ドル/円は半年ぶりの高値圏

 ドル/円は先週、一時、半年ぶりの高値109.73円をつけました。

 しかし、米株が史上最高値を更新しているにもかかわらず、ドル/円は今年の高値水準である112円台にも届いていません。半年前の5月に109円台後半をつけた時、米10年債金利は2.2~3%でしたが、現在は1.7~8%で推移している点が大きな違いです。

 米長期金利が低い水準で安定しているため、ドル/円は半年ぶりの高値にもかかわらず、高揚感は市場にはほとんどありません。ちなみに112円台をつけた時の米10年債金利は2.5~6%でした。

11月のドル/円は政治リスクが影響

 11月を振り返ると、米中通商協議合意への期待と失望から相場は108円台前半から109円台前半の中で上げ下げしましたが、月後半には米中通商協議と英国のEU(欧州連合)離脱協議の進展期待から109円台にしっかり乗せて推移しました。

 香港情勢も選挙の結果、民主派が圧勝したことから政治リスクが後退し、ドル/円を109円台で支える要因の一つになりました。

 しかし、米国議会が「香港人権法」を採決したことから、米中通商協議に再び暗雲が。そして、トランプ米大統領は1週間悩んだ末、「香港人権法」に署名しました。署名は米中協議が難航するリスクがありますが、今のところ相場にはほとんど影響していません。署名がサンクスギビングの祝日の前日27日に行なわれたため、マーケットへの影響は軽微でした。

 また、トランプ大統領は、署名時の声明で、「習近平国家主席と、香港市民への敬意をもって法律に署名した」と慎重な言い回しで説明し、「(香港人権法の執行は)大統領権限に委ねられている」と、法案を全て履行しない可能性を示唆しました。トランプ大統領としても、来年2020年の再選のため、何とか部分合意して、中国からの農産品購入増という「成果」を、米国内の農家向けにアピールしたいという強い思惑が感じ取れる声明でした。

米中協議の対応に苦慮する中国の姿から分かること

「香港人権法」の成立に対して、中国報道官は「中国は必ず報復措置をとる」とすかさず表明。

 しかし、記者が「報復措置はどのような内容でいつやるのか」と質問したところ、報道官は5秒間ほど下を向いたまま、沈黙が続いたのが印象的でした。米中協議の一部合意を前にして対応に苦慮している中国の状況を垣間見たようなニュース映像でした。

 中国はその後、報復措置として、米軍の艦船が香港に寄港するのを当面禁止すると発表しました。この香港寄港拒否は、過去何度も実施されています。直近でも中国は8月にも米艦の香港寄港を拒絶しています。過去の入港拒否では中国側が発表しなかったケースが多かったのですが、今回は内外に宣言し、米国をけん制する政治的メッセージを出す狙いがあったとみられます。中国サイドからも大詰めを迎えている米国との貿易協議への影響を回避させたい思惑がにじみ出ているのを感じます。

12月15日が理論上の期限

 12月のドル/円は11月同様、米中通商協議合意への期待と失望によって上げ下げが予想されますが、今月最大の注目イベントである12月15日の対中関税第4弾の実施予定日までは大きく動きづらいかもしれません。

 12月中旬には10~11日のFOMC(米連邦公開市場委員会)、12日にECB(欧州中央銀行)理事会、12日の英国総選挙、15日の対中関税第4弾発動予定日とイベントが集中しています。

 しかし、FOMCもECBも変更なしとの見方が大勢であり、やはり、注目は15日までに米中協議が合意に達するのかどうか、そして追加関税第4弾は発動されるのかどうかが注目点です。

 12月2日、ロス米商務長官は、「15日が理論上の期限だ」と明言し、15日までに合意できなければ「トランプ大統領は関税を引き上げると明確にしている」と中国をけん制しました。

 つまり、合意に達すれば第4弾の追加関税発動は見送り、合意に達しなければ、実施される可能性が高いということになります。

 さらにもう一つのシナリオが考えられます。

 合意には達しないが協議は決裂でなく継続し、合意時期の先送り、追加関税も延期となる場合です。このコラムを書いていたら、12月3日、トランプ大統領は、「合意の期限はない。来年の大統領選挙まで待ったほうがいいかもしれない」と、正にそのシナリオを述べました。

 しかし、株安、ドル売りとなりましたが、長期戦の構えを見せることで中国側の譲歩を引き出すための揺さぶりであるとの見方が多いため、やはり、15日の結果を見るまではマーケットはそれ以上動きづらいかもしれません。

 現実に合意先延ばし、追加関税発動延期となれば、企業にとっても不透明要因が来年も続くため、新たな投資を手控えることが予想されます。米国景気にとっては悪材料が続くことになります。

 そして重要な点は、いずれの形にしろ、15日までに決着していることが予想され、12日の英国総選挙も含め材料出尽くしから、クリスマス、年末前に利食いやポジション整理が予想されることです。15日以降の月後半は、株式市場や為替市場の調整売りも警戒シナリオとして留意しておく必要がありそうです。延期となれば、来年の景気悪化懸念も加わり、調整売りは大きくなるかもしれません。