ユニゾHDに敵対的買収

 最近、純資産価値から見て極端に割安に放置されている株に、敵対的買収を仕掛ける動きが、日本でも復活しています。昨年は、ユニゾHD(3258)へのTOB(テイク・オーバー・ビット:株式公開買付け)が話題になりました。日本株で、買収価値から見て割安な銘柄が増えてきたことから、今後、このような敵対的TOBは増えていくことが予想されます。

<参考>ユニゾHDへの敵対的買収、買収合戦
ユニゾHDは、ホテル事業などを展開する不動産会社で、2019年3月時点で保有不動産に1,137億円の含み益があります。ところが、昨年6月まで株価は長期低迷していて、昨年6月末には株価1,844円、実質PBR(株価純資産倍率)で0.3倍まで売り込まれていました(実質PBRは、含み益の70%を自己資本に加えて計算したPBR)。そこに、HISや海外ファンドなどから敵対的買収がかかり、2月5日時点で株価は3倍の5,580円まで上昇しています。それでも実質PBRは0.9倍と、まだ1倍を割れています。

【注】含み益
時価と取得原価の差額。100億円で買った不動産が120億円まで値上がりしたとき、帳簿上100億円で計上している不動産に、20億円の含み益が存在することになります。

ユニゾHD株価推移:2019年1月4日~2020年2月5日

出所:賃貸不動産の含み益は、同社有価証券報告書

敵対的買収が再び増える可能性も

 今日は、「含み資産株」の話をします。今、日本の株式市場には、保有不動産に巨額の含み益があるにもかかわらず、株価が、純資産価値と比べてきわめて割安な水準に留まっている銘柄がたくさんあります。

 2005年に大活躍したハゲタカファンド(買収ファンド)がいれば、真っ先に狙われそうな銘柄群です。ところが、2006年以降、ハゲタカファンドは日本からほとんど撤退しました。

 ハゲタカが去り、割安な「含み資産株」に、敵対的買収をしかける買い手はいなくなりました。純資産価値と比較してかなり割安と分かっていても、注目する投資家がいない状態が長く続きました。

 ところが、昨年当たりから、敵対的買収が少しずつ、復活しつつあります。また、かつてのように、「含み資産株」が話題になる前触れかもしれません。今日のレポートでは、そういう「含み資産株」に改めてスポットライトを当てます。

ブーム渦中にある大手不動産株

 アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が引き締まりました。今、都市部は、不動産ブームの様相を呈しています。

都心5区オフィスビルの賃料・空室率平均の推移:2004年1月~2019年12月

出所:三鬼商事、都心5区は東京都千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区

 不動産市況の上昇によって、大手不動産・電鉄・倉庫株などで、保有する賃貸不動産の含み益が拡大しています。賃貸不動産の含み益上位4社を挙げたのが、下の表です。

賃貸不動産の含み益上位4社の含み益:2013年3月~2019年3月

出所:各社有価証券報告書(住友不動産のみ決算短信)より作成

 ところが、ブーム渦中の不動産株は、2013年に高値をつけてから、下落が続いています。不動産ブームがいずれピークアウトすることが意識されているため、業績好調でも積極的な投資が入りにくくなっています。

東証不動産株価指数の動き:2004年1月~2020年2月(5日まで)

注:2004年1月末の値を100として指数化、楽天証券作成

 不動産業は市況産業です。過去に、不動産市況の上昇下落に対応して、ブームと不況を繰り返してきました。過去を振り返ると、1973・1990・2007年に市況のピークがありました。1973年は列島改造論のブームの中で不動産市況が高騰しましたが、オイルショックが起こると崩落しました。1990年の不動産バブルは90年代に崩壊しました。2007年の不動産ミニバブルは2008年のリーマンショックで崩壊しました。

 学習効果で、投資家は、ブームのときに不動産株を買わなくなったのです。ただし、私は、やや警戒過剰に陥っていると思っています。

2018年問題を無事クリアした都心オフィスビル、20年はどうか?

