震災から復活! 関西で住みたいと憧れる街

 横浜、恵比寿、吉祥寺……よく話題になる「住みたい街ランキング」だが、その多くが東京を中心としたものだ。そこで大手住宅情報誌の関西エリアのランキングを見てみると、第1位は「西宮北口」。関西の人気路線である阪急線の駅であり、「ニシキタ」の愛称で知られる。ちなみに関西において阪急の存在感は大きく、ベスト10に計5駅もラインクインしている。

 住みたい街として名が挙がる「西宮北口」だが、不動産投資の観点ではどうだろうか。現在のエリアや不動産マーケットの状況、そして将来の人口動態から、分析していこう。

「西宮北口」があるのは、兵庫県西宮市。県南東部に位置し、東で尼崎市、伊丹市、宝塚市、西で芦屋市、神戸市と接する。市内には西宮七園(甲東園、甲子園、甲陽園、甲風園、苦楽園、香櫨園、昭和園)と呼ばれる高級住宅地が点在。憧れを喚起させる要因になっている。

「西宮北口」駅は、西宮市の中心となる駅のひとつで、同市の南東部に位置する。阪急神戸本線と阪急今津線が交差し、「大阪梅田」「神戸三宮」どちらにも15分程度と、アクセス抜群である。開業時は市街地から大きく外れ、田畑以外なにもないエリアだったが、戦後、宅地化が進行。現在、1日の乗降客数は10万人を超え、阪急電鉄では、「大阪梅田」「神戸三宮」に次ぐ規模である。

 転機となったのは、1995年。阪神淡路大震災である。高級住宅街「昭和園」と「甲風園」のある駅北西エリアの被害は少なかったが、古い木造建築が密集していた駅北東エリアは壊滅的な被害を受けた。しかしこれを機に、震災復興・再開発事業が進行。駅前は大きく姿を変えた。

 駅北東エリアには、2001年、再開発ビル「アクタ西宮」がオープン。西館と東館からなる複合ビルで、図書館や市民ギャラリーなどの公共施設のほか、大型スーパーや書店、人気飲食チェーン店など、テナントも充実し利便性が高い。

 一方、駅南東エリアには、かつて阪急西宮スタジアムがあったが、震災を機に閉鎖・解体。そこに2008年誕生したのが、西日本最大級のショッピングセンター「阪急西宮ガーデンズ」である。敷地面積は7万㎡を誇り、店舗数は270弱。核テナントとして、阪急百貨店のほか、シネコンと大型スーパーが入居する。その集客力はすさまじく、開業年は、駅の乗降客数が「神戸三宮」駅を上回るほどだった。

「阪急西宮ガーデンズ」のインパクトは、街のブランド力にも大きな変化をもたらした。2010年の前出の住みたい街ランキングでは、「西宮北口」は第7位。その時の第1位は、全国的にも高級住宅地として知られる「芦屋」だった。しかし、いまやその地位は逆転している。

総来場者数約1億7900万人を超える「阪急西宮ガーデンズ」
再開発で大きく姿を変えた「西宮北口」駅周辺

単身者と家族層がバランスよく混在するエリアだが…

「住みたい街」として人気の西宮市だが、それは人口動態にも表れている。直近の国勢調査(図表1)によると、人口減少トレンドにある兵庫県だが、西宮市では安定した人口増加が見られる。世帯数や単身者世帯率(図表2)を見てみる、西宮市は3世帯に2世帯は、2人以上の世帯と、ファミリー層からの人気がうかがえる。

[図表1]西宮市の人口動態

出所:平成27年度「国勢調査」より

[図表2]西宮市の世帯数

出所:平成27年「国勢調査」より

 西宮、とりわけ「西宮北口」は転勤族にも人気の高いエリアとして知られている。交通の利便性はもちろんのこと、生活の利便性が高く、あまり“関西らしさ”を感じさせない。関西に馴染みの薄い人でも、自然と街に溶け込めるところが支持されている理由だという。

