日本株は、長期的な資産形成を図るに適格な投資対象と考えます

 今日は、日経平均株価の長期見通しについて書きます。私は、乱高下しつつも、令和時代最初の10年、日経平均は上昇トレンドが続くと考えています。保守的な前提に基づき、年率4%程度の上昇が続くと仮定すると、10年後の日経平均は3万4,000円と試算されます。

 日経平均は世界景気の変動に伴って激しく乱高下するので、日経平均に連動するインデックスファンドに投資していると落ち着かないと思う方もいらっしゃいます。増やすことよりも減らさないことを第一に考える方が多い結果、日本の家計の金融資産は、過半が利息をほとんど生まない現預金に眠っています。

家計の金融資産1,835兆円の保有状況:2019年3月末時点

出所:日本銀行「資金循環統計」より作成

 ただし、現預金に巨額の資金を眠らせておくのは、もったいないと思います。リスクを負い、リスクを適切に管理しながら日本株に投資していくことは、長期的な資産形成に寄与すると思います。日経平均インデックスファンドに積立投資(たとえば毎月1万円ずつ)していくことも、有効な選択肢と考えます。

「失われた20年」では、日本株を保有していない方が良かった

 平成の30年が終わり、令和時代が始まっています。平成の30年のうち最初の20年、日本株は「右肩下がり」でした。

日経平均株価(月次推移):平成元年(1989年)1月~令和元年(2019年)11月

出所:楽天証券経済研究所が作成

 平成元年(1989年)は、日経平均が史上最高値(3万8,915円)をつけた年です。まさに、「バブル崩壊」「失われた20年」のスタート地点。そこから約20年、日経平均は右肩下がりで下がっていきました。日本株を持っていれば、時間が経てば経つほど、損失が増えていく時代でした。

 その時の思いが抜けないからか、日本株を保有するならば「短期勝負」と考えている方が多いように思います。日経平均が下がってくると、個人投資家の買いが増えますが、日経平均が反発すると、個人投資家はすぐに売り越しに転じる傾向が鮮明です。

 日経平均は、リーマンショック後の10年で大きく上昇しました。日本株は、長期的にゆるやかに上昇する資産に変わった、と私は考えています。平成の構造改革を経て、日本企業の財務・収益基盤が格段に強化されたこと、日本株が配当利回りや買収価値から見て割安になったことがその理由に挙げられます。

「バブル崩壊」の思い出

 1990年代は、日本の金融機関が不良債権を抱えて苦しんだ時期です。1997年、東京三菱銀行は不良債権のバルクセールを始めました。それが、日本の金融危機の序章でした。不良債権処理に踏み切る体力が残っていた銀行は生き残ります。ところが、「いつか不動産や株はまた元に戻る」と期待して処理を先送りしていた金融機関が、この後、バタバタと破綻することになります。

「社員は悪くありません」と、涙ながらに山一證券社長が破綻を報告するのは、その翌年。含み損を抱えた株式を隠していたのが表面化したことが、破綻の原因です。いつか株価が戻ることを期待して、経営者が損失計上を先送りしているうちに、どんどん損失が拡大しました。

 続いて、北拓、長銀、日債銀など大手金融機関が破綻します。不動産融資にのめりこんだまま、経営陣が問題処理を先送りしてきたツケが出ました。その後、不動産・建設・金融などで上場企業の破綻が続きました。

 日本の金融機関が不良債権の処理を終え、金融危機を脱するのは、2003年です。りそな銀行に公的資金が入ったところで、金融システム不安は解消しました。

 1998年から2005年まで、日本企業は生き残りを賭けた「合併・リストラ」「構造改革」を実施しました。その成果で、2003年から2007年まで日本企業の復活が続きました。「ようやく失われた10年を脱した」と言われました。

 ところが、それは甘い期待でした。2006年から、「構造改革疲れ」という言葉がブームになり、合併破談・買収防衛策の導入が相次ぎました。その頃から、少子高齢化が一段と進み内需企業が疲弊してきました。

