12月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 12月の月間騰落率は、指数的にはマザーズ一人負け。日経平均株価+1.6%、TOPIX(東証株価指数)+1.3%、日経ジャスダック平均+4.7%に対して、マザーズ指数は▲1.9%でした。毎年のことですが、12月に警戒されるのが個人投資家の節税目的の「損出し売り」。4月高値963ポイントをピークに軟調地合いが続いたマザーズに関しては、この時期特有の処分売りが重荷となりました。

 また、青天のへきれきだったのが“サンバイオ・ショック2”(13日に、北米での慢性期脳梗塞を対象とした「SB623」の大日本住友製薬との共同開発、ライセンス契約解消を発表。これでサンバイオが約4割値下がり)。2019年のマザーズ市場は、サンバイオで始まりサンバイオで終わった1年にもなりました。

 投資主体別で投資家動向を振り返ると、11月末までマザーズ株を大幅買い越しだった外国人投資家がドテン売り越し(12月第1週~第3週で327億円の大幅売り越し)。一方で、毎年12月に売り越す個人投資家は12月第1週~第3週合計で131億円の買い越しと意外な行動に。これに関しては興味深いデータが出ていました。個人投資家は131億円買い越しなのですが、現金売買分と信用売買分に分けてみると全然違う!

 現金は3週連続売り越しで349億円売り越しなのに対して、信用は480億円買い越しでした。現物の大幅売り越しはこの時期特有の節税売りと、12月IPO株(新規公開株)の市場売却分(IPO株に当選した投資家の売却分は、IPO株を市場外で取得し、市場内で売却するため全て売り越し要因になります)。じゃ、信用では何を買ったの? になるわけですが、この期間の信用買い残増加銘柄を調べると12月IPO一色でした。

 マクアケ上場週の12月第2週に個人は信用で186億円買い越し、フリーやJTOWER上場週の12月第3週に同189億円買い越し、これは週間ベースで2週続けて今年最大買い越しを更新しています。つまり、この12月はマザーズ指数一人負けとはいえ、マザーズ指数にまだ入っていない12月IPOに大勢の資金が向かった週ということ。近年まれに見るIPOへの短期資金流入でIPOが大活況になりました。マザーズ指数は下げても、12月IPOで回転売買していた投資家には良好地合い。12月のマザーズ市場の1日当たり平均売買代金は1,163億円と、11月の708億円から急増。東証1部やジャスダックが閑散化するなかで、輝きを放ったマザーズ市場(12月IPOだけ)でした。

12月の売買代金ランキング(人気株)

 3カ月続けてジャスダックのワークマンが売買代金トップに。売買代金25日移動平均値は前月の73.4億円から108.5億円に大幅増加。高値更新を続けたこの株にとって、個人投資家の損出し売りも無縁といえます。2019年に演じたワークマン大相場、まさに有終の美を飾りましたね。2位のサンバイオはショック安で売買急増。

 12月の新興株市場は、12月IPO株に流動性を吸い上げられました。どれほどすごかったかといえば、12月IPO株の1日平均売買代金を計算するとよく分かります。人気ナンバーワン銘柄は11日に上場したマクアケ(4479)でした。上場日11日~月末30日までの1日平均売買代金は「190.4億円」。25日移動平均値が計算出来なかっただけで、実際は断トツがマクアケでした。

市場 コード 銘柄名 12月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金25日
移動平均値
(億円)
月間騰落率
(%)
ジャスダック 7564 ワークマン 10,190 8,340 108.5 12.5%
東証マザーズ 4592 サンバイオ 2,633 1,363 46.9 -38.8%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 2,624 1,138 35.5 47.7%
東証マザーズ 4565 そーせい 2,171 1,673 29.5 -5.2%
東証マザーズ 4880 セルソース 11,300 225 27.6 14.7%
東証マザーズ 4385 メルカリ 2,235 3,437 25.9 -7.4%
ジャスダック 2702 マクドナルド 5,240 6,967 25.1 -3.1%
東証マザーズ 7074 247 2,832 127 19.5 -39.6%
東証マザーズ 6195 ホープ 3,220 180 18.4 53.2%
東証マザーズ 4476 AI CROSS 2,272 90 17.8 -3.5%
ジャスダック 6256 ニューフレア 11,940 1,367 16.9 0.5%
東証マザーズ 4443 Sansan 5,540 1,721 15.9 -3.1%
ジャスダック 6840 AKIBA 7,950 73 15.7 14.7%
ジャスダック 3851 日本一S 1,402 72 14.6 5.9%
東証マザーズ 6067 インパクト 2,044 123 14.3 -25.7%
ジャスダック 6629 テクノHR 949 200 14.1 17.9%
ジャスダック 6324 ハーモニック 5,270 5,076 13.5 10.8%
東証マザーズ 3624 アクセルマーク 722 44 12.8 29.9%
ジャスダック 6838 多摩川HD 2,983 137 12.3 41.1%
東証マザーズ 6096 レアジョブ 2,612 247 11.4 -9.0%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 ワークマン(7564・ジャスダック)