 オフィスビルには、2017年まで、「2018年問題」と呼ばれて警戒されていた問題がありました。18年に都心でオフィス供給が大幅に増加するので、一時的に供給過剰となり、賃料が下がるという警戒でした。蓋を開けてみると、18年に新規竣工したオフィスは、増加する需要で難なく吸収されました。

 オフィスの利用状況を見ると、各机にパソコンが常備され、通路が広くなるなど、1人当たりの占有面積が拡大する傾向があります。商業施設でも、通路や駐車スペースが広くなるなど、より大きなスペースを必要とする造りに変わってきています。IT産業のオフィス拡大が続いていることに加え、1人当たり占有面積の拡大が、想定以上の需要増加につながっています。

 オフィスビルには「2020年問題」と呼ばれている懸念もありました。18年と同様、20年にもオフィス供給が大幅に増えることです。ただし、それも増大する需要によって、吸収される見込みとなってきました。もし20年の大量供給も増大する需要で吸収されてしまえば、21・22年にはオフィス供給は大幅に減少するので、オフィス市況は高止まりが続くことになります。

マンション・ブームにはピークアウトの兆しも

 バブル時(1990年)に6千万円まで上がった首都圏マンションの平均販売価格は、バブル崩壊後4千万円くらいまで下がって安定しました。4千万円は、世帯年収8百万円の家庭にとって年収の5倍で、買いやすい価格と言われていました。

 ところが、2013年からのブームで、販売価格は5千万を超え、6千万円に達しています。バブル時の水準まで上昇したため、これから需要が縮小する懸念が出ています。

 一方、都心オフィスビルの賃料は、上がってきたと言ってもまだ坪あたり2万円強です。不動産ミニバブルと言われた2007年の水準を超えていません。元祖バブルの1990年には、坪当たり10万円の物件もあったことを思えば、今の賃料が過熱しているとは言えません。
 私は、オフィス市況に過熱感はないが、マンション市況はやや過熱しており、注意が必要と考えています。

解散価値といわれるPBR1倍を大きく割り込む銘柄が増えている

 不動産セクターには、業績好調で、含み益が拡大しているにもかかわらず、株価が上がらないため、株価が、解散価値といわれるPBR1倍を割れる銘柄が多数あります。
 賃貸不動産に大きな含み益があるのは、不動産会社ばかりではありません。電鉄・倉庫など、さまざまな業種に「含み資産株」があります。

 直近の決算期末で、賃貸不動産の含み益が1,000億円を超えている34社は以下の通りです。

賃貸不動産に含み益1,000億円以上を有する34社

  コード 銘柄略称 産業分類 含み益
(億円)
連結PBR
(2月4日)
実質PBR
(2月4日)
1 8802 三菱地所 不動産 38,984 1.67 0.66
2 8801 三井不 不動産 27,496 1.18 0.68
3 8830 住友不 不動産 27,033 1.51 0.63
4 9020 JR東日本 電鉄 14,661 1.13 0.89
5 9432 NTT 情報通信 12,081 1.11 1.07
6 8267 イオン 小売り 4,980 1.78 1.36
7 8804 東建物 不動産 4,222 1.05 0.57
8 9005 東 急 電鉄 3,806 1.51 1.20
9 9021 JR西日本 電鉄 3,741 1.54 1.31
10 9602 東 宝 情報通信 3,333 1.97 1.28
11 3003 ヒューリック 不動産 3,232 1.96 1.33
12 9531 東ガス ガス 3,159 0.92 0.77
13 9301 三菱倉 倉庫 2,662 0.79 0.49
14 9042 阪急阪神 電鉄 2,553 1.18 1.07
15 3289 東急不HD 不動産 2,453 0.97 0.76
16 8905 イオンモール 不動産 2,403 1.09 0.75
17 8233 高島屋 小売り 2,390 0.44 0.34
18 9401 TBSHD 情報通信 2,230 0.54 0.45
19 8806 ダイビル 不動産 2,130 1.01 0.52
20 3231 野村不HD 不動産 2,064 0.91 0.77
21 9104 商船三井 海運 2,013 0.59 0.46
22 7013 IHI 機械 1,894 1.16 0.83
23 1812 鹿 島 建設 1,871 0.93 0.84
24 9006 京 急 電鉄 1,772 2.04 1.46
25 2501 サッポロHD 食品 1,705 1.27 0.75
26 9706 空港ビル 不動産 1,684 2.67 1.66
27 1812 鹿 島 建設 1,660 0.93 0.86
28 3258 ユニゾHD 不動産 1,364 1.51 0.92
29 9003 相鉄HD 電鉄 1,360 1.88 1.19
30 9007 小田急 電鉄 1,249 2.25 1.91
31 9302 三井倉HD 倉庫 1,198 0.89 0.33
32 9062 日 通 陸運 1,084 0.96 0.92
33 9008 京 王 電鉄 1,048 1.94 1.76
34 5901 洋缶HD 金属製品 1,038 0.57 0.54
出所:各社、直近決算期の有価証券報告書または決算短信より、楽天証券経済研究所が作成。直近決算とは、東京建物・ヒューリック・サッポロHDは2018年12月期、イオン・高島屋・東宝は2019年2月期、その他は2019年3月期

