リスク要因落ち着きで。ドル/円は再び109円台に

 ドル/円は再び109円台に乗せてきました。米中通商協議の第1段階の合意が近いとの報道が流れたことや、香港情勢が選挙の民主派圧勝によってデモが落ち着いたことが背景にあるようです。

 米国の香港人権法が米中間の新たな火種として浮上してきていますが、市場はあまり反応していないようです。トランプ米大統領が署名すれば法案は成立するのですが、米中通商協議の合意の妨げになりそうなため、署名をためらっているからです。

 米議会の上院で全会一致、下院で賛成417、反対1で可決されたこの法案を大統領が拒否権で覆すのは、来年の米大統領選挙を控えている中では政治的リスクが大き過ぎます。トランプ大統領が署名しなくても、10日間(日曜を除く)経過すれば、法案は自動的に成立するため、トランプ大統領としては自動成立まで様子見するだろうというのが、市場の見方。従って、反応は鈍いようです。

米感謝祭とブラックフライデー

 ドル/円は109円台に乗せたものの勢いは鈍く、レンジの中を行ったり来たりしているだけの動きです。無理もありません。28日の木曜日には米国感謝祭が控えているため、大きくポジションを動かす行動には、慎重になっているようにみえます。

 毎年、11月の第4木曜日(今年は11月28日)の米国感謝祭(サンクスギビング:Thanksgiving Day)の前には、ポジションを閉める動きが出やすくなります。また、サンクスギビングは、日本で言うとお盆のような行事であり、家族、友人が集まってお祝いをするため、金曜日も休みを取る人が多く、帰省の動きが活発となります。従って、お祝いの日には「相場を気にせず過ごしたい」という心理が働きやすくなるようで、相場はますます動かなくなります。

 そして、サンクスギビングの翌日の金曜日は、小売業のクリスマス・年末セールの初日、かつ最大の商戦日となります。この期間だけで、年間売上高の2割ほどを稼ぐと言われているため、商売が黒字となることや人出の多さから「ブラックフライデー」と呼ばれています。この日の消費額は、年末に向けての消費動向を占う指標として、マーケットでは注目されています。今年の年末商戦の売上高は前年比で5%増えると予想する米証券会社もあり、個人消費への期待は根強いものがあります。

 また、このブラックフライデーの結果は、来年の景気動向を占う上でも関心が高まっています。というのは直近の8-10月期の決算で大手百貨店メーシーズは減収、ホームセンター大手のホーム・デポは下方修正、一方で小売最大手ウォルマートやディスカウントストアのターゲットは増収増益と、小売業の決算が二極化していたからです。どちらが実体経済を反映しているのか、ブラック・フライデーの結果は非常に気になるところです。

vice指数で占う2020年は?

 もうひとつ来年の景気動向を占う上で話題になっている指標があります。新聞によると、 vice指数(vice index)という4カ月先の消費動向を予測できる指標です。「vice」とは「悪い習慣」という意味で、個人が余裕資金をどの程度使っているかを計る指標です。ビッグデータを基に投資助言を行うサウスベイ・リサーチが、酒やギャンブル、宝飾品などへの支出動向を基に独自に算出し、個人消費動向を先行予測しています。実は、このvice指数が9月に、1996年2月以来、約23年半ぶりの低水準をつけたそうです。

 9月の4カ月先ですから、1月か2月発表の小売売上高などの個人消費の動向を示す経済指標に映し出される可能性があります。米国GDP(国内総生産)の7割を占める個人消費が減速すれば、米国の景気が後退していくことになります。

 一方で、来年2020年の前向きな経済予測も出始めています。ゴールドマン・サックス・グループは、「2020年には貿易戦争からの米中経済への逆風が徐々に弱まる。中国からの輸入品に対する関税は今がピークである可能性が高い」と分析しています。そして「世界経済と企業利益が2020年に安定し、中央銀行の政策がほぼ据え置きであってもリスク資産の値上がりが可能だ」と予想しています。

 果たして、vice指数の予測通りに消費が減速するのか、ゴールドマン・サックス・グループの見通しどおりに展開するのか、まずは「ブラックフライデー」の結果に注目です。