 ついに1万円の大台を突破! 年間上昇率は+179%で、流動性でも時価総額でも新興株市場のトップに君臨する存在に変貌しました。2日発表した11月の既存店売上高も+24.1%と高い伸び率を維持。気温の低下で、防寒商品が好調だったようです。

 ガテン系御用達だったワークマンも、“ワークマン女子”という言葉が生まれるように一般層にターゲットが拡大。高機能・低価格なPB商品の開発とワークマンプラスの店舗数拡大で2020年も成長が期待されています。既存店売上の2桁増がどこまで続くか? 増収モメンタムを屋台骨とした株価モメンタムだけに、「何月分の既存店売上で伸び率が鈍化するか」これが焦点です。

2 サンバイオ(4592・東証マザーズ)

 13日の第3四半期決算発表のタイミングで、大日本住友製薬と北米での慢性期脳梗塞を対象とした再生細胞薬「SB623」の共同開発及びライセンス契約を解消すると発表。フェーズ2b試験の失敗以降、両社で今後の方針を協議していたようですが契約は解消となりました。サンバイオとしては今後も同薬の開発を継続する方針を示していますが、今後は開発協力金やマイルストンが入らなくなります。次の提携先が見つかるまで短期業績に与えるネガティブ影響は必至。失望売り殺到で、発表の3営業日後の18日、約4割下落した水準で売買が成立しました。

 なお、その後1度だけ大きなリバウンドをしたタイミングがあります(25日の8.9%高)。これは国内大手証券が「株価急落は過剰反応」として投資判断を「2」から「1」へ引き上げたことが理由でした。ただ、このレポートを見る限り、2024年1月期まで大幅赤字が続くという予想になっています。ここから4年間、それに個人投資家が我慢し続けられるのか? が疑問です。また、契約解消した大日本住友製薬が保有するサンバイオ株を売却するリスクも当然考えておく必要がありそうです。

3 ジーエヌアイ(2160・東証マザーズ)

 11月末に今2019年12月期業績予想の上方修正を発表、医薬品や医薬機器事業の収益性向上で営業利益予想を11.6億円から13.6億円へ増額しました。これをトリガーに年末に向け大相場に発展、時価総額も1,000億円を再び突破しました。

 中国で特発性肺線維症治療薬の売上が堅調なほか、安定した利益率が見込める子会社も有しています。ハイリスク/ハイリターンの創薬ベンチャーに比べると、リスク度合いが小さいバイオ株といった位置付けで人気が定着しているようです。

4 247(7074・東証マザーズ)

 個別指導型ジムを展開する直近IPO株で、個別ジムとしてはRIZAPに次ぐ業界2位。上場したのは11月21日ですが、それからわずか1カ月程度の20日、まさかの大幅下方修正を発表しました。上場期でもある2019年11月期の売上高予想を77.9億円から76.9億円に、純利益を8.2億円から5.8億円へ大幅減額。11月の無料カウンセリング申込件数が計画比で大幅に減ったこと、新規採用人員の労務費の増加などを理由に書いていました。11月21日の上場直前に把握できていなかったんでしょうか…。

 公開価格は3,420円で、この時点の予想PERは約18倍。当初の純利益8.2億円予想をベースに、類似会社批准方式で公開価格を決めたはずです。その8.2億円が誤りだったとすれば、公開価格3,420円での資金調達は投資家を欺く過剰価格といえます。上場ゴールという表現がありますが、投資家からは“上場詐欺”との表現も聞かれました。そう言われても、反論しようがないと思います。