  このような含み資産株には、含み益を考慮した実質PBRが1倍を大きく割れる銘柄が多数あります。実質PBRについては、後段で説明します。まずは、銘柄データをご覧ください。

実質PBRが0.73倍以下の30銘柄:実質PBRが低い順に配置

  コード 銘柄略称 含み益
(億円)
実質PBR
(2月4日)
1 3205 ダイドリミ 292 0.28
2 9119 飯野海 952 0.29
3 9302 三井倉HD 1,198 0.33
4 8233 高島屋 2,390 0.34
5 3001 片 倉 915 0.38
6 9304 渋沢倉 560 0.40
7 9324 安田倉庫 202 0.42
8 3106 クラボウ 388 0.44
9 9401 TBSHD 2,230 0.45
10 5803 フジクラ 705 0.46
11 9104 商船三井 2,013 0.46
12 8864 空港施設 99 0.48
13 9301 三菱倉 2,662 0.49
14 9308 乾汽船 542 0.52
15 8806 ダイビル 2,130 0.52
16 5901 洋缶HD 1,038 0.54
17 9101 郵 船 751 0.55
18 9303 住友倉 585 0.57
19 8804 東建物 4,222 0.57
20 8841 テーオーシー 988 0.59
21 3105 日清紡HD 545 0.60
22 8830 住友不 27,033 0.63
23 8802 菱地所 38,984 0.66
24 8801 三井不 27,496 0.68
25 8818 京阪神ビ 681 0.68
26 3201 ニッケ 531 0.71
27 9532 大ガス 811 0.73
28 2501 サッポロHD 1,705 0.75
29 8905 イオンモール 2,403 0.75
30 3289 東急不HD 2,453 0.76
出所:各社、直近決算期の有価証券報告書または決算短信より、楽天証券経済研究所が作成。実質PBRは、2月4日の時価総額を実質純資産で割って計算。実質純資産は、各社の純資産に不動産含み益の7割を加えたもの

  不人気が続いてきた「含み資産」株ですが、実質PBRが低すぎる銘柄は、いつか見直されることを期待して、買ってみて良いと思います。

 ただし、いくら株価が純資産価値から割安でも、赤字が続いていて利益回復が見込めない銘柄には投資すべきでないと思います。上の表で、実質PBRが一番低いダイドーリミテッド(3205)は、赤字が続く見込みなので、投資は避けた方が賢明と思います。

 株価が買収価値から割安で、かつ、営業利益または経常利益で最高益を更新する見通し、あるいは最高益に近い利益をあげる見通しの銘柄は、積極的に投資して良いと思います。

 三井倉庫HD(9302)(実質PBR0.33倍)、渋沢倉庫(9304)(同0.40倍)、安田倉庫(9324)(同0.42倍)、三菱倉庫(9301)(同0.49倍)、ダイビル(8806)(同0.52倍)、住友倉庫(9303)(同0.57倍)、東京建物(8804)(同0.57倍)、住友不動産(8830)(同0.63倍)、三菱地所(8802)(同0.66倍)・三井不動産(8801)(同0.68倍)・京阪神ビル(8818)(同0.68倍)イオンモール(8905)(同0.75倍)などに注目しています。

