1月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 新型肺炎の感染拡大…誰も事前に予想し得なかったリスクが1月の日本株市場を襲いました。1月の月間騰落率は、日経平均株価▲1.9%、TOPIX(東証株価指数)▲2.1%、日経ジャスダック平均▲1.1%(5カ月ぶりの月間マイナス)、東証マザーズ指数▲8.3%でした。マザーズ指数は、1月としては2008年1月以来の下落率に。昨年の大発会以来、約1年ぶりの安値水準となりました。

 1月に特に弱かったのがマザーズだった理由は、新型肺炎の拡大が意外な形で「流動性を奪った」ため。大発会からしばらく、中東有事リスクの浮上で日経平均が乱高下。クリスマス休暇明けでヘッジファンドも戻っていたタイミングでもあり、日経平均のボラティリティ復活により、個人投資家も日経平均ブルベア型ETF(上場投資信託)に資金を向けました。この影響で流動性が低下した段階では、直前の12月に活況だった12月IPO群の利益確定売りが目立った程度。マザーズ指数の構成銘柄に入っていないため、マザーズ指数への影響はゼロでした。

 そのマザーズ指数が崩れたのは、新型肺炎を意識し始めた24日以降。そのタイミングと前後して株式市場で大盛り上がりとなったのが「新型肺炎の防疫関連株買い」。マスクの品切れや価格高騰を連日メディアでも取り上げていましたよね。ここから広がったのが、「マスクの特需すごそう」「防護服も需要増えそう」「ウイルス除菌製品も売れる」「ワクチン開発で臨床試験も増えるはず」といった連想ゲーム…。

 東証1部のシキボウやエアーテック、東証2部の川本産業、マナック、アゼアス、ジャスダックの興研、重松製作所、中京医薬品などに短期資金が殺到。記録的なバブル相場を演じるなかで、手持ちのマザーズ銘柄を売ってエントリーする短期勢もいたとみられます。マザーズ銘柄に売り圧力がかかりながら、流動性までも奪われたため、下方向へのバイアスが想像以上に強くかかりました。

 また、今回の防疫関連株で盛り上がった銘柄群にマザーズ銘柄はなく…これが1月にマザーズ指数大幅安を引き起こした経路です。マザーズは、この手の感染症との相性が非常に悪いということを、今後の教訓として覚えておくしかないですね。

1月の売買代金ランキング(人気株)

 昨年12月まで続いた首位ワークマンの牙城を、マザーズのJTOWER(4485)が崩しました。1月のトップのJTOWERは昨年12月に上場した直近IPO株。そのほかのランクイン銘柄では、3位のマクアケ(4479)、6位のスペースマーケット(4487)、11位のフリー(4478)、18位のJMDC(4483)も昨年12月上場。その大半が、初値が付いたあと12月末にかけて上昇した分を溶かすような展開でした。

 また、月後半に流動性が跳ね上がってランクインしたのがマスク関連株の興研(7963)、重松製作所(7980)。新型肺炎の拡大懸念…これを逆手にとった火事場泥棒的な売買ですが、ここまで盛り上がるとは驚きでした。「値幅がとれたらOK」、そんな感覚で株売買をしている個人投資家が想像以上に多くなっているのでしょう。そして、そういう投資家ほどリターンを得たのが1月でしたが…。

市場 コード 銘柄名 1月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金25日
移動平均値
(億円)
月間騰落率
(%)
東証マザーズ 4485 JTOWER 3,805 775 80.6 -15.3%
ジャスダック 7564 ワークマン 8,900 7,284 59.4 -12.7%
東証マザーズ 4479 マクアケ 4,365 495 52.7 0.1%
東証マザーズ 4592 サンバイオ 2,290 1,186 30.3 -13.0%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 1,846 801 28.9 -29.6%
東証マザーズ 4487 スペースマーケ 1,165 131 27.8 -27.2%
東証マザーズ 4385 メルカリ 1,923 2,961 26.2 -14.0%
東証マザーズ 4565 そーせい 1,932 1,490 25.0 -11.0%
ジャスダック 7963 興 研 3,980 203 24.5 193.9%
東証マザーズ 4564 OTS 96 160 24.0 12.9%
東証マザーズ 4478 フリー 3,135 1,506 23.7 -2.8%
ジャスダック 7980 重松製 2,630 189 23.5 275.2%
東証マザーズ 3990 UUUM 3,180 618 22.2 -33.2%
東証マザーズ 6182 ロゼッタ 3,760 388 19.9 -4.7%
東証マザーズ 6255 エヌピーシー 445 98 19.5 -13.8%
ジャスダック 6838 多摩川HD 3,030 139 18.4 1.6%
ジャスダック 2702 マクドナルド 5,180 6,887 16.9 -1.1%
東証マザーズ 4483 JMDC 5,400 1,403 15.4 20.1%
東証マザーズ 4880 セルソース 12,570 250 15.2 11.2%
ジャスダック 4644 イマジニア 1,543 164 14.1 38.6%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 JTOWER(4485・東証マザーズ)

