新型肺炎の感染者数はピークアウトするか?

 今週の相場のポイントは、世界に部品を供給している中国が工場を操業できるかどうかである。日本の自動車メーカーからは「2月下旬まで操業は難しい」という声が出ているが、新型肺炎のまん延が収まらないと、サプライチェーンが分断されてしまい、世界の景気後退への懸念が高まるだろう。

 米国ジョンズ・ホプキンズ大学のシステム科学工学センター(Johns Hopkins CSSE)の公開している新型肺炎(COVID-19)の感染者数はさらに増えており、世界で60286人が感染し1367人が死亡している。

新型肺炎の感染者数と死亡者数

出所:Johns Hopkins CSSE

 これまで株式市場に最も強気だったJPモルガンが、「新型肺炎感染は再加速する可能性、株式配分圧縮を」と呼び掛けている。また、ゴールドマンサックスからは、「今回の新型肺炎の影響で今年の世界経済の成長が2%減速する」というレポートが出ている。

新型ウイルス感染は再加速する可能性、株式配分圧縮を-JPモルガン(7日 ブルームバーグ)

 新型コロナウイルス流行の経済的影響が大きくなる可能性があることから、投資家はポートフォリオのリスクを圧縮するべきだと、JPモルガン・チェースが勧めた。市場は中国のコロナウイルス流行で打撃を受ける恐れがあると、ニコラオス・パニギリツオグル、マルコ・コラノビッチ、ジョン・ノーマンド3氏を含むストラテジストらが5日遅くのリポートで指摘。ベンチマーク配分に対する株式のオーバーウエートを7%から5%に低下させる一方、社債のアンダーウエートはマイナス7%からマイナス5%に引き上げた。

 ストラテジストらは、中国で工場の稼働が再開し人々の接触が増えれば、ウイルス感染が再び加速しかねないと懸念。一方、工場閉鎖が続けば経済的影響はさらに深刻になり得ると分析した。リポートでは「工場の再稼働による感染者数の再加速、あるいは工場再開が来週以降まで遅れることはいずれも、相場にとってマイナスになる」と論じ、「今週の株式相場は反発しているが、短期的な勢いに乗ろうとしたり、昨年末に推奨したような高い株式エクスポージャーに戻したりは推奨しない。弊社はポートフォリオのリスクを戦術的に追加削減している」と説明した。

 アリアンツのモハメド・エラリアンは米FOXニュースのインタビューで、「新型肺炎を株式市場は気にしていない。一方で、債券市場とコモディティ市場はそれを懸念している」と語り、この相場で押し目買いをすべきではないと述べている。ジャブジャブの過剰流動性は株式市場だけを押し上げ、ファンダメンタルズから大きくかい離している。

ナスダック100先物、原油先物、米30年国債利回り、人民元相場の推移

今回の新型コロナウイルス騒動の逃避では株式市場だけが楽観的!

出所:ゼロヘッジ

 株式市場は中国の18兆円の資金供給や株価PKO(プライスキーピングオペレーション/価格維持政策)を好感し上昇しているが、この相場の実態は買い方の「投げ」と売り方の「踏み上げ」だけで構成されている。中国が新型肺炎の治療薬を開発したなどという話はガセネタであろう。

上海総合指数(日足)
 中国のセーフティネット「18兆円バズーカ」砲が発動で連日上げ相場に!

出所:石原順

MSCI世界株指数 
 危機が起こるたびに株が上がっていく『ニューアブノーマル』相場では危機で下げても全値戻しになる

出所:ゼロヘッジ

 個別銘柄を見ていても出来高が少ない。一般の投資家は参加しておらず、基本的には様子見の市場なのである。中央銀行とそれに付随する金融機関のPKO的な株価のつり上げだけの相場となっているのだ。「なんで上がっているのかわからない」との声が多いが、PKOは株が下ると行われるので、ニューアブノーマル相場では、中央銀行の救済をあてにした『変な相場』が延々続くのである。危機が起こると株が上がっていくというニューアブノーマル相場が継続中だ。

投資先は米国しかない。しかしそれは相対的にというだけである!

 アリアンツのモハメド・エラリアンの米FOXニュースのインタビューが今の相場のすべてを語っている。以下はそのインタビューの抜粋である。

Q) マーケットはコロナウイルスを心配するべきなのかそうでないのか決めかねているように見える。われわれは心配すべきか?

A) マーケットによるだろう。もし米国の株式市場についてならば問題ない。コロナウイルスによる不確実性を考慮すべき一方、早くも戻って再び高値をとっている。

 しかし、債券市場、あるいは商品市場は心配すべきである。これらはまだ流行前のレベルに戻っていない。つまりすべては圧倒的な流動性である。流動性が株式市場をそのほかのマーケットだけではなくファンダメンタルズからかい離させている。

Q) つまり言い換えると、株式市場には資金が溢れかえっているので、投資家はパンデミックのようなささいなことを気にしていないということか。

A)そうだ、これにはいくつか理由がある。一つはこれまで経験してきたショックの多くが一時的なものであり、すぐに元に戻ることを証明してきた。

 9月にサウジアラビアの石油施設が攻撃されたことやイランのソレイマニが殺された攻撃を思い出してみればいい。懸念は多かったが、マーケットはそれらが一時的ですぐに逆戻りすると見ていた、そしてそれは正しかった。

 次に、マーケットは中央銀行を信頼するという状態にあった。中央銀行が信頼できるならば、落ちたところはすべて買いだ。これがFOMO(Fear of Missing Out)効果、つまり乗り遅れる恐怖である。だからセルオフがあるたびに、そこが買い場となる。これらによってマーケットはファンダメンタルズとかい離した状態になっていると思う。

