年間の相場シナリオ予測には不可欠
毎年、このコラムでは年初めに1年間の重要イベントの日程を取り上げています。1年間の相場シナリオを予測するためには押さえておきたい必須項目です。
ここで言う1年間は、1月から12月のサイクルです。為替市場の主戦場は欧米市場であるため、12月決算が多い欧米の企業や、海外投資家と同じサイクルで考える必要があります。
ただし、ドル/円の場合は、日本の企業決算の時期も考慮する必要があります。特に日本企業は3月決算が多いため、年度の終わりである3月や年度初めの4月には、決算に関わる為替の需給要因が加わることに留意しておく必要があります。
重要イベントとは、相場へ瞬間的に影響を与えたり、中長期的に相場の先行きを方向付けるイベントのこと。選挙や国際会議を中心とした政治イベントの他、経済イベントがあります。
経済イベントで特に重視するのが、為替相場を中長期的に大きく左右する中央銀行の金融政策の決定や、その金融政策を左右するGDP(国内総生産)やCPI(消費者物価指数)、米雇用統計の経済指標の公表です。
政治・経済日程は、例年、年末年始に新聞や雑誌に特集が組まれるくらい注目度が高いもの。ぜひチェックしましょう。また経済指標の公表日は、各国政府の管轄部署のウェブサイトや中央銀行のウェブサイトから確認することができます。
これら政治・経済イベントの日程を押さえながら、そのリスク度合いや影響度合いを考慮して、年間の相場シナリオを考えていく必要があります。
政治重要日程2020
まずは、政治イベントを確認します。今年の政治イベントを下表にまとめました。
今年は米大統領選挙を筆頭に、選挙の多い年です。
2020年の重要政治日程
1月 | 11日 | 台湾総統選挙 |
15日 | 米中貿易合意の署名式典 | |
31日 | 英国のEU(欧州連合)離脱期限 | |
2月 | 3日 | 米大統領選アイオワ州党員集会 |
21日 | イラン国会議員選挙 | |
3月 | 2日 | イスラエル総選挙 |
3日 | 米大統領選スーパーチューズデー | |
5日 | 中国で全国人民代表大会 | |
上旬 | 米韓合同軍事演習 | |
15日 | フランス地方選挙第1回投票 | |
4月 | 15日 | 韓国総選挙 |
日程未定 | 中国の習近平国家主席が初の国賓来日 | |
5月 | 日程未定 | ポーランド大統領選挙 |
日程未定 | イタリア統一地方選挙 | |
6月 | 月末 | 消費税増税対策のポイント還元終了 |
月末 | 英国のEU離脱移行期間延長申請の期限 | |
7月 | 2~3日 | AIIB(アジアインフラ投資銀行)年次総会 (北京) |
5日 | 東京都知事選挙 | |
13~16日 | 米民主党大会 | |
24日~8月9日 | 東京五輪 | |
8月 | 24~27日 | 米共和党大会 |
25日~9月6日 | 東京パラリンピック | |
11月 | 3日 | 米大統領選挙 |
21~22日 | G20首脳会議(サウジ) | |
12月 | 年末 | 英国のEU離脱移行期間終了 |
政治イベントは、その結果によって瞬時に相場に影響を与えたり、ジワジワと経済に影響が及んでくる場合があります。しかも、その時の経済環境も無視して影響を与える場合もあるため、最重要で注目すべき項目です。
特に重要な政治イベントは?
では、その中でも今年の注目点を挙げます。
1:米大統領選挙
なんといっても米大統領選挙です。
トランプ米大統領が圧倒的に有利ではなく、再選のためには予想外の行動を取る可能性があります。年始からのイランへの攻撃もその一例です。株安やドル安に見舞われた投資家は動きづらく、慎重になることが予想されます。
今後も11月まではトランプ大統領の予想外の行動を警戒する必要があり、投資家の慎重姿勢は続く可能性があります。昨年のドル/円は狭いレンジでしたが、今年もその傾向が続く可能性があるかもしれません。
2:米中貿易協議
米中貿易協議は今年も政治リスクとなりそうです。
1月15日に第1段階の部分合意の署名が行われますが、トランプ大統領はすぐに第2段階の交渉に入ると明言しています。大統領選挙で思う通りにいかない場合、強硬姿勢に出てくる可能性もあるため、警戒を続ける必要があります。
3:ブレグジット
英国は1月31日にEUを離脱します。離脱移行期間が終了する12月末までに、ジョンソン首相はEUとの自由貿易協定を締結すると明言していますが、事務的に困難との見方が大勢です。
もし、EUとの協定が結べない場合、合意なき離脱と同じような状況となり、経済は相当混乱することが予想されます。英国だけでなくEUに対しても影響が大きいようです。
移行期間の延長は可能ですが、延長申請の期限は6月末です。ジョンソン首相は延長しない方針のため、6月後半の動きに注目です。
4:世界中で重要選挙
今年は米大統領選挙を筆頭に選挙の多い年です。
1月の台湾総統選、2月のイラン国会議員選挙、3月のイスラエル総選挙、フランス地方選挙第1回投票、4月の韓国総選挙、5月のポーランド大統領選挙、イタリア統一地方選挙と2020年前半に重要な選挙が続きます。
イラン国会議員選挙は対米強硬派が躍進するとの見方があり、中東情勢がより緊迫する可能性があります。また、欧州政局はフランスとイタリアの地方選挙の結果次第では、ポピュリズムの勢いが増し、より不安定になってくる可能性があるため注目です。
5:日本の重要イベント
6月末に消費税増税対策のポイント還元が終了します。ポイント還元終了によって消費行動が変わり、景気にとってマイナス要因になるかどうか。このマイナス影響が出た場合、7月24日からの東京五輪、8月25日からの東京パラリンピックによる観光特需で、補えるかどうかに注目です。
6:北朝鮮や中東の地政学リスク
北朝鮮や中東の地政学リスクは常に注意してみておく必要があります。中東情勢は昨年よりも緊迫してくる可能性があり、原油は高止まりする可能性があります。原油高はコスト高につながり、世界経済にとってはマイナス要因となります。ただ、需要が強くないため極端な原油高はないかもしれません。
