「香港人権・民主主義法」にトランプ大統領が署名、米中対立がさらに激化する不安も

 先週の日経平均株価は1週間で181円上昇し、2万3,293円となりました。NYダウは、1週間で175ドル上がり、2万8,051ドルとなりました。

日経平均株価週足:2018年初~2019年11月末

NYダウ週足:2018年初~2019年11月末

 日経平均・NYダウとも、米中対立が一時的に緩和するのか、さらにエスカレートするのか、めまぐるしく変わる情勢に反応して神経質な動きとなっています。今のところ、楽観論が優勢ですが、情勢は予断を許しません。

◆楽観シナリオ:米中「部分合意」が年内に成立し、米中対立が一時的に緩和。12月15日に予定されている米国による「対中制裁第4弾」は撤回される。それで、抑圧されていたハイテク投資が世界的に回復、来年にかけて5G(第5世代移動体通信)、半導体投資などが盛り上がり、世界景気は回復。

◆悲観シナリオ:11月27日、香港人権法にトランプ大統領が署名し、法律が成立。中国政府は、これを「重大な内政干渉」とし、報復措置を発動する考えを示しました。これで、米中通商交渉の「部分合意」年内成立は絶望的に。12月15日に米国は予定通り「対中制裁関税第4弾」を発動し、中国もなんらかの報復措置を実施。米中の対立がさらにエスカレート。

香港人権法成立で、米中対立は激化に向かうか

 トランプ米大統領は27日、米国議会(上下院)が圧倒的多数で可決した「香港人権・民主主義法」に署名しました。当初、中国との部分合意を目指す中で、署名を躊躇する発言をしていましたが、さすがに米国の与野党が一致して圧倒的多数で可決した法律を、大統領権限で拒否することは、できませんでした。

 トランプ大統領は当初、香港の人権運動も習近平国家主席との交渉もどちらも大事だと述べ、米中対立をエスカレートさせかねない法律への署名に躊躇しているのが、明らかでした。結局、法律に署名し、中国はそれに対して、報復を示唆しています。米中対立エスカレートが避けられなくなったように見えます。

 ただし、この事態に至っても、金融市場は今のところ冷静です。人権法成立後の29日の米国市場で、NYダウはわずか112ドル(0.4%)しか下げませんでした。中国政府も、すぐには報復措置を発表していません。

 あくまでも推測にすぎませんが、トランプ大統領が法律に署名する前に、米中対立をエスカレートさせないようにするために、なんらかのメッセージを中国側に送っていた可能性もあります。人権法でもめるのを避けて、あくまでも、年内の部分合意を目指す考えが伝わっているのでしょうか。

 真偽のほどは、今週、米中政府から、どのような発言が出るかによって分かると思います。年内部分合意を目指して交渉を継続するのか、報復合戦を再開するのか、米中双方からどういう発言が出るかに注目されます。

日経平均先物「踏み上げ」はそろそろ一服か?

 私は過去25年、日本株のファンドマネージャーをやっていました。ファンドマネージャー時代、日経平均先物で短期トレードをする際に、一番重視してみていた指標が裁定残高です。10~11月の日経平均上昇では、日経平均先物の「踏み上げ」が起こっていたと考えられます。それが、以下のグラフから分かります。

日経平均と裁定売り残の推移:2018年1月4日~2019年11月29日(裁定売り残は2019年11月22日まで)

出所:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 詳しい説明は割愛しますが、裁定売り残の変化に、投機筋(主に外国人)の日経平均先物「空売り(からうり)」の変化が表れます。空売りが増えると裁定売り残が増え、空売りが減ると裁定売り残が減ります。

 上のグラフを見ていただくと分かりますが、裁定売り残高は、2019年7~8月にかけて約1兆円から2兆円まで急増しています。投機筋が、日本株にきわめて弱気の投資判断をして、日経平均先物の空売りをどんどん積み上げていったと推定されます。

 ただし、2019年9月から11月(22日)までで、裁定売り残高は、急減しています。9月6日に約2.1兆円あった裁定売り残高は、11月22日には8,582億円まで急減しました。1兆円以上減ったことになります。この間、空売りを積み上げていた投機筋が、日経平均先物を買い戻してポジションをクリアしたと推定されます。

 その間、日経平均は上昇しています。空売りを仕掛けた投機筋は、日経平均の上昇によって含み損が拡大していきました。じりじり上昇が続く日経平均に我慢ができず、損失拡大を防ぐために、空売りの買戻しを出していったと考えられます。このように、空売り筋に買い戻しを迫る相場の上昇を、「踏み上げ」といいます。10-11月は、日経平均先物の踏み上げによって、上昇が継続したと考えられます。

 ただし、裁定売り残高が既に1兆円以上、減少したので、ここからは、踏み上げによる日経平均先物の買戻し圧力は少しずつ低下していくと考えられます。

 踏み上げ圧力が低下したタイミングで、米中交渉で不安材料が出れば、一時的に日経平均が大きく下がる可能性もあります。日本株が長期的に買い場との判断は変わりませんが、短期的にはショック安が起こる可能性が出ていることには注意が必要です。

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