中東情勢が緊迫

 1月3日(金)、イラクのバグダッド近郊でイスラム革命防衛隊特殊部隊クッズフォースのカシム・スレイマニ総司令官が、米軍の攻撃で死亡しました。米国がスレイマニ総司令官を攻撃した理由は、スレイマニ総司令官が次の在バグダッド米国大使館の攻撃を画策していたからです。

 これまでにイラクでは、米国の請負業者、ならびに兵士が攻撃を受け死傷者が出る、在テヘラン米国大使館に暴徒が押し寄せるなど、緊張が高まっていました。

 そして、これが報道された3日は、米国の防衛関連株は軒並み買われました。そこで今回は、防衛関連株の近況についてレポートします。

注目銘柄1:ロッキード・マーチン

 ロッキード・マーチン(LMT)はF-35戦闘機、人工衛星、PAC-3地対空ミサイル、THAAD終末高高度防衛ミサイル、ブラックホーク中型多目的軍用ヘリコプターなどのメーカーです。

 売上高の約4割を軍用機、24%がヘリコプター作戦システム、18%が宇宙システム、17%がミサイルで占めています。総売上高に占める米国政府の割合は約7割です。

 第3四半期決算はEPS(1株当たり当期純利益)が予想5.06ドルに対し5.66ドル、売上高が予想148.7億ドルに対し151.7億ドル、売上高成長率は前年同期比+6.0%でした。

部門別売上高ならびに前年同期比

部門  売上高 前年同期比
航空 61.78億ドル +10%
ミサイル 26億ドル +14%
ヘリコプター 37.1億ドル ▲4%
宇宙 26.8億ドル +5%

 受注残は1,374億ドル、前年同期は1,305億ドルでした。

 2019年のEPSは予想21.23ドルに対し新ガイダンス21.55ドルが、売上高は予想591.4億ドルに対し新ガイダンス591億ドルが提示されました。

 2020年の売上高は予想627.2億ドルに対し新ガイダンス620億ドルが提示されました。

 同社の決算から読み取れることは、ユナイテッド・テクノロジーズから買収したヘリコプター部門のシコルスキーがようやく業績の回復をみている点です。

 また決算カンファレンスコールでは、今後ミサイル部門のマージンが若干下がるだろうという説明がありました。これは新型の超音速巡航ミサイルの開発費用が嵩(かさ)むためです。

注目銘柄2:ノースロップ・グラマン

 ノースロップ・グラマン(NOC)は全米屈指のドローン・メーカーです。グローバルホーク無人偵察機などを作っています。B-21レイダー次世代ステルス爆撃機を開発中です。さらにサイバー防衛などの部門もあります。

 同社はオービタルATKを買収し、宇宙ロケット、衛星による監視システムなどの事業を強化しました。もともとノースロップ・グラマンはレーダーやセンサー・システム、サイバー・システムに強いため、オービタルATKとは相互補完性が高いです。

 第3四半期決算はEPSが予想4.76ドルに対し5.49ドル、売上高が予想85.6億ドルに対し84.7億ドル、売上高成長率は前年同期比+4.8%でした。

 2019年のEPS予想19.8ドルに対し新ガイダンス20.1~20.35ドルが、売上高予想340.5億ドルに対し新ガイダンス340億ドルが提示されました。

注目銘柄3:ユナイテッド・テクノロジーズ

 ユナイテッド・テクノロジーズ(UTX)はいわゆるコングロマリットで、エレベーターのオーチス、空調システムのキャリア、ジェット・エンジンのプラット&ホイットニー、航空関連のコリンズ・エアロスペースからなっています。

 第3四半期決算はEPSが予想2.03ドルに対し2.21ドル、売上高が予想193.1億ドルに対し195億ドル、売上高成長率は前年同期比+18.1%でした。

部門別売上高ならびに前年同期比

部門 売上高 前年同期比
オーチス 33.1億ドル +3%
キャリア 48.2億ドル ▲1%
プラット&ホイットニー  52.8億ドル +10%
コリンズ・エアロスペース 65億ドル +64%
(ただしM&Aを除くと+7%)

 2019年のEPSは予想8.03ドルに対し新ガイダンス8.05~8.15ドルが、売上高は予想769.7億ドルに対し新ガイダンス760億~765億ドルが提示されました。

 フリー・キャッシュフローは53億~57億ドルを見込んでいます。なお旧ガイダンスは45億~50億ドルでした。

 ユナイテッド・テクノロジーズは現在、大きな事業ポートフォリオの再編を行っています。具体的にはオーチス、ならびにキャリアを別会社としてスピンオフします。

 このスピンオフが完了した後でミサイル・メーカーのレイセオンと対等合併し、防衛関連企業として生まれ変わる予定です。

 新会社はレイセオン・テクノロジーズという名称となり、旧ユナイテッド・テクノロジーズ株主が57%を、旧レイセオン株主が43%を所有することになります。合併が完了するのは2020年上半期で、新会社の上場先はNYSE、ティッカーシンボルはRTXになると予定されています。

 合併後の新会社は年商740億ドル、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)135億ドル、社債格付け「シングルA」になると予想されています。

 合併によるコスト削減シナジーは年間10億ドルと見込まれています。

 新会社の売上ミックスはコリンズ・エアロスペース部門が年間220億ドル、プラット&ホイットニーが210億ドル、諜報宇宙対空システム部門が180億ドル、統合防衛ミサイル部門が160億ドルと見込まれています。

注目銘柄4:ゼネラル・ダイナミクス

 ゼネラル・ダイナミクス(GD)はストライカー装甲車、M1エイブラムス戦車、バージニア級潜水艦、コロンビア級弾道ミサイル潜水艦などを作っています。またITシステム部門は陸軍、米国の公的健康保険制度であるメディケア、メディケイドなどの仕事を請け負っています。

 同社の第3四半期決算はEPSが予想3.06ドルに対し3.14ドル、売上高が予想97.5億ドルに対し97.6億ドル、売上高成長率は前年同期比+7.3%でした。

 新規受注は好調でブック・ツー・ビル比率は1対1でした。第3四半期末での受注残は674億ドルでした。

注目銘柄5:ハンチントン・インガルス

 ハンチントン・インガルス(HII)はバージニア州のニューポート・ニューズ造船所、ミシシッピ州のインガルス造船所という二つの施設を持っています。

 このうちニューポート・ニューズは現在米国で唯一原子力空母を建艦する能力を持っています。またバージニア級潜水艦もこの造船所で作られています。

 インガルス造船所ではサンアントニオ級LPA(ドック型輸送揚陸艦)、タラワ級強襲揚陸艦を建造しています。

 第3四半期決算はEPSが予想3.63ドルに対し3.74ドル、売上高が予想22億ドルに対し22.2億ドル、売上高成長率は前年同期比+6.5%でした。

 受注残は392億ドルでした。営業キャッシュフローは3.63億ドルでした。