 倉庫株には、内外の物流事業が好調で、最高益に近い利益をあげる銘柄が増えています。1月に入り、倉庫株は、中国武漢で発生した新型肺炎の影響で国際物流が滞る懸念から売られる銘柄が増えていますが、ここは買い場と考えています。確かに、短期的に業績に悪影響を受ける銘柄もありますが、短期的影響にとどまると思います。長期的には、内外の物流事業は成長余地があると予想しています。

参考1 実質PBRとは

 実質PBRを説明する前に、まず、PBR(株価純資産倍率)を説明します。PBRとは、株価が、純資産(自己資本)と比較して、どの程度、割安であるか測る指標です。
 まず、PBRを説明する以下の図をご覧ください。1億円出資し、1億円借金し、合わせて2億円の資産を持って、ビジネスを始める企業を例にとって説明しています。その企業のバランスシートのイメージ図を示しています。

 設立直後ですが、いきなり株式市場に上場できるとします。さて、株式時価総額はいくらになるでしょうか。普通に考えると、1億円になります。まだ何もしていない企業ですから、株式時価総額は、純資産価値と同額の1億円となると、考えられます。
 この状態をPBR1倍といいます。株式時価総額÷純資産=1で計算します。次に、PBR3倍、PBR0.7倍の意味を説明します。

 純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐ期待が高ければ、株式時価総額は3億円になることもあります。この状態が、PBR3倍です。一方、将来、赤字が続くと考えられる株は、株式時価総額は1億円を割り込み、7,000万円となることも、あり得ます。その状態が、PBR0.7倍です。

 さて、次に、実質PBRを説明します。純資産に、保有する含み益の7割を加えたものを、実質純資産と呼びます。含み益の7割を加えた実質純資産を、純資産とみなして計算したPBRが、実質PBRです。

 三菱地所を例にとって説明しましょう。三菱地所には、2018年3月末時点で、3兆4,228億円の含み益が存在します。もし、賃貸不動産をすべて売却すると、3兆4,228億円の売却益が得られますが、売却益には税金がかかります。税率を30%と仮定すると、税引き後で、含み益の70%に当たる2兆3,960億円が残り、自己資本に加えられます。実質PBRは、自己資本に含み益の70を加えて計算したPBRです。

参考2 なぜ、2006年以降、ハゲタカファンドは日本から撤退したか

 2005年ごろ、割安な含み資産株をハゲタカファンド(買収ファンド)が買い占めて大暴れしたことがあります。巨額の含み益を有するにもかかわらず利益水準が低く、PBRが実質1倍を大きく割れ、株価が安くなっている企業がターゲットとなりました。一定量の株を買い集めた上で、企業に「含み益のある資産を売却して配当金を大幅に増やすこと」などを強く要求しました。

 ただし、短期的な利益を狙って株主権を濫用するハゲタカファンドには社会的批判が集まりました。敵対的買収への嫌悪感が広がり、2006~2007年には上場企業に買収防衛策の導入ブームが起こりました。そこで、ハゲタカファンドは去り、敵対的買収ブームは鎮静化しました。

 近年は、株主権をたてに企業に株主還元を強要するハゲタカファンドは少なくなりました。ハゲタカファンドが去ったことを受けて、買収防衛策を解除する企業が増えました。
 こうして企業と株主の対話は改善されました。ところが、含み資産を持つ割安株には、長期投資家も短期投資家も、見向きもしなくなりました。巨額の含み資産を保有しながら、株価が割安な銘柄は、割安なまま放置されるようになりました。

 ただ、昨年辺りから、こうした買収価値から割安な銘柄にTOBを仕掛ける動きが復活しつつあります。