日本のメディアは、安倍首相が早ければ10月22日にも解散総選挙に踏み切るとの見方を盛んに報道している。今のところ、こうした観測に関して首相自身は何らコメントしていないが(衆議院解散は首相の専権事項である)、当社が得た情報によれば任期満了を待たずに総選挙が実施される確率はかなり高い。そうであれば、市場に対する重大な影響として考えられるのは日本のマクロ経済のポリシーミックス(複数の経済政策目標)がほぼ間違いなく変わるということである。すなわち、2019年の消費税増税の可能性が高まり、ひいては増税の後に必ず起こる景気後退に対処するために、日銀はさらなる緩和策を長期にわたって維持せざるを得ないであろう。

 今回の消費税率引き上げに関する政治判断は2018年11月/12月には下す必要がある。過去の例を見ると、消費税増税は必ず景気後退(および株価下落)を誘発したことから、増税実施の有無はマクロ政策において最も重要な政治的決断となる。 

 安倍首相には支持率低下を恐れて、2015年に国民に不人気な増税を先送りした前例がある。これまでは、増税の有無を決定する時期と任期満了に伴う衆議院総選挙を行う時期が重なるため、首相は再び増税を延期するだろうと思われていた(衆議院の任期は4年で、今回は2018年12月に任期満了を迎える)。 

 ここ数日間で政局が急転するまで大方の見方とされていたこのシナリオの下では、2018年末/2019年初頭に日銀が出口戦略を実行に移す余地はまだあった。(安倍首相が再度、増税を見送り)財政緩和策が維持されれば、金融政策を変更する柔軟性は残されていたのである。 

 ここに来て、首相がカードを切って年内に解散総選挙に踏み切れば、わずか1年余り先の任期満了時にまた総選挙を実施する可能性はほとんどない。そうなると、増税は必至と言ってよく、日銀は2019年に起こると予想される景気後退に対する備えと保険を単独で行わなければならないだろう。 

 明確に言うと、今後数カ月の内に解散総選挙が実施された場合、日銀の出口戦略をめぐる議論がさらに先送りされる確率は高まると当社はみている。グローバルな資金フローの面では、金融政策の「非同期化」の可能性が高まると予想される。すなわち、日銀が大量の資金供給を続ける一方で、FRB(連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)はこれまで以上に断固とした姿勢で緩和縮小に向かうという構図である。財政不均衡の是正を目指してポリシーミックスを変更するのであれば、為替操作をしているとして批判する声は弱まり、G7(先進7カ国)首脳会議あるいは米国との二国間会談で日本の立場は強固なものになるだろう。 

 解散総選挙は憲法改正論議にも影響を及ぼすとみられる。現在、衆参両院において改憲勢力は自公を合わせて憲法改正案の発議に必要な2/3の票を握っている。解散総選挙で現政権が過半数を獲得することはほぼ確実だが、圧倒的多数を維持できるかは疑問というのが大方の見方である。

 もしそうであれば、市場は恐らく解散総選挙を歓迎するだろう。憲法改正は構造的な成長戦略から首相の気をそらす「空虚な試み」と大半の投資家が考えているからである。堅固ではあっても議席数を減らせば、この試みは事実上葬られ、経済・構造改革に再び注力するという望ましい結果をもたらす可能性がある。

 しかし、自民党が圧倒的多数を維持する可能性を完全に排除すべきではないと個人的には考えている。その理由として、第一に野党は混乱状態にあり、候補者不足が甚だしい。第二に、北朝鮮の積極的な核開発戦略とこれに対する中国の反応は、安倍政権の土台でありかつ心情的な支持基盤にとって歓迎すべき材料である。 

 とはいえ、市場にとって重要なのは日本の政治が再び活性化してきている点である。解散総選挙は、増税が誘発するであろう2019年の景気後退を見越して、日銀が断固たる流動性創出を継続する引き金となるだろう、というのが我々の見解である。 

2017年9月19日 記

 

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