米中「第1段階」合意で日経平均は4カ月連続の上昇

 2019年12月の日経平均株価は1.6%の上昇、上昇率は11月とほぼ同水準で、4カ月連続の上昇となりました。月半ばにかけて取引レンジを切り上げ、2018年10月以来の2万4,000円台回復となっています。

 なお、月の後半にかけては、海外のクリスマス休暇入りや年末年始を控えて売買のボリュームが減少、25日には売買代金が約7年ぶりの低水準となりました。

 月前半には、米中貿易協議に対する警戒感が優勢となる場面もありましたが、その後は、11日のFOMC(米連邦公開市場委員会)において2020年いっぱいの政策金利据え置きが示唆された他、12日の海外時間に米中が貿易協議の「第1段階」で合意したと伝わったことで、当面の不透明感が払しょくされる状況となりました。

 12月は全般的に手掛かり材料に欠け、個別物色の方向性は大きく生じませんでした。短期的には、米中貿易協議「第1段階」合意で電子部品などの中国関連がにぎわった他、政府の経済対策を受けて建設株に関心が向かう局面はありました。

 日立化成(4217)昭和電工(4004)に売却するなど、日立(6501)グループの再編の動きが注目されました。また、12月中旬にはIPO(新規公開株)ラッシュを迎え、資金の分散化なども懸念されましたが、IPO銘柄は総じて市場の期待値以上のスタートになった印象です。

2020年の株式市場は波乱のスタートに

 大発会で日経平均は一時500円を超える下げとなるなど、2020年の株式市場は波乱のスタートになりました。米軍がイラクでイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害し、中東情勢の緊迫化への懸念が強まったことが背景になります。ただ、地政学リスクの台頭による株価調整はこれまでも限定的な傾向が強く、今回も、再選の可能性が現状では高いトランプ米大統領が戦争のような選択肢をとるとは考えにくいと思われます。

 月末には英国のEU(欧州連合)離脱期限を迎えます。EU離脱はほぼ確実であり、今後の焦点となるのは、2020年12月末期限の「移行期間」内にどのような貿易協定を結べるかとなります。「移行期間」内に新たな貿易協定を合意することは難しいとの見方も多く、結果的に「合意なき離脱」に近い状況となるリスクもあります。「移行期間」の延長を封じる離脱協定案などが可決された場合など、再度、英国情勢が懸念視される余地は残るでしょう。

 1月に最も注目されるのは、10-12月期の決算発表となりそうです。

 中でも、国内に先行して発表される海外テクノロジー企業の決算が相場の行方を左右しそうです。米中対立の最悪期を通過した現環境下では、積極投資などを打ち出す企業も増えるとみられ、半導体関連株などにとってフォローとなる可能性が高いとみます。

 総じて、景気敏感株を中心に堅調な動きが続くと予想されます。なお、地政学リスクが長期化するとなれば、サイバーテロへの対応も含め、ネットセキュリティ関連なども注目されてきそうです。

「5G」関連企業は幅広い産業に存在

 今回は「5G(第5世代移動通信システム)」関連としても注目できそうな高配当利回り銘柄を取り上げました。「5G」は2020年春に商用化が迫っており、現在の株式市場で注目テーマの最右翼とも位置付けられています。

「5G」の通信速度は現状の約100倍になるとされ、大容量通信、低遅延、多接続などが実現できることになります。これらの特徴によって、鮮明な画像送信、自動運転、IoT(モノのインターネット)の商用利用拡大などが実現できることになります。

「5G」に絡んだ関連銘柄は幅広いといえるでしょう。関連需要の増加がいち早く業績に寄与している銘柄もありますが、本格的な業績貢献は2020年以降になると考えられます。

 関連銘柄として、まずは「5G」通信を提供する通信各社が挙げられ、基地局や通信工事などの通信インフラ関連、「5G」関連の代表銘柄となるアンリツ(6754)を筆頭とする計測器メーカーなども重要な存在となります。

 その他、ネットワーク網の増強投資に絡んだネットワーク機器を手掛ける銘柄、光ファイバやプリント基板材料、電子部品なども、製品の付加価値化を伴った需要増加が見込めるでしょう。

 中期的には「5G」を活かしたサービスの提供企業に商機が広がりそうです。ゲーム各社、映像サービス関連企業、遠隔診療支援などのヘルスケア関連企業、そして自動運転関連なども該当するでしょう。

 インターネットの普及で様々な産業が誕生したように、「5G」を活かしたサービスの可能性は大きいとも考えられます。

5G関連銘柄の高配当利回りランキング

2019年12月末時点の5G関連銘柄の高配当利回りランキング

※楽天証券ウェブサイトの「スーパースクリーナー」を使って算出。
※「配当利回り」はコンセンサス予想値です。

コード 銘柄名 会社予想
配当利回り
(%)
12月末
終値
(円)
時価総額
(億円)
9437 NTTドコモ 3.95 3,038.0 101,324
4208 宇部興産 3.78 2,379.0 2,527
3405 クラレ 3.16 1,331.0 4,723
5201 AGC 3.96 3,930.0 8,938
5801 古河電気工業 3.01 2,820.0 1,993
配当利回り平均(%) 3.57

スクリーニング要件
(1)予想配当利回りが3%以上(12月末)
(2)時価総額が1,000億円以上(12月末)
(3)5G関連としての位置づけが高いとみられる銘柄

1 NTTドコモ(9437・東証1部)

▼どんな銘柄?
 モバイル回線の国内トップで、シェアは約45%を占めています。通信エリアが広いなど安定したインフラ整備能力、通信速度の速さ、潤沢なキャッシュフローを背景とした設備投資余力の大きさなどが強みとなっています。