 昨年12月18日に上場、公開価格1,600円、初値は2,620円。携帯キャリアに対して、携帯基地局を貸し出すシェアリング事業を展開する日本では唯一の企業です。今後、オフィスや商業施設内の屋内基地局の共有化が進みます。今年から本格的に始まる5Gインフラ投資が背景にあり、5G関連のニューカマーでニッチ分野のトップ企業といえます。

 ポテンシャルの高さを見越してか、9日に「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスが発行済み株数の6.12%を保有したとして大量保有報告しました。また、20日付でSMBC日興証券が投資判断を最上位の「1」、目標株価5,400円でカバレッジ開始。機関投資家も関心を寄せるマザーズ銘柄のニューカマーといえそうです。

2 ワークマン(7564・ジャスダック)

 昨年の新興株MVP銘柄でしたが、1月は月間で▲12.7%と苦戦。月間の下落率は2016年5月(▲15.8%)以来の大きさとなりました。日次ベースでも、1月の19営業日のうち、前日比で上昇したのが5営業日、下落したのが14営業日でした。

 大発会の6日に発表した12月の既存店売上高は前年同月比+28.7%と絶好調。冬場は防寒アウターやウォームパンツ、防寒シューズなどの冬物がよく売れたようです。特段の調整理由は見当たらないものの、“節目の大台1万円割れ”が利益確定売りを急がせるトリガーだったのかもしれません。

3 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 上場初日を同社株のピークとし、調整が続くメルカリ。22日に約1年ぶりの2,000円割れとなると、30日安値の1,815円まで見切り売りに押されました。

 見切り売りに拍車をかけたのが、23日に発表した同社子会社メルペイによるスマホ決済のオリガミ買収でした。スマホ決済の草分けでもある「オリガミペイ」と、自社の「メルペイ」のサービスを統合。加盟店の開拓を強化していくとのことですが、資金力でシェア獲得を急ぐPayPayやauPAYに勝てない弱者連合との冷めた見方がなされているようです。

4 OTS(4564・東証マザーズ)

 16日の後場に、食道がん患者を対象としたがん特異的ペプチドワクチン「S-588410」のフェーズⅢの進捗に伴うマイルストーンを塩野義製薬から受領すると発表。このマイルストーンは第4四半期(2020年1-3月期)に事業収益として計上、期初の業績予想には織り込んでいないとしたことから、増額修正狙いの買いが群がりました。

 発表時の株価が80円台と超低位株だったこと、マザーズ市場に手詰まり感が強かったことが融合。20日には出来高が1億3,000万株(発行済み株数の約8割!)に膨らみ、この日の東証マザーズ市場全体の出来高1億7,228万株の実に75%を占めるほどに…OTS株に狙いを絞った短期勢のスキャルピングで、同日の東証マザーズ市場の出来高を2017年6月15日以来の高水準に押し上げました。

5 UUUM(3990・東証マザーズ)

 14日に発表した今中間期決算を契機に、成長期待が剥落。22日に昨年来安値を更新した後も押し目買いムードは広がらず、月間下落率▲33.2%は2017年8月の上場以降で最悪パフォーマンスとなりました。

