政治リスク後退による円安の持続性は?

 ドル/円はジワリジワリ上昇し、今週になって109円台に乗せました。円高材料だった政治リスクが後退したことが背景です。

 まず、ブレグジット(Brexit:英国のEU[欧州連合]離脱)は、10月31日の離脱期限に対し、EUが期限延期を承諾したことから、10月31日の「合意なき離脱」のリスクが後退しました。

 そして、もう一つの政治・経済リスクであった米中通商協議も楽観的な見方が広がりました。25日の米中閣僚級電話協議を受けて進展期待が高まったことに加え、注目されていたペンス米副大統領の対中政策演説では昨年同様、中国に対して厳しい姿勢を示しました。とはいえ、関係強化の重要性も示したことで、ドル/円は安定した動きとなり、ジリジリと上昇。とはいえ、日米の金融政策委員会が控えていることから鈍い動きで、先週までの動きを見ても3週連続108円台半ばでクローズしている状況です。先週の週間値幅は52銭ですが、1日の値幅の平均は32銭と、このまま値動きの少ないクリスマス相場になりそうな雰囲気です。

利下げならマーケット織り込み済みで、円高も限定的。しかし…

 今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)では利下げとの見方が大勢です。米経済は堅調との見方も根強いですが、16日に今回のFOMCの検討資料として公表された地区連銀景況報告(ベージュブック)は、米景気の基調判断を「わずかから緩やかなペースで拡大」とし、前回の「緩やかな拡大」から引き下げています。また、ISM製造業景況指数が好不況の境目とされる「50」を2カ月連続で下回るなど、製造業が弱含む動きが出ていることなどを背景に、マーケットでは利下げがかなり織り込まれています。

 そのため、利下げ決定直後は、一瞬ドルは売られるかもしれませんが、その後は材料出尽くしから円高への動きも限定的となるかもしれません。そして、マーケットの目は、すぐに次回12月以降の利下げについてどのようなメッセージが示されるか注目が移ります。

 前回9月の利下げでは、全会一致で決定したわけではなく、投票権を持つ10人のうち、2人が金利の据え置きを求めました。もし、今回の投票で利下げ決定になっても据え置きを求める投票者が前回よりも増えれば、12月の利下げ期待は後退し、ドル高に反応することが予想されます。

 また、経済のリスク要因であった米中貿易摩擦が部分的合意とはいえ、進展する気配を見せていることから、リスクが後退したとFOMCは認識するのかどうか。そして、これまでの利下げ効果を確認するまでは「予防的利下げ」をいったん休止するのかどうかが注目点です。

 つまり、12月利下げ期待を少しでも後退させるようなメッセージを発すれば、ドル買いに勢いがつく可能性があるのです。

 もちろん、今回10月のFOMCで利下げ見送りとなれば、サプライズとなり、ドル高に拍車がかかります。しかし、利下げ期待後退や利下げ見送りは株にも影響するため、株安がドル高にブレーキをかける動きになりそうです。

 一方で、部分的合意になったとはいえ、先送りとなった12月15日に予定されている対中追加関税など、米中首脳会談で合意文書に署名されるまでは事態の進展は不確実です。そのため、FRB(米連邦準備制度理事会)は現状の認識を変えない可能性もあります。

 また、部分的合意をしてもこれまでの制裁・報復関税が残ったままであれば、経済に対する下押し圧力は続くことになると判断し、「予防的利下げ」のスタンスが変わらなければ、11月中旬の米中首脳会談への期待と12月の利下げ期待との綱引き状態になり、ドル/円は上にも下にも動けない状態になるかもしれません。

政治リスク後退も先送りしただけ

 いったん後退した政治リスクも、完全に払拭されたわけではなさそうです。

 英国の政治リスクであるブレグジットは材料として、いったん落ち着いていますが、12月12日に決定した総選挙の結果次第では再び波乱材料になる可能性もあり、この総選挙は12月10~11日に予定されているFOMCにも影響を与えるかもしれません。FOMCは翌日に控えた総選挙を考慮し、「予防的利下げ」の看板をなかなか下ろすわけにはいかなくなりそうです。

 また、米中通商協議についても11月中旬の署名に影響を与えるかもしれない中国企業への締め付けの方針が発表されました。

 FCC(米連邦通信委員会)は28日、補助金を受け取っている米国内の通信会社に対して中国の通信機器大手ファーウェイとZTE社の製品を使わないよう求める採決を、11月19日に実施すると発表。新規調達を禁じるだけでなく、既存製品の撤去・交換も要請するとのことであり、「安全保障上のリスクと闘う」との声明を出しました。スパイ活動などを懸念した措置で、米国による中国企業への締め付けが一段と厳しくなる内容です。

 11月中旬の署名を目指す「第1段階」の合意では、ファーウェイやZTEの件は貿易協議とは別枠で扱うとしていますが、何らかの影響を与えるかもしれません。ただ、FCCの採決は米中首脳会談の後であるため、交渉前の揺さぶりかもしれないという点にも留意しておく必要がありそうです。

 このように10月にいったん後退した政治リスクは、11月に再び火種になる可能性を考えておくべきと言えます。