毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄:任天堂(7974)

1.2020年3月期3Qは5%減収、6%営業増益

 任天堂の2020年3月期3Q(2019年10-12月期)は、売上高5,787億100万円(前年比4.9%減)、営業利益1,687億700万円(同6.4%増)となりました。

 今3Qのニンテンドースイッチ・ソフトは、6,464万本(前年比23.1%増)となりました。自社製ソフトあるいは任天堂が販売権を持つソフトでは、「ポケットモンスター ソード・シールド」(2019年11月15日発売、開発元はゲームフリーク、発売元は株式会社ポケモン、任天堂が販売権を持つ)が1,606万本と大きな数字になりました。「ルイージマンション3」も537万本売れました。「リングフィットアドベンチャー」も217万本売れましたが、付属品(「リングコン」「レッグバンド」)の生産が昨年からの人気による品不足に年明けからは中国の新型肺炎による生産不足が重なり、思うように販売が伸ばせませんでした。

 また、今3Qも旧作がよく売れました。「マリオカート8デラックス」が395万本売れ(うちクリスマスシーズンにおけるニンテンドースイッチとの無償同梱が約80万本)、前3Qの331万本を上回りました(表4)。このほか、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」180万本、「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」197万本など、優良旧作が新作ソフト並みに売れました。旧作は店頭販売時のコストがNAND型フラッシュメモリと格納容器だけ、デジタル販売ではコストはほぼゼロで売上高のほぼすべてが利益になるため(任天堂ではゲームソフト開発費は発売までに経費処理する。このため発売翌年度から開発費負担はなくなる)、業績への貢献度は高いものがあります。

 ハードは、2019年9月20日発売のニンテンドースイッチライトが324万台と順調に売れたものの、ニンテンドースイッチ標準型は757万台(前年比19.6%減)と前年比で減少しました。ただし、両ハードを合わせた「ニンテンドースイッチファミリー」では前年を上回りました。

 ニンテンドースイッチ用ソフトが好調だったにもかかわらず、今3Qの営業利益の伸びは一桁増に止まりました。これは前3Qに「ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ・イーブイ」(2018年11月16日発売、前3Q1,000万本、2019年12月末累計1,176万本)、「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」(2018年12月7日発売、前3Q1,208万本、2019年12月末累計1,768万本)の2本の大型ソフトがあったこと、2017年3月期、2018年3月期と好調だった「ニンテンドークラシックミニ」(ファミリーコンピュータ、スーパーファミコンの復刻版)の反動減があったことなどによります。

表1 任天堂の業績

株価    40,190円(2020/2/13)
発行済み株数    119,124千株
時価総額    4,787,594百万円(2020/2/13)
単位:百万円、円        
出所:会社資料より楽天証券作成        
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。        
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

表2 任天堂の業績予想の前提(2020年2月)

出所:楽天証券作成
注:家庭用ゲーム(前回、今回)のニンテンドースイッチ(標準型)会社予想には、ライトを含む。同楽天証券予想はライトを除く。

表3 任天堂:ニンテンドースイッチ・ハード、ソフトの販売台数、本数(四半期ベース)

単位:万台、万本
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:端数処理の関係で一部合計が合わない場合がある。

表4 主要な任天堂製ニンテンドースイッチ用ソフトの販売本数

単位:万本
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:任天堂出荷ベース、ダウンロード、ハードウェア同梱を含む。
注2:端数処理のため合計が合わない場合がある。

2.2020年3月期会社予想業績は上方修正された

 今3Qまでの順調な業績を見て、会社側は2020年3月期通期業績予想を上方修正しました。前回予想の売上高1兆2,500億円(前年比4.1%増)、営業利益2,600億円(同4.1%増)は、売上高1兆2,500億円(同4.1%増)、営業利益3,000億円(同20.1%増)に上方修正されました。

 今回の会社予想では、ニンテンドースイッチ・ハードは1,800万台→1,950万台(ただしニンテンドースイッチライトを含む。2019年3月期は1,695万台)へ、同ソフトは1億2,500万本から1億4,000万本(2019年3月期は1億1,855万本)へ上方修正されました。

 2020年3月期の楽天証券予想は、前回は売上高1兆3,700億円(前年比14.1%増)、営業利益3,000億円(同20.1%増)でしたが、今回は会社予想と同じとします。

 2020年3月期の楽天証券予想のニンテンドースイッチ・ハード、ソフト販売台数、販売本数は、前回予想ではハードが標準型1,700万台、ライト700万台、計2,400万台、ソフト1億6,000万本でしたが、今回予想ではハード標準型1,300万台、ライト650万台、計1,950万台、ソフト1億4,000万本と会社予想と同水準としました。

 楽天証券の販売台数、本数予想を下方修正したにもかかわらず、今回会社予想、前回楽天証券予想の営業利益3,000億円が達成できると考える根拠は、任天堂製ソフトと任天堂が販売権を持っているソフト(主にポケットモンスター)が、新作のみならず旧作も売れ行きが好調だからです。

 実は、今3Qまでの業績の勢いと、今4Qの「ポケットモンスター ソード・シールド」の売れ行き、2020年3月20日発売予定の「あつまれ どうぶつの森」や「マリオカート8デラックス」などの旧作ソフトの売れ行きを考慮すると、今期営業利益は3,100~3,200億円が可能と思われます。ただし、新型肺炎によって中国で生産している日本向けニンテンドースイッチの生産、出荷が遅れることになりました(北米向けはベトナムで生産しているため、新型肺炎の影響は受けていないもようです)。また会社側は、「あつまれ どうぶつの森」についても、「Nintendo Switch あつまれ どうぶつの森セット」とキャリングケースの予約開始日を2月8日から延期し未定としました(「あつまれ どうぶつの森」のパッケージ版とダウンロード版の予約開始日は2月8日で変わりません)。