 今中間期の売上高は前年同期比25%増、営業利益は同7%増。増収増益とはいえ、第2四半期(9-11月)に限った営業利益は同11%減だった点が嫌われたようです。YouTubeからの収益が前年同期に大きく伸びた反動のほか、人件費の増加も収益を圧迫。また、最近は芸能人や著名スポーツ選手による動画投稿も増えていますので、視聴者の関心が散らばっているのではないか?という懸念も出ているようです。同社株を保有する中小型ファンドは多いとみられ、機関投資家の市場売却も出ているような崩れ方ともいえそうです。

1月の株価値上がり率ランキング

 値上がり率ランキング上位3社に関しては「凄まじい」の一言。この3社は、新型肺炎の防疫関連株です。値上がり率トップの中京医薬品は、1カ月で約6倍…ここに掲載しているのは新興株だけですので、新興株以外(東証1・2部)にはもっと上もいました。全市場で断トツだったのが、東証2部の川本産業(3604)。昨年12月末終値447円に対して1月末終値は3,795円、月間騰落率は+749%(!)でした。

 中京医薬品にしても株価が6倍になって時価総額156億円ということは、このバブル相場が来る前の時価総額は30億円にも届かなかったわけです。今回流行した新型肺炎の防疫関連株が超小型株、超低流動性株だらけでした。そこに、大勢の投機好き個人投資家マネーが大挙したことで売りと買いのミスマッチが発生。極度の需給ギャップが導いたオーバーシュート(と呼べばかっこいいですが、単なるやりすぎ)でした。

市場 コード 銘柄名 月間騰落率
(%)
1月末
終値
前月末
終値
時価総額
(億円)
ジャスダック 4558 中京医薬 499.1% 1,342 224 156
ジャスダック 7980 重松製 275.2% 2,630 701 189
ジャスダック 7963 興 研 193.9% 3,980 1,354 203
ジャスダック 5216 倉 元 100.0% 244 122 39
ジャスダック 6635 大日光 97.4% 1,297 657 35
ジャスダック 3417 大木ヘルケア 65.8% 1,658 1,000 233
ジャスダック 4978 リプロセル 61.6% 341 211 243
ジャスダック 4556 カイノス 55.1% 1,433 924 65
ジャスダック 6734 ニューテック 48.5% 1,990 1,340 41
ジャスダック 6408 小倉クラ 47.8% 5,090 3,445 79
ジャスダック 2303 ドーン 40.1% 2,269 1,620 75
ジャスダック 3444 菊池製作 39.9% 1,129 807 139
ジャスダック 4644 イマジニア 38.6% 1,543 1,113 164
ジャスダック 9691 両毛シス 38.4% 3,035 2,193 107
ジャスダック 7808 CSランバー 35.0% 1,650 1,222 30
東証マザーズ 3138 富士マガ 34.8% 1,093 811 36
ジャスダック 5983 イワブチ 34.0% 8,860 6,610 97
ジャスダック 4347 ブロメディア 32.9% 109 82 86
東証マザーズ 6560 LTS 31.3% 1,838 1,400 76
ジャスダック 7878 光・彩 31.1% 3,260 2,486 13

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 中京医薬品(4558・ジャスダック)

 新型肺炎の防疫関連株に位置付けられ、株価は月間で約6倍に。上場したのは1997年ですが、1月の上げ一発で13年9カ月ぶりの高値を更新、上場来高値を更新してしまいました。『Air Mask』という除菌剤を扱っていることで、「ウイルス対策で特需があるんではないか?」なる思惑につながったようです。

 22日~月末31日まで、実に8営業日連続のストップ高に。前月末時点の25日移動平均売買代金は462万円でしたが、1月末時点では1億3512万円に激増。突如発生した買い注文のサイズに売り注文のサイズが全く見合わなかった…小型IPOの初値が高騰するのと同じ仕組みですね。

2 重松製作所(7980・ジャスダック)

 新型肺炎の防疫関連株の中でも、品切れ続出のマスク関連株として特に人気化。1月だけで株価は3.7倍に急騰し、確認できる1985年以降では最高値となりました。

 同社は、防じん・防毒マスクの老舗企業。売上高の約5割がマスクということもあって、特需発生への思惑は当然出るわけですが…。東証が29日の売買分から信用規制をかけており、今回の大相場の原動力は“個人投資家による新規の信用買い”だったことは明らか。高値を付けた1月末の予想PERは130倍台、理屈を超えた高株価を付けました。

