投資リスクを負わずに優待を得る「裏ワザ」も

「優待は魅力だが、株価が上がり過ぎていて買えない」「業績が不安」…。人気優待銘柄について、「投資すべきか迷う」という話を、読者の方からよく聞きます。

 これまで私は、「人気優待銘柄に投資すべきか否か」について、アナリストの視点から意見を伝えてきました。「どんなに優待が魅力でも、業績や財務に不安のある銘柄や、株価が値上がりし過ぎて『割高』と考えられる銘柄には投資すべきでない」が、アナリストとしての私の意見です。

 ただ、実際には、投資リスクを負わずに優待を得る「裏ワザ」もあります。それが、一般に「優待ただ取り」と言われる手法です。ネットで「優待ただ取り」と紹介されることが多い手法ですが、正確に言うと、「株主優待を、低コスト・低リスクで得る方法」です。取引手数料・貸株料などのコストがかかります。

 この方法を使うならば、投資リスクは負いません。業績や株価水準に不安がある銘柄でも、優待が魅力ならば、この方法で優待の権利を得ることができます。今日は、その概要を解説します。

「つなぎ売り」を利用して、株価下落リスクを回避しながら、株主優待を獲得する方法

 株主優待に魅力を感じて、株式投資を始める方が多いと聞いています。ただし、株式投資である以上、投資した後、株価が下落することもあります。

 優待は欲しいが、株価変動のリスクは負いたくない時、活用したらいいのが「つなぎ売り」です。「つなぎ売り」は信用取引の一種で、信用口座を開設しないとできません。

優待取り「つなぎ売り」のイメージ図

注:楽天証券が作成

【参考1】「つなぎ売り」とは

 株を借りてきて売ることを、「信用売り」といいます。株を持っているが、持っている株を売らず、別途借りてきた株を売ることを「つなぎ売り」と言います。株を保有したまま、株が値下がりするリスクをヘッジする効果があります。この状態で、権利確定日を迎えると、優待をもらう権利が確定します。権利が確定したら、保有している株を、借りてきた株の返済に充てれば、取引が完結します。保有株を、返済に充てることを「現渡(げんわたし)」と言います。

【参考2】「から売り」とは

 保有している株を、借りてきて売るのが「つなぎ売り」でした。それに対し、保有していない株を借りてきて売ることを「から売り」といいます。から売りした株が、値下がりした後に買い戻せば、利益が得られます。たとえば、1,000円でから売りした株が、900円に値下がりしてから買い戻せば、1株につき、100円の利益が得られます。

 ただし、から売りした株が、値上がりしてから買い戻すと、損失が発生します。

「つなぎ売り」のやり方:現物買いと信用売りを同じ株数ずつ行い、優待の権利を得たら、現渡(げんわたし)で決済する

 それでは、つなぎ売りのやり方を具体的にご説明します。

優待取り「つなぎ売り」のイメージ図

注:楽天証券が作成
 まず、魅力的な優待を提供している銘柄について、株式現物の「買い」と、信用取引の「売り」を、同じ株数ずつ、同じ価格で行います。買ってから売っても、売ってから買っても、どちらでも問題ありません。同じ価格で行うのが理想ですが、同じ価格で行えないこともあります。

「買い」と「信用売り」を同じ株数(たとえば100株)ずつ同じ価格(たとえば1,000円)で行えば、株価が上がっても下がっても、損も得もしません。

 株価が1,000円から900円まで下落すると、買った株に10,000円(値下がり100円×100株)の含み損が発生しますが、同時に、信用で売った100株には10,000円の含み益が発生します。合わせると、損も得もしません(売買手数料は考慮しないベース)。

 逆に、株価が1,000円から1,100円まで上昇すると、買った株に1万の含み益が発生しますが、同時に、信用で売った株に1万円の含み損が発生しますので、合わせると、損も得もしません。

「優待は欲しいが、株価下落リスクは負いたくない」時に、有効な方法です。優待の権利を得たら、速やかに、現渡で決済してください。それで、完結です。

つなぎ売りを使った優待取りにかかるコストが、優待で得られるメリットよりも、大きくならないように注意。制度信用でなく一般信用を使うのが望ましい

 最初に、お伝えしたように、「優待ただ取り」はできません。売買手数料や、貸株料などのコストがかかります。優待取りにかかるコストが、優待で得られるメリットより大きくならないように、注意する必要があります。

 詳しい説明は割愛しますが、「制度信用」を使ってつなぎ売りをした場合、まれに「逆日歩」というコストが発生し、得られる優待の価値よりもコストが大きくなってしまうこともあります。その点、楽天証券が提供する「一般信用・短期」を使えば、「逆日歩」というコストは発生しませんので、より低リスクで優待が得られます。

 なお、つなぎ売りについて、以下の注意事項をご覧ください。

 >つなぎ売りを行うにあたってのご注意

12月の「権利付き最終日」は12月26日(木)、権利落ち日は12月27日(金)

 つなぎ売りで優待を得ることができるのは、権利確定日の前後です。今月ならば、12月の優待銘柄でトライすることができます。

 そこで、12月末基準の優待銘柄の、権利付き最終売買日はいつか、ここで確認しておきましょう。今年の7月から、約定日から受渡日までの日数が2営業日に短縮されています。それまでは3営業日かかっていたのが、2営業日で済むようになりました。

 何を言っているか、意味がわからない方のために、簡単に言葉の説明をします。

(約定日)=株の売買をする日

(受渡日)=株の買い手が株主になる日、株の売り手が株主でなくなる日

(営業日)=証券取引所が開いている日。土曜日・日曜日・祭日は含まれない。

 株を買ったら、すぐに株主になれると思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。株の売買結果に基づいて株主名簿が書き換えられるまでに、今は2営業日かかります。

 その結果、12月末に優待の権利が確定する銘柄の、権利付き最終売買日は、以下の通りとなります。従来よりも、1営業日だけ後ろになります。

 2019年12月末基準の優待取りの権利付き最終売買日

注:楽天証券が作成

 12月末基準の優待銘柄で、つなぎ売りによって優待を得るためには、12月26日までに「つなぎ売り」(現物の買いと、同銘柄同株数のつなぎ売り)をする必要があります。それで、権利落ち日(12月27日)に、現渡しによってつなぎ売りの決済をすれば、完了です。12月27日に、現渡しを、忘れずに実施してください。

 

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