 NTTが発行済み株式数の64%を保有する筆頭株主で、親子上場の代表的な存在にもなっています。

▼ここがポイント
 2019年9月20日より「5Gプレサービス」をスタートさせていますが、2020年春からは他の通信キャリアと同様に5G商用サービスを開始する予定です。それに向けて、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を提供、様々なパートナーとのソリューション共創を進めています。

 2019年11月には「Amazonプライム」提供でアマゾンとの提携も発表しました。

▼業績見通し
 2020年3月期営業利益は、新料金プラン導入による通信料金引き下げの影響で減益となる見込みですが、金融・決済サービス収入の増加などによって、2021年3月期には回復に転じる見通しです。

 また、来年度には増配や自社株買いの実施なども期待できるでしょう。当面の注目ポイントは、5Gの利用料金設定などになりそうです。

2 宇部興産(4208・東証1部)

▼どんな銘柄?
 ナイロン原料のカプロラクタムを中心とする化学大手の一角ですが、セメントや機械、リチウムイオン電池用セパレーターなど事業規模は多彩です。セメント販売では三菱マテリアルと協業しています。

 また、自動車用セパレーターでは世界シェア1割程度と推定されています。

▼ここがポイント
 2019年9月には、京セラと5G通信基地局用のセラミックフィルタ事業の拡大を目指して合弁会社を設立しています。

 同社子会社の主力製品であるセラミックフィルタは、5Gに対応した特定の周波数を通過または遮断させる機能を備え、通信基地局の重要部品となります。小型化も可能となり、今後は金属製フィルタからの代替が期待されます。

▼業績見通し
 2020年3月期営業利益は期中に下方修正されて減益に転じる見通しですが、多角的な事業展開が奏効して、減益幅は他の化学大手と比較すると底堅い状況です。

 リチウムイオン電池関連、ならびに、5G関連として、2つの注目テーマを内包する銘柄として注目できるでしょう。

3 クラレ(3405・東証1部)

▼どんな銘柄?
 繊維事業がスタートですが、現在は高機能樹脂を中心とする化学大手の一角です。

 偏光板用の光学フィルムでは世界シェア約8割、包装材料などに使われるEVOH樹脂では約7割を占めるなど、人工皮革、ビニロン繊維なども含め、世界シェアトップ製品を多く抱えています。

▼ここがポイント
 5G普及などで今後の拡大が予想される高周波用基板材料の需要に対応するため、液晶ポリマーフィルムを用いた銅張積層板「ベクスターFCCL」の量産体制を構築しています。

 5G通信では、電気特性の良い高周波対応のプリント配線板が必須となるので、今後は液晶ポリマーなどが有力な基板材料として注目されているようです。

▼業績見通し
 2019年12月期業績は複数回下方修正され、営業利益は2桁の減益見通しになっています。主力のポバール樹脂が景気減速の影響で低迷していますが、主力製品の生産トラブルの影響なども響いています。

 生産正常化によって2020年12月期業績は回復に転じる公算です。PBR(株価純資産倍率)水準も0.8倍台にまで低下と、だいぶ割安感も強まってきています。

4 AGC(5201・東証1部)

▼どんな銘柄?
 自動車用ガラスで30%程度と世界トップ、液晶用ガラスでは世界2位のシェア、建築用ガラスでもトップ級の実績を持ちます。ガラスの他、塩化ビニルやフッ素樹脂などの化学品、石英素材などの電子部材事業も手掛けています。

 EUVマスクブランクス、医薬品受託製造開発などを戦略事業と位置付けています。2018年7月に旭硝子から社名変更されました。

▼ここがポイント
 NTTドコモ(9437)やエリクソン・ジャパンなどと、自動車などの車室内で安定した電波送受信が可能な「ガラス一体型5Gアンテナ」を開発し、5G通信に世界で初めて成功しています。電波が窓ガラスを通過する際の減衰なども抑えられるもようです。

 透明性が高いアンテナのため視野をさえぎらず、他の車両や建物などへ設置が広がっていく可能性もあります。

▼業績見通し
 2019年12月期業績は2桁の営業減益見通しです。欧州建築用ガラスの需給悪化、液晶用ガラスの売値下落などが響いています。

 一方、2020年12月期は戦略事業の上伸で増益転換が見込めそうです。5G関連部材の動向が今後の株価のカギを握りそうですが、欧州向け構成比も高いことで、ユーロ高円安などもプラスに働きます。

5 古河電工(5801・東証1部)

▼どんな銘柄?
 電線大手3社の一角を占めます。光ファイバ・光ケーブルでは世界トップレベルです。電力ケーブル、ワイヤーハーネスなどの自動車部品、電子部品や銅箔など機能製品にも展開しています。

 アルミ圧延能力で世界3位のUACJ(5741)を関連会社に持ちます。国内光ファイバ業界ではグローバル展開で優位性があります。

▼ここがポイント
 5G普及に伴うインフラ整備で、通信データを伝送する光ファイバ需要の喚起が期待されます。これに対応して同社では生産体制の拡充も行ってきています。

 高効率な放熱部材や大容量HDD、高周波対応銅箔などの機能製品も5G普及による需要拡大が期待できます。さらに、5G普及による自動運転の市場拡大も準ミリ波レーダの活躍余地の広がりにつながります。

▼業績見通し
 2020年3月期業績は下方修正され大幅減益となる見通しです。光ファイバ価格下落や北米での生産性低迷などが響きました。

 ただ、配当金計画据え置きなどは、来年度回復に対する自信とも受け止められます。北米光ケーブルの需要が堅調なこと、データセンター関連需要に回復の兆しが出ていることなどはポジティブな材料といえるでしょう。