はじめに

 今回のアンケート調査は2020年1月27日(月)~1月29日(水)の期間で行われました。

 2020年相場の最初となる1月末(31日)の日経平均は2万3,205円で取引を終えました。前年末終値(2万3,656円)からは451円の下落、月足ベースでも5カ月ぶりの下落となっています。

 あらためて1月相場を振り返ってみますと、イランの要人がイラクの空港で米国の空爆によって殺害される事件を背景に地政学的な緊張が高まったことで、年初の株式市場はいきなり軟調なスタートとなりました。

 その後はすぐに切り返し、月の半ばには日経平均が2万4,000円台を回復する場面も見られましたが、月末にかけては中国武漢で発生した新型肺炎ウイルスの感染拡大が懸念されて再び下落に転じました。前月末比での下落幅に比べて月間を通じた値動きはかなり荒っぽいものとなった印象です。

 このような中で行われた今回のアンケートですが、4,200名を超える個人投資家からの回答を頂きました。日経平均と為替の見通しDIはそれぞれ株安・円高となり、前回調査より悪化する結果となりました。

 次回も是非、本アンケートにご協力をお願いいたします。

日経平均の見通し

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

「DIはまちまち 晴れない中長期の見通し」

 今回調査における日経平均の見通しDIの結果は、1カ月先がマイナス40.54、3カ月先はマイナス5.83となりました。

 前回調査の結果(それぞれ7.05とマイナス3.60)と比べると、1カ月先が大きくマイナスに転じ、3カ月先もマイナス幅をわずかに広げた格好ですが、とにかく1カ月先DIの悪化幅が目立っています。回答の内訳グラフを見ても、弱気派が半分以上を占めています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 1カ月先DIのマイナス幅がここまで大きくなったのは、昨年2019年8月調査(マイナス49.39)以来になるのですが、昨年の8月といえば、為替操作国の認定や対中制裁関税第4弾の実施を公表するなど、米国が中国に対して圧力を強め、株価が軟調に推移していた時期でした。さらにさかのぼると、2018年12月調査の時も1カ月先DIがマイナス50.60とかなり悪化していました。この時も、米長期金利の上昇や、中国企業の華為技術(ファーウェイ)の副会長がカナダで拘束されたことを受けて、株式市場が大きく下落していた時期と重なります。

 とはいえ、1カ月先DIの値が大きく悪化した直近の過去2回について、その後の株式市場が中期的な上昇トレンドに転じています。つまり、マイナス幅の大きいDIが相場底打ちのサインとして機能しており、今回調査の結果も同様の展開となれるかが2月相場の注目点になります。

 1月の日経平均の値動きは「下落→上昇→下落」となりましたが、株価材料と重ね合わせると、(1)最初の下落は中東情勢悪化懸念で2万3,000円台割れ、(2)続いての上昇は米中合意文書への署名に伴う国内外の景況感や企業業績の改善期待で2万4,000円台乗せ、そして、(3)中国発の新型肺炎ウイルス警戒による再度の2万3,000円割れ、という具合にざっくり整理できます。この3つの中で今後も相場に影響を与えそうなのが(2)と(3)です。

 まず、(2)の米中関係ですが、足元の市場が楽観材料として織り込んでいる「フェーズ1・ディール(第1段階の合意)」が、実は「米中摩擦の第2幕のはじまり」となる可能性があります。そのポイントは、「今後2年間で中国が米国からの製品・産物・サービスの購入額を2,000億ドルに増やす」という合意内容の項目です。この金額規模は景気の状況がおぼつかない中国経済にとってかなりの負担です。

 合意内容の履行は、次の合意(フェーズ2・ディール)の進展や、さらなる制裁関税の引き下げの条件となっていますので、今後の中国側の動きが注目されます。具体的に考えられるものとして、これまで他国から購入していた品目を米国に切り替えたり、人民元を元高に設定したり、市場の開放やビジネスルールの国際化などの改革を進めることなどが挙げられますが、合意の順守と施策の状況によっては、今後の欧州や日本、新興国経済への影響が出てくるほか、今回の合意内容自体が新たな摩擦となる火種になるかもしれないことに注意しておく必要があります。

 また、(3)の新型肺炎ウイルスについても、不安を反映する格好で株価水準を一段切り下げる展開になっていますが、今回の株安を買いの好機と捉える動きもあるようです。その根拠となっているのが、2002年から2003年の8カ月のあいだに猛威を振るったSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験です。

