「積立期間70歳まで」を視野に入れるiDeCoと企業型DC

 厚生労働省の審議会である企業年金・個人年金部会では法改正を目指した議論が行われています。筆者は時間の許す限り傍聴していますが、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)と企業型DC(確定拠出年金)についてはいくつか法改正がありそうで、期待しています。

 その中に「iDeCoや企業型DCの加入年齢を引き上げる」というテーマがあります。

 現行法では、積み立てを続けられる年齢は次の通りです。

・iDeCo~60歳まで
・企業型DC~原則60歳まで。条件付きで65歳まで

 企業型DCの方が先んじているようですが、同じ会社に継続して働き続けることが条件となっているので、グループ会社に転籍するだけで加入できなくなります。現実的には定年延長で、そのまま正社員として65歳まで働ける人に利用は限られているようです。

 厚生労働省のウェブサイトによれば、この制度を利用している企業は1,072規約(企業型DCを実施する場合、どのように運営するか定めたもの)、8,294社だそうです(令和元年9月30日現在)。DC導入企業が3万4,000社以上であることを考えると、まだまだ少ない数字です(制度はあっても利用者0人の会社も相当あると考えられる)。

※企業型年金加入者の資格喪失年齢引上げに係る承認規約数及び実施事業主数がこれにあたる

iDeCo65歳、企業型70歳まで積み立てられる?

 そこで、今回の法改正の議論においては、下記の内容が含まれており、検討がなされています。

・iDeCoは65歳まで加入できるようにする
・企業型DCは70歳まで加入できるようにする(特に加入条件を緩和する)

 企業型DCについては、確定給付企業年金の方がすでに70歳まで加入可能となっているので(厚生年金に70歳まで加入できるためこれと同年齢に設定されている)、確定拠出年金も引き上げたほうがいい、という考え方で大きな異論はなさそうです。また、加入資格については60歳でグループ会社に転籍したり、60歳以降で入社した場合なども対象とすれば、かなり使い勝手も改善されることでしょう。

 ちょっとややこしいのは、iDeCoのほうです。iDeCoは「自営業者(国民年金の第1号被保険者)」「会社員(国民年金の第2号被保険者)」「いわゆる専業主婦(国民年金の第3号被保険者)」があって、それぞれの年金制度との加入のあり方が異なります。限度額がそれぞれ違うのはこのためです。

 議論の資料では、「会社員は厚生年金保険料を納めているなら65歳まで加入してもいいのでは」という記述がありながら、自営業者などについては65歳までの記述が含まれておらず、業界関係者がいぶかしむ内容でした(国民年金を満額納めていない人が60歳を過ぎても任意で納付をするならiDeCoも加入できるという記述がありますが、全体からすれば細かいところです)。

 ただこれは、公的年金改正のほうの議論がまだ途上であって、自営業者についても65歳まで国民年金保険料を納めるようになるか、企業年金サイドは議論を見守っているということのようです。部会が終了したあと、担当課長がマスコミとの質疑応答をするのですが、そういった趣旨のコメントをしていました。

 実際の法改正のためには、自民党の税制調査会で議論をして了承を取り付け、税制改正大綱に記載をしてもらい、法案化する必要があります。最短なら来年2020年の通常国会ということになります。公的年金改正も議論が並行しているので今回どこまで進むか分かりませんが、どうなるか年末まで様子を見守りたいところです。

老後に向け、積立期間を延伸する意義は大きい

 さて、法改正の可能性についての説明はこれくらいにして、個人のマネープランにおいて、法改正がもたらすメリットについて考えてみましょう。

 こうした積立期間の延伸を単純に言えば、「たくさん積み立てるチャンスが拡大する」ということです。

 iDeCoや企業型DCには拠出限度額があるため、50代になってから「ドカンと貯める」というアプローチを取りにくいところがあります。しかし、積み立てられる時間が増えるのであれば、ゴールを遠くに設定し最終受取金額を増やすことができます。もちろんその間の税制優遇も受けることができ、これも増やせることになります。

 仮に年間27.6万円(月2.3万円のiDeCo加入者を想定)で、5年の加入期間延伸が認められれば、138万円の元本増額になりますし、リスクを取る運用期間も延ばせます。この間の税制優遇を掛金の20%相当と概算した場合なら、27.6万円相当の節税も得たことになります。

 一般論として、老後に備える意識は若い頃は持ちにくく、引退が近づいたとき自覚が高まるので、「気がついたときにはもう55歳だった」ということがしばしばあります。しかし、65歳まで積み立てられるようになれば、最後のもうひとがんばりができることになり、有意義です。

 ちなみに「たった138万円」と考えると味気ないかもしれませんが、「老後に夫婦で旅行に10回行ける予算の上積み」と考えてみると、ずいぶん世界が違ってくると思います。平日のシニア向け旅行プランだと10万円ちょっとで結構いいところに出かけることができたりします。

 なお、現状では、継続雇用制度により60歳から65歳までは年収がガクンと下がることが多いので、60代前半はなかなか資産形成できないことがあります。しかし、50代とそん色ない年収で65歳まで働ける時代がもうすぐ到来します。そのときはおそらく、65~70歳まで継続雇用の時代にシフトするので、65歳まで貯蓄することは十分可能になるでしょう。

受け取り始める年齢は「60歳」で据え置きか

 一方で、65歳まで積み立てられるなら、受取開始も65歳以降に繰り上げられるのでは、と心配する人もあるかもしれません。

 現行法では、次のルールとなっています。

・60~70歳までの間に受け取り手続き
・70歳で未受け取りの場合は一時金で受け取り(強制的に)

 これを「75歳まで受取開始の範囲を広げよう」という案は示されていますが「60歳から65歳へ引き上げよう」という案は含まれていません。

 老後の生活は多種多様ですから、個人の選択肢を狭めないという観点で、「60~75歳までの間で受取開始」という議論になっているようです。

 確定拠出年金の法案が提出された2000年頃には誰も「100歳人生」ということはイメージしていませんでした。時代の変化に応じて、受け取りの幅を広げるのはいいことです。この法改正は、「60歳」を残す方向でぜひやってほしいところです。

55歳まではiDeCo加入が勧められるステージへ

 iDeCoの本を読んでいるとしばしば「50代は無理して入らなくてもいい」という文章に出合います。これは積立期間が合計で10年以上ないと、60歳から受け取れないという規制(通算加入者等期間)があるためです。

 例えば55歳から5年積み立てた場合、加入期間が5年になるため、60歳ではなく63歳まで受け取りを保留しなければなりません。積み立てもできないのに資産をプールすることになります。

 これについても「65歳まで加入できる」ということになれば、心配がなくなります。55歳から加入して65歳まで積み立てれば10年の期間が確保できますし、すぐ受取開始できるからです。

 通算加入者等期間の定めはできればカットしてもいいと思いますが、少なくとも「60~65歳は積み立ても受け取りもできない」というブランクがなくなれば、問題はずいぶん解決することでしょう。

 すでに書いたとおり、法改正の議論は年末の税制改正大綱で明らかになります。できれば前向きの改正を勝ち取ってもらいたいものです。