日米金利差・購買力平価から判断した理論値は1ドル=110円

 最初に結論から述べます。私は、ドル/円の理論値は、現在1ドル=110円と考えています。詳しい説明は割愛しますが、日米金利差・購買力平価から計算しています。

 実際のドル/円レートが今1ドル=108円台ですから、理論値と大変近いところにあります。これはきわめて珍しいことです。為替レートは通常、理論値を無視して、短期的な需給や材料に反応して大きく動きます。理論値からどんどん離れていくこともよくあります。ただし、長期的にはおおむね理論値プラスマイナス20円くらいの範囲で動いています。

 今日は、ドル/円為替レートを動かす要因、ドル/円の理論値(フェアバリュー)について、私の考えを解説します。

ドル/円を動かす3大要素、一番重要なのは「日米金利差」

 為替を動かす要因は無数にありますが、今ホットで重要度の高いものに絞れば、3つあります。

【1】日米金利差
ドル金利が上昇し、日米金利差が拡大すると、円安(ドル高)になります。
ドル金利が低下し、日米金利差が縮小すると、円高(ドル安)になります。

【2】世界的な株高・株安
世界経済に不安が広がり、世界的な株安が起こると、安全資産として「円」が買われます。これを、「リスクオフの円高」と呼びます。不安が緩和し、世界的な株高が起こると、金利の低い「円」は売られます。「リスクオンの円安」と言われます。

【3】政治圧力
米国政府筋から、円安を非難する発言が増えると、円高(ドル安)が進みます。
米国政府が、円安を容認している間は、円安(ドル高)が進みやすくなります。

2018年1月以降の、ドル/円の動きを振り返り

 2018年1月以降のドル/円の動きを振り返ると、主に、日米金利差と世界的な株高株安に反応して動いていたことがわかります。

ドル/円為替レート推移:2018年1月1日~2019年11月18日

 

注:楽天証券経済研究所が作成

 

【1】    2018年1~3月:世界的な株安を受けて、「リスクオフの円高」が進む
【2】    2018年4~10月:FRB(米連邦準備制度理事会)が2018年に4回(3、6、9、12月)利上げ実施、日米金利差拡大を受けて、円安が進む
【3】    2018年12月~2019年1月3日:世界的な株安を受けて、「リスクオフの円高」が進む
【4】    2019年1~3月:世界的に株が反発した流れを受けて、「リスクオンの円安」が進む
【5】    2019年3~8月:米長期金利の低下を受けて、日米金利差が縮小し、円高に
【6】 2019年9~11月:世界的な株高を受けて、「リスクオンの円安」が進む

米長期金利の動きが、ドル/円に一番大きな影響を与えてきた

 ドル/円の動きに一番大きく影響するのは、日米金利差です。日本の長短金利はほぼゼロ近辺に固定されているので、ドル金利の上昇低下が、そのまま日米金利差の拡大縮小に、つながっています。

 2018年は、4回(3、6、9、12月)米利上げがあったために、米金利が上昇し、日米金利差が拡大しました。2019年は、今のところ3回(8、9、10月)米利下げがあり、米金利が低下、日米金利差が縮小しています。

 9月以降、米景気堅調が再確認され、来年の世界景気への不安が低下したことから、米長期金利が上昇し、円安が進んでいます。

ドル長期(10年)金利と短期(3カ月)金利推移:2018年1月2日~2019年11月18日

注:楽天証券経済研究所が作成


 

日米金利差(2年金利)で動く、ドル/円為替レート

 最近10年間のドル/円の動きは、日米2年金利の差で、ほぼ説明できます。ドル/円為替レートと、日米2年金利差は、以下のように推移しています。

ドル/円為替レートと、日米2年債利回りの差:2008年1月~2019年11月(18日)
 

注:楽天証券経済研究所が作成

 過去10年を見ると、おおむね日米2年金利差と、ドル/円は連動していることがわかります。ただ、厳密にいうと、以下のように細かい相違があります。

【1】2008~2011年
日米金利差の縮小にしたがって、円高(ドル安)が進みました。

【2】2012~2014年
日米金利差が少ししか拡大していないのに、大幅な円安が進みました。2年金利の差では説明できない程、円安の進行が大きかったということです。

【3】2015~2016年
日米金利差が拡大する中で、円高が進みました。行き過ぎた円安に修正が起こったと見ることができます。

【4】2017~2018年
日米金利差が拡大しましたが、ドル/円は大きくは動かないレンジ相場となりました。その結果、行き過ぎた円安は修正されました。

【5】2019年
 日米金利差が縮小、ドル/円は理論値に近づき、大きなトレンドが出にくい。

為替は今後、円高・円安どちらへ進むか

 世界景気悪化・ドル金利低下がさらに進めば、さらに円高が進むと考えられます。一方、世界景気が回復に向かい、2020年に向けてドル長期金利が上昇するならば、円安が進むと考えられます。

 私が考えるメインシナリオでは、2020年に世界景気の回復を見ています。一時的にさらに円安が進む可能性もあります。ただし、私が考えるドル/円の理論値は1ドル=110円ですから、いずれにしろ、ドル/円はここからそんなに大きく動くとは考えていません。

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