 この期間の日経平均は1割ほどの下落にとどまり、早い段階で上昇に転じました。今回の新型肺炎ウイルスについてはまだ感染が拡大中のため、調整局面がまだしばらく続きそうですが、いずれ収まるのであれば、業績の回復がきちんと見込める銘柄を中心に買いを入れるチャンスとなるわけです。

 とはいえ、2002~2003年当時と現在とでは、中国の世界経済に与える存在感と影響度は格段に大きくなっていることには留意しておく必要があります。感染拡大がなかなか収束できないと、インバウンド関連やサプライチェーンに中国を組み入れている企業の業績の回復がそれだけ遅れることになります。

 さらに、事態の長期化は3月の中国全人代(全国人民代表大会)や習近平主席の訪日、東京五輪などにも影響を及ぼす可能性があるほか、日本国内の感染者増加の状況によっては政権与党への批判を高めてしまいかねません。

 それ以外にも、株価水準の違いがあります。SARS流行時の米景気は、2000年4月からの「ITバブル」の下落基調が最終局面に近い状況だったため、株価の下落が比較的限定的にとどまりましたが、足元の米景気は10年以上続く拡大局面の終盤であることや、株価も米国で史上最高値圏、日本でもバブル後高値をうかがうところに位置しています。

 そのため、新型肺炎ウイルスによる株価下落は中長期的に見て「買い場」になりそうですが、株価の調整が思ったよりも深くなる懸念がくすぶり、慌てて積極的に買いを出動させるよりも、状況を注視しながら臨むのが良いのかもしれません。

為替DI:円安終了?投資家の円高見通し強まる!

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

「2月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

 楽天証券が先月末に実施したアンケートにご回答頂いた4,240名のうち、最も多かったのは「円高に動く」という結果になりました。1,752名(約41.3%)が円高を予想する一方で、最も少なかったのは「円安に動く」の1,078名(約25.4%)。「中立」は1,410名(約33.3%)でした。

「円高」と「中立」を合わせると全体の約75%を占めました。2月のドル/円は「横ばいか、動くとすれば円高」というのが、投資家の代表的な相場観ということです。

 DI(円安見通しから円高見通しを引いたもの)は▲15.9で昨年9月以来のマイナスとなりました。これは投資家の相場見通しが円高方向へ大きく変化したことを示しています。1月末からニュースの中心になっている新型コロナウイルスの感染拡大が影響していることは確かです。

 DIの円高見通しは強まったのですが、1月が円高相場だったかといえばそうではなく、ドル/円は2019年5月以来の110円台までドル高/円安が進んでいます。どちらかといえば円安相場だったのですが、月末からの新型コロナウイルス感染拡大のニュースが投資家の相場観に強く影響したようです。この問題が落ち着くにしたがって、ドル/円が上昇に転じる可能性も高くなるでしょうが、投資家の多くはドル/円の天井を110円辺りで精一杯、111円を超えるような円安は期待していないようです。

 2月のドル/円相場は、108.76円がピボット(転換点)になります。そして、この水準から離れていくほど、円高あるいは円安の勢力が強まっていくと考えます。

 円高方向は、107.65円から106.13円辺りまでをレンジの下限と想定して、押し目買いスタンス。しかし、このレンジを抜け出して105.74円に向けて下がっていくなら買い下がりは見直し。 104.60円を下に抜けるなら、中期的円高トレンドに入ったシグナルとして、その方向についていくことを検討します。

 円安方向は、109.88円から1月高値110.29円、111.40円辺りまでをレンジの上限と想定して戻り売りスタンス。しかし112円を超えさらに112.52円に向けて上昇するならば、中期的円安トレンドが強まったシグナルとして、その方向についていくことを検討します。

112.52円 : 第3レジスタンス
112.40円 : 2019年 高値(2019年04月24日)
111.69円 : 05月高値(05月03日)
111.40円 : 第2レジスタンス
110.29円 : 01月 高値(01月17日)
109.88円 : 第1レジスタンス
108.97円 : 01月 平均値

108.76円 : ピボット

108.20円 : 2019年 平均値
107.65円 : 01月 安値(01月08日)
107.24円 : 第1サポート
106.48円 : 2019年 10月 安値(2019年10月03日)
106.13円 : 第2サポート
105.74円 : 2019年 09月 安値(2019年09月03日)
104.60円 : 第3サポート
104.01円 : 2019年 安値(2019年01月03日)

