。また、外国人観光客のうち約3割を中国人が占めています。新型肺炎の感染拡大が長引けば長引くほど、最悪の場合、2期連続のマイナス成長も想定されます。イタリアやドイツのリセッション(景気後退)が話題になっていましたが、もはや人ごとではなくなってきました。今のところ、1-3月期のGDP予想として0%以上との見通しが多いようですが、日本のリセッション・シナリオも想定する必要が出てきました。

 今後は、日本のGDP悪化をきっかけに、欧米諸国が自国への景気影響を警戒するかどうかに、注目したいと思います。日本は地理的にも中国に近く経済関係も深く、低成長、低物価の国であるため、新型肺炎による打撃が最も大きくなるとみられますが、対岸の火事と、自国影響を過小評価していた欧米諸国も、日本への打撃がさらに大きくなれば、警戒ムードに転ずる可能性があるからです。

アップル失速か?

 2月17日、アップルは1-3月期の売上高予想について、新型肺炎の感染拡大の影響で「達成できない見込み」と発表しました。iPhoneの供給が一時的に制限され、中国で製品需要が影響を受けていることを理由に挙げています。同社は、「混乱は一時的なものだ」と強調していますが、影響の全容が見通せないことから、新たな業績予想は4月下旬に公表予定としています。

 今後、アップルのように、欧米企業の業績見通しの下方修正が増えてくれば、株式市場の圧迫材料となります。そして、ドル/円を支えていた株式市場が崩れれば、円高方向に動く可能性も出てきます。

 今後は国の成長力だけでなく、個々の企業の業績見通しにも注目していく必要がありそうです。