Q) 中央銀行がいつまでこのブルマーケットをサポートし続けることができるのか重要な論点だ。昨年秋、欧州の景気について懸念していると言っていた。ECB(欧州中央銀行)はリセッションを避けることができるのか、あるいはまだレーダーに入っているのか。

A)ともかく、数字はよくなっていない。今週、ドイツの産業に関する指数が2.1%減少した、これはこの10年で最大の下落である。加えて、先行きの見通しもかなり悪かった。

 つまりドイツはリセッション入りだろう。ドイツは欧州経済のけん引役であったが、欧州という列車の最後部になってしまった。大変心配している。

 ECBは何かできるのか。もちろんトライするだろう、しかし何もできないだろう。彼らはマイナス金利を導入した。彼らの金融政策は「暖簾に腕押し(金融政策の空振り)」になっているだけでなく、逆効果になっていることが懸念されている。

 マイナス金利は、市場経済のダイナミズムを食いつぶしてしまう。そして欧州の人々はそれを心配している。つまりECBは何かトライはするだろうが、経済の見通しを根本的には変えない。より包括的な政策対応が必要だろう。

ユーロ/ドル(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

出所:石原順インディケーター(楽天MT4)

ユーロ/ドル(4時間足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

出所:石原順インディケーター(楽天MT4)

Q) 一方で米中の貿易戦争は緩和しつつある、これについてはどう見ているか

A)良いことだ、一時停戦となった、しかしフェーズ2に進む方にはベットしない。むしろ緊張が再びエスカレートすることになるかもしれないと考えている。

Q) もう一つ今週、米国の政治で大きなヘッドラインがあった、マーケットは興味ないようだが、どう思うか

A)確かに興味がない、良い理由とあまり良くない理由がある。良い理由として、議論が早いことだ。現在進行形の不確実性があるときはポジションを取りたくないだろう。

 2つ目の理由は、これはよくない理由だが、マーケットは流動性にとらわれ過ぎていて、政治であろうが、地政学であろうが、経済であろうが、それ以外のことは気にしていない。コロナウイルスが良い例だろう。それは最も影響の大きい地域で始まり、そして拡大し始めている。

 バーバリーはセールスが75%落ち込んでいる。これは突然のストップである。フィアットでさえ、サプライチェーンの混乱を理由に欧州の工場の一つを閉鎖するという。航空会社も運行を取り止めている。こうした突然のストップのダイナミクスには注意すべきだろう。

Q) 世界経済において資産が高すぎずオポチュニティ(投資機会)があるとすればどこか?

A)経済的にはまず、一つ明るい点がある、それは米国だ。雇用統計は米国の状況が良いということを確認するものだった。

 新たに22万5,000の仕事を生み出しただけではなく、賃金も早いペースで上昇している。労働参加率と雇用者数のレシオはともに上昇した。良いニュースだ。米国経済は好調だ。米国の資産は、世界のそのほかの地域と比べると相対的にまだ魅力がある。

 しかしそれは相対的にというだけである。資産価格やリスク資産価格、それは株式であり、あるいは社債であるが、明らかに高い水準である。

出所:フォックスビジネス「US-China trade tensions will escalate again: Mohamed El-Erian」

 エラリアンは米国しか投資する先はないと言っているものの、それはあくまで相対的(比較感の問題)なものであって、手放しで推奨できるような絶対的なものではないということだ。

ドル/円は三角もちあいの攻防中だが、上値は重そう…

 ドル/円は110円台に乗せてきているが、上値は重そうな雰囲気だ。NYダウの連日の高値更新を受けて、もう少し上をうかがってもよさそうなものだが、110円台の滞留時間は短い。

 週足の三角もちあいの攻防は上値抵抗線で上値トライを阻まれた形になっている。週足の終値で明確に上抜けするまでは、ポジションを取りづらい。

 楽天MT4のドル/円の週足・日足をみると、日足では抵抗線を抜いてきており、110円台前半の壁を越えてくると上値に弾みがつくかもしれない。レイモンド・メリマンのアストロロジーでは、米国時間の2月16日から3月9日までは水星逆行の期間に入る。水星逆行期間は統計的にテクニカルの“ダマシ”や相場のギザギザなランダム相場が出現しやすいという。ドル/円が三角もちあいを上放れても、“ダマシ”に終わるかもしれない。

ドル/円(週足)と三角もちあい

出所:楽天MT4

ドル/円(日足)と三角もちあい

出所:楽天MT4

2月12日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 2月12日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹氏(楽天証券執行役員 兼 株式・デリバティブ事業本部長)をお招きして、『新型ウイルス感染は再加速する可能性も・分散投資とは何か!?・米大統領選と中銀バブル相場』というテーマで話をしてみた。

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから土居雅紹氏と筆者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。

土居雅紹氏資料

出所:楽天証券
出所:楽天証券

2月12日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー(ラジオNIKKEI)

出所:YouTube

3月7日投資戦略フェアで石原順逆張りインディケーターをプレゼント!(楽天FX石原順講演)

 投資戦略フェアEXPO 2020(3月7日東京開催)で、石原順の講演があります。投資戦略フェア石原順講演参加者全員に石原順逆張りインディケーター(楽天MT4専用)をプレゼント!します。ぜひ、ご来場ください。

投資戦略フェア2019年(大阪)楽天FX提供

出所:石原順