株が上がると利下げもQEもやりにくくなるという中央銀行相場のパラドックス

『隠れQE』でバブルが延命している。世界は人為的に作られた流動性で溢れている。だが、株が上がれば上がるほど、金融当局は利下げもQE(量的緩和)もやりにくくなる。そうなると、株は下がる。これが人為的に作られた相場のパラドックスである。

 2019年10月30日のFOMC(米連邦公開市場委員会)は予想通り0.25%の利下げとなった会見でパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「予防的利下げの休止」を示唆した。10月から量的緩和を再開(隠れQE)しており、来年の3月までは株の下落がない限り利下げは打ち止めだと言われている。

米国はQE3終了後5年ぶりに量的緩和を再開

出所:ゼロヘッジ

隠れQEで想定通りリスクオン相場に

 米金融当局はバブルの延命のために2つの措置を打ち出してきた。

(1)9月中旬のレポ市場危機以降、NY連銀が実施している臨時の資金供給オペを来年1月まで継続する。(いわゆるPOMO[恒久公開市場操作])

(2)FED(連銀)は10月中旬以降に月600億ドルの短期国債の購入を開始し、これを少なくとも2020年の第2四半期まで継続する。

 米国は2019年10月15日から米国債の購入を再開したのである。QE3(量的緩和第3弾)が終わってから5年で、米国は量的緩和に戻ることとなった。連銀がQEをやめてQT(量的引き締め)を5年続けた結果、9月中旬にレポ市場で金融危機が起きたことから、OMO(公開市場操作)をPOMOに変えて、金融危機を防ごうというのが今回の量的緩和再開の背景だ。

 今のところ暫定的な処置ではあるが、量的緩和が再開されたので、株式市場はリスクオンの方向に舵を切っている。

FEDのバランスシート(青)とNYダウ(赤)の推移(2007年~2019年)
 資産縮小時の株価(グラフの黄色の部分の時期)は上がらなかったが、運用者の間ではこれからはリスクオンだという声が飛んでいる。

出所:石原順

国際金融資本の自作自演(マッチポンプ)相場か!?

 今回のレポ市場の危機は、「JPモルガンがFEDをQEに追い込むために意図的にレポ市場の金利を高騰させたものである」という報道が出ている。

 9月上旬から、JPモルガンの政府専用のマネーマーケットファンドは、オーバーナイト市場から資金を引き上げ始めたのである。マーケットに突然流動性がなくなったため、レポ市場において一夜にして金利が急上昇するという危機が起こった。

 民主党の大統領候補のフロントランナーであるエリザベス・ウォーレンは、ムニューシン財務長官に書簡を送った。短期金利が急上昇を引き起こした理由に疑問を持つウォーレンは、FEDや財務省に対して「JPモルガンを調査せよ」と、要求している。

エリザベス・ウォーレンがムニューシン財務長官に送った書簡

出所:ゼロヘッジ

「短期金融市場が変調に見舞われた際、JPモルガンにはそれを沈静化させるだけの資金も意思もあったが、規制によってそれが阻まれた」と、JPモルガンのダイモンCEOは反論している。

 しかし、以下の記事を読むと、レポ金利急上昇はJPモルガンやゴールドマンがバブル延命のために金融当局と仕組んだ自作自演の『隠れQE』作戦であったことがうかがわれる。

ムニューシン米財務長官、銀行規制緩和の検討は「理にかなう」
(2019年10月30日 ブルームバーグ)

 ムニューシン米財務長官は金融危機後に大手銀行に対して厳格化された流動性規制について、短期金融市場での資金不足に備えて緩和する用意があることを示唆した。

 ムニューシン氏は29日のインタビューで、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)やその他銀行と、流動性問題を回避する方法について協議したと明らかにした。11日間の中東・インド歴訪で最初に訪れたテルアビブで、「銀行からは日中流動性を巡る問題が指摘されており、これを規制当局が検討するのは理にかなう」とコメント。現行の規制枠組みでもリスクを高めることなく日中取引の流動性を高めるうまい方法が存在するかもしれないとした。

 ムニューシン長官は先月のレポ市場の混乱について、法人税支払期限に絡んだ銀行システムからの資金流出という「技術的な問題」が主因だとする一般的な認識を示した。この機能障害を受けて、米金融当局は資金注入を続け、短期金利の上昇を抑制している。

 長官は混乱を招いた技術的な要因を金融当局が解決したと確信していると述べ、再燃しないとの見通しを示した。さらに、規制関連の問題はいずれも、これとは別個の問題だと指摘した。

