「敵対的買収」ブーム復活ある? 買収価値で割安と判断される銘柄が増えてきた

 今日は、最近話題になることが少なくなった「含み資産株」の話をします。今、日本の株式市場には、保有不動産に巨額の含み益を持つ銘柄が多数あります。株価は、買収価値(純資産価値)と比べてきわめて割安な水準に留まっています。

 2005年に大活躍したハゲタカファンド(買収ファンド)がいれば、まっさきに狙われそうな銘柄群です。ところが、2006年以降、ハゲタカファンドは日本からほとんど撤退しました。

 ハゲタカ去り、割安な「含み資産株」に、敵対的買収をしかける買い手はなくなりました。純資産価値と比較して割安とわかっていても、注目する投資家がいなくなりました。

 今日のレポートでは、そういう「含み資産株」に改めてスポットライトを当てます。

 

ブーム渦中にある大手不動産株

 アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が引き締まりました。今、都市部は、不動産ブームの様相を呈しています。

 都心5区オフィスビルの賃料・空室率平均の推移:2004年1月~2019年10月

出所:三鬼商事、都心5区は東京都千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区

 不動産市況の上昇によって、大手不動産、電鉄、倉庫株などで、保有する賃貸不動産の含み益【注】が拡大しています。賃貸不動産の含み益上位4社を挙げたのが、下の表です。

【注】含み益:時価と取得原価の差額。100億円で買った不動産が120億円まで値上がりしたとき、帳簿上100億円で計上している不動産に、20億円の含み益が存在することになります。

賃貸不動産の含み益上位4社の含み益:2013年3月~2019年3月

出所:各社有価証券報告書(住友不動産のみ決算短信)より作成

 ところが、ブーム渦中の不動産株は、2013年に高値をつけてから、下落が続いています。不動産ブームがいずれピークアウトすることが意識されているため、業績好調でも積極的な投資が入りにくくなっています。

東証不動産株価指数の動き:2004年1月~2019年12月(4日まで)

注:2004年1月末の値を100として指数化、楽天証券作成

 不動産業は市況産業です。過去に、不動産市況の上昇下落に対応して、ブームと不況を繰り返してきました。過去を振り返ると、1973年、1990年、2007年に市況のピークがありました。1973年は列島改造論のブームの中で不動産市況が高騰しましたが、オイルショックが起こると崩落しました。1990年の不動産バブルは90年代に崩壊しました。2007年の不動産ミニバブルは08年のリーマンショックで崩壊しました。

 学習効果で、投資家は、ブームのときに不動産株を買わなくなったのです。ただし、私は、やや警戒過剰に陥っていると思っています。

2018年問題を無事クリアした都心オフィスビル、2020年はどうか?

 オフィスビルには、2017年まで、「2018年問題」と呼ばれて警戒されていた問題がありました。2018年に都心でオフィス供給が大幅に増加するので、一時的に供給過剰となり、賃料が下がるという警戒でした。蓋を開けてみると、2018年に新規竣工したオフィスは、増加する需要で難なく吸収されました。

 オフィスの利用状況を見ると、各机にパソコンが常備され、通路が広くなるなど、1人当たりの占有面積が拡大する傾向があります。商業施設でも、通路や駐車スペースが広くなるなど、より大きなスペースを必要とする造りに変わってきています。景気回復に加え、1人当たり占有面積の拡大が、想定以上の需要増加につながっています。

 ただし、気をつけなければならないこともあります。オフィス供給には「2020年問題」と呼ばれている懸念もあります。2019年のオフィス供給はさほど増えませんが、2020年に再び供給が大幅に増えることです。その時、空室率が上昇する懸念があります。

 実際どうなるか、その時になってみないとわかりません。20年の大量供給も、増大する需要で吸収されてしまえば、2021、2022年のオフィス供給は大幅に減少するので、オフィス市況は高止まりが続くことになります。

「実質PBR」で割安企業を見つける

「買収価値と比べて割安」と言えるのは、どのような企業でしょうか? 「収益基盤がしっかりしていて、かつ、1株当たり純資産(資本)の価値よりも株価が小さい企業が、買収価値対比で割安ということができます。