3 興研(7963・ジャスダック)

 今回の新型肺炎の防疫関連株祭りによって、個人投資家の中での知名度も跳ね上がった銘柄といえます。上げの原動力は、重松製作所と同じく“個人投資家による新規の信用買い”。重松製作所と同じ、29日に東証が信用規制をかけました。

 同社は、独自のフィット技術で『ハイラック』というブランド名のマスクを作っています。このマスクは、一般的なサージカルマスクの漏れ率が63%程度あるのに対し、漏れ率0.56%という驚異の数値の製品だそうです。売上高に占めるマスク関連事業の比率は約9割、マスク関連株としての濃度が高いといえそう。

4 リプロセル(4978・ジャスダック)

 27日~29日の3営業日だけで株価は2倍化し、値上がり率の7位にランクイン。きっかけは、同社が今春にも再生医療用のiPS細胞の製造受託サービスを始めると報じられたこと。安全性が高く、日米欧の規制にも対応しているといった内容も記載されていました。

 新型肺炎リスクへの警戒で地合いが悪いなかで材料が出たこと、しかも株価200円台の低位株だったことが相まって、想像以上の反応になったといえそうです。

5 ドーン(2303・ジャスダック)

 9日、今2020年5月期の業績予想の上方修正を発表。売上高を9.8億円→10.3億円、営業利益を2.2億円→2.57億円にそれぞれ増額しました。

 クラウドサービスの新規顧客獲得が計画よりハイペースであること、既存顧客の機能拡張によるシステム開発の受注があったことなどを増収の理由としています。売上が想定より伸びた場合でも、製造原価を抑えることができるビジネスモデルのようです。1月の値上がり率上位銘柄では、数少ない業績サプライズで買われた銘柄でした。

2月に注目したい新興株の動き

 1月に新興株が下げた最大の理由は、「新型肺炎の防疫関連株に短期資金が群がったこと」。はっきりした理由があるだけに、1月に爆騰した中京医薬品や重松製作所、興研などのバブルが弾けた時点でリバウンドが起きることも明確です(2月3日にバブルが弾け、マザーズも無事リバウンド)。ただ、今回は相手が病原体だけに、終息宣言が出る前から「もう気にしなくても大丈夫」とも言いにくいのですが…。

 マザーズ指数に関しては、2月から構成銘柄に12月IPO銘柄が加わりました。1月末終値時点で計算したところ、12月のマザーズIPO18銘柄の中で、マザーズ指数のウエイトが高い銘柄はフリー(指数ウエイト2.91%)、JMDC(同1.23%)、JTOWER(同1.14%)。18銘柄合計で指数ウエイトは「8.92%」ですので、結構高いですね。日経平均株価の最大ウエイト銘柄ファーストリテイリングが8.9%ですので、12月IPOを塊として考えると「日経平均におけるファストリ」みたいな感じ。直近IPOが盛り上がる場面が生まれれば、マザーズ指数を結構押し上げます(逆なら押し下げる)。

 2月は7日から2020年のIPOが再開します。4銘柄が予定していて、うち2銘柄(7日のジモティー、25日のAHCG)がマザーズ上場。銘柄数が少ないので、物色のターゲットが直近IPOに向かってくれれば活気付くのですが…。今マザーズに求められるのは、物色の柱と呼べるような銘柄やテーマ。昨年はサンバイオショックがありましたが、2月にアンジェスが活況化。良くも悪くも“バイオ”が柱でした。何が出てきますかね、今年は…。

 昨年、マザーズ銘柄で一番上がったのは、オンライン英会話のレアジョブ(6096)でした(年間で株価は11倍に!)。株価が変貌する起点になったのが昨年の今頃、2月に発表した決算でした。何のテーマが流行るかを予測することは困難ですが、今回の新型肺炎の防疫関連株と同じで、短期の物色などは線香花火と同じ。すぐに関心も霧散してしまい、その先は闇です。

 マザーズ銘柄の決算発表は、今月12日に26社、13日に58社、14日に75社が予定しています。この中で、好決算を出すものを確認し、株価が強く反応しているものを追い駆ける…このスタンスで“第2のレアジョブ探し”をしていきたいところです。