 ただ銀行からは、金融危機後に導入された厳格な流動性要件が市場混乱要因の一つだったとの指摘がある。短期金融市場が変調に見舞われた際、JPモルガンにはそれを沈静化させるだけの資金も意思もあったが、規制によってそれが阻まれたと、ダイモン氏はこれまでに述べている。

JPモルガン・チェース(日足)

出所:石原順

 JPモルガンのダイモンCEOは、「9月中旬のレポ金利急騰はリーマンショック(金融危機)後の規制が問題だ」と主張し、ワシントンを走り回っているといわれるが、運用者の間では「PPT(市場の急落を阻止するチーム)とFEDによる自作自演相場だ」と言われている。

お手盛りの中央銀行プット発動でリスクオン相場に

 JPモルガンは最も株式市場に強気で、「S&P500種株価指数が史上最高値を更新する中で、JPモルガン・チェースは株式相場に対する楽観を強めつつある。JPモルガンの株式ストラテジストらは、同指数が今年12月か来年の早い時期までに3,200に上昇するとし、到達時期の予想を繰り上げた」(ブルームバーグ)と報道されている。

S&P500先物(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
(買いトレンド期=グリーン・売りトレンド期=オレンジ)

出所:パンローリングカスタムチャート

NYダウ先物(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
(買いトレンド期=グリーン・売りトレンド期=オレンジ)

出所:パンローリングカスタムチャート

ドル建て日経平均先物(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
(買いトレンド期=グリーン・売りトレンド期=オレンジ)

出所:パンローリングカスタムチャート

 株が上がるのなら、為替相場はリスクオンだ。円相場は株価連動の円安傾向を強めている。

ドル/円(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
(買いトレンド期=グリーン・売りトレンド期=オレンジ)

出所:パンローリングカスタムチャート

カナダドル/円(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
(買いトレンド期=グリーン・売りトレンド期=オレンジ)

出所:パンローリングカスタムチャート

豪ドル/円(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル
(買いトレンド期=グリーン・売りトレンド期=オレンジ)

出所:パンローリングカスタムチャート

大きな流れの発生はドル/円の三角もちあいブレイク待ち

 米著名投資家のラリー・ウィリアムズは、今週のラリーTVで、「日本円通貨先物ですが、セットアップしていないので、ここしばらくの間、全く手を出していません。 どうもまだ待ちが続きそうです。全くこれと言ったセットアップはなく、ポジションをとるのが難しくなっています」と、述べている。短期トレーダーのラリー・ウィリアムズでも、ドル/円相場は難しいということだろう。

ラリー・ウィリアムズの日本円通貨先物予測
*日本円通貨先物 上昇=円高・下落=円安

出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)2019年10月28日 ラリー・ウィリアムズおよび国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載

『隠れQE』はドル安(通貨安)要因だが、それによって株価のバブルが延命するので、ドル/円相場はレンジ内の動きにとどまっている。相場に大きな方向性が発生するには4年にわたる三角もちあいを明確にブレイクする必要があるだろう。

ドル/円(週足)三角保合(もちあい)と波動カウント

出所:石原順

動かない相場でどうやって収益を上げるか!?

 セミナーに行くと、「こんなに動かない為替相場でどういう売買をしているのか?」と、聞かれることが多い。

 2018年以降の売買でうまくワークしているのは、ユーロ/ドルの『フィルター付きの逆張り売買』である。これはストキャスティクスを使った逆張り売買だが、どういうフィルターが付いているかというと、「相場が200日EMA(指数平滑移動平均線/Exponential Moving Average)を下回っている局面では押し目買いを休止、一方、相場が200日EMAを上回っている局面では戻り売りを休止する」というものだ。筆者はフィルターに200週EMAを使っているが、200週のSMA(単純移動平均線)を使っても差し支えないだろう。

ユーロ/ドル(日足) フィルター付逆張り売買シグナル

出所:石原順

 2019年11月2日(土)の投資戦略フェア大阪(楽天FX協賛)では、「昨今の動かない為替相場でどうやって収益を上げるか」を具体的かつ実践的に説明したい。そして、そのための道具(売買ツール)である楽天MT4のインディケーターとテンプレートを投資戦略フェア参加者にプレゼントします。

ユーロ/ドル(日足) 売買シグナル付き逆張りインディケーター

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

豪ドル/ドル(日足) 売買シグナル付き逆張りインディケーター

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 逆張りは相場に逆らってポジションをとる売買手法であり、ストップロスを置かないと大きな損失を被る可能性がある。それらに十分留意したうえで、逆張り指標を使っていただきたい。あらかじめストップ注文を置いておくか、最悪でも「間違ったと思ったら直ちに損切りすること」が重要である。