1.2020年の米国株式市場見通し

 2020年の米国株式市場は、米中の貿易戦争の影響が一巡し企業業績が回復に向かうことにより、上昇を試す展開になると考えられます。ただし、2020年1~3月に関しては投資家の警戒感が高まり、株価は上値の重い展開になるとみています。

 その最も大きな理由は、2020年11月3日に予定されている米大統領選挙です。本選は秋ですが、民主党と共和党の最終候補者が誰になるか見極めるシーズンは、2月、3月にあります。

 2月3日のアイオワ州を皮切りに「党員集会」や「予備選挙」と呼ばれる候補者選びが始まる予定です。特に3月3日のスーパーチューズデーでは、各州の候補者選びが集中する中、国内最大の代議員数を抱えるカリフォルニア州でも予備選挙が行われる見通しです。市場ではこの結果を見極めたいという姿勢が強まるでしょう。

 この大統領選の話題に加えて、米中通商交渉の進展も引き続き警戒対象になります。新たな追加関税が発動されなければ米中貿易戦争の影響は一巡する公算ですが、2020年も一段と関係が悪化すれば米国企業の成長に悪影響を及ぼします。大統領選も含め、先行きに対する不透明感が増すほど、企業は思い切った設備投資の判断が難しくなり、成長のチャンスを逃しかねません。

2.2020年1~3月は高配当利回り&割安株に注目

 こうした環境下で押し目買いしていきたいのは、高配当利回り銘柄と割安銘柄(出遅れ銘柄)です。特に以下の5つの銘柄に注目しています。

配当利回りと株価水準から注目する5銘柄

注1:株価は2019年12月13日終値。
注2:EPS(1株当たり利益)はGAAP(米国会計基準)ベースの一株あたり利益を指す。単位はドル。
注3:予想はブルームバーグコンセンサス(データ取得日:日本時間2019年12月16日) 
注4:配当利回りは、今後4四半期の予想配当金額を株価で割って算出。ただしETFは、過去4四半期の実績配当金額から算出。

3.注目5銘柄のポイント

1.ラスベガス・サンズ(LVS)

 ラスベガス・サンズはカジノなどの複合施設を開発・運営する大手企業です。シンガポールにある、屋上プールが特徴的な「マリーナベイ・サンズ」などを展開しています。純収益の半分以上はマカオエリアで成り立っています(2019年7-9月期)。

 マカオのカジノのVIP客の羽振りが思わしくなく、同社の置かれている環境は向かい風です。ただし、マカオの中間所得者層からの売上高は拡大しており、業績のマイナスインパクトを緩和できています。株主還元に積極的な企業で今期は一部資産の売却を実施し、増配計画を公表しています。

フリーキャッシュフローの推移 単位:百万ドル

注:フリーキャッシュフローは営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いて算出
出所:会社資料より楽天証券作成

一株あたり配当金の推移

出所:会社資料より楽天証券作成
注:2020年は会社公表計画

2.SPDR ポートフォリオS&P500高配当株式ETF(SPYD)

 SPDR ポートフォリオS&P500高配当株式ETFは高配当銘柄に分散投資された上場投資信託です。個別銘柄のように市場で売買することができます。

3.ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)

 ワイヤレス通信大手です。他社との競争激化が懸念材料ですが、インフラ色の強いサービスを提供しているため、業績が大きく落ち込むリスクは低いと考えられます。

4.3M(MMM)

 工業製品・事務用品大手です。グローバル経済の影響を受けやすく、株価は年初来でマイナス圏に落ち込んでいます。直近では一部のアナリストが製品に含まれる化学物質に関する訴訟リスクを指摘しており、株価回復には時間がかかるでしょう。ただし、グローバル経済好転の話題が増えてきた場合に物色される可能性が高い銘柄と考えられます。

5.シスコシステムズ(CSCO)

 通信機器のリーディングカンパニーで、ネット接続用のルーターやスイッチで高いシェアを誇ります。ドットコムバブルの頃に人気になった古い企業というイメージがあるかもしれませんが、ソフトウェアやサブスクリプション型ビジネスモデルの拡大を進める等革新性を有した企業です。

 3Mと同じくグローバル経済の影響を受けやすく株価は軟調です。ただし、直近の四半期決算では、ソフトウェアセグメントのサブスクリプションモデルが拡大、粗利益率が上昇しており、ビジネスモデル改革は進んでいるようです。また、規模が小さいですが、セキュリティ分野が2桁増収となっており長期的な成長の芽も確認できます。さらに企業の5G活用が本格的に進めば、関連製品の販売拡大にも期待が持てる銘柄です。

2020年7月期1Q(8-10月期)のセグメント別売上高

出所:会社資料より楽天証券作成