 そこで見るべきは、PBR(株価純資産倍率)という指標です。PBRとは、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを示す指標です。PBRは1倍以上になるのが普通ですが、財務や収益力に問題のある銘柄では、1倍を割り込むものもあります。もし、財務や収益力が良好なのに、PBRが解散価値と言われる1倍を大きく下回っている銘柄があれば、買収価値から割安と言えます。図で示すと、以下のような銘柄です。

PBR 0.5倍:イメージ図

注:筆者作成

 今日、注目するのは、見かけ上のPBRではなく、含み益を考慮した実質PBRです。保有不動産の含み益の70%を自己資本に加えた上で、計算し直したPBRを、実質PBRと呼んでいます。

賃貸不動産の含み益上位4社のPBRと実質PBR:12月4日時点

出所:各社有価証券報告書(住友不動産のみ決算短信)から楽天証券経済研究所が作成。
実質PBRは、実効税率を30%として含み益の70%を自己資本に加えて計算。
(注)含み益のある不動産を売却すると、含み益が売却益となり、自己資本が増加します。ただし、売却益に税金がかかります。実効税率を30%と仮定すると、含み益の70%が自己資本に加わることになります。実質PBRは、売却した場合に増える自己資本を、含み益の70%と仮定して、計算しているPBRです。

 ここで注目していただきたいのは、実質PBRです。4社とも、今期(2020年3月期)純利益(会社予想)は、最高益を更新する見通しです。財務内容は良好で、巨額の含み益を有します。にもかかわらず、解散価値といわれる実質PBR 1倍を大きく下回っていますので、買収価値から割安と判断することができます。

 業績・財務とも良好なのに、実質PBRが0.7倍を下回ると、欧米ならば、敵対的買収が入ってもおかしくないところです。ただし、日本からは買収ファンドがほとんど出て行ってしまったために、そのような狙いで投資する主体はほとんどありません。

ユニゾHDには、敵対的買収が仕掛けられた

 純資産価値から見て極端に割安に放置されている株に、敵対的買収を仕掛ける動きが、少しだけ日本でも復活しています。ユニゾHD(3258)へのTOB(株式公開買付)がそうです。

ユニゾHD株価推移:2019年1月4日~12月4日

出所:賃貸不動産の含み益は、同社有価証券報告書

 ユニゾHDは、ホテル事業などを展開する不動産会社で、2019年3月時点で保有不動産に1,137億円の含み益があります。ところが、株価が長期的に低迷していて、今年の6月末には株価1,844円、実質PBRで0.3倍まで売り込まれていました(実質PBRは、含み益の70%を自己資本に加えて計算したPBR)。

 そこに、HISや海外ファンドなどから敵対的買収がかかり、12月4日時点で株価は2.6倍の4,850円まで上昇しています。それでも実質PBRは0.8倍と、まだ1倍を割れています。

 不動産や倉庫株には今、業績好調でも、賃貸不動産の含み益を考慮した実質PBRが0.6倍を割れている銘柄が多数あります。

投資判断

 三菱地所、三井不動産、住友不動産の3社は、最高益更新が予想されています。それぞれ2~3兆円台の含み益を有し、含み益を勘案した実質PBRは、それぞれ0.62倍、0.63倍、0.59倍です。この3社は過去には実質PBR1倍前後で評価されることが多かったことを考えると、今の株価は、かなり割安と思います。株価上昇のカタリストがまったく見当たりませんが、割安な株価を考慮して、少し投資してみて良いと思います。

 JR東日本は、新幹線が成長ドライバーとなり、最高益更新が続いています。台風被害で今の株価は低迷していますが、これからも、新幹線、観光、不動産事業が業績拡大に寄与すると判断しています。長期でじっくり投資して良い銘柄と判断しています。

 なお三菱地所、三井不動産、JR東日本は、12月4日時点で配当利回りが1.6~1.7%あります。利回りが特に高いとはいえませんが、まあまあ評価できるレベルです。

 

含み益上位4社の配当利回り:12月4日時点

出所:配当利回りは、2020年3月期の1株当たり年間配当金(会社予想)を、12月4日の株価で割って算出

 

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