 さらに、力をつけたアジア企業(韓国・台湾・中国)がエレクトロニクス産業で、日本企業を追い詰めるようになりました。2008年にリーマンショックが起こると、日経平均は再び、大きく下がり、バブル崩壊後の安値を更新しました。平成が始まってから、リーマンショックに苦しむ平成20年まで、日本は「失われた20年」を経験したと言われました。

平成の締めくくりは「復活の10年」に、構造改革の成果が結実

 リーマンショックを経て、復活の10年が始まりました。今、日経平均がバブル崩壊後の高値圏にあるのは、失われた20年で行った構造改革の成果と考えています。その内容は、以下の通りです。

1998~2005年の構造改革
◆金融危機を克服:不良債権処理を完了
◆業界再編:金融・化学・鉄鋼・石油精製・セメント・紙パルプ・医薬品・小売業などで、生き残りを賭けた合併・リストラが進む
◆財務体質を改善:日本中の企業が借金返済にまい進。借金過多のバブル時より財務が大幅改善
◆省エネ・環境技術がさらに進化:日本は1970年代以降、省エネ・環境技術で世界をリードしてきたが、2000年代の資源バブルでさらに技術優位を広げた

2006~2013年の構造改革
◆内需産業が海外で成長:内需産業(小売り・食品・サービス・化粧品・金融・陸運など)が海外(主にアジア)進出
◆サービス化・IT化:ITを駆使した成長企業が増える。AI・IoTの普及始まる。製造業でも、サービス化・IT化に対応した「脱製造業」のビジネスモデルが広がる
◆海外M&:日本企業が大型M&A(企業の買収・合併)を次々と実施し、海外企業を買収。海外進出を加速
◆働き方改革・ガバナンス改革:まだ道半ばだが、労働生産性を高める働き方改革、ガバナンス改革が進む

次は、「飛躍の10年」に

 既に「平成」が終わり、「令和」時代が始まっています。次の10年、日本株はどうなるでしょう。私は、日本株が大きく飛躍する10年になると考えています。

 私は、1987年から2013年まで約25年間、日本株のファンドマネージャーをやってきました。20代で1,000億円、50代で2,000億円以上の日本株運用を担当し、ベンチマーク(TOPIX:東証株価指数)を大幅に上回るパフォーマンスをあげてきました。今、運用の現場からは離れましたが、25年の運用経験を生かし、この連載コラムを執筆しています。

 私が、もっと若ければ、これから25年間、日本株のファンドマネージャーをやりたいと思います。あまり先のことまではわかりませんが、とりあえず、これからの10年、日本株投資がとても面白い時期になると思います。「失われた20年」で行った構造改革の成果を刈り取る時期と思っています。

 日本人が優れていると思うのは、世界中あらゆるところで、日本の自動車が走り、日本のロボットが使われ、日本の技術が活躍していても、簡単に「おごり高ぶらない」ところです。世界に誇る技術や企業がたくさんあっても、「日本はこのままではダメになる」と危機感を持ち続け、努力を続けています。

 もう1つ、優れていると思うところは、日本人の多くがチームプレーに徹することができることです。若い世代で個人主義が広がっているとも言われますが、基本的な資質は変わっていないと思います。体格差で劣る日本人が、スポーツで欧米選手に勝つのは、チームワークが生きる時が多いことからもわかります。

 さらにもう1つ、日本人の優れているところは、品質に徹底的にこだわることです。製造業で培われた高品質は、サービス化・IT化社会になり、きめ細かな高品質サービスとして、国際的に評価されるようになっています。

 その成果が、これから出ると思います。PER(株価収益率)や配当利回りなどで見て割安になった日本株の投資魅力は高いと思います。

 日本株を売り、日本への投資をやめるべき時は、日本人がみな(今の私のように)、「日本人はすごい」と自画自賛する時でしょう。まだ、そのタイミングにはなっていないと思います。

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