5 ニューフレア(6256・ジャスダック)

 TOB合戦の激化に期待して売買が膨らんだ銘柄でした。そもそもは11月に、東芝の再編として、子会社東芝デバイス&ストレージが東芝上場子会社のニューフレアをTOBすると発表したことがはじまり。1株当たり1万1,900円の買付け価格で取得して、完全子会社化する予定でした。これにはニューフレアも賛同の意見を表明。

 ここに現れたのがHOYAでした。1万1,900円より高い1万2,900円の買付け価格でのTOBを13日に表明。価格吊り上げ合戦への思惑で、市場では1万3,670円まで上昇する場面も作りました。ただ、これも20日に東芝会長による「HOYAに対して株売却はありえない」発言が報じられたことで鎮火。2020年はこの手のTOBなど買収・合併を利用して収益機会を探るヘッジファンドや玄人個人投資家が多くなりそうですね。

12月の株価値上がり率ランキング

 11月は好決算銘柄が多くランクインし、物色の質が大きく改善していましたが…12月はまた質的には劣化した印象。値上がり率上位にランクインした20銘柄の中でも、なぜ上がったのか材料が分からない銘柄が多かったように思います。

 流動性の低いジャスダックの銘柄が20銘柄のうち17銘柄と非常に多かったこと、時価総額100億円未満の小型株が多いことが特徴。仕手系材料株の12月だったと総括できますが、11月時点では上場していなかった(月間騰落率を計算できない)12月IPOが大活況だった地合いですから仕方ないでしょう。

市場 コード 銘柄名 月間騰落率
(%)
12月末
終値
前月末
終値
時価総額
(億円)
ジャスダック 9867 ソレキア 191.8% 13,130 4,500 114
ジャスダック 5939 大谷工業 187.1% 11,340 3,950 100
ジャスダック 4833 ぱど 117.5% 448 206 90
ジャスダック 6822 大井電気 108.3% 4,385 2,105 64
ジャスダック 4699 ウチダエスコ 81.4% 5,370 2,960 193
ジャスダック 8885 ラ・アトレ 78.1% 1,307 734 69
ジャスダック 9263 ビジョナリー 74.5% 576 330 142
ジャスダック 9060 日ロジテム 70.7% 5,600 3,280 77
ジャスダック 3223 エスエルディー 67.8% 1,863 1,110 28
ジャスダック 1789 ETS HD 63.4% 1,080 661 69
ジャスダック 3842 ネクストジェン 61.7% 2,710 1,676 56
ジャスダック 6867 リーダー電 60.8% 1,455 905 61
ジャスダック 4772 ストリムメディ 59.1% 280 176 46
ジャスダック 9976 セキチュー 59.0% 1,970 1,239 110
ジャスダック 7827 オービス 58.4% 1,240 783 21
東証マザーズ 7050 フロンティアI 58.2% 3,750 2,370 163
ジャスダック 3804 システムディ 53.6% 1,172 763 76
東証マザーズ 6195 ホープ 53.2% 3,220 2,103 180
東証マザーズ 6567 SERIOHD 51.1% 1,003 664 32
ジャスダック 3933 チエル 50.3% 2,480 1,650 96

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ぱど(4833・ジャスダック)

 RIZAPグループだった同社ですが、TOBの成立(5日引け後に発表)で筆頭株主が異動。新しい筆頭株主は、M&A仲介会社FUNDBOOKを運営する畑野幸治氏に。起業家として大成功を収める同氏の下、「今度こそ経営再建が進むはず!」との強い期待感が株価に溢れんばかりに織り込まれました。今後示されるだろう事業計画には注目されそうです(今2020年3月期は赤字予想)。

2 ウチダエスコ(4699・ジャスダック)

 政策関連株として人気化。政府の経済対策に、小中学校で生徒が1人1台のパソコンを使用できる環境の整備が盛り込まれたことが手掛かりに。本命銘柄は親会社の内田洋行ですが、子会社でOAサプライ品販売を手掛ける同社も一緒に急騰。流動性が低い小型株だったこともあり、勢い余って5日に上場来高値を更新しました。“国策は買い”で動いた短期筋に対し、売る人が少ないことにより需給ギャップが生じたとしか表現できません。