 次に住宅事情を見てみよう。賃貸住宅における空室率(図表3)は西宮で5%と低水準。震災により築浅物件が増え、また生活利便性の向上により、賃貸ニーズが向上したことが、低水準の空室率の要因だと考えられる。このことは統計でも表れている。西宮における住宅の築年数(図表4)を見てみると、90年代が30%と最も多く、特に1995年~2000年に限ると20%強となる。西宮において5軒に1軒は、震災後の復興のなかで建てられたものなのだ。

[図表3]西宮市の住宅事情

出所:総務省統計局 平成25年「住宅・土地統計調査」より

[図表4]西宮市の住宅の築年数

出所:総務省統計局 平成25年「住宅・土地統計調査」より

 続いて、賃貸住宅事情と居住者の属性について見てみよう。西宮における家賃の分布(図表5)を見てみると、6~8万円がボリュームゾーン、その次に8~10万円、4~6万円と続く。単身者用物件と推測される金額帯で半数を超えることから、西宮において、単身者は賃貸経営の重要なターゲットになると考えられる。

[図表5]西宮市の借家の家賃分布

出所:総務省統計局 平成25年「住宅・土地統計調査」より

 賃貸物件に住む単身者の年収(図表6)を見ていこう。300万円未満が58.1%。500万円未満まで含むとで8割強となる。西宮には、「関西学院大学」「神戸女学院」「武庫川女子大学」など大学が多く点在する。年収300万円未満が過半数を占めるのは、学生ニーズが旺盛であることの裏返しと考えられるだろう。

[図表6]西宮市 単身者の賃借人の年収

出所:総務省統計局 平成25年「住宅・土地統計調査」より

 駅周辺に絞って見ていこう。「西宮北口」周辺には5万人強が住み(図表7)、1世帯当たりの人数は2.1人ということから、単身者世帯とファミリー世帯が混在しているエリアだと推測される。続いて直近の中古マンションの取引から、駅周辺の不動産マーケットの状況を見てみる(図表8)。1平米当たりの平均取引価格は、西宮市平均よりも15万円ほど高い。ファミリー向け物件も豊富なエリアであることから、平均取引価格を押し上げていると考えられる。

[図表7]「西宮北口」周辺の人口動態

出所:西宮市町別推計人口2019

[図表8]「西宮北口」周辺の中古マンションの取引状況

出所:国土交通省 「土地情報総合システム」より作成

 古くから高級住宅地と知られ、近年は震災復興の過程で「阪急西宮ガーデンズ」などの多くのスポットが誕生し、利便性が飛躍的に向上した西宮。老若男女、多くの人をひきつける街へと変貌を続けているが、将来人口の推移を見てみると、不安が生じる。

 西宮市の将来人口(図表9)は、2020年、488,486人でピークアウト。20年後の2045年には45万人を割り込む。2015年の人口の水準を100とした際、2035年に95.4、2045年に90.5となる。

[図表9]西宮市の将来推計人口

出所:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」

「西宮北口」周辺の将来人口推移をメッシュ分析で見ていく(図表10)。黄色~橙で10%以上、緑~黄緑0~10%の人口増加率を表し、青系色で人口減少を表すが、駅周辺は青系色で染まっている。これは西宮市全体に拡大しても同様だ。

[図表10]2015年~2040年「西宮北口」エリアの人口増減率

出所:RESASより作成

 現在、関西で注目されているのは、万博、そして「ウメキタ」に代表される大規模な再開発である。そのエリアから外れる、「阪神地域」は人口減少が予測されている。それは賃貸ニーズが落ち込み、賃貸物件間で競争が激しくなることを意味する。

 安定的な学生ニーズも、今後、少子高齢化が進行するなかでは不透明だ。10年後、20年後を見据えて不動産投資を考えるのであれば、「西宮北口」では物件の選択眼がいっそう試される、玄人向きのエリアだといえるかもしれない。

(GGO編集部)

※この記事は2019年10月11日に幻冬舎ゴールドオンラインサイトで公開されたものです。

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