中国、一難去ってまた一難

 新型肺炎の経済影響が懸念され、週明け27日(月)早朝、ドル/円はあっさりと108円台に下落しました。その後、東京市場オープンと同時に109円台まで買い上げられましたが、上値が重たい状況が続いています。

 ドル/円を108円台から109円台に押し上げた買いは、流動性が高まる東京市場が始まる9時オープン直後に見られたことから、実需の買いか、準公的の買いかは分かりませんが、一時的な買いの側面が大きいと思われます。

SARSより深刻!? 新型肺炎の経済影響はどこまで?

 新型肺炎感染の拡大が続けば、円高は続くと予想されます。一方で、感染拡大が止まるか、収束の兆しが見えれば円高も即座に反転することも予想され、注意する必要があります。

 ただ、110円台で何度か見られた買い仕掛けが失敗に終わっていることから、ドル/円で109円台後半は重たくなることも予想されます。

 中国でヒト、モノの移動が制限されると消費は萎縮し、長引けば長引くほど、中国経済への影響は、大きくなることが予想されます。2019年の米中協議の第1段階の合意によって関税合戦は一時休戦となり、中国はホッとしたのもつかの間、今度は感染拡大による経済への悪影響という困難に直面しました。まさに一難去ってまた一難です。

 2003年に中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)が猛威を振るった時、2003年4~6月期のGDP(国内総生産)は1~3月期から2%低下しました(+11.1%が+9.1%に)。運輸や宿泊などのサービス分野が最も打撃を受けましたが、2003年5月の旅客輸送量は前年比▲41.2%と大幅に落ち込みました。終息宣言後は元の成長スピードに戻りましたが、この時の中国経済は高度成長をまっしぐらでしたが、現在はゆっくりと減速傾向となっており、成長の方向が異なっています。

 また、当時と現在とでは、中国経済の規模が圧倒的に違います。

 例えば、中国の名目GDPの金額は2003年が215兆円(約13兆元)に対し、2019年は1,600兆円(約99兆元)と7.4倍に拡大。中国経済の規模は2003年時点では日本経済の半分以下でしたが、日本の2018年度の名目GDPが548兆円で、現在は約3倍の大きさとなっています。

 中国の新車販売台数は2003年が約439万台、2019年では約2,577万台と5.9倍。小売売上高は2003年の約82兆円(約5兆元)に対し、2019年は約645兆円(約41兆元)と、7.9倍に拡大しています。このように16年間で急成長した中国経済が減速した場合、世界経済に与える影響は2003年の比ではありません。

 中国からの訪日観光客数も2003年の約45万人から、2019年には約959万人と21倍に増加。2019年の訪日外国人の旅行消費額は4.8兆円、うち中国は1.8兆円で約37%を占めています。

 中国紙・新京報(電子版)によると2018年の海外旅行者のうち、団体旅行は約55%を占め、2019年の中国人の旅行消費額1.8兆円で計算すると、団体旅行禁止令によって約1兆円が失われることになります。

 また、野村證券によると、訪日外国人観光客数が10%減った場合、4,800億円分の消費が失われ、日本のGDPを年約0.1%押し下げるとの試算となっています。団体旅行消費額1兆円がなくなれば、日本のGDPを0.2%押し下げる計算になり、1%成長の日本経済にとって影響は大きいものがあります。

 SARSが猛威を振るった期間は2002年11月~2003年7月といわれていますが、終息宣言まで半年以上かかっています。今回の新型肺炎はまだ始まったばかりですが、SARSの時よりも早い時期での終息宣言を期待したいものです。収束に向かうまでは、円高地合いが続きそうです。

新型肺炎考慮せず?IMF経済見通しは中国を上方修正?

 下表はIMF(国際通貨基金)が1月20日に公表した世界経済見通しです。2020年の世界経済の成長を2019年10月時点の見通しよりも、▲0.1%下方修正しました。下方修正の背景は米国と貿易相手国との摩擦の激化、新興国経済の下ぶれ、米国とイランの対立など地政学リスクを世界経済の不安要因として挙げています。

 ところが、2020年の中国の成長は10月時点よりも0.2%上方修正されました。米国との貿易戦争が休戦になったことが要因のようですが、この見通しには新型肺炎の影響は考慮されていません。もし、感染拡大が長引けば、中国の成長は下方修正され、世界経済はさらに下方修正される可能性があります。感染拡大の地域、期間によって、どの国がどの程度影響を受けるのか現時点では全く分からない状況ですが、留意する必要があります。

 また、2020年の日本経済も大型の経済政策の下支えによって0.2%上方修正されていますが、もし、新型肺炎の影響が大きければ景気は失速し、日銀の金融緩和期待によって円高一辺倒の動きでなくなるかもしれません。この点についても留意する必要がありそうです。

IMF 世界経済見通し(成長率)

単位:%
注:2020年1月時点。( )内は2019年10月時点からの修正幅