今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい金融商品」で、「金やプラチナ地金」と回答したお客様の割合に注目します。

 当該質問は複数回答可で、選択肢は、国内株式、外国株式、投資信託、ETF(上場投資信託)、REIT(上場不動産投資信託)、国内債券、海外債券、FX(外国為替証拠金取引)、金やプラチナ地金、金先物取引、原油先物取引、その他の商品先物、特になしの13個です。

図:質問「今後、投資してみたい金融商品」で、「金やプラチナ地金」を選択した人の割合 (2009年1月~2020年1月)

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 2020年1月の調査において、「金やプラチナ地金」を選択した人の数は全回答者の16.6%でした。これは、2017年9月以来、およそ2年半ぶりの水準です。

 調査期間は1月27日(月)から29日(水)であったことから、新型肺炎の感染拡大による不安増大が、個人投資家の皆様の金への関心を高めたと考えられます。また、新型肺炎の感染拡大だけでなく、1月3日に発生した米国によるイラン要人殺害事件も、不安増幅の要因になったと考えられます。

 世界規模の感染症、複数の国が関わる政治色の強い事件…これらが重なったことで、“何かあったら金(ゴールド)”という思惑が強まり、今回の調査で、「金やプラチナ地金」を選択した人の割合がおよそ2年半ぶりの水準に上昇したのだと思います。

 筆者はこの結果を受け、もう一歩踏み込んだ分析をしてみました。楽天DIで毎月行われている質問の中に、「1カ月後の日経平均の見通し」について、“強気”、“中立”、“弱気”のいずれかを選択するものがあります。

 今回の調査で「金やプラチナ地金」を選択した人たちが、「1カ月後の日経平均の見通し」を、どのように回答をしたのかについて調べました。

図:「金やプラチナ地金」を選択した人の「1カ月後の日経平均の見通し」の選択状況(2020年1月調査)

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 今後投資をしてみたい金融商品に「金やプラチナ地金」を選択した人において、「1カ月後の日経平均の見通し」を“強気”と回答していた人の割合は11.9%、“中立”は37.3%、“弱気”は50.8%でした。

 この結果は、金やプラチナ地金に関心を抱いている人の中に、目先の日経平均の動向に不安を感じている人が比較的多いことを示しています。

 逆に言えば、株式投資に不安を感じる人の中には、不安な時期を上手く乗り越えるべく、貴金属への投資も視野に入れている投資家の皆さまが存在することを、示していると言えます。このデータから、分散投資の考え方を、積極的に取り入れようとしている投資家の方がおられることを、改めて感じた次第です。

 引き続き、設問「今後、投資してみたい金融商品」で「金やプラチナ地金」と回答した人の割合、そして「1カ月後の日経平均の見通し」に、注目していきたいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2020年1月調査時点(複数回答可)

投資対象 割合 前回比
国内株式 53.21% ▲ 0.79%
外国株式 41.93% + 1.21%
投資信託 38.58% ▲ 6.88%
ETF 26.67% ▲ 3.86%
REIT 14.74% ▲ 1.56%
国内債券 5.35% ▲ 0.50%
海外債券 8.11% ▲ 0.08%
FX 9.69% + 0.73%
金やプラチナ地金 16.63% + 3.27%
金先物取引 2.43% +0.57%
原油先物取引 1.44% + 0.01%
その他の商品先物 1.58% + 0.52%
特になし 7.22% + 1.11%
出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域) 2020年1月調査時点(複数回答可)

国名 割合 前回比
日本 33.23% + 0.53%
アメリカ 60.57% + 1.01%
ユーロ圏 5.12% ▲ 0.39%
オセアニア 3.61% ▲ 1.24%
中国 8.75% ▲ 1.64%
ブラジル 3.92% + 0.35%
ロシア 2.81% + 0.12%
インド 24.43% ▲ 4.45%
東南アジア 21.72% ▲ 2.79%
中南米(ブラジル除く) 2.48% ▲ 0.01%
東欧 1.82% ▲ 0.12%
アフリカ 6.27% ▲ 0.32%
特になし 8.35% + 0.16%
出所:楽天DIのデータより筆者作成