経済重要日程2020
為替相場の経済要因として最も大きな要因は、金融政策の決定です。特に重要なのは、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策です。
また、日銀、FRB、ECB(欧州中央銀行)総裁は金融政策委員会終了後、毎回記者会見を行い、市場との対話に努めますが、この記者会見も重要です。ここでは、声明文を補うような一歩踏み込んだ説明をしたり、先行きの方向性を示唆する内容を発言したりするからです。
例えば、FRBは昨年、7月、9月、10月と3回利下げをしましたが、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の声明文では「見通しに不確実性は残る」との文言を削除し、利下げを休止しました。そして、2020年の政策金利見通しでは据え置きを示唆。さらにパウエルFRB議長は記者会見で、今後の利上げについて「著しく持続性のあるインフレ加速が必要」と発言。同時に「目標の物価2%へ導くのは非常に難しくなってきた」と述べたことから、マーケットは「利下げ休止=利上げ局面入り」ではないとのメッセージと捉え、当面、利上げの可能性は低いという期待から、その後の株高につながりました。
果たしてFRBの政策金利は、見通しどおり今年いっぱい据え置きになるのでしょうか。
米中通商協議の第2段階の交渉が難航したり、経済指標が悪化すれば、再利下げの可能性も高まり、逆に物価が2%を超えてくれば、利上げの思惑が高まってきます。
これらのことを判断するために、金融政策を左右する景気の強さを測るGDPや物価動向、米国失業率(米国雇用統計は、毎月第1金曜日に前月分が発表)に注目していく必要があります。
一方、ECBはどうでしょうか。
ドラギECB前総裁が残した大規模緩和の持続性に注目が集まります。ラガルドECB新総裁はドラギ前総裁が進めてきた金融緩和路線を引き継ぐ姿勢を示しましたが、持続性を欠くのではないかとの懸念があります。それは、量的緩和を再開はしたものの、買い取り枠が最大のドイツ国債は2020年末には枯渇すると言われているからです。購入条件を緩めて量的緩和を続けるか、それとも緩和をやめるか、2020年夏ごろには決断を下さないといけない状況になりそうです。その時点で景気が悪化していれば、さらに難しい決断になりそうです。
中央銀行の金融政策会議日程をチェック!
下表に日米欧の金融政策委員会の開催日、GDPや物価の公表日をまとめました。今週のコラムは保存版として、ぜひ活用してください。
日米欧中央銀行の金融政策会議開催日
2020年 | 日銀金融政策決定会合 | FOMC | ECB理事会 | 金融イベント | |
---|---|---|---|---|---|
1月 | 20~21日※ | 28~29日 | 23日 | ||
2月 | ― | ― | ― | FRB議長半期議会証言 | |
3月 | 18~19日 | 17~18日 | 12日 | ||
4月 | 27~28日※ | 28~29日 | 30日 | ||
5月 | ― | ― | ― | ||
6月 | 15~16日 | 9~10日 | 4日 | ||
7月 | 21~22日※ | 28~29日 | 16日 | FRB議長半期議会証言 | |
8月 | ― | ― | ― | ジャクソンホールFRB議長講演 | |
9月 | 16~17日 | 15~16日 | 10日 | ||
10月 | 28~29日※ | ― | 29日 | ||
11月 | ― | 4~5日 | ― | ||
12月 | 17~18日 | 15~16日 | 10日 | ||
注1:※は日銀「展望レポート」公表(1、4、7、10月) 注2:FOMCは火~水曜日開催(11月は3日[火]が米大統領選挙のため水~木開催)。ECB理事会は木曜日開催 注3:FOMC、ECBとも3、6、9、12月に経済見通しを公表 注4:会議終了後の総裁の記者会見は日米欧とも毎回実施(FRBは従来の3、6、9、12月会見を昨年から毎回実施に変更) 注5:赤字は日米欧の理事会が集中している日程。相場変動が大きくなる可能性があるため注意が必要 |
日米欧GDP速報値の発表日
日本 | 米国 | ユーロ圏 | |
---|---|---|---|
2019年 10~12月期 |
2月17日 | 1月30日 | 1月31日 |
2020年 1~3月期 |
5月中旬 | 4月29日 | 4月30日 |
2020年 4~6月期 |
8月中旬 | 7月30日 | 7月31日 |
2020年 7~9月期 |
11月中旬 | 10月29日 | 10月30日 |
日米欧CPIの発表日
2020年 | 日本 | 米国 | ユーロ圏 |
---|---|---|---|
1月 | 24日(12月分) | 14日(12月分) | 7日(12月分) 31日(1月分) |
2月 | 21日(1月分) | 13日(1月分) | ― |
3月 | 19日(2月分) | 11日(2月分) | 3日(2月分) 31日(3月分) |
4月 | 3月分以降の 公表日は後日 発表予定 |
10日(3月分) | 30日(4月分) |
5月 | 12日(4月分) | 29日(5月分) | |
6月 | 10日(5月分) | 30日(6月分) | |
7月 | 14日(6月分) | 31日(7月分) | |
8月 | 12日(7月分) | ― | |
9月 | 11日(8月分) | 1日(8月分) 30日(9月分) |
|
10月 | 13日(9月分) | 30日(10月分) | |
11月 | 12日(10月分) | ― | |
12月 | 10日(11月分) | 1日(11月分) |
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