3 ラ・アトレ(8885・ジャスダック)

 5日に発表した今2019年12月期予想の大幅上方修正が急騰のトリガーに。今期の売上高を97.8億円から111.1億円に、営業利益を14.2億円から20.8億円にそれぞれ大幅増額。業績サプライズが株価大化けにつながった小型株の事例が足元多く、同社にも買いが続く格好となりました。

 ただ、今回の業績上振れの理由は、来2020年12月期に引き渡し予定だった新築販売用不動産の引き渡しが“前倒し”になったため。2019年12月期に数字が乗り過ぎて、来2020年12月期の反動には注意が必要でしょうか。2月中旬に2020年12月期の業績予想が開示されます。

4 ビジョナリー(9263・ジャスダック)

 メガネスーパーを展開する同社が、13日にエムスリーとの資本業務提携を発表したのがビッグサプライズに。資本面では、エムスリーを対象にした第三者割当増資を実施して、エムスリーが筆頭株主になる形です。

 エムスリーとメガネスーパーは意外な組み合わせですが、実店舗で眼にまつわる商品を提供してきたメガネスーパーの強みが評価された様子。エムスリーは眼科含めた医療関係者のネットワークが甚大、連携して新しい付加価値創出を目指すようです。

5 ネクストジェン(3842・ジャスダック)

 急騰のきっかけは、20日に通信工事大手の協和エクシオ、情報通信機器メーカーのタカコムとの資本業務提携の発表したこと(第三者割当増資により、協和エクシオが筆頭株主に)。増資で調達した資金の用途を、ローカル5G関連のビジネス加速費用などと記載したこともあり、人気テーマ“5G関連”の小型株として一躍人気銘柄に。なお、この材料に食い付いたのは個人投資家ばかりだったようで、30日に東証が信用規制をかけると発表しました。

1月に注目したい新興株の動き

 1月の新興株市場は、(当月限定で)上げ目線で。過去10年の実績で見ても、1月の新興株は好成績。過去10年の1月月間騰落率平均は、日経平均株価が▲1.6%なのに対して、東証マザーズ指数は+3.8%、日経ジャスダック平均は+2.8%です。新興株が東証1部銘柄をアウトパフォームしやすい理由としては、いくつか挙げられます。

 年明けから3月末にかけ、東証株式市場内では確実に発生する売り圧力の存在があります。それが「持ち合い解消売り」。企業や金融機関が保有している持ち合い株(政策保有株)は縮減することが求められており、期末に向けて粛々と解消が行われます。その点、マザーズ銘柄は持ち合い関係になっていないケースが多いため、この持ち合い解消売り圧力が少ないのが利点です。

 マザーズ銘柄に関していえば、昨年末まで行われた損出し売りが終わることも大きいといえます。節税目的で一度売却した銘柄を、新年以降に改めて買い直す投資家も多いようです。さらには、12月にラッシュとなるIPOがない(2020年の第1号IPOは2月7日)ことも大きいですね。初値買いなどに短期資金が向かうことで流動性が吸い上げられることは、既存のマザーズ銘柄には逆風でしかない…これは前月12月に起きた現象です。

 昨年1月の月間騰落率トップはKudan(月間騰落率+100.7%)、2位がAmidAHD(同+87.1%)、3位がベルトラ(同81.7%)だったのですが、この3銘柄とも前年2018年の12月IPO銘柄です。IPOが空白期間にあるなか、直近IPO株を狙う動きも活発化します。問題は、昨年12月IPOのどれが1月のスターになるかがわからないことですが…(この辺りは日々の動きからどれが人気か見ていくしかない)。

 あとは新興株の鬼門になるのが決算発表。シーズンの2月中旬は注意すべきなのですが、1月も1日だけ警戒日があります。それが「1月14日」。この日はTKP(3479)、UUUM(3990)、マネーフォワード(3994)、Sansan(4443)などマザーズの主力銘柄の決算集中日が控えています。ただ、これも通過してしまえば、決算発表も空白期入り。ファンダメンタルズより株価のモメンタム(それを作るのが個人投資家を中心とした短期資金)の市場において、余計な邪念がない期間は収益機会と考えたいところです(2月は余計な邪念がまた増える)。