日経平均は3カ月連続の上昇も、勢いはやや鈍化

 2019年11月の日経平均株価は1.6%の上昇、これで3カ月連続の上昇となりましたが、9月の5.1%、10月の5.4%と比較すると、上昇率はやや鈍化する形になっています。

 米中貿易協議の行方が依然として不透明な中で、2018年1月、10月の高値水準が接近してきたことから、一段の上値追いには慎重な姿勢も強まってきている印象です。

 米議会が「香港人権法案」を可決したことで米中対立への懸念が強まり、一時下げ幅を広げる場面もありましたが、その後すぐに、中国の習近平国家主席やトランプ米大統領が貿易協議を巡って前向きな発言をしたことで、過度な警戒感は後退しました。

 結果的に25日移動平均線が株価の下支えとなる形にもなりました。

 11月前半は7-9月期の決算発表がピークとなり、全般的に個別物色の動きが活発化しました。任天堂(7974)トヨタ(7203)村田製作所(6981)東京エレクトロン(8035)など、比較的主力大型株には底堅い決算発表が多かった印象です。

 一方、大幅赤字決算を発表したソフトバンクグループ(9984)ですが、マイナス反応は限定的となり、全体相場の安心感につながりました。また、ヤフーの親会社であるZ HLDG(4689)LINE(3938)の経営統合など、業界再編の動きなども多く観測されました。

12月は来年への期待感も背景に、堅調に推移?

 12月の株式市場は堅調な動きが続くと期待しても良いと考えられます。比較的、年末相場は翌年の株式相場への期待感を反映しやすくなりますが、特に2020年は東京五輪の開催などもあって、市場ムードが高まりやすくなると考えられます。

 また、年後半には米国大統領選挙も行われることで、その前に相場を崩すような政策がとられる可能性も低いとみられます。

 目先の焦点となるのは、対中関税引き上げの期限とされる12月15日までに、米中貿易協議で何らかの合意がなされるのかどうかです。

 追加関税の実施は短期的に米中両国の経済情勢を悪化させますが、12月2日に発表された米国ISM製造業景気指数(株価との連動性が高いともされる経済指標)は市場の予想を大幅に下振れる内容となっており、さらなる景気悪化を想定させる対中関税の実施は行われない可能性が高いでしょう。

 物色動向としては、米国の年末商戦の立ち上がりが順調と伝わっていることで、ゲームや家電などの米個人消費関連株が注目されそうです。

 また、来年の注目テーマなどが話題となりやすいタイミングでもあるため、電気自動車や自動運転、5Gなどに絡んだテーマ株の動きなども注目されます。

金利上昇時は高配当株のパフォーマンスが高くなる

 今回は大型株の高配当利回り銘柄を取り上げました。株式市場の先高期待を背景とする機関投資家の資金流入増を想定すると、長期投資を見据えた大型株の妙味が強いと判断されます。

 業績が拡大傾向にある銘柄は減配の可能性が低いと考えられるため、スクリーニング要件に経常利益変化率を加えました。また、ROE(自己資本利益率)を加えたのは、あまりこの数字が低いと外国人投資家の投資対象とならない可能性があるためです。

 金利が上昇する際は、成長株と比べてバリュー株(低PER[株価収益率]株や高配当利回り株など)のパフォーマンスが高まりやすくなります。上昇する金利水準と比較して高い利回りや益回り(PERの逆数でPERが低ければ高くなる)の銘柄に関心が高まるためです。

 また、バリュー株の代表である銀行株が、金利の上昇による利ザヤの拡大期待で買われるため、それにつられて他のバリュー株が押し上げられる側面もあります。

 米国の利下げスタンスには打ち止め観測が強まりつつありますが、米中貿易協議に前進が見られれば、こうした見方が一段と強まることによって、米金利は上昇基調を鮮明化させる余地があります。これは、高配当利回りなどのバリュー株の活躍余地を広げることにつながるでしょう。

大型・割安の高配当銘柄ランキング

2019年11月末時点の大型・割安株 高配当利回りランキング

※楽天証券ウェブサイトの「スーパースクリーナー」を使って算出。
※「配当利回り」はコンセンサス予想値です。

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
11月末終値
(円)
時価総額
(億円)
ROE
(%)
8053 住友商事 5.15 1,649.0 20,629 12.0
5020 JXTG 4.60 486.6 15,719 12.3
8058 三菱商事 4.53 2,866.0 45,572 10.7
8002 丸紅 4.33 808.2 14,046 13.9
4005 住友化学 4.30 494.0 8,178 12.3
6301 小松製作所 4.25 2,567.0 24,966 14.7
7211 三菱自動車工業 4.03 490.0 7,302 16.1
配当利回り平均(%) 4.46

 スクリーニング要件
(1)予想配当利回りが4%以上(11月末)
(2)時価総額が5,000億円以上(11月末)
(3)経常利益変化率(3年)が40%以上
(4)ROE(実績)が10%以上

1 住友商事(8053・東証1部)

▼どんな銘柄?
 総合商社の一角ですが、その中では相対的に非資源分野のウェイトが高いという特徴があります。ケーブルテレビなどのメディア事業、電力インフラビジネス事業などに強みを持っています。

 2020年3月期には記念配当を実施することもあって、全般的に配当利回りの高い総合商社の中でも、最も予想利回り水準は高くなっています。

▼業績見通し
 2020年3月期の純利益は3,000億円で前期比6.4%減益の見通しとなっています。上半期決算時点で従来予想の3,400億円から下方修正しています。

