1.2020年はビッグイベントが広告市場に寄与
広告マーケットの成長性に注目しています。今年2020年は、米国の大統領選挙や東京オリンピックなどの大きなイベントを控えていることから、世界の広告市場は成長が見込めます。広告調査会社WARCによると、2020年の広告市場は、前年比で6%拡大し、約6,560億ドル、1ドル110円換算で72兆1,600億円に拡大する見通しです。
このようなビッグイベントで物色されやすいのはテレビ枠の広告でしょう。注目が集まりやすいのはコムキャスト(CMCSA)と考えられます。
同社では傘下のNBCが、オリンピックの独占放送権を2032年まで獲得しています。
2.長期成長ストーリーはデジタル広告にあり
ただ、より長期的なストーリー性で見た場合、注目したいのはデジタル広告です。デジタル広告の規模は3,360億ドルとなり、市場構成比が5割を超える見通しです。少し古いデータになりますが、2019年2月に調査会社eMarketerが予測したデジタル広告の規模は、2019年の約3,333億ドルから、2023年には約5,175億ドルまで拡大すると予測されています。5年間で約55%の成長率です。
デジタル広告拡大の理由としてまず挙げられるのは、高機能スマートフォンの普及です。eMarketerによると、デジタル広告の構成比は国によって差があり、最も比率が高いのは、ネットサービスが生活に根付いているといえる中国で、65%と推定されています。米国の比率は5割弱で、南米などの新興国ではまだデジタル広告が十分広がっていないもようです(2018年ベース)。
この差の背景には、スマートフォンの普及や、スマホ経由のネットサービスの浸透度合いがあると考えられます。したがって、技術の進展を背景に低価格・高機能のスマートフォンが広がり、ネット経由のサービスが拡大すれば、デジタル広告の枠はさらに広がると考えられます。
3.アルファベット(GOOGL)
デジタル市場拡大の恩恵を受ける企業としてまず考えられるのが、デジタル広告のリーディングカンパニーであるアルファベット(GOOGL)です。
デジタル広告といっても様々な手法がありますが、同社は圧倒的なシェアを持つ検索エンジンを通じた検索広告と、動画投稿の一大プラットフォームであるYouTubeでビデオ広告を展開しています。YouTubeのログインユーザー数は月間20億人以上に上ります。
同社で注目したいのは、それぞれのサービスですでにローカル化が進んでいることです。検索エンジンはすでに数多くの言語に対応し、YouTubeでは各国にあわせたローカルバージョンが100以上あります。将来的にも、人口や所得の増加が期待できる新興国の人々が、同社のローカルサービスを積極的に使う可能性は高いとみられます。
4.アドビ(ADBE)
次に注目したい企業がアドビ(ADBE)です。
アドビは世界的なソフトウェアメーカーで、「Photoshop」はグラフィックデザイン分野のソフトウェアとして高いシェアを有している他、「PDF」の作成ソフト等も幅広く利用されています。同社にはデジタルエクスペリエンス事業という収益の柱もあります。2019年11月期ベースでは、このデジタルエクスペリエンス事業が売上高の約29%を占めています。
同事業では、デジタル広告のマーケティングサポート等を行っています。具体的には、オンラインのページにアクセスした訪問者の分析や、キャンペーンの効果の測定をしています。広告枠のプラットフォームも展開していて、ターゲットがスマホを使っていても、パソコンを使っていても、ターゲットの興味に沿った内容の広告を一貫して流すサービスを提供しています。
この事業の強みは、サービスの「中立性」にあります。ターゲットや広告分析のサービスはフェイスブック(FB)など様々な企業が行っていますが、アドビの場合、基本的に自社が広告を掲載して収入を得るモデルではありません。その分、広告主である企業側は分析結果に信頼を置きやすいと考えられます。
5:トレード・デスク(TTD)
最後に、同じく「広告の透明性」という観点から注目しているトレード・デスク(TTD)を紹介します。
トレード・デスクは2016年に上場したばかりの企業で、広告主向けの広告枠プラットフォームを展開しています。主な顧客は広告代理店等ですが、ビッグデータやAIを駆使して、彼らに効率的でコストをおさえた広告枠を提供しています。業績は上場前の2013年にすでに黒字化しており、2018年度の売上高は477百万ドル、調整後純利益は124百万ドルです。
トレード・デスクの業績推移
単位:百万ドル
左軸:売上高、右軸:調整後純利益
同社の最近の動きで注目したいのは、広告枠の中でもスマートTVや音声広告が大きく伸びている点です。2019年度第3四半期の業績で、会社側は「売上高は前年同期比で38%増加し、競合(プログラマティック広告)平均を大きく上回る成長になった」と述べています。カテゴリー別の支出額については、会社側は「スマートTV向けが145%増加し、オーディオ向けが160%伸びた」と発表しています。
なお、オーディオ向けとは、音楽ストリーミングサービスなどを指します。スマートTVもそうですが、オンラインにつながった新しい端末の登場や、新しいサービスの広がりが、同社にとって新規開拓のチャンスになっているようです。
※松村梨加の次回レポートは2月25日(火)掲載です。
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