●原油相場はおよそ5カ月ぶりの高値圏へ到達
背景には「世界の原油需要拡大」「OPECの減産拡大」などの思惑がある。

●逆にOPEC13カ国が3カ月連続での減産を順守できず生産が上振れしている
米国が季節的に需要の減る時期に入り原油在庫が増え始めているなどの弱材料がある。足元の原油市場は強材料を重視する傾向がある。

●強弱材料が混在したままなので、このまま一本調子の上昇が続くとは考えていない
原油価格は、当面42ドルから54ドルのレンジ内の値動きが続くとの見方を継続する。

WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格が5カ月ぶりに50ドルに到達しました。7月下旬につけた高値を超え、5月下旬以来の水準まで上昇しています。

図:WTI原油先物価格(期近) 単位:ドル/バレル

出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 

原油相場はおよそ5カ月ぶりの高値圏へ到達

背景には「世界の原油需要拡大」「OPECの減産拡大」などの思惑がある

 9月14日(木)に米エネルギー省が公表した国際エネルギー展望2017で、2040年の世界の総エネルギー消費量は2015年に比べて28%増加する見通しであると報じられました。世界のエネルギー成長の大部分(2015年時点で世界の消費の半分以上)を占める中国・インド等の非OECD(経済協力開発機構)諸国の長期的な経済成長がその背景にあります。

 また今週に入り、OPEC(石油輸出国機構)加盟国の要人が現在実施している減産(昨年11月に合意、今年1月より開始、来年3月が終了予定)について、期間の延長や減産幅拡大の可能性について発言をしました。原油市場は日々、さまざまな材料を織り込みながら動いていますが、先週から今週にかけて特に、中国・インド等の長期的な需要拡大やOPECの減産拡大などへの思惑を織り込みつつ上昇しています。
 

上記の他、米シェール生産の下方修正などの強材料

逆にOPEC13カ国の3カ月連続での減産非順守などの弱材料があり、強材料と弱材料が混在。足元の原油市場は強材料を重視する傾向がある

 先週から今週にかけて原油に関するさまざまなデータが公表されました。公表されたデータを分類し、足元、筆者が注目している「米シェール」「ハリケーンの影響」「減産国の動向」の3つのテーマについて、それぞれの強材料・弱材料を確認してみました。

図:3つのテーマにおける強材料と弱材料

出所:筆者作成 

報道で伝わってこない材料もありますが、この3つのテーマにおいては強材料も弱材料もあり、どちらかに偏っているわけではありません。以下より、3つのテーマについての詳細を示します。


・「米シェール」について

図:米シェール主要7地区の原油生産量の推移 単位:百万バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

 今週初めに公表された米シェール主要地区の原油生産量について、昨年から続いているシェール主要地区の原油生産量の増加傾向は継続していることが確認されました。8月は過去最高に迫る日量およそ590万バレルでした(過去最高は2015年3月の日量およそ596万バレル)。増加傾向を維持している点は、原油市場にとって弱材料に映ります。一方、7月の生産量は日量568万バレルに修正されました。これは先月公表された7月の生産量よりもおよそ11万バレルの下方修正となります。同時に2016年12月から2017年6月までの生産量も下方修正されました(上図を参照ください)。
 

 ・「ハリケーン影響」について

図:米国の原油生産量(アラスカ・ハワイを除く) 単位:千バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

過去2回、ハリケーンで減少した時に比べて減少幅は軽微です。それでも生産量が減少している点はこのテーマにおける強材料と言えます。
 

図:製油所への原油のインプット量(上)と製油所稼働率(下) 

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

一方、こちらのグラフのとおり、製油所への原油インプット量と製油所の稼働率が大きく減少・低下しています。製油所稼働率の低下による原油の物余りの可能性があり、この点はこのテーマの弱材料と言えます。過去と比べ、落ち込みの深さは同程度ですが、どのタイミングで通常に戻るか、戻るまでの期間に注目したいと思います。
 

・「減産国の動向」について

以下は、9月12日(火)にOPECが公表した月報を基に作成したサウジアラビア単体とOPEC全体の原油生産量の推移です。

図:サウジアラビアの原油生産量 単位:万バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

 8月の月報で公表された7月の原油生産量(速報ベース)は日量1,006.7万バレルでした。このデータでは、サウジアラビアは昨年11月に合意した生産量の上限(日量1005.8万バレル)を、減産開始後初めて上回っていました。OPEC盟主のサウジの減産非順守は減産を実施している国の減産モチベーションを低下させたと考えられます。

 しかし、今月の月報では7月の原油生産量が日量1,003.2万バレルに下方修正されていました。この下方修正により、サウジアラビアの生産枠を超えた生産はなかったことになり、同国は減産開始後、上限を守り続けていることになりました。サウジの生産量が下方修正され、生産枠を守り続けている点は原油市場にとっては強材料です。一方、以下のとおりOPEC13カ国の原油生産量は、8月は7月に比べて減少したものの、6月以降、13カ国で順守するとした日量3,250万バレルを超えた生産が続いています。この点は原油市場にとって弱材料です。

図:OPEC13カ国の原油生産量 単位:万バレル/日量

出所:米エネルギー省のデータを基に筆者作成

 

強弱材料が混在したままなので、このまま一本調子の上昇が続くとは考えていない

原油価格は、当面42ドルから54ドルのレンジ内の値動きが続くとの見方を継続する

上述の3つのテーマにおいては強材料も弱材料もあり、どちらかに偏ってはいません。 また、冒頭で述べた「世界の原油需要拡大」「OPECの減産拡大」の思惑については、ともにまだ実現していないことから、評価するには時期尚早と考えます。前者は非常に長いスパンの話であること、後者はこれまでのOPECの振る舞いから仮に減産拡大で合意したとしても、順守されるか疑問です。 つまり、まだ現在の原油価格は期待先行で上昇していますが、このまま一本調子の上昇が続くとは考えていません。もちろん、投機筋の思惑で一時的に上値を伸ばす可能性はありますが、筆者は現在の世界の需給のトレンドを見る限り、当面42ドルから54ドルのレンジ内で推移すると見ています。

図: WTI原油先物価格(期近) 単位:ドル/バレル

出所:CMEのデータを基に筆者作成