 強みを持つインフラやメディア事業などは底堅く推移する予想ですが、北米での鋼管事業や自動車製造事業が低調で、資源価格の下落も響くもようです。

▼ここがポイント
 リスク要因としては、2021年3月期において、今期の記念配当分が減配される可能性もあることです。ただ、保有するキャッシュの状況からは配当余力も大きいとみられますので、配当金維持の公算も十分にあるでしょう。

 株価の上昇材料としては、中国景気の回復に伴って銅や亜鉛などの資源価格が上昇すること、米国のインフラ投資拡大などで鋼管事業の回復期待が高まることなどです。

2 JXTG(5020・東証1部)

▼どんな銘柄?
 石油元売りの国内トップ企業で、国内シェアは約5割となっています。銅などの金属事業も手掛けています。

 原油相場の水準によって在庫の評価損益の変動が大きく、株価は原油相場との連動性が強い傾向があります。配当利回り水準が高いだけでなく、PERやPBR(株価純資産倍率)でみても株価の割安感が強いといえる銘柄です。

▼業績見通し
 2020年3月期営業利益は2,800億円で前期比47.9%減益の見通しです。在庫影響を除いたベースでは3,500億円で同32.1%減益となり、従来予想の5,000億円から下方修正されています。

 石油化学品のマージン悪化の影響が大きく響く他、原油価格や銅価格の下落によって、石油開発事業や金属事業も軟調の見通しです。

▼ここがポイント
 注目ポイントとなるのは、フリーキャッシュフローが順調に拡大していることです。キャッシュの積み上がりによって、株主還元の拡充が今後も想定されます。

 特に2019年9月に自社株買いを完了したばかりですが、近くさらなる実施の可能性も残っているとみられます。

3 三菱商事(8058・東証1部)

▼どんな銘柄?
 総合商社の一角で、鉄鋼の原料となる原料炭の市況動向が業績に与えるインパクトは大きいです。資源関連株の代表的な銘柄の一つであり、株価は原油や銅など資源価格の動きと連動しやすい傾向にあります。

 ローソンの親会社でもあります。足元では、オランダのエネルギー会社を約5,000億円で買収すると発表しました。

▼業績見通し
 2020年3月期純利益は5,200億円で前期比12.0%減益の見通しです。従来予想の6,000億円からは下方修正されています。原油デリバティブ取引での損失もありますが、原料炭事業における市況の下落が業績下振れの最大の要因となっています。

 なお、上半期決算時点で通期の配当金予想は引き上げています。

▼ここがポイント
 相対的に2021年3月期の減配の可能性が低いことは注目されます。また、現在は大規模な自社株買いの実施中でもあるなど、こうした株主還元策は株価の大きな下支えと位置付けられます。

 株価の本格上昇には、中国景気の回復期待の高まり、それに伴う資源価格の上昇が必要となるでしょう。

4 丸紅(8002・東証1部)

▼どんな銘柄?
 総合商社の一角で、取扱量トップを誇る穀物事業、電力事業などに強みを持っています。

 11月には、米国航空機リース事業会社のエアキャッスルを約1,275億円で買収すると発表、来年度の業績寄与が期待されます。

▼業績見通し
 2020年3月期純利益は2,400億円で前期比3.9%増益の見通し。期初の計画から変更はされていません。電力やエネルギー事業が減益となりそうですが、鉄鉱石市況の上昇を背景に金属事業が上伸しけん引役となる見通しです。

 資源価格の低下で下方修正も目立つ総合商社業界では相対的に底堅い業績推移といえるでしょう。

▼ここがポイント
 海外事業会社の一部には減損損失発生などのリスク要因も残るといった見方はありますが、資源価格が低迷して、総合商社の事業環境が悪化する中では、当社の業績の安定性には関心が向かうと考えられます。

 配当利回りが高いほか、ここ数年は増配傾向が続いていることなどからも買い安心感は強いでしょう。

5 住友化学(4005・東証1部)

▼どんな銘柄?
 総合化学大手の一角です。相対的に石油化学事業のウェイトが低い一方で、農薬事業は国内トップの実績、また、医薬品事業では子会社に大日本住友製薬を抱えています。サウジアラビアでは同国の国営石油会社であるサウジ・アラムコと合弁で、石油精製・石油化学事業を行うペトロ・ラービグも展開しています。

 他の化学大手と比較すると、短期的なコストアップにつながる原油市況上昇のマイナス影響は受けにくい収益構造になっています。

▼業績見通し
 2020年3月期コア営業利益(営業利益から特殊要因として発生した損益を控除)は1,600億円で前期比21.7%減益の見通しです。従来予想の2,050億円から期中で下方修正されています。

 情報電子化学や医薬品事業は堅調ですが、市況下落の影響で石油化学事業の収益が落ち込み、健康・農業関連事業も伸び悩む見通しです。

▼ここがポイント
 会社側では期中に期末配当金予想を未定に変更しています。このため、さらなる業績下振れがあった場合、今期の配当利回りは低下する可能性に注意が必要となります。また、先の話ですが、2024年3月期は、医薬品事業における主力薬「ラツーダ」の米国特許切れにより、同事業は大幅な減益になると見込まれています。

 一方、有機EL、全固体電池、5Gなど成長市場での展開力は今後も注目材料となりそうです。