「どうぶつの森」シリーズは、特に日本で若い女性とファミリー層に大変人気のあるシリーズです。2012年11月8日発売の「とびだせ どうぶつの森」(3DS)は、2019年12月までの累計販売本数が1,245万本に達した名作ソフトであり、約半分が日本で売れています。このため、新型肺炎によるニンテンドースイッチ・ハードの出荷の遅れ、ハード同梱版の予約の延期は、今4Qの業績にある程度の影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、楽天証券では今期業績予想を会社予想と同水準としました。

表5 ニンテンドースイッチ用ソフトの発売スケジュール(任天堂製または任天堂が販売権をもっているソフトのみ)

出所:任天堂ホームページより楽天証券作成

3.ニンテンドースイッチビジネスは2021年3月期~2022年3月期がピークか

 来期2021年3月期は、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編、「Metroid Prime 4」などの新作が予定されています。ニンテンドースイッチライトはまだ発売2年目なので、一定の販売効果が期待できます。また、今4Qに予想される新型肺炎のハード、ソフトへの影響分は、来1Qに上乗せになる可能性があります。

 このため、楽天証券では2021年3月期を売上高1兆3,100億円(前年比4.8%増)、営業利益3,600億円(同20.0%増)と予想します。

 また、来期から毎期1~2作、ニンテンドースイッチ発売初期に発売された優良ソフトの続編が発売される可能性があります。すでに公表されている「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編や、「マリオカート8デラックス」「Splatoon2」「スーパーマリオオデッセイ」などの続編です。これらの続編ソフトが業績を一定水準に保つ役割を果たすと期待されます。

 ただし2022年3月期は、ニンテンドースイッチ標準型がすでに下降局面入りしていること、ユーザーが飽き始めると思われるため、ソフトも伸びなくなると予想されることから、業績の伸びは鈍くなると思われます。そのため、今回のニンテンドースイッチビジネスは、2021年3月期~2022年3月期がピークと思われます。そしてその後、業績は下降局面に入ると予想されます(これらの動きは、過去のゲームサイクルから予想されることです)。

 なお、2019年12月10日からはじまった中国でのニンテンドースイッチビジネスは、中国ではゲームソフトを1つずつ検閲するため、発売初期のマーケティングが難しく、当面は業績寄与を期待できそうにありません。

 中国のゲームユーザーは約6億人と巨大な市場ですが、その多くはスマホゲームとパソコンオンラインゲームのプレイヤーであり、家庭用ゲーム人口はほとんどないもようです(任天堂によれば、並行輸入と日本などでの購入で中国国内に約300万台ニンテンドースイッチが入っているということです)。今3Qの中国国内での販売台数は数十万台とわずかだったもようです。本格的な開拓は次世代機の時代まで待つことになる可能性もあります。ただし、株価に対する期待効果はある程度ありそうです。

グラフ1 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア

単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ2 任天堂のゲームサイクル:携帯型ハードウェア

単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ3 任天堂のゲームサイクル:据置型ソフトウェア

単位:万本、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券、注:ニンテンドースイッチ用ソフトにはライト用も含まれる

4.次世代機は5G、クラウドの技術、コストの動きを見定めた上で、4~5年以上先に発売か

 ニンテンドースイッチの次、次世代機の発売はまだ先のことになりそうです。ハードとともに数多くの優良ソフトが売れているため、今は次世代機を発売しなければならない状況ではありません。

 また任天堂は、5G(第5世代移動通信)とクラウドが家庭用ゲームにどのような影響を与えるかを見極めてから次世代機を発売すると思われます。今は半導体と通信の大革命が始まったところですが、この革命の行く末がどうなるのかを見極めることは家庭用ゲームビジネスにとって極めて重要だからです。次の世代で5Gとクラウドがゲームの世界に本格的に入ってくるときには、4~5年以上先であれば、高性能半導体を使った5Gチップセットやクラウド基盤が今よりも安く調達できると思われます。

 例えば、5年先の2025年3月期に次世代機を発売するときには、その時点での最先端CPUのデザインルールは3ナノまたは2ナノになると予想されます。そこから2世代下がった5ナノまたは7ナノでCPUを作れば、5Gやクラウドで任天堂のゲームソフトを十分早く駆動することができるシステムを構築することができる可能性があるのです。特に、5ナノはビッグノードと呼ばれる生産能力の大きな半導体の技術世代になるため、任天堂にとっては安く先端半導体を調達できるチャンスが到来する可能性があります。

 また、5Gやクラウドによって、クラウドゲームやオンラインゲームが任天堂の世界に本格的に入ってくる場合は、任天堂のゲームシステム(ハードとソフトの関係)も大きく変わり、収益構造も変わるかもしれません。今は半導体・通信革命の行く末を見届けるために、「待ちの姿勢」でいたほうがその後の事業展開を有利に行うことができる可能性があるのです。

 ただしそれまでは、2021年3月期~2022年3月期を業績のピークとして2023年3月期以降業績は下降局面に入ると予想されます。

5.今後6~12カ月間の目標株価を、前回の5万円から4万円に引き下げる

 今後6~12か月間の任天堂の目標株価を、4万円とします。前回の5万円から引き下げます。楽天証券の2021年3月期予想EPS 2,115.4円に想定PER15~20倍を当てはめました。

 2021年3月期~2022年3月期がニンテンドースイッチの業績サイクルのピークと予想されることが株価に対するマイナス要因ですが、中国市場の開拓の可能性(長期の視点が必要と思われますが)、優良ソフトによる安定した業績が2022年3月期ごろまで続きそうなことはプラス要因となると思われます。

本レポートに掲載